135 / 290
第135話 邪神ちゃんと帰還の時
しおりを挟む
生誕祭も無事に終わり、いよいよフェリスたちがフェリスメルに戻る日がやって来た。
フェリスたちが立ってマイオリーと向き合う中、ペコラは厨房の人たちに泣きつかれていた。よっぽど彼女が料理をする姿が嬉しかったらしい。ペコラはそんな料理人たちを一生懸命慰めていた。
「料理のレシピも残していくから、そんなに泣くななのだ。さすがにあーしは残るわけにはいかないのだ」
「分かっています。分かっていますけれど、やっぱりダメなんですよぉっ!」
料理人たちが必死に引き留めようとしている。本当にペコラは人気なようである。
「うっうっ、絶対また来て下せぇ、ペコラ……」
「わ、分かったのだ、分かったのだ! 少なくとも生誕祭の時には来るから、あーしから手を離すのだっ!」
ペコラはショートパンツを掴まれて、もの凄く怒っているようである。ペコラも女性なのだから当然である。ようやく手を放してもらえたペコラだったが、ショートパンツの裾が少し伸びてしまってへそを曲げていた。そして、料理人たちを睨みながら魔法で伸びてしまった裾を元に戻していた。本当に魔法は便利である。
「それにしても、ヴェノム司祭。あなたまでお見送りだなんて、どういう風の吹き回しなのでしょうか。あなたは魔族に対して否定的な立場だったはずですか?」
くるりと振り返ったマイオリーが、ヴェノムに対して問い掛ける。だが、ヴェノムはドラコの方を見たまま押し黙って固まっていた。
「ヴェノム司祭! 聖女様がお尋ねになっておられるのです。答えなさいっ!」
お付きの警備兵が怒鳴るのだが、ヴェノムはそれにすら反応しなかった。この間もヴェノムは、ただただドラコを睨み続けていた。
だが、その視線にドラコが気付かないわけもなく、ドラコが鋭い目力を返すとヴェノムはあっさりと怯んでしまっていた。何しに来ているのだろうか、このおっさん司祭は……。
「かっかっかっ……。わしにまだそれだけの歯向かいたそうな目をできる間は、まだまだ見込みがありそうな男よのう。じゃがな、魔族だけが敵だと思っておる間は、所詮は小物という事ぞ。真なる敵は人の内に潜んでおる事もあるからのう」
ドラコが意味が深そうな事を言っているが、多分このヴェノムには届いていないだろう。
「魔族とて、フェリスやペコラのようなものも居る。種族を一括りにして考えておるならば、おぬしはそのうち足元を近くの者に掬われかねんぞ? まあ、用心する事よな」
ドラコが吐き捨てるように忠告をしておくが、肝心のヴェノムにはまったくもって効果がなさそうだった。まあ、ここまで言って聞かないのであれば、もうこれ以上は放っておくのが得策なのである。本当に、頭の固い人間には何を言っても無駄だという事である。
「それでは、あたしたちはフェリスメルに戻りますね」
「はい、わざわざお越し頂けて、本当にありがとうございました」
フェリスがマイオリーに言うと、マイオリーの方は手を組んだ状態でお礼を言ってきた。マイオリーの表情を見る限り、本当は頭を下げてお礼を言いたそうな感じである。しかしながら、聖教会としての立場があるので、それを我慢しているようだった。聖女は聖教会の実質トップなのだから、軽々に行動できないのというわけなのである。
「ふっ、今回はわしも楽しめたぞ。余興はいくらあってもよかったがな」
しんみりしそうな雰囲気のところを、ドラコが前に出ておちゃらけた感じで喋っている。
「人と魔族の戦いが終わって早数100年。これだけ平和になると、新たな敵が見えぬところから湧いてくる。じゃが、マリアとわしの加護の付いたその腕輪がある限り、聖女と聖教会には危害は加えさせんて」
そして、続けざまにドラコは自分の髪の毛を一本ばかり引っこ抜いた。すると、その髪の毛は見る見るうちに形を変え、笛のようなものになってしまった。
「ついでじゃから、こいつも渡しておこう」
「これは?」
ドラコから渡された笛を見て、マイオリーはきょとんとした表情をしている。
「龍笛。そいつを吹けば対応したドラゴンがすぐに駆け付ける。そいつの場合はわしじゃな」
ドラコの発言に、周りが一様に騒めく。
「そういうわけじゃ。古龍が聖女についたという事はどういう事か、その意味をしっかりと噛みしめるんじゃな」
見た目幼女とは思えない迫力で睨むドラコに、聖教会の人間たちは少し後退った。ヴェノムも同様である。
「まあ心配するな。わしも平和を好むゆえに、そうそう血を流すような真似はせん。どうなるかはおぬしら次第じゃ」
ドラコはそう言いながら、足元に魔法陣を出して光に包まれていく。次の瞬間、ドラコの本来の姿である古龍の姿へと変身していた。
「さあ、フェリスたち。さっさとわしの背に乗るといい。1日もせんうちにフェリスメルに戻れるぞ」
お言葉に甘えてという事で、フェリスたちはさっさとドラコの背中に乗り込んだ。
「それじゃあね、聖女様。なかなか楽しかったわよ。また来年の生誕祭には参加させてもらうからね!」
「ええ、フェリス様こそ、またお会いできる事を楽しみにしています」
フェリスとマイオリーが言葉を交わすと、ドラコは翼を羽ばたかせてあっという間に空に舞い上がってしまった。
マイオリーは、その姿が見えなくなるまで、手を組んだまま見送り続けたのだった。
フェリスたちが立ってマイオリーと向き合う中、ペコラは厨房の人たちに泣きつかれていた。よっぽど彼女が料理をする姿が嬉しかったらしい。ペコラはそんな料理人たちを一生懸命慰めていた。
「料理のレシピも残していくから、そんなに泣くななのだ。さすがにあーしは残るわけにはいかないのだ」
「分かっています。分かっていますけれど、やっぱりダメなんですよぉっ!」
料理人たちが必死に引き留めようとしている。本当にペコラは人気なようである。
「うっうっ、絶対また来て下せぇ、ペコラ……」
「わ、分かったのだ、分かったのだ! 少なくとも生誕祭の時には来るから、あーしから手を離すのだっ!」
ペコラはショートパンツを掴まれて、もの凄く怒っているようである。ペコラも女性なのだから当然である。ようやく手を放してもらえたペコラだったが、ショートパンツの裾が少し伸びてしまってへそを曲げていた。そして、料理人たちを睨みながら魔法で伸びてしまった裾を元に戻していた。本当に魔法は便利である。
「それにしても、ヴェノム司祭。あなたまでお見送りだなんて、どういう風の吹き回しなのでしょうか。あなたは魔族に対して否定的な立場だったはずですか?」
くるりと振り返ったマイオリーが、ヴェノムに対して問い掛ける。だが、ヴェノムはドラコの方を見たまま押し黙って固まっていた。
「ヴェノム司祭! 聖女様がお尋ねになっておられるのです。答えなさいっ!」
お付きの警備兵が怒鳴るのだが、ヴェノムはそれにすら反応しなかった。この間もヴェノムは、ただただドラコを睨み続けていた。
だが、その視線にドラコが気付かないわけもなく、ドラコが鋭い目力を返すとヴェノムはあっさりと怯んでしまっていた。何しに来ているのだろうか、このおっさん司祭は……。
「かっかっかっ……。わしにまだそれだけの歯向かいたそうな目をできる間は、まだまだ見込みがありそうな男よのう。じゃがな、魔族だけが敵だと思っておる間は、所詮は小物という事ぞ。真なる敵は人の内に潜んでおる事もあるからのう」
ドラコが意味が深そうな事を言っているが、多分このヴェノムには届いていないだろう。
「魔族とて、フェリスやペコラのようなものも居る。種族を一括りにして考えておるならば、おぬしはそのうち足元を近くの者に掬われかねんぞ? まあ、用心する事よな」
ドラコが吐き捨てるように忠告をしておくが、肝心のヴェノムにはまったくもって効果がなさそうだった。まあ、ここまで言って聞かないのであれば、もうこれ以上は放っておくのが得策なのである。本当に、頭の固い人間には何を言っても無駄だという事である。
「それでは、あたしたちはフェリスメルに戻りますね」
「はい、わざわざお越し頂けて、本当にありがとうございました」
フェリスがマイオリーに言うと、マイオリーの方は手を組んだ状態でお礼を言ってきた。マイオリーの表情を見る限り、本当は頭を下げてお礼を言いたそうな感じである。しかしながら、聖教会としての立場があるので、それを我慢しているようだった。聖女は聖教会の実質トップなのだから、軽々に行動できないのというわけなのである。
「ふっ、今回はわしも楽しめたぞ。余興はいくらあってもよかったがな」
しんみりしそうな雰囲気のところを、ドラコが前に出ておちゃらけた感じで喋っている。
「人と魔族の戦いが終わって早数100年。これだけ平和になると、新たな敵が見えぬところから湧いてくる。じゃが、マリアとわしの加護の付いたその腕輪がある限り、聖女と聖教会には危害は加えさせんて」
そして、続けざまにドラコは自分の髪の毛を一本ばかり引っこ抜いた。すると、その髪の毛は見る見るうちに形を変え、笛のようなものになってしまった。
「ついでじゃから、こいつも渡しておこう」
「これは?」
ドラコから渡された笛を見て、マイオリーはきょとんとした表情をしている。
「龍笛。そいつを吹けば対応したドラゴンがすぐに駆け付ける。そいつの場合はわしじゃな」
ドラコの発言に、周りが一様に騒めく。
「そういうわけじゃ。古龍が聖女についたという事はどういう事か、その意味をしっかりと噛みしめるんじゃな」
見た目幼女とは思えない迫力で睨むドラコに、聖教会の人間たちは少し後退った。ヴェノムも同様である。
「まあ心配するな。わしも平和を好むゆえに、そうそう血を流すような真似はせん。どうなるかはおぬしら次第じゃ」
ドラコはそう言いながら、足元に魔法陣を出して光に包まれていく。次の瞬間、ドラコの本来の姿である古龍の姿へと変身していた。
「さあ、フェリスたち。さっさとわしの背に乗るといい。1日もせんうちにフェリスメルに戻れるぞ」
お言葉に甘えてという事で、フェリスたちはさっさとドラコの背中に乗り込んだ。
「それじゃあね、聖女様。なかなか楽しかったわよ。また来年の生誕祭には参加させてもらうからね!」
「ええ、フェリス様こそ、またお会いできる事を楽しみにしています」
フェリスとマイオリーが言葉を交わすと、ドラコは翼を羽ばたかせてあっという間に空に舞い上がってしまった。
マイオリーは、その姿が見えなくなるまで、手を組んだまま見送り続けたのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~
【書籍化決定!】
本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました!
第1巻は10月下旬発売!
よろしくお願いします!
賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。
その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。
一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。
こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

悪役転生の後日談~破滅ルートを回避したのに、何故か平穏が訪れません~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、王太子であるアルス-アスカロンは記憶を取り戻す。
それは自分がゲームのキャラクターである悪役だということに。
気づいた時にはすでに物語は進行していたので、慌てて回避ルートを目指す。
そして、無事に回避できて望み通りに追放されたが……そこは山賊が跋扈する予想以上に荒れ果てた土地だった。
このままではスローライフができないと思い、アルスは己の平穏(スローライフ)を邪魔する者を排除するのだった。
これは自分が好き勝手にやってたら、いつの間か周りに勘違いされて信者を増やしてしまう男の物語である。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる