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第143話 邪神ちゃんと住民誘致作戦
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「かーっかっかっかっ、頼まれていた建築資材を持ってきたぞ、フェリス」
「ど、ドラコ?!」
そう、空に浮かんでいたのはドラコだった。
数回旋回したドラコは、慎重に地上へ降りてくる。既にある程度建物が建っているために、下手に風を起こして壊してしまってはいけないからだ。昔のドラコのイメージでは、そういう配慮ができているイメージはなかったのだが、おそらくヘンネにがっつり言い聞かされたのだろう。邪神メンバーの中では、ヘンネの説教は受けなくないというのが共通認識的に共有されていたのだから。
地上に近付くにつれ、羽ばたきをなくして風魔法で自分の体のバランスを整えるドラコ。こういう繊細な魔法の使い方ができるようになっていたのかと、正直驚かされる。
それはそれとして、ドラコによって届けられた木材の量はかなり多い。これならば、今日だけでかなりの建物が完成するだろう。
だが、これでもまだ足りないというのが現実である。街一つを造るとなると相当量の木材が必要なのだ。当然といえば当然だが、フェリスは本当に見通しが甘すぎるのである。家だけでこれだというのに、牧場の柵も必要なのだから、あとどれくらいの木材が必要なのだろうか。まったく想像がつかなかった。
「ヒッポスとクーが用意してくれておるからな。わしはまた取りに行ってくるわい。本当に、よく分からん事を思いつきでやってくれるから、わしは退屈せんで済むぞ。それではな!」
ドラコは人型になってから飛んでいった。人型ならそれほど強力な風が起きないから、やはり建設現場を考慮しての事なのだろう。
まったく、古龍であるドラコですらこれだけ慮れるというのに、フェリスはどうなのだろうか。とはいっても、猫は自由気ままなところがあるから、こういう方がフェリスっぽいのかも知れない。それでも、正直他の面々はもうちょっと自重してもらいたいと思っているのである。それがフェリスに通じるかどうかはまったく別の話だった。
朝食を済ませた冒険者や村人たちは、昨日の指示を元に建造物を建てていく。この日は商業組合の面々はまったく姿を現さなかったが、誰もが文句も言わずに淡々と建設を進めていっていた。フェリスは首を傾げるばかりである。
この日、商業組合の人間が誰も姿を見せなかったのには理由がある。
「さて、数日もあれば建設は終わってしまいますからね。私たちは受け入れ態勢を作らなければなりません。住民の募集、従業員の確保、問題は山積しております」
アファカは商業組合の中で会議の議長を務めていた。
この日の議題は、新しい街についてである。特に人の受け入れがメイン議題だ。
そう、街を造ったところで住む人が居なければ、それは真新しくても廃墟である。それを防ぐために、アファカやヘンネは話し合いをしているというわけだ。正直、二人とも頭の痛い話である。邪神のリーダーたるフェリスが、こうも考え無しにいろいろやってくれるので、胃が痛み始める始末だ。村の特産のミルクを温めて飲んで、どうにか胃炎を起こすのを防いでいる状態である。
ともかく、あーでもないこーでもないと議論を交わす商業組合の面々。街の稼働の最初期は、フェリスメルから少々人員を送るものの、その人員は決まっていないし、どのくらいの期間になるかは分からない。そもそもあの街に人が集まるのかも分からない。
本当にフェリスは、いい事も悪い事も気ままにいろいろやってくれる。そのせいで、アファカやヘンネといった周りの人物は散々と振り回されてしまっているのだ。それでもついていけるのは、それが利益を生み出しているから。それが無ければとっとと見捨てられるような行動の数々なのである。本当に、フェリスは無駄に有能な無茶振り猫なのだった。
「そろそろ、ゼニス様もいらっしゃる時期でしょうから、そこを通じて外部にも情報を流しましょう。フェリスメルからほど近い場所ですし、物資の面からすると困る事は少ないでしょうからね」
「そうですね。それにしても、私どものリーダーが本当に申し訳ない。私が制御すべきところなのだろうが、あれはそれを軽々と越えて行ってしまう」
仮にもリーダーであるフェリスをあれ呼ばわりである。ヘンネとしても相当に据えかねているところがあるのだろう。そのくらいにフェリスにはいつも頭を悩まされているのである。
アファカの方もここまでの付き合いのせいで、ヘンネの気持ちにものすごく共感できている。二人が揃って欲しいもの、それはフェリスを制御できる存在だった。眷属のメルもどっちかといえばその無茶振りに付き合う方で、諫めるような事は少ない。うん、メルには期待ができなかった。
正直、現状それができるのはヘンネとドラコの二人だけである。しかし、ドラコも楽しむ側に回っているので期待ができない。ヘンネも羽が抜け落ちそうな勢いである。
それでも二人は、今はそれを我慢して人を集める方策を話し合うのだった。本当にお疲れ様である。
「ど、ドラコ?!」
そう、空に浮かんでいたのはドラコだった。
数回旋回したドラコは、慎重に地上へ降りてくる。既にある程度建物が建っているために、下手に風を起こして壊してしまってはいけないからだ。昔のドラコのイメージでは、そういう配慮ができているイメージはなかったのだが、おそらくヘンネにがっつり言い聞かされたのだろう。邪神メンバーの中では、ヘンネの説教は受けなくないというのが共通認識的に共有されていたのだから。
地上に近付くにつれ、羽ばたきをなくして風魔法で自分の体のバランスを整えるドラコ。こういう繊細な魔法の使い方ができるようになっていたのかと、正直驚かされる。
それはそれとして、ドラコによって届けられた木材の量はかなり多い。これならば、今日だけでかなりの建物が完成するだろう。
だが、これでもまだ足りないというのが現実である。街一つを造るとなると相当量の木材が必要なのだ。当然といえば当然だが、フェリスは本当に見通しが甘すぎるのである。家だけでこれだというのに、牧場の柵も必要なのだから、あとどれくらいの木材が必要なのだろうか。まったく想像がつかなかった。
「ヒッポスとクーが用意してくれておるからな。わしはまた取りに行ってくるわい。本当に、よく分からん事を思いつきでやってくれるから、わしは退屈せんで済むぞ。それではな!」
ドラコは人型になってから飛んでいった。人型ならそれほど強力な風が起きないから、やはり建設現場を考慮しての事なのだろう。
まったく、古龍であるドラコですらこれだけ慮れるというのに、フェリスはどうなのだろうか。とはいっても、猫は自由気ままなところがあるから、こういう方がフェリスっぽいのかも知れない。それでも、正直他の面々はもうちょっと自重してもらいたいと思っているのである。それがフェリスに通じるかどうかはまったく別の話だった。
朝食を済ませた冒険者や村人たちは、昨日の指示を元に建造物を建てていく。この日は商業組合の面々はまったく姿を現さなかったが、誰もが文句も言わずに淡々と建設を進めていっていた。フェリスは首を傾げるばかりである。
この日、商業組合の人間が誰も姿を見せなかったのには理由がある。
「さて、数日もあれば建設は終わってしまいますからね。私たちは受け入れ態勢を作らなければなりません。住民の募集、従業員の確保、問題は山積しております」
アファカは商業組合の中で会議の議長を務めていた。
この日の議題は、新しい街についてである。特に人の受け入れがメイン議題だ。
そう、街を造ったところで住む人が居なければ、それは真新しくても廃墟である。それを防ぐために、アファカやヘンネは話し合いをしているというわけだ。正直、二人とも頭の痛い話である。邪神のリーダーたるフェリスが、こうも考え無しにいろいろやってくれるので、胃が痛み始める始末だ。村の特産のミルクを温めて飲んで、どうにか胃炎を起こすのを防いでいる状態である。
ともかく、あーでもないこーでもないと議論を交わす商業組合の面々。街の稼働の最初期は、フェリスメルから少々人員を送るものの、その人員は決まっていないし、どのくらいの期間になるかは分からない。そもそもあの街に人が集まるのかも分からない。
本当にフェリスは、いい事も悪い事も気ままにいろいろやってくれる。そのせいで、アファカやヘンネといった周りの人物は散々と振り回されてしまっているのだ。それでもついていけるのは、それが利益を生み出しているから。それが無ければとっとと見捨てられるような行動の数々なのである。本当に、フェリスは無駄に有能な無茶振り猫なのだった。
「そろそろ、ゼニス様もいらっしゃる時期でしょうから、そこを通じて外部にも情報を流しましょう。フェリスメルからほど近い場所ですし、物資の面からすると困る事は少ないでしょうからね」
「そうですね。それにしても、私どものリーダーが本当に申し訳ない。私が制御すべきところなのだろうが、あれはそれを軽々と越えて行ってしまう」
仮にもリーダーであるフェリスをあれ呼ばわりである。ヘンネとしても相当に据えかねているところがあるのだろう。そのくらいにフェリスにはいつも頭を悩まされているのである。
アファカの方もここまでの付き合いのせいで、ヘンネの気持ちにものすごく共感できている。二人が揃って欲しいもの、それはフェリスを制御できる存在だった。眷属のメルもどっちかといえばその無茶振りに付き合う方で、諫めるような事は少ない。うん、メルには期待ができなかった。
正直、現状それができるのはヘンネとドラコの二人だけである。しかし、ドラコも楽しむ側に回っているので期待ができない。ヘンネも羽が抜け落ちそうな勢いである。
それでも二人は、今はそれを我慢して人を集める方策を話し合うのだった。本当にお疲れ様である。
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