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第136話 邪神ちゃんの帰宅
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聖教会の街センティアを発って、まるっと一日でフェリスメルへと戻ってきたフェリスたち。ただ、ドラコの巨体はものすごく目立っており、よく見ると武器を構える冒険者たちが見える。
「かーっかっかっかっ! そんなへなちょこでわしに傷を負わせられると思うてか!」
慌てるどころか逆に挑発するドラコ。
「ちょっと待ちなさい! 何けんかを売ってるのよ、ドラコ!」
続けて上空から響いてきた声を聞いて、武器を構えていた冒険者たちがその構えを解く。どうやらフェリスの声は知っているようである。
「さすがじゃのう、フェリス。お前さんの声で警戒を解きおったぞ」
「うるさいわね。そろそろ地上に降りてよ」
「かっかっかっ、そう慌てなさんな」
ギャーギャーとうるさいフェリスだが、ドラコはさすがに冷静だった。フェリスを軽くあしらうと、ゆっくりと地上に向けて降下していった。
普段なら相当に砂塵が舞いそうな降り方をしているのだが、ドラコは魔法を駆使して被害が出ないように柔らかく地上へ降り立った。そして、フェリスたちを背中から降ろす。人間であるメルは降りるのに手間取っていたが、フェリスとペコラが手伝ってなんとかドラコの背中から降りていた。
ようやく背中から誰も居なくなると、ドラコはさあっと人間の姿へと変身する。角と尻尾と翼の生えた、どこから見ても美少女なお嬢様である。しかし、この顔と髪型は、肉体言語な聖女であったマリアがベースになっているとはとても思えないものである。
「ふむ、久しぶりにこうも長距離を飛ぶと疲れるわい。さっさと風呂でも入って休むとするかのう」
伸びをして首を左右に振るドラコ。関節が凄い音を立てている。周りにかなり響いているあたり、さすがは古龍である。規模が違い過ぎる。
「まったく、急に来てびっくりしたけれど、大活躍だったわね、ドラコ」
「うむ、話を聞いた時は居ても立っても居れんかったからな。聖女とわしは切っても切れん縁があったからのう。面倒事はあったようじゃが、あれだけ釘を刺しておけば当分は安心じゃろう」
フェリスがにこやかに話し掛けると、ドラコも上機嫌に話している。そして、何やら気になる事も言っていたが、フェリスは何かを感じ取ったらしく、表情を固めてあえて何も聞かないようにしていた。これは絶対に面倒事だと、野性的な勘が告げているのである。そんなわけで、フェリスはドラコが家に戻っていくのを黙って見送った。
「さて、ドラコの事は大丈夫だから、あたしたちはどうしよっか」
フェリスはメルとペコラの二人に確認する。
「あーしは食堂を見に行きたいのだ。居なかった数日間が大丈夫だったのか、すごく気になるのだ」
「メルは?」
「私はフェリス様の眷属ですから、フェリス様たちについていきます」
「いや、別にあなたのお父さんのところに行ってもいいのよ? しばらく見てないと絶対心配してるでしょうから、姿を見せて安心させてあげなさいよ」
メルが自分たちについて来ようとするので、フェリスは少し強めにメルを諭している。メルくらいの年齢であるなら親はまだまだ子離れできないだろうし、姿を見せてあげた方がいいと考えたからだ。本当に魔族のくせに人間っぽい事を考えるフェリスなのである。
そのフェリスの言葉を受けて少し考えていたメルだったが、それなりにフェリスの語気が強かったので、
「分かりました。それではお父さんに会ってきます」
と少々不服そうにしながらも了承していた。
(あはは、お父さんって嫌われてるのかなぁ……)
そのメルの表情と態度に、フェリスは苦笑いをするしかなかった。
そんなこんなでフェリスはメルを牧場まで送り届けた後、ペコラと一緒に職人街にある食堂の一号店までやって来た。
「おお、ペコラ様だ。おいみんなっ、ペコラ様が戻られたぞっ!」
ペコラが食堂に姿を見せると、その瞬間から店内がお祭り騒ぎになってしまった。ペコラはすっかり人気者のようである。
しかし、ペコラはそんなお祭り騒ぎにはまったく見向きもせず、さっさと厨房へと向かっていった。そして、手洗いを済ませると早速厨房に立っていた。
「フェリス、今からこの包丁の試し切りをするのだ」
「はいはい、センティアの鍛冶工房で作った魔法銀の包丁よね。まったくどんな切れ味なのかしら」
早速包丁を取り出して構えるペコラ。まな板の上に取り出したのは、フェリスメルでは定番となっているボアの肉である。その姿をじっと見守る厨房一同。
その目の前で、ボアの肉はスッと切り分けられていく。恐ろしいまでに力を入れずに済む。さすが魔法銀である。
「これほどまでに切れ味が良いとは。あのアイロンという職人は腕は確かなのだ」
ペコラは大満足だった。
「あーしの手にもしっかり馴染んでいるし、本当に大したものなのだ」
包丁を握りしめたまま、ペコラは嬉しそうに笑っていた。はたから見るとなかなかに怖い絵面である。
そんなわけで、村に戻ってきたペコラは、早速魔法銀の包丁を使って料理を振る舞っていたのだった。
こうして、フェリスメルにいつもの賑わいが戻っていった。
「かーっかっかっかっ! そんなへなちょこでわしに傷を負わせられると思うてか!」
慌てるどころか逆に挑発するドラコ。
「ちょっと待ちなさい! 何けんかを売ってるのよ、ドラコ!」
続けて上空から響いてきた声を聞いて、武器を構えていた冒険者たちがその構えを解く。どうやらフェリスの声は知っているようである。
「さすがじゃのう、フェリス。お前さんの声で警戒を解きおったぞ」
「うるさいわね。そろそろ地上に降りてよ」
「かっかっかっ、そう慌てなさんな」
ギャーギャーとうるさいフェリスだが、ドラコはさすがに冷静だった。フェリスを軽くあしらうと、ゆっくりと地上に向けて降下していった。
普段なら相当に砂塵が舞いそうな降り方をしているのだが、ドラコは魔法を駆使して被害が出ないように柔らかく地上へ降り立った。そして、フェリスたちを背中から降ろす。人間であるメルは降りるのに手間取っていたが、フェリスとペコラが手伝ってなんとかドラコの背中から降りていた。
ようやく背中から誰も居なくなると、ドラコはさあっと人間の姿へと変身する。角と尻尾と翼の生えた、どこから見ても美少女なお嬢様である。しかし、この顔と髪型は、肉体言語な聖女であったマリアがベースになっているとはとても思えないものである。
「ふむ、久しぶりにこうも長距離を飛ぶと疲れるわい。さっさと風呂でも入って休むとするかのう」
伸びをして首を左右に振るドラコ。関節が凄い音を立てている。周りにかなり響いているあたり、さすがは古龍である。規模が違い過ぎる。
「まったく、急に来てびっくりしたけれど、大活躍だったわね、ドラコ」
「うむ、話を聞いた時は居ても立っても居れんかったからな。聖女とわしは切っても切れん縁があったからのう。面倒事はあったようじゃが、あれだけ釘を刺しておけば当分は安心じゃろう」
フェリスがにこやかに話し掛けると、ドラコも上機嫌に話している。そして、何やら気になる事も言っていたが、フェリスは何かを感じ取ったらしく、表情を固めてあえて何も聞かないようにしていた。これは絶対に面倒事だと、野性的な勘が告げているのである。そんなわけで、フェリスはドラコが家に戻っていくのを黙って見送った。
「さて、ドラコの事は大丈夫だから、あたしたちはどうしよっか」
フェリスはメルとペコラの二人に確認する。
「あーしは食堂を見に行きたいのだ。居なかった数日間が大丈夫だったのか、すごく気になるのだ」
「メルは?」
「私はフェリス様の眷属ですから、フェリス様たちについていきます」
「いや、別にあなたのお父さんのところに行ってもいいのよ? しばらく見てないと絶対心配してるでしょうから、姿を見せて安心させてあげなさいよ」
メルが自分たちについて来ようとするので、フェリスは少し強めにメルを諭している。メルくらいの年齢であるなら親はまだまだ子離れできないだろうし、姿を見せてあげた方がいいと考えたからだ。本当に魔族のくせに人間っぽい事を考えるフェリスなのである。
そのフェリスの言葉を受けて少し考えていたメルだったが、それなりにフェリスの語気が強かったので、
「分かりました。それではお父さんに会ってきます」
と少々不服そうにしながらも了承していた。
(あはは、お父さんって嫌われてるのかなぁ……)
そのメルの表情と態度に、フェリスは苦笑いをするしかなかった。
そんなこんなでフェリスはメルを牧場まで送り届けた後、ペコラと一緒に職人街にある食堂の一号店までやって来た。
「おお、ペコラ様だ。おいみんなっ、ペコラ様が戻られたぞっ!」
ペコラが食堂に姿を見せると、その瞬間から店内がお祭り騒ぎになってしまった。ペコラはすっかり人気者のようである。
しかし、ペコラはそんなお祭り騒ぎにはまったく見向きもせず、さっさと厨房へと向かっていった。そして、手洗いを済ませると早速厨房に立っていた。
「フェリス、今からこの包丁の試し切りをするのだ」
「はいはい、センティアの鍛冶工房で作った魔法銀の包丁よね。まったくどんな切れ味なのかしら」
早速包丁を取り出して構えるペコラ。まな板の上に取り出したのは、フェリスメルでは定番となっているボアの肉である。その姿をじっと見守る厨房一同。
その目の前で、ボアの肉はスッと切り分けられていく。恐ろしいまでに力を入れずに済む。さすが魔法銀である。
「これほどまでに切れ味が良いとは。あのアイロンという職人は腕は確かなのだ」
ペコラは大満足だった。
「あーしの手にもしっかり馴染んでいるし、本当に大したものなのだ」
包丁を握りしめたまま、ペコラは嬉しそうに笑っていた。はたから見るとなかなかに怖い絵面である。
そんなわけで、村に戻ってきたペコラは、早速魔法銀の包丁を使って料理を振る舞っていたのだった。
こうして、フェリスメルにいつもの賑わいが戻っていった。
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