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第126話 邪神ちゃんと聖教会での朝食
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翌朝、聖女の食卓に、フェリス、メル、ペコラ、ドラコ、そしてラータの邪神軍団が勢ぞろいしていた。メルは人間だけれどもフェリスの眷属なので実質邪神である。
対して目の前に居るのはマイオリーただ一人と、聖女の側は何とも寂しい状態だった。
だけれども、これはマイオリーが望んだ事。あえて一人で邪神たちを朝食の席に招いたのである。それだけフェリスたちへの信頼は厚いのだった。
祈りを捧げて食事を始めると、しばらくしてからフェリスが口を開いた。
「正直聞きたいところだけど、あたしたちと食事して何か言われないの?」
「ドラコ様がいらっしゃるのです。それだけで黙らせるには十分だと思いますよ。マリア様の事は、聖教会には伝説として語り継がれていますからね」
フェリスが疑問をぶつければ、マイオリーは笑顔でさらっと答えていた。聖女はこのくらい図太くないとやってられないようである。
それにしても、フェリスとメルはよく朝早くから起きられたものである。フェリスは時々朝が遅いし、メルは慣れない環境で疲れている可能性があったのだが、普通に起きてきているのである。
これが達成できたのは、ドラコとペコラの二人が居たからだ。ドラコはそもそも寝ていなくても平気だし、ペコラは料理人だったり商人だったり、遅寝早起きには慣れたものだったのだ。それに加えてラータまで現れたので、問答無用で二人はたたき起こされたのだった。それでも、意識ははっきりしているようで、あくびをするような事はなかった。フェリスメルに来てからは、結構規則正しい生活をしているのも大きかったものと思われる。
「まあ、ドラコと聖教会の関係は、あたしも驚いたわね」
「かっかっかっ、言っておらんかったからのう。あえて語る必要もあるまいて。聞かれてたら話しておっただろうがな」
フェリスがドラコを見ると、ドヤ顔をしながら笑っていた。ちょっとむかついたものの、フェリスはあえてスルーをした。
「それよりも現在進行形で聖教会に潜り込んでいるラータよね。当面の問題は」
「そうじゃのう。影に潜るラータの能力は、まさに闇魔法の中でも特異な魔法じゃからのう。聖教会からしたら一番受け入れたくはなかろうて」
フェリスとドラコが揃ってラータを見る。だが、これで驚いて取り乱すラータではなかった。落ち着いて黙々と食事をしている。
「うむ、やはりペコラ殿の料理はおいしい」
「そう言ってもらえるのは嬉しいのだ。厨房に突撃したかいがあるというのだ」
どうやらペコラは、ドラコと一緒にフェリスたちを起こす前に厨房にも突撃していたらしい。前回の反省から、徹底的に料理を教え込むつもりでいるそうだ。聖教会の厨房の人たちも、ペコラが邪神と分かったからといっても毛嫌いするような事はなく、むしろ謙虚に料理を学ぼうとしていた。さすが料理人、食の道を究めようと必死である。
「ふふっ、フェリスメルの人たちは羨ましい限りですね。ペコラの料理を毎日のように味わえるだなんて」
マイオリーが口に手を当てて笑っている。それはまるで少女のように無邪気な笑いだった。まあ、まだ16歳なので少女といえば少女である。
「本当に、聖女としての務めがあるから、あまり聖教会から出歩けないのです。外に出るとしても、何か緊急があって呼び出される時くらいで、あの時のように自ら出る時なんて滅多にないのですよ」
マイオリーはどこか寂しそうに呟いていた。
しかし、これが聖女として選ばれた者の生き様なのである。ほとんど聖教会に飼い殺しのような状態になってしまうのだ。それでも、自分が役に立てるのならと境遇に目をつむり、自分を酷使してしまう。それが今までの聖女なのである。
「ふーむ、そういうものなのか。となれば、マリアの奴はかなり特殊であったと言えるのかねぇ。わしに単身で挑んできおったからな。護衛も同行者も居らんかったからな」
ドラコから衝撃的な事実が告げられる。過去の聖女は単身で勝手に出回っていたらしい。これにはマイオリーも固まっていた。
「ストーップなのだ。これ以上は食事が冷めてしまうのだ。食べ終えてからでも遅くないと思うのだ。料理人たるあーしからのアドバイスなのだ」
ドラコがまだ何か喋りたそうにしていたが、ペコラが必死に止めていた。早起きしてせっかく作った料理なのだから、しっかり味わってもらいたいのである。料理人なら当然の感情である。というわけで、ペコラに促されるような形で、私たちは朝食を平らげたのだった。さすがペコラ監修の朝食は味わいが違っていた。
「そうです。本日は私と一緒に、聖教会の街を見て回りませんか?」
「あたしたちみたいな邪神たちが、街の中を出歩いて大丈夫かしらね」
マイオリーの提案に驚くフェリス。当然ながら、自分たちが邪神である事を気にしていた。聖教会からしたら、恨みはないが憎むべき相手だからだ。
「大丈夫だと思いますよ。ドラコ様の言葉で街の人たちには新たな認識が広まっていると思いますし。魔族や邪神をそこまで毛嫌いするのは、敬虔かつ頭の固い人たちくらいですから」
マイオリーは思いの外楽観的だった。まあ、マイオリーがそこまで言うのならと、フェリスたちも気にするのはやめた。
「それでは、私はまたメイベル殿の影に潜ませて頂きます」
さっさと一人食事を先に終わらせていたラータは、淡々としていた。マイオリーがパンパンと手を叩けば、部屋の前で控えていたメイベルが部屋の中に入ってきた。そして、すぐにラータはその影に潜ってしまった。
そして、食事の片付けが終わると、マイオリーたちは街へ繰り出すための支度を始めたのだった。
フェリスたちの登場に、街の人たちは一体どんな反応を示すのだろうか。ドキドキの瞬間を迎える事となるのだった。
対して目の前に居るのはマイオリーただ一人と、聖女の側は何とも寂しい状態だった。
だけれども、これはマイオリーが望んだ事。あえて一人で邪神たちを朝食の席に招いたのである。それだけフェリスたちへの信頼は厚いのだった。
祈りを捧げて食事を始めると、しばらくしてからフェリスが口を開いた。
「正直聞きたいところだけど、あたしたちと食事して何か言われないの?」
「ドラコ様がいらっしゃるのです。それだけで黙らせるには十分だと思いますよ。マリア様の事は、聖教会には伝説として語り継がれていますからね」
フェリスが疑問をぶつければ、マイオリーは笑顔でさらっと答えていた。聖女はこのくらい図太くないとやってられないようである。
それにしても、フェリスとメルはよく朝早くから起きられたものである。フェリスは時々朝が遅いし、メルは慣れない環境で疲れている可能性があったのだが、普通に起きてきているのである。
これが達成できたのは、ドラコとペコラの二人が居たからだ。ドラコはそもそも寝ていなくても平気だし、ペコラは料理人だったり商人だったり、遅寝早起きには慣れたものだったのだ。それに加えてラータまで現れたので、問答無用で二人はたたき起こされたのだった。それでも、意識ははっきりしているようで、あくびをするような事はなかった。フェリスメルに来てからは、結構規則正しい生活をしているのも大きかったものと思われる。
「まあ、ドラコと聖教会の関係は、あたしも驚いたわね」
「かっかっかっ、言っておらんかったからのう。あえて語る必要もあるまいて。聞かれてたら話しておっただろうがな」
フェリスがドラコを見ると、ドヤ顔をしながら笑っていた。ちょっとむかついたものの、フェリスはあえてスルーをした。
「それよりも現在進行形で聖教会に潜り込んでいるラータよね。当面の問題は」
「そうじゃのう。影に潜るラータの能力は、まさに闇魔法の中でも特異な魔法じゃからのう。聖教会からしたら一番受け入れたくはなかろうて」
フェリスとドラコが揃ってラータを見る。だが、これで驚いて取り乱すラータではなかった。落ち着いて黙々と食事をしている。
「うむ、やはりペコラ殿の料理はおいしい」
「そう言ってもらえるのは嬉しいのだ。厨房に突撃したかいがあるというのだ」
どうやらペコラは、ドラコと一緒にフェリスたちを起こす前に厨房にも突撃していたらしい。前回の反省から、徹底的に料理を教え込むつもりでいるそうだ。聖教会の厨房の人たちも、ペコラが邪神と分かったからといっても毛嫌いするような事はなく、むしろ謙虚に料理を学ぼうとしていた。さすが料理人、食の道を究めようと必死である。
「ふふっ、フェリスメルの人たちは羨ましい限りですね。ペコラの料理を毎日のように味わえるだなんて」
マイオリーが口に手を当てて笑っている。それはまるで少女のように無邪気な笑いだった。まあ、まだ16歳なので少女といえば少女である。
「本当に、聖女としての務めがあるから、あまり聖教会から出歩けないのです。外に出るとしても、何か緊急があって呼び出される時くらいで、あの時のように自ら出る時なんて滅多にないのですよ」
マイオリーはどこか寂しそうに呟いていた。
しかし、これが聖女として選ばれた者の生き様なのである。ほとんど聖教会に飼い殺しのような状態になってしまうのだ。それでも、自分が役に立てるのならと境遇に目をつむり、自分を酷使してしまう。それが今までの聖女なのである。
「ふーむ、そういうものなのか。となれば、マリアの奴はかなり特殊であったと言えるのかねぇ。わしに単身で挑んできおったからな。護衛も同行者も居らんかったからな」
ドラコから衝撃的な事実が告げられる。過去の聖女は単身で勝手に出回っていたらしい。これにはマイオリーも固まっていた。
「ストーップなのだ。これ以上は食事が冷めてしまうのだ。食べ終えてからでも遅くないと思うのだ。料理人たるあーしからのアドバイスなのだ」
ドラコがまだ何か喋りたそうにしていたが、ペコラが必死に止めていた。早起きしてせっかく作った料理なのだから、しっかり味わってもらいたいのである。料理人なら当然の感情である。というわけで、ペコラに促されるような形で、私たちは朝食を平らげたのだった。さすがペコラ監修の朝食は味わいが違っていた。
「そうです。本日は私と一緒に、聖教会の街を見て回りませんか?」
「あたしたちみたいな邪神たちが、街の中を出歩いて大丈夫かしらね」
マイオリーの提案に驚くフェリス。当然ながら、自分たちが邪神である事を気にしていた。聖教会からしたら、恨みはないが憎むべき相手だからだ。
「大丈夫だと思いますよ。ドラコ様の言葉で街の人たちには新たな認識が広まっていると思いますし。魔族や邪神をそこまで毛嫌いするのは、敬虔かつ頭の固い人たちくらいですから」
マイオリーは思いの外楽観的だった。まあ、マイオリーがそこまで言うのならと、フェリスたちも気にするのはやめた。
「それでは、私はまたメイベル殿の影に潜ませて頂きます」
さっさと一人食事を先に終わらせていたラータは、淡々としていた。マイオリーがパンパンと手を叩けば、部屋の前で控えていたメイベルが部屋の中に入ってきた。そして、すぐにラータはその影に潜ってしまった。
そして、食事の片付けが終わると、マイオリーたちは街へ繰り出すための支度を始めたのだった。
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