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第132話 邪神ちゃんと職人ドワーフ
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「いやまぁ、面目ねえ。見ての通り鍛冶以外には興味がからっきしでよぉ。生誕祭も参加すっぽかしてずっと工房にこもってたんでさぁ」
アイロンが謝罪にならない謝罪をしていた。本当に鍛冶にしか興味がない職人のようである。これにはフェリスも呆れるばかりだった。
「こほん、職人というのなら確かにそういう事もあるでしょうね。でも、さすがに聖女に対してのその態度はどうかと思うわよ。自分の住んでる街の事くらい把握しておかなきゃ、そのうち不敬罪で斬り捨てられるわよ」
「……それは肝に銘じておく」
フェリスが半ば脅しのように言っておくと、アイロンは神妙な面持ちで言葉を返してきた。
「はあ……、それが本気かどうか、これで示した方がいいんじゃないかしら」
フェリスはため息を吐きながら、ぽいっとアイロンに向けて何かを放り投げた。それを受け取ったアイロンは、その物体に目を見開いて驚いている。
「おい、ミスリルをこんなにほいほい渡すもんじゃねえぞ」
「うるさいわね。黙ってそれでマイオリーのために杖とか作ってあげればいいのよ。聖女様に対して無礼を働いたんだから、ちゃんとした謝罪をしなきゃダメよ」
「ぐっ……」
騒ぐアイロンだったが、フェリスにそう言われては黙るしかなかった。何と言っても魔族に諭されてしまっては、本当に反論のしようがないというものである。結局、黙ってそのまま渋々と工房の奥へと消えてしまったのだった。
「さて、これでしばらくは静かでしょうね。騒がしくしちゃってごめんなさいね」
フェリスは工房の中の職人たちにぺこりと頭を下げていた。
「やれやれ、本当に変わった奴じゃなぁ、フェリスは」
「そこがフェリス様の素晴らしいところなんですよ」
その様子を見ていたドラコは呆れ、メルは満面の笑みで喜んでいた。マイオリーはくすくすと笑っているし、メイベルは気が済んだのか無表情で立っていた。
ようやく鍛冶工房を立ち去るフェリスたちである。本当に思った以上に時間を費やしてしまった。大体あの無礼な鍛冶師のせいである。
「そういえば、アイロンって人の事は詳しく聞かなかったけれど、あれはドワーフよね」
「うむ、そうだな。あの体躯と鍛冶を得意としているという点から、ドワーフで間違いないだろう。長命っぽい事も言っておったしな」
フェリスとドラコは鍛冶工房での事を振り返りながら話をしている。
「あのー、ドワーフって何なんですか?」
メルが当然のように質問をしてくる。それに答えたのはドラコの方だった。
「ドワーフというのはな、土の神の祝福を受けたとも言われる小人族の一種じゃ。ノームとの違いは精霊か亜人かという点じゃな。採掘や鍛冶といった、土属性に関わる事に関して長けておってな、中には手先が器用で裁縫やら細工も行えるような者も居る。まあ、全体的に見て職人気質な種族という事じゃな。ノームにはその辺りの気質がないから、一番の見分けポイントと言えるじゃろう」
「へえ、そうなんですね」
ドラコの説明に、メルはよく分からないといった感じで反応している。
「ただ、長命であるがゆえに好みの分野以外の事は、あの通り疎かったり興味が薄かったりするのが玉に瑕なんじゃよなぁ……。わしも引きこもり加減じゃったとはいえ、不敬を働いて手打ちにされかかった奴を何度か見たぞ……」
どうやらドワーフという種族は、興味のある事以外への関心が著しく低いらしい。ならば、あのアイロンのマイオリーへの反応も非常に頷けるというものである。でもまぁ、さすがに自分の住んでいる街の事くらい知っておくべきだと思われる。まったく、自分の事を悪く言われたわけではないのに、フェリスはこの上なく機嫌が悪くなってしまっていた。
「なんかお腹が空いたわ。聖女様はどうされますか」
「うふふ、フェリス様がそう仰るのでしたら、私はお付き合いしますよ」
フェリスがマイオリーに話題を振ると、マイオリーはにっこりと微笑んでフェリスに任せるみたいな言い回しの言葉を返してきた。すっとフェリスがメイベルの方に目を遣ると、メイベルは一瞬目を閉じてフェリスの方を優しく見ていた。完全にこれはお任せモードに入っている。フェリスはそう直感したのだった。
「分かりました。あたしは欲望に任せて動きますから、マイオリーたちはそれ似合いそうな場所を紹介して下さいよ」
フェリスは頭をぽりぽりと掻きながら、呆れたように言っている。
「はい、お任せ下さい」
そう返事をするのはメイベルだった。マイオリーのお付きの侍女とはいえ、それなりに自由な時間があるのか、街へはそれなりに出向いているらしい。
「それじゃ、今日はよろしくお願いしちゃおうかしらね」
フェリスはにやりと笑っていた。それに対して、メイベルの方もにやりと笑い返す。
「やれやれ、これは日が暮れるまで戻れそうにはないな」
「ふふっ、そうですね」
「うう、歩き疲れてきました……」
そんなこんなで、フェリスたちはセンティアの街を本当に日が暮れるまで散策し通したのだった。途中、メルが疲れたとかいうので休み休みではあったものの、フェリスたちは一日楽しんだのであった。
アイロンが謝罪にならない謝罪をしていた。本当に鍛冶にしか興味がない職人のようである。これにはフェリスも呆れるばかりだった。
「こほん、職人というのなら確かにそういう事もあるでしょうね。でも、さすがに聖女に対してのその態度はどうかと思うわよ。自分の住んでる街の事くらい把握しておかなきゃ、そのうち不敬罪で斬り捨てられるわよ」
「……それは肝に銘じておく」
フェリスが半ば脅しのように言っておくと、アイロンは神妙な面持ちで言葉を返してきた。
「はあ……、それが本気かどうか、これで示した方がいいんじゃないかしら」
フェリスはため息を吐きながら、ぽいっとアイロンに向けて何かを放り投げた。それを受け取ったアイロンは、その物体に目を見開いて驚いている。
「おい、ミスリルをこんなにほいほい渡すもんじゃねえぞ」
「うるさいわね。黙ってそれでマイオリーのために杖とか作ってあげればいいのよ。聖女様に対して無礼を働いたんだから、ちゃんとした謝罪をしなきゃダメよ」
「ぐっ……」
騒ぐアイロンだったが、フェリスにそう言われては黙るしかなかった。何と言っても魔族に諭されてしまっては、本当に反論のしようがないというものである。結局、黙ってそのまま渋々と工房の奥へと消えてしまったのだった。
「さて、これでしばらくは静かでしょうね。騒がしくしちゃってごめんなさいね」
フェリスは工房の中の職人たちにぺこりと頭を下げていた。
「やれやれ、本当に変わった奴じゃなぁ、フェリスは」
「そこがフェリス様の素晴らしいところなんですよ」
その様子を見ていたドラコは呆れ、メルは満面の笑みで喜んでいた。マイオリーはくすくすと笑っているし、メイベルは気が済んだのか無表情で立っていた。
ようやく鍛冶工房を立ち去るフェリスたちである。本当に思った以上に時間を費やしてしまった。大体あの無礼な鍛冶師のせいである。
「そういえば、アイロンって人の事は詳しく聞かなかったけれど、あれはドワーフよね」
「うむ、そうだな。あの体躯と鍛冶を得意としているという点から、ドワーフで間違いないだろう。長命っぽい事も言っておったしな」
フェリスとドラコは鍛冶工房での事を振り返りながら話をしている。
「あのー、ドワーフって何なんですか?」
メルが当然のように質問をしてくる。それに答えたのはドラコの方だった。
「ドワーフというのはな、土の神の祝福を受けたとも言われる小人族の一種じゃ。ノームとの違いは精霊か亜人かという点じゃな。採掘や鍛冶といった、土属性に関わる事に関して長けておってな、中には手先が器用で裁縫やら細工も行えるような者も居る。まあ、全体的に見て職人気質な種族という事じゃな。ノームにはその辺りの気質がないから、一番の見分けポイントと言えるじゃろう」
「へえ、そうなんですね」
ドラコの説明に、メルはよく分からないといった感じで反応している。
「ただ、長命であるがゆえに好みの分野以外の事は、あの通り疎かったり興味が薄かったりするのが玉に瑕なんじゃよなぁ……。わしも引きこもり加減じゃったとはいえ、不敬を働いて手打ちにされかかった奴を何度か見たぞ……」
どうやらドワーフという種族は、興味のある事以外への関心が著しく低いらしい。ならば、あのアイロンのマイオリーへの反応も非常に頷けるというものである。でもまぁ、さすがに自分の住んでいる街の事くらい知っておくべきだと思われる。まったく、自分の事を悪く言われたわけではないのに、フェリスはこの上なく機嫌が悪くなってしまっていた。
「なんかお腹が空いたわ。聖女様はどうされますか」
「うふふ、フェリス様がそう仰るのでしたら、私はお付き合いしますよ」
フェリスがマイオリーに話題を振ると、マイオリーはにっこりと微笑んでフェリスに任せるみたいな言い回しの言葉を返してきた。すっとフェリスがメイベルの方に目を遣ると、メイベルは一瞬目を閉じてフェリスの方を優しく見ていた。完全にこれはお任せモードに入っている。フェリスはそう直感したのだった。
「分かりました。あたしは欲望に任せて動きますから、マイオリーたちはそれ似合いそうな場所を紹介して下さいよ」
フェリスは頭をぽりぽりと掻きながら、呆れたように言っている。
「はい、お任せ下さい」
そう返事をするのはメイベルだった。マイオリーのお付きの侍女とはいえ、それなりに自由な時間があるのか、街へはそれなりに出向いているらしい。
「それじゃ、今日はよろしくお願いしちゃおうかしらね」
フェリスはにやりと笑っていた。それに対して、メイベルの方もにやりと笑い返す。
「やれやれ、これは日が暮れるまで戻れそうにはないな」
「ふふっ、そうですね」
「うう、歩き疲れてきました……」
そんなこんなで、フェリスたちはセンティアの街を本当に日が暮れるまで散策し通したのだった。途中、メルが疲れたとかいうので休み休みではあったものの、フェリスたちは一日楽しんだのであった。
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