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第129話 邪神ちゃんといつぞやの料理
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「あ、あーしが作っていた料理がこんな場所で出てくるとは、一体どういう事なのだ?」
ペコラが衝撃を受けている。そして、マイオリーとメイベルの二人を見た。
「こほん、この食堂を運営されているのは、聖教会で料理人をされていた方なのです。ペコラ様がいらした間に辞められた料理人を覚えてらっしゃいますでしょうか?」
メイベルが食堂の運営をする料理人の事を紹介する。どうやら、ペコラとも面識のある料理人らしい。
「んー、料理を作るのが楽しくてあまり覚えていないのだ。そもそも人間とあーしたちとの間では、ものの認識の仕方がずれているのだ。短期間の付き合いで覚えてられるのは、よっぽどの人物じゃないと無理なのだ」
要するに、ペコラは知らないという事である。
とはいえ、ペコラの言い分も分かるというものだ。寿命が長くなってくると、数年会っただけの相手など一瞬の出来事に過ぎず、あまり記憶に残らくなってしまうのだ。それこそ勇者や聖女といったような、魔族にとって脅威になるような人物くらいしか覚えられない。というか覚えようとしない。国王のような人物ですら魔族にとってはどうでもいい事なのである。
「まあ、あたしたち邪神というか、魔族たちっていうのはそういう奴ばっかりよ。あたしたち仲間内ですら、覚えてない事がたまにあるものねぇ……」
ペコラの言い分を後押しするかのように、フェリスもそのように話している。
「フェリス様、私の事も忘れちゃうんですか?」
そしたらば、メルが泣きそうな顔をしてフェリスに話し掛けているではないか。メルだって人間だ。魔族で邪神なフェリスと比べれば相当に寿命が短いのだから、一瞬しか生きられない存在という事になるのだ。
「バカねぇ。眷属の事を忘れるわけないでしょう? 不安にさせたのならごめんね」
フェリスが隣に座っているメルの頭を撫でながら宥めている。フェリスはメルにはとことん甘いようである。
「それはそれとしてじゃ、料理が出てきておるのにそれを放置はどうかと思うぞ」
あれやこれやと話をしていると、ドラコが珍しく注意してきた。確かに、料理が出てきている状態なのにそれを放置して話を続けるのは、料理人に対して失礼である。
「そ、それもそうね。では、頂きましょうかね」
フェリスは咳払いをして料理に向き直る。マイオリーは聖女らしく祈りを捧げている。よく見ればメルも祈りを捧げている。
そういえばこの世界の人間たちは、食事にありつける事を神に感謝してから食事をする習慣を持っているのである。
だけれども、フェリスたち魔族からしたらそれはどうでもいい事であり、本来は神なんて祈る相手ではなく戦う相手である。だけれども、フェリスたちのような寛容な魔族は別にそうでもない。神と敵対しているわけでもないし、戦いこそどうでもいい感じである。ドラコのように身に降りかかる火の粉だけを払いのけるような感じなのだ。フェリスやペコラも邪神という魔族の上位とはいえ、人間の習慣には理解を示していた。
「噓だろ、魔族が祈りを捧げてるぜ」
「だがなんだ、あの妙に神々しい姿は……」
ピーク前で食堂の中の人はまばらがゆえに、かえってフェリスたちの姿は目立っていた。
神々しいと言っている客が居るが、それもそうだろう。フェリスたちは邪神なのだ。真っ白な邪神は、つまりは顕現した神といえよう。つまり、あながち間違っていないのである。
だが、肝心のフェリスたちはそんな事にお構いなしに食事をしている。これ以上放っておいては冷めてしまうからだ。
「ふむふむ。あーしの行っていた味付けを忠実に再現しているのだ。ふむ、思い出してきたのだ」
味わいながらペコラは何やら記憶を取り戻してきているようである。
「この料理を間近で見ていたのは……、そうなのだ、ユースなのだ」
「ユース?」
ペコラが叫ぶと、フェリスが誰の事かといった顔をする。まぁ実際誰の事か分からないわけなのだが。
「聖教会に居た最初の3年間、あーしの補佐をしていた若い料理人なのだ。よくあーしの左側に立っていた男なのだ」
「思い出して頂けましたか」
ペコラがフェリスたちに説明していると、ゆらりと一人の男性が出てきた。見るからに30くらいのまだ若い男性である。
「うむ、その顔はユースなのだ。久しぶりなのだ」
「ペコラ様こそお久しぶりでございます」
ペコラが挨拶をすると、ユースも挨拶を返してきた。
その瞬間、その場には何とも言えない不思議な空気が漂っている。しかし、ペコラにそんな空気は通じなかった。
「この料理を味わってみるに、しっかりと味付けが再現されているのだ。横で見ていただけなのにこれはすごいのだ」
「お褒めに預かり光栄でございます。ですが、まだまだペコラ様には遠く及ばないかと思います」
「いや、見ていただけでこれはできる事ではないのだ。味わってもいないのに、あーしにこう言わせるのはとんでもない事なのだ」
ペコラは驚きを口にしているが、その顔は喜んでいるようである。その様子にユースは安心したようにようやく笑みを浮かべていた。
ともかく食事を済ませた後は、ペコラとユースの間でしばらく会話が続いていた。
「よし、あーしも腕を振るわせてもらうのだ。みんな、あーしはここに残るから、みんなで散策してくるといいのだ」
「え、ええ。そうさせてもらうわ。聖女様、行きましょうか」
「そうですね。それでは、案内を続けますね」
というわけで、ペコラを食堂に残して、フェリスたちは再び街へと繰り出すのだった。
ペコラが衝撃を受けている。そして、マイオリーとメイベルの二人を見た。
「こほん、この食堂を運営されているのは、聖教会で料理人をされていた方なのです。ペコラ様がいらした間に辞められた料理人を覚えてらっしゃいますでしょうか?」
メイベルが食堂の運営をする料理人の事を紹介する。どうやら、ペコラとも面識のある料理人らしい。
「んー、料理を作るのが楽しくてあまり覚えていないのだ。そもそも人間とあーしたちとの間では、ものの認識の仕方がずれているのだ。短期間の付き合いで覚えてられるのは、よっぽどの人物じゃないと無理なのだ」
要するに、ペコラは知らないという事である。
とはいえ、ペコラの言い分も分かるというものだ。寿命が長くなってくると、数年会っただけの相手など一瞬の出来事に過ぎず、あまり記憶に残らくなってしまうのだ。それこそ勇者や聖女といったような、魔族にとって脅威になるような人物くらいしか覚えられない。というか覚えようとしない。国王のような人物ですら魔族にとってはどうでもいい事なのである。
「まあ、あたしたち邪神というか、魔族たちっていうのはそういう奴ばっかりよ。あたしたち仲間内ですら、覚えてない事がたまにあるものねぇ……」
ペコラの言い分を後押しするかのように、フェリスもそのように話している。
「フェリス様、私の事も忘れちゃうんですか?」
そしたらば、メルが泣きそうな顔をしてフェリスに話し掛けているではないか。メルだって人間だ。魔族で邪神なフェリスと比べれば相当に寿命が短いのだから、一瞬しか生きられない存在という事になるのだ。
「バカねぇ。眷属の事を忘れるわけないでしょう? 不安にさせたのならごめんね」
フェリスが隣に座っているメルの頭を撫でながら宥めている。フェリスはメルにはとことん甘いようである。
「それはそれとしてじゃ、料理が出てきておるのにそれを放置はどうかと思うぞ」
あれやこれやと話をしていると、ドラコが珍しく注意してきた。確かに、料理が出てきている状態なのにそれを放置して話を続けるのは、料理人に対して失礼である。
「そ、それもそうね。では、頂きましょうかね」
フェリスは咳払いをして料理に向き直る。マイオリーは聖女らしく祈りを捧げている。よく見ればメルも祈りを捧げている。
そういえばこの世界の人間たちは、食事にありつける事を神に感謝してから食事をする習慣を持っているのである。
だけれども、フェリスたち魔族からしたらそれはどうでもいい事であり、本来は神なんて祈る相手ではなく戦う相手である。だけれども、フェリスたちのような寛容な魔族は別にそうでもない。神と敵対しているわけでもないし、戦いこそどうでもいい感じである。ドラコのように身に降りかかる火の粉だけを払いのけるような感じなのだ。フェリスやペコラも邪神という魔族の上位とはいえ、人間の習慣には理解を示していた。
「噓だろ、魔族が祈りを捧げてるぜ」
「だがなんだ、あの妙に神々しい姿は……」
ピーク前で食堂の中の人はまばらがゆえに、かえってフェリスたちの姿は目立っていた。
神々しいと言っている客が居るが、それもそうだろう。フェリスたちは邪神なのだ。真っ白な邪神は、つまりは顕現した神といえよう。つまり、あながち間違っていないのである。
だが、肝心のフェリスたちはそんな事にお構いなしに食事をしている。これ以上放っておいては冷めてしまうからだ。
「ふむふむ。あーしの行っていた味付けを忠実に再現しているのだ。ふむ、思い出してきたのだ」
味わいながらペコラは何やら記憶を取り戻してきているようである。
「この料理を間近で見ていたのは……、そうなのだ、ユースなのだ」
「ユース?」
ペコラが叫ぶと、フェリスが誰の事かといった顔をする。まぁ実際誰の事か分からないわけなのだが。
「聖教会に居た最初の3年間、あーしの補佐をしていた若い料理人なのだ。よくあーしの左側に立っていた男なのだ」
「思い出して頂けましたか」
ペコラがフェリスたちに説明していると、ゆらりと一人の男性が出てきた。見るからに30くらいのまだ若い男性である。
「うむ、その顔はユースなのだ。久しぶりなのだ」
「ペコラ様こそお久しぶりでございます」
ペコラが挨拶をすると、ユースも挨拶を返してきた。
その瞬間、その場には何とも言えない不思議な空気が漂っている。しかし、ペコラにそんな空気は通じなかった。
「この料理を味わってみるに、しっかりと味付けが再現されているのだ。横で見ていただけなのにこれはすごいのだ」
「お褒めに預かり光栄でございます。ですが、まだまだペコラ様には遠く及ばないかと思います」
「いや、見ていただけでこれはできる事ではないのだ。味わってもいないのに、あーしにこう言わせるのはとんでもない事なのだ」
ペコラは驚きを口にしているが、その顔は喜んでいるようである。その様子にユースは安心したようにようやく笑みを浮かべていた。
ともかく食事を済ませた後は、ペコラとユースの間でしばらく会話が続いていた。
「よし、あーしも腕を振るわせてもらうのだ。みんな、あーしはここに残るから、みんなで散策してくるといいのだ」
「え、ええ。そうさせてもらうわ。聖女様、行きましょうか」
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