邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
136 / 290

第136話 邪神ちゃんの帰宅

しおりを挟む
 聖教会の街センティアを発って、まるっと一日でフェリスメルへと戻ってきたフェリスたち。ただ、ドラコの巨体はものすごく目立っており、よく見ると武器を構える冒険者たちが見える。
「かーっかっかっかっ! そんなへなちょこでわしに傷を負わせられると思うてか!」
 慌てるどころか逆に挑発するドラコ。
「ちょっと待ちなさい! 何けんかを売ってるのよ、ドラコ!」
 続けて上空から響いてきた声を聞いて、武器を構えていた冒険者たちがその構えを解く。どうやらフェリスの声は知っているようである。
「さすがじゃのう、フェリス。お前さんの声で警戒を解きおったぞ」
「うるさいわね。そろそろ地上に降りてよ」
「かっかっかっ、そう慌てなさんな」
 ギャーギャーとうるさいフェリスだが、ドラコはさすがに冷静だった。フェリスを軽くあしらうと、ゆっくりと地上に向けて降下していった。
 普段なら相当に砂塵が舞いそうな降り方をしているのだが、ドラコは魔法を駆使して被害が出ないように柔らかく地上へ降り立った。そして、フェリスたちを背中から降ろす。人間であるメルは降りるのに手間取っていたが、フェリスとペコラが手伝ってなんとかドラコの背中から降りていた。
 ようやく背中から誰も居なくなると、ドラコはさあっと人間の姿へと変身する。角と尻尾と翼の生えた、どこから見ても美少女なお嬢様である。しかし、この顔と髪型は、肉体言語な聖女であったマリアがベースになっているとはとても思えないものである。
「ふむ、久しぶりにこうも長距離を飛ぶと疲れるわい。さっさと風呂でも入って休むとするかのう」
 伸びをして首を左右に振るドラコ。関節が凄い音を立てている。周りにかなり響いているあたり、さすがは古龍である。規模が違い過ぎる。
「まったく、急に来てびっくりしたけれど、大活躍だったわね、ドラコ」
「うむ、話を聞いた時は居ても立っても居れんかったからな。聖女とわしは切っても切れん縁があったからのう。面倒事はあったようじゃが、あれだけ釘を刺しておけば当分は安心じゃろう」
 フェリスがにこやかに話し掛けると、ドラコも上機嫌に話している。そして、何やら気になる事も言っていたが、フェリスは何かを感じ取ったらしく、表情を固めてあえて何も聞かないようにしていた。これは絶対に面倒事だと、野性的な勘が告げているのである。そんなわけで、フェリスはドラコが家に戻っていくのを黙って見送った。
「さて、ドラコの事は大丈夫だから、あたしたちはどうしよっか」
 フェリスはメルとペコラの二人に確認する。
「あーしは食堂を見に行きたいのだ。居なかった数日間が大丈夫だったのか、すごく気になるのだ」
「メルは?」
「私はフェリス様の眷属ですから、フェリス様たちについていきます」
「いや、別にあなたのお父さんのところに行ってもいいのよ? しばらく見てないと絶対心配してるでしょうから、姿を見せて安心させてあげなさいよ」
 メルが自分たちについて来ようとするので、フェリスは少し強めにメルを諭している。メルくらいの年齢であるなら親はまだまだ子離れできないだろうし、姿を見せてあげた方がいいと考えたからだ。本当に魔族のくせに人間っぽい事を考えるフェリスなのである。
 そのフェリスの言葉を受けて少し考えていたメルだったが、それなりにフェリスの語気が強かったので、
「分かりました。それではお父さんに会ってきます」
 と少々不服そうにしながらも了承していた。
(あはは、お父さんって嫌われてるのかなぁ……)
 そのメルの表情と態度に、フェリスは苦笑いをするしかなかった。
 そんなこんなでフェリスはメルを牧場まで送り届けた後、ペコラと一緒に職人街にある食堂の一号店までやって来た。
「おお、ペコラ様だ。おいみんなっ、ペコラ様が戻られたぞっ!」
 ペコラが食堂に姿を見せると、その瞬間から店内がお祭り騒ぎになってしまった。ペコラはすっかり人気者のようである。
 しかし、ペコラはそんなお祭り騒ぎにはまったく見向きもせず、さっさと厨房へと向かっていった。そして、手洗いを済ませると早速厨房に立っていた。
「フェリス、今からこの包丁の試し切りをするのだ」
「はいはい、センティアの鍛冶工房で作った魔法銀の包丁よね。まったくどんな切れ味なのかしら」
 早速包丁を取り出して構えるペコラ。まな板の上に取り出したのは、フェリスメルでは定番となっているボアの肉である。その姿をじっと見守る厨房一同。
 その目の前で、ボアの肉はスッと切り分けられていく。恐ろしいまでに力を入れずに済む。さすが魔法銀である。
「これほどまでに切れ味が良いとは。あのアイロンという職人は腕は確かなのだ」
 ペコラは大満足だった。
「あーしの手にもしっかり馴染んでいるし、本当に大したものなのだ」
 包丁を握りしめたまま、ペコラは嬉しそうに笑っていた。はたから見るとなかなかに怖い絵面である。
 そんなわけで、村に戻ってきたペコラは、早速魔法銀の包丁を使って料理を振る舞っていたのだった。
 こうして、フェリスメルにいつもの賑わいが戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...