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第138話 邪神ちゃんと価格会議
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フェリスたちが村に戻ってきて、すっかり日常が戻ってきていた。
フェリスとメルは村の中を巡回して回り、ルディはジャイアントスパイダーの飼育場を見に行き、ヒッポスとクーは移住者たちの相手をしながら牧場の手伝いをして、ハバリーは金属工房でインゴットを作り、ペコラは食堂で自ら料理を作り、ドラコはヘンネと一緒に商業組合であれやこれやと議論をしている。
村に居ついた邪神はこれで八人である。マイオリーの側に居ついているラータや村の水源に住むマイムの二人も入れれば、フェリスの友人たる邪神たちもほとんどが出揃っている状態だった。
「そういえば、フェリス様の友人の方々ってあとどのくらいいらっしゃるんですか?」
メルが気になったのか質問をしてきた。
「うーん、マイムは精霊だから別にカウントして、四人ってところかしらね。あんまり覚えていないんだけど、十二人だったと思うわ」
散り散りになってからかなり時間が経つ事もあってか、フェリスは正確な人数を思い出せなかった。
「ふーん、そうなのですか」
自分で聞いておきながら、あまりにも生返事である。フェリスがメルを見れば、真剣に悩んでいるようである。その表情を見たフェリスは、メルの気持ちを察したのか黙ってメルの頭をポンポンと叩いている。
「大丈夫よ。他の連中はあくまで友人であって、眷属はメル一人だけなんだから。私の隣は変わらないわよ」
フェリスはメルに言い聞かせるように、目を見ながらメルに告げた。あまりにも近くで見たフェリスの顔は美しく、メルはあわあわと言いながら取り乱していた。
その後も、フェリスはメルと一緒に村の中を散策して回ったのだった。
それにしても、フェリスメルの中の雰囲気は、人の往来が激しくなっても基本的にはゆったりしたものである。これは村民と外部からやって来た人間の移動する範囲が極力被らないようにした結果だろう。街道の一部となる部分の人通りは、本当に街に匹敵するくらいの賑わいがあるのだが、少し離れた牧場や農場の近辺ともなると本当に静かなものである。
それでも、増設した移住者の居住区はそうはいかなかった。そこは街道の一部に組み込まれているので、それなりに賑わいがあるのである。まあそっちの方は、ヒッポスとクーの二人が対応しているので、そんなに問題は起きないはずである。フェリスの仲間内は女性型の邪神ばかりとはいえど、腕っぷしはそこらの冒険者にも負けないくらい強いし、何より体躯が大きいのだから。
フェリスが農業エリアを歩いていると、ヘンネに呼び止められる。
「フェリス、ちょうどよかったわ。アファカたちと会議を始めるから、あなたも参加なさい」
フェリスはあからさまに嫌そうな顔をするが、ヘンネに首根っこを掴まれて引きずられてしまう。
「どうせ暇なんでしょうから、少しは自分の名前の付いた村に貢献しなさいって。ここまで大きくしたからと言って、以降放任っていうのは年老いた者のする事ですよ」
文句を言われながら、フェリスは抵抗虚しく商業組合まで引きずられていったのだった。
ヘンネに引きずられていってたどり着いた商業組合での議題は、村の特産の価格決定だった。
スパイダーヤーンに羊毛、それとチーズという外部へ売り出している商品について、生産量と流通量を見て、価格を改めてはどうかという意見が出たらしいのだ。外部との取引の中で、そういった話題が出るようになったのが主な原因というわけらしい。
羊毛やチーズの生産量自体はそれほど変動しないものの、スパイダーヤーンは確かに生産量が増えた。なにせクモの数が最初の倍以上になっているからだ。しかし、品質を思えば大幅な価格ダウンというのは避けたいところである。実に商業組合として頭の痛い話らしい。
「この村でしか生産できないという点を考えると、安易に価格を下げる事は認められない」
「しかし、流通量が増えてしまったのは事実だ。この価格を維持するのであれば、この村に富が集中しすぎてしまう。経済の面からすればそれはそれでまずいのではないか」
とまぁ、多方面からの意見が飛び交っている。その話を理解できないフェリスとメルは、黙ってその様子を見ている事しかできなかった。
確かに、この村からお金が出ていくというのはあまり見かけない事であるのは間違いなかった。食堂で出している料理もほとんどが村で生産されたものだ。
冒険者の方にしても、この村の近辺の治安はとにかくいい。冒険者に出す依頼も思ったよりなく、せいぜい護衛程度だ。
あまり話の見えないフェリスとメルだったが、アファカやヘンネの表情を見るに、相当深刻な問題だという事だけは読み取れた。この話し合いは結局日が暮れても続けられている。
そんな中、フェリスがぽろっと言葉を漏らす。
「ジャイアントスパイダーの餌を持って来てもらうってのはどうなのかしらね。今はルディ一人でやってる事だし、あいつの負担を減らすなら、それもありだと思うんだけど」
「それだ!」
「うわっとと……」
それに反応したみんなが一斉に叫ぶものだから、フェリスはちょっとびっくりしていた。
「そうよ、ルディは狼の魔物だから忘れていたけれど、確かに数が増えた今なら大変ね」
「少し色を付けて支払えば、冒険者をこの村から離さなくて済みそうだわ」
「そうだな、早速その依頼を出してみるか。そもそもこの村の近所にはボアが出るわけだしな」
という感じに、フェリスの一言で会議は進んでいったようである。
フェリスとメルは村の中を巡回して回り、ルディはジャイアントスパイダーの飼育場を見に行き、ヒッポスとクーは移住者たちの相手をしながら牧場の手伝いをして、ハバリーは金属工房でインゴットを作り、ペコラは食堂で自ら料理を作り、ドラコはヘンネと一緒に商業組合であれやこれやと議論をしている。
村に居ついた邪神はこれで八人である。マイオリーの側に居ついているラータや村の水源に住むマイムの二人も入れれば、フェリスの友人たる邪神たちもほとんどが出揃っている状態だった。
「そういえば、フェリス様の友人の方々ってあとどのくらいいらっしゃるんですか?」
メルが気になったのか質問をしてきた。
「うーん、マイムは精霊だから別にカウントして、四人ってところかしらね。あんまり覚えていないんだけど、十二人だったと思うわ」
散り散りになってからかなり時間が経つ事もあってか、フェリスは正確な人数を思い出せなかった。
「ふーん、そうなのですか」
自分で聞いておきながら、あまりにも生返事である。フェリスがメルを見れば、真剣に悩んでいるようである。その表情を見たフェリスは、メルの気持ちを察したのか黙ってメルの頭をポンポンと叩いている。
「大丈夫よ。他の連中はあくまで友人であって、眷属はメル一人だけなんだから。私の隣は変わらないわよ」
フェリスはメルに言い聞かせるように、目を見ながらメルに告げた。あまりにも近くで見たフェリスの顔は美しく、メルはあわあわと言いながら取り乱していた。
その後も、フェリスはメルと一緒に村の中を散策して回ったのだった。
それにしても、フェリスメルの中の雰囲気は、人の往来が激しくなっても基本的にはゆったりしたものである。これは村民と外部からやって来た人間の移動する範囲が極力被らないようにした結果だろう。街道の一部となる部分の人通りは、本当に街に匹敵するくらいの賑わいがあるのだが、少し離れた牧場や農場の近辺ともなると本当に静かなものである。
それでも、増設した移住者の居住区はそうはいかなかった。そこは街道の一部に組み込まれているので、それなりに賑わいがあるのである。まあそっちの方は、ヒッポスとクーの二人が対応しているので、そんなに問題は起きないはずである。フェリスの仲間内は女性型の邪神ばかりとはいえど、腕っぷしはそこらの冒険者にも負けないくらい強いし、何より体躯が大きいのだから。
フェリスが農業エリアを歩いていると、ヘンネに呼び止められる。
「フェリス、ちょうどよかったわ。アファカたちと会議を始めるから、あなたも参加なさい」
フェリスはあからさまに嫌そうな顔をするが、ヘンネに首根っこを掴まれて引きずられてしまう。
「どうせ暇なんでしょうから、少しは自分の名前の付いた村に貢献しなさいって。ここまで大きくしたからと言って、以降放任っていうのは年老いた者のする事ですよ」
文句を言われながら、フェリスは抵抗虚しく商業組合まで引きずられていったのだった。
ヘンネに引きずられていってたどり着いた商業組合での議題は、村の特産の価格決定だった。
スパイダーヤーンに羊毛、それとチーズという外部へ売り出している商品について、生産量と流通量を見て、価格を改めてはどうかという意見が出たらしいのだ。外部との取引の中で、そういった話題が出るようになったのが主な原因というわけらしい。
羊毛やチーズの生産量自体はそれほど変動しないものの、スパイダーヤーンは確かに生産量が増えた。なにせクモの数が最初の倍以上になっているからだ。しかし、品質を思えば大幅な価格ダウンというのは避けたいところである。実に商業組合として頭の痛い話らしい。
「この村でしか生産できないという点を考えると、安易に価格を下げる事は認められない」
「しかし、流通量が増えてしまったのは事実だ。この価格を維持するのであれば、この村に富が集中しすぎてしまう。経済の面からすればそれはそれでまずいのではないか」
とまぁ、多方面からの意見が飛び交っている。その話を理解できないフェリスとメルは、黙ってその様子を見ている事しかできなかった。
確かに、この村からお金が出ていくというのはあまり見かけない事であるのは間違いなかった。食堂で出している料理もほとんどが村で生産されたものだ。
冒険者の方にしても、この村の近辺の治安はとにかくいい。冒険者に出す依頼も思ったよりなく、せいぜい護衛程度だ。
あまり話の見えないフェリスとメルだったが、アファカやヘンネの表情を見るに、相当深刻な問題だという事だけは読み取れた。この話し合いは結局日が暮れても続けられている。
そんな中、フェリスがぽろっと言葉を漏らす。
「ジャイアントスパイダーの餌を持って来てもらうってのはどうなのかしらね。今はルディ一人でやってる事だし、あいつの負担を減らすなら、それもありだと思うんだけど」
「それだ!」
「うわっとと……」
それに反応したみんなが一斉に叫ぶものだから、フェリスはちょっとびっくりしていた。
「そうよ、ルディは狼の魔物だから忘れていたけれど、確かに数が増えた今なら大変ね」
「少し色を付けて支払えば、冒険者をこの村から離さなくて済みそうだわ」
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