邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
128 / 290

第128話 邪神ちゃんとグルメ散策

しおりを挟む
 聖教会の街を歩くフェリスたち。魔族という事でどういう反応をされるかと思ったが、マイオリーが居る事に加え、生誕祭での出来事もあってかかなり好意的に受け入れられているようである。
 街を歩けば、串焼きとかを差し出される始末。マイオリーは聖女として歩き食いはしないのだが、ドラコは遠慮なく食べていた。まあ貪食なドラゴンだし、仕方がないだろう。ペコラは焼き具合に評価を下すなど、料理人としての血が騒いだようである。
「まったく、あたしたちが邪神だからどうなるかと思ったけれど、街の人たちは意外と寛容なのね」
「私もここまでとは、意外に思っていますよ。ドラコ様は昔の聖女様とお知り合いでしたから受け入れられるのは分かりますけれど……」
 フェリスとマイオリーは驚いていた。
「かっかっかっ、ここの連中は思ったより寛容のようじゃのう。ペコラの奴も、邪神だと知られてもあの通りの振る舞いと周りの反応じゃからなぁ。まあ、普段通りが一番なのかもな」
 ドラコは強者の余裕だった。
 確かに、警戒しすぎてへんな態度を取るよりは、普段通りに振舞って自分を見てもらった方がいいのだろう。だからこそまったく飾らない感じのペコラが受け入れられているのかも知れない。なので、フェリスもフェリスメルで振る舞っているような感じで堂々と歩き始めた。
「うう、人が多いです……」
 ただ、メルだけはやっぱりダメだった。しがない辺鄙な村の牧場の娘なのだ。フェリスメルの人口が増えてきたとはいっても、聖教会の街の人だかりには敵わなかった。
「メル、大丈夫?」
 フェリスがメルを気遣う。
「は、はい。なんとか大丈夫です、フェリス様」
 しかし、どう見ても大丈夫そうに見えないメルだ。
「ちょっとメルが人に酔っちゃったみたいなので、どこかで休みませんかね」
 フェリスがそう言うと、マイオリーは、
「そうですね。聖教会グルメを味わって頂きたいですし、早いですけれど街の食堂へと向かいましょうか」
 その申し出を快く受け入れていた。それにしても、マイオリーの言う聖教会グルメとは一体何なのだろうか。ペコラが一番わくわくしているのは必然だった。さすが料理人である。
 マイオリーとメイベルの案内で、フェリスたちは聖教会の街で一番有名な食堂へと向かったのだった。
 それにしても、なぜマイオリーは街の中を知っているのだろうか。ほとんど教会内に閉じこもっているので、甚だ疑問である。その答えは至極簡単なものだった。マイオリーの侍女であるメイベル由来の情報なのだ。侍女とはいっても常に一緒に居るわけではなく、時折暇を貰っては街に繰り出していたのだ。そういったメイベルの伝聞で、マイオリーは街の中に詳しいというわけである。
「いらっしゃいま……、せ、聖女様?!」
 食堂に入るなり、給仕の女性が驚いて尻餅をついた。
「だ、大丈夫ですか?!」
 フェリスが一番最初に駆け寄る。
「い、いや、すみませんね。あたたた……」
 女性が痛みに顔を歪めている。あれだけ派手に転んだのだ。どこか怪我をしていてもおかしくないだろう。
「ちょっとすみません」
 マイオリーがゆっくりと近付き、すっと手をかざす。マイオリーが集中すると、その手が白く光った。しばらくすると痛がっていた女性の表情が元に戻っていく。痛みが引いたようだった。
「あっ、痛みが消えた……。これが聖女様のお力……」
 女性はマイオリーをじっくりと見ている。さすがに聖女の力を目の前で見せられては、呆然とするしかなかったのだ。それに対して、マイオリーはにっこりと微笑んでいた。
「さて、驚かせてすまなかったのだ。とにかく空いている席はどこなのだ?」
 空気を読まないようにペコラが席を探している。時間としてはまだお昼より早いので、あちこちに空席が目立っている。だが、女性六人で座れる席となると、ちょっと見つかりそうになかった。
「くっつけないと六人で座れる席はなさそうね」
 フェリスは状況を冷静に分析していた。
「私は侍女ですので、席に座るわけには参りません」
 メイベルはそのように言って拒否をする。
「それにです。影に居るラータ殿の事も考えますと、ここで私まで食べて一人お預けというのも可哀想ではありませんか」
 続けて顔を近付けてきたかと思えば、ラータの事を気遣っていた。そういえばラータはずっとメイベルの影に潜みっぱなしである。さすがはマイオリーの侍女である。気配りも完璧なのだ。
「そこまで言うのでしたら仕方ありませんね。では、お二人の分は別に包んで頂きましょう」
 マイオリーは無理強いをしないで、お持ち帰りの選択をしたのだった。
 さて、注文に移ろうとしたものの、この食堂にはメニューがなかった。給仕の人に確認しても、飲み物と日替わりしかないらしく、仕方なくフェリスたちは日替わりを注文するのだった。
 そして、しばらくして運ばれてきた日替わりの料理を見て、ペコラが一番驚いていた。
「こ、これはっ! あーしが聖教会で作っていた料理?!」
 食堂の中に、ペコラの声がこだまするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

魔術師セナリアンの憂いごと

野村にれ
ファンタジー
エメラルダ王国。優秀な魔術師が多く、大陸から少し離れた場所にある島国である。 偉大なる魔術師であったシャーロット・マクレガーが災い、争いを防ぎ、魔力による弊害を律し、国の礎を作ったとされている。 シャーロットは王家に忠誠を、王家はシャーロットに忠誠を誓い、この国は栄えていった。 現在は魔力が無い者でも、生活や移動するのに便利な魔道具もあり、移住したい国でも挙げられるほどになった。 ルージエ侯爵家の次女・セナリアンは恵まれた人生だと多くの人は言うだろう。 公爵家に嫁ぎ、あまり表舞台に出る質では無かったが、経営や商品開発にも尽力した。 魔術師としても優秀であったようだが、それはただの一端でしかなかったことは、没後に判明することになる。 厄介ごとに溜息を付き、憂鬱だと文句を言いながら、日々生きていたことをほとんど知ることのないままである。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

処理中です...