邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第141話 邪神ちゃんと暇つぶし

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 部屋を追い出されたフェリスは、メルと一緒におとなしく村を見て回る事にした。スパイダーヤーンも今ある分は全部撚り終わっているのでやる事がないのだ。ヘンネたちの会議は多分すぐには終わらないだろうし、これでは今日一日は暇が確定である。
「メル」
「何でしょうか、フェリス様」
「クルークでも見に行こうか」
「はい、分かりました。よく見ると可愛いですものね」
 というわけで、フェリスとメルは村に卵を提供してくれているクルークを見に行く事になった。
 クルークは鶏のような鳥の魔物で、戦いがあった頃まで遡ると、その卵は多くの料理に重宝されていたという。
 こうやってメルに説明していると、フェリスはいろいろと思い出して違和感が込み上げてくる。
「フェリス様。なんで戦いの前と後でそんなにいろいろ失われてしまったのですか?」
 フェリスが思い返していると、メルからもそんな質問が飛んできた。フェリスたちからいろいろ聞かされたし、こんな辺境で大した知識も持ちえていなかったメルだからこそ、素朴にそう思ったのだろう。フェリスはその質問を受けて、腕を組んで首を思いっきり捻っていた。
「それがね、あたしも思い返してて不思議に思っているのよ。いくら戦いが激化していたとはいえ、そのほとんどすべてが伝えられる事もなく、ぱったり途切れちゃっているのがよく分からないのよね。覚えているのもあたしたちの中でも全員ってわけじゃないしね。本当によく分からないわ」
「そうなのですね……」
「この卵の事もそうだけど、料理のレシピもほとんどあたしとペコラしか覚えてないし、卵だってヘンネしか覚えてないっていうのも変だしね。何かしらの力が働いているとしか思えないわ」
 フェリスは思い返せば思い返すほど、この不自然さに疑念を抱いていく。
 フェリスメルでフェリスやペコラが作った料理だって、大半は当時の人間の都では広範囲で流行していたものだ。それこそ、あのセンティアですら街の料理店で出していた(ペコラ談)
 それが今ではほとんどというかまったく忘れ去られてしまっている。誰かが意図的に人間たちの記憶から消し去ったというのだろうか……。
(うーん、そんな事ができるような奴なんて、あたしたちにすら干渉できる蛇の邪神だけだろうけど、そんな事をするメリットがないのよねぇ……)
 考えれば考えるほどよく分からなくなっていく。というわけで、フェリスはこの件は一旦保留する事にした。
「さあ、クルークの小屋に着いたわよ」
 そう、卵を産んでくれるクルークが集められた小屋に着いたからだ。
 小屋の中に居るクルークは、ついに100羽を超えてしまっていた。クルッククルックとうるさく鳴き続けている。
 ここに居るクルークたちは、すっかり村人たちに懐いていた。卵を全部持って行かないでちゃんと必要数残してくれるので、敵ではないという認識を持ってくれているようだ。1羽あたり5個は卵を残しておけば、後は持って行っても怒らない。最低限のラインさえ守っていれば実に温厚な魔物なのである。まあ、魔物とて生き残る事には必死なのだから、やらかしに厳しいだけなのである。
「さあ、メル。ヘンネが会議で出てこれない間、あたしたちでクルークの世話を手伝いましょう」
「はい、フェリス様」
 フェリスとメルは、クルークを世話する村人たちと合流して、クルークの世話を始める。さすがに数が増えてきたので、これも結構大変そうだった。
「この分なら、新しい村にも連れていってそっちでも育てた方がよさそうねぇ」
 フェリスはぼんやりとそんな事を呟いている。卵は生ものだし、劣化が早かったりする。できれば現地で生産して消費する方がいい。
 しかし、どうするにしてもヘンネたちの会議の結果待ちだろう。フェリスはその考えは胸の中にとりあえずしまい、クルークの世話を手伝ったのだった。
 世話が終わって、お昼を食べに行こうとするフェリスとメルの前に、ヘンネがしれっと姿を見せた。
「あれ、ヘンネ。会議は終わったの?」
「お昼休憩ですよ。フェリス、食事に行くのならいっしょに行きませんか?」
 フェリスが尋ねると、ヘンネはあっさり答えていた。ついでに言うと、ヘンネはクルークの様子を見に来たそうだ。
「ドラコはボーゲンとすっかり意気投合していますよ。ドラコはあんな姿をしていますが、どちらかというと脳筋ですからね。ボーゲンとはいろいろ気が合うみたいです」
 フェリスメル本村の食堂に出向いたヘンネは、半ば愚痴のようにそんな言葉を漏らしていた。
「まぁ、ドラコは散々ケンカ売られてきてたからね……」
 フェリスはヘンネの半ば愚痴に冷ややかに反応していた。
「それはそうと、どのくらい話はまとまったのかしら」
「そっちは大方まとまってますね。フェリスメルから独立した街という立ち位置の予定です。商業組合や冒険者組合がある以上、村という規模には収まりませんから、街という言い方をしておきます」
 ヘンネは真面目な顔で話をしている。
「まあそれは分かるわ。こっちだってもう村なんて言っても誰も信じないでしょうからね」
「ええ、それで、フェリスも考えているように、クルークは向こうにも何羽か連れて行きます。今見たらかなり数が増えてきてましたからね、分ける必要があると判断しました」
 さすがはヘンネ。話が早いようだった。
 昼食の間、フェリスとメルはヘンネからここまでの会議でまとまった事を聞かされたのだった。その内容に、フェリスはひたすら驚くのだった。
「いや、この短時間でよくそこまでまとまったわね」
「これぐらいでないと、商人としてはやっていけませんから」
 フェリスの驚きに、ヘンネは淡々と答えていた。
 はてさて、どんな風に話がまとまったのやら。その詳細は、後日形となって現れたのだった。
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