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第133話 邪神ちゃんと魔族嫌い
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さて、フェリスたちがセンティアの街の散策を楽しんでいた頃、聖教会内ではやはりというか動きがあった。
「くそっ、魔族どもをこうものさばらせていいものかっ!」
机をドンと拳で叩く司祭。
この司祭、かなり気が立っており、生誕祭に邪神であるフェリスを招いた事や、急な来訪であったドラコの事でかなり苛ついているようである。聖教会と魔族は相容れないものと考えているために、ドラコの語ったマリアとの一件もまったく信じようとしていなかった。
とはいえ、現聖女であるマイオリーが受け継ぐ腕輪は確かにドラコの鱗から作られたものである事が、生誕祭の場で確認されている。この事に、司祭は更なる苛立ちを募らせているのだった。
司祭はどうすればあの魔族たちを倒す事ができるのか、その事ばかりに腐心している。この司祭にとっては、何があっても魔族は敵なのである。
いつの時代もこういう人物は居るのである。マリアが聖女だった時もそういう人物は居たのだが、マリアに説き伏せられて沈黙したという過去がある。当時の聖女であるマリアは肉体言語派だったのである。
ちなみに、時の聖女はこう言ったらしい。
「私の友人は馬鹿にするつもり?」
と。ただのこの一言ですべてを黙らせたそうだ。凍てついた笑顔と強く握った拳にさえ目をつぶればだが……。
まあ、この司祭はそんな事はまったく知らないわけなのだが、実に愚かしい計画を練ろうとしていた。
「ちょうど目障りな連中が、全員このセンティアに集まっておるのだ。うまくいけば全員を消し去る事ぐらいできるはずだ……」
どうやら、フェリスやマイオリーたちをまとめて葬り去るつもりでいるらしい。本気でそんな事を考えているのなら、実におめでたいものだと言えよう。いや、実際におめでたいのだが。
一人の司祭は、魔族の殲滅とその魔族を支持する聖女の排除に向けて静かに動き出していた。
さて夕刻。マイオリーたちが街の散策から戻ってきた。
マイオリーも街の中をゆっくり歩いたのは初めてなのか、もの凄く満足した様子で戻ってきていた。
「ふふふっ、今日は楽しかったです。たまにはこういうのもよろしいですね」
「満足頂けたようですね。では聖女様、湯浴みをして祈祷へと参りましょうか」
満足げのマイオリーに、淡々とやるべき事をやるメイベル。マイオリーもそれには逆らわずに、フェリスたちと別れて奥へと消えていった。
「ははは、分かっちゃいたけど、聖女って大変ね」
「まぁそうじゃろうて。人間どもの平和の象徴だし、聖女が祈るからこそ、人間どもは平和を享受できるというものじゃ」
フェリスがマイオリーを見送りながら呟いていると、ドラコが腕組みをしたまま説明を始める。
「それに、聖女の結界というのはすごいもんじゃぞ。わしらにはまったく通じてはおらぬが、中級くらいの魔物であれば結界に弾かれ、無理に通ろうとすればその身を焼かれてしまうのだからな」
ドラコの説明を聞く限り、聖女の結界というのはそのくらいに高性能なものらしい。まあフェリスたちにはまったく通じないのだが。
「わしらなら誰一人として弾かれる事はないじゃろうな。気弱に見えるハバリーでも問題はないぞ」
フェリスたちもフェリスたちで規格外だった。普通、このくらいの力を魔族たちが徒党を組む事はあり得ない。それこそ、魔王の軍勢レベルでもなければ、このレベルの魔族は多くの配下を従えるリーダーとなっているはずなのである。
「この聖教会内には、わしらの事をよく思わん連中が居るようじゃが、それを思えばわしらには向かう事が愚策である事くらい、すぐに分かりそうなものなのじゃがな。単固体で聖女と互角に渡り合うような存在相手に、実に愚かしい事よな」
ドラコは聖教会内の不穏な動きをすぐに察知していた。さすがは古龍といったところだ。
「まったく、人間という連中は愚かよなぁ。自分の力量すら見誤る者が多い。魔族は相手の力量を見誤る者が多いのだがな、人間はそれを上回りよる」
「ドラコ?」
訳の分からない事を言い始めたドラコに、フェリスは首を傾げている。後ろではメルといつの間にか合流していたペコラも、ドラコの言葉を理解できない様子でドラコを見ている。
「かっかっかっかっ、気にするな。……ちょいとわしは用事ができたから、おぬしらは先に戻ってくれんか」
「えっ、ええ、分かったわよ」
ドラコの実に楽しそうな表情に戸惑いながらも、フェリスたちはドラコの言う通りに部屋へと先に戻る事にした。
フェリスたちが歩いていく姿を見届けると、ドラコは別の方向へと顔を向けた。
「さて、自分の身の程も弁えぬ愚か者に、灸を据えに行くとするかのう。ああいう輩は放っておくと後々面倒になるからな」
ドラコは小さく伸びをしながら、とことこと聖教会の中を、自分たちの泊まる部屋とは違う方向へと歩いていくのだった。
一体ドラコは何を感知したというのだろうか。そして、一体何をやらかそうとしているのだろうか。どうにも嫌な予感しかしなかった。
「くそっ、魔族どもをこうものさばらせていいものかっ!」
机をドンと拳で叩く司祭。
この司祭、かなり気が立っており、生誕祭に邪神であるフェリスを招いた事や、急な来訪であったドラコの事でかなり苛ついているようである。聖教会と魔族は相容れないものと考えているために、ドラコの語ったマリアとの一件もまったく信じようとしていなかった。
とはいえ、現聖女であるマイオリーが受け継ぐ腕輪は確かにドラコの鱗から作られたものである事が、生誕祭の場で確認されている。この事に、司祭は更なる苛立ちを募らせているのだった。
司祭はどうすればあの魔族たちを倒す事ができるのか、その事ばかりに腐心している。この司祭にとっては、何があっても魔族は敵なのである。
いつの時代もこういう人物は居るのである。マリアが聖女だった時もそういう人物は居たのだが、マリアに説き伏せられて沈黙したという過去がある。当時の聖女であるマリアは肉体言語派だったのである。
ちなみに、時の聖女はこう言ったらしい。
「私の友人は馬鹿にするつもり?」
と。ただのこの一言ですべてを黙らせたそうだ。凍てついた笑顔と強く握った拳にさえ目をつぶればだが……。
まあ、この司祭はそんな事はまったく知らないわけなのだが、実に愚かしい計画を練ろうとしていた。
「ちょうど目障りな連中が、全員このセンティアに集まっておるのだ。うまくいけば全員を消し去る事ぐらいできるはずだ……」
どうやら、フェリスやマイオリーたちをまとめて葬り去るつもりでいるらしい。本気でそんな事を考えているのなら、実におめでたいものだと言えよう。いや、実際におめでたいのだが。
一人の司祭は、魔族の殲滅とその魔族を支持する聖女の排除に向けて静かに動き出していた。
さて夕刻。マイオリーたちが街の散策から戻ってきた。
マイオリーも街の中をゆっくり歩いたのは初めてなのか、もの凄く満足した様子で戻ってきていた。
「ふふふっ、今日は楽しかったです。たまにはこういうのもよろしいですね」
「満足頂けたようですね。では聖女様、湯浴みをして祈祷へと参りましょうか」
満足げのマイオリーに、淡々とやるべき事をやるメイベル。マイオリーもそれには逆らわずに、フェリスたちと別れて奥へと消えていった。
「ははは、分かっちゃいたけど、聖女って大変ね」
「まぁそうじゃろうて。人間どもの平和の象徴だし、聖女が祈るからこそ、人間どもは平和を享受できるというものじゃ」
フェリスがマイオリーを見送りながら呟いていると、ドラコが腕組みをしたまま説明を始める。
「それに、聖女の結界というのはすごいもんじゃぞ。わしらにはまったく通じてはおらぬが、中級くらいの魔物であれば結界に弾かれ、無理に通ろうとすればその身を焼かれてしまうのだからな」
ドラコの説明を聞く限り、聖女の結界というのはそのくらいに高性能なものらしい。まあフェリスたちにはまったく通じないのだが。
「わしらなら誰一人として弾かれる事はないじゃろうな。気弱に見えるハバリーでも問題はないぞ」
フェリスたちもフェリスたちで規格外だった。普通、このくらいの力を魔族たちが徒党を組む事はあり得ない。それこそ、魔王の軍勢レベルでもなければ、このレベルの魔族は多くの配下を従えるリーダーとなっているはずなのである。
「この聖教会内には、わしらの事をよく思わん連中が居るようじゃが、それを思えばわしらには向かう事が愚策である事くらい、すぐに分かりそうなものなのじゃがな。単固体で聖女と互角に渡り合うような存在相手に、実に愚かしい事よな」
ドラコは聖教会内の不穏な動きをすぐに察知していた。さすがは古龍といったところだ。
「まったく、人間という連中は愚かよなぁ。自分の力量すら見誤る者が多い。魔族は相手の力量を見誤る者が多いのだがな、人間はそれを上回りよる」
「ドラコ?」
訳の分からない事を言い始めたドラコに、フェリスは首を傾げている。後ろではメルといつの間にか合流していたペコラも、ドラコの言葉を理解できない様子でドラコを見ている。
「かっかっかっかっ、気にするな。……ちょいとわしは用事ができたから、おぬしらは先に戻ってくれんか」
「えっ、ええ、分かったわよ」
ドラコの実に楽しそうな表情に戸惑いながらも、フェリスたちはドラコの言う通りに部屋へと先に戻る事にした。
フェリスたちが歩いていく姿を見届けると、ドラコは別の方向へと顔を向けた。
「さて、自分の身の程も弁えぬ愚か者に、灸を据えに行くとするかのう。ああいう輩は放っておくと後々面倒になるからな」
ドラコは小さく伸びをしながら、とことこと聖教会の中を、自分たちの泊まる部屋とは違う方向へと歩いていくのだった。
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