126 / 290
第126話 邪神ちゃんと聖教会での朝食
しおりを挟む
翌朝、聖女の食卓に、フェリス、メル、ペコラ、ドラコ、そしてラータの邪神軍団が勢ぞろいしていた。メルは人間だけれどもフェリスの眷属なので実質邪神である。
対して目の前に居るのはマイオリーただ一人と、聖女の側は何とも寂しい状態だった。
だけれども、これはマイオリーが望んだ事。あえて一人で邪神たちを朝食の席に招いたのである。それだけフェリスたちへの信頼は厚いのだった。
祈りを捧げて食事を始めると、しばらくしてからフェリスが口を開いた。
「正直聞きたいところだけど、あたしたちと食事して何か言われないの?」
「ドラコ様がいらっしゃるのです。それだけで黙らせるには十分だと思いますよ。マリア様の事は、聖教会には伝説として語り継がれていますからね」
フェリスが疑問をぶつければ、マイオリーは笑顔でさらっと答えていた。聖女はこのくらい図太くないとやってられないようである。
それにしても、フェリスとメルはよく朝早くから起きられたものである。フェリスは時々朝が遅いし、メルは慣れない環境で疲れている可能性があったのだが、普通に起きてきているのである。
これが達成できたのは、ドラコとペコラの二人が居たからだ。ドラコはそもそも寝ていなくても平気だし、ペコラは料理人だったり商人だったり、遅寝早起きには慣れたものだったのだ。それに加えてラータまで現れたので、問答無用で二人はたたき起こされたのだった。それでも、意識ははっきりしているようで、あくびをするような事はなかった。フェリスメルに来てからは、結構規則正しい生活をしているのも大きかったものと思われる。
「まあ、ドラコと聖教会の関係は、あたしも驚いたわね」
「かっかっかっ、言っておらんかったからのう。あえて語る必要もあるまいて。聞かれてたら話しておっただろうがな」
フェリスがドラコを見ると、ドヤ顔をしながら笑っていた。ちょっとむかついたものの、フェリスはあえてスルーをした。
「それよりも現在進行形で聖教会に潜り込んでいるラータよね。当面の問題は」
「そうじゃのう。影に潜るラータの能力は、まさに闇魔法の中でも特異な魔法じゃからのう。聖教会からしたら一番受け入れたくはなかろうて」
フェリスとドラコが揃ってラータを見る。だが、これで驚いて取り乱すラータではなかった。落ち着いて黙々と食事をしている。
「うむ、やはりペコラ殿の料理はおいしい」
「そう言ってもらえるのは嬉しいのだ。厨房に突撃したかいがあるというのだ」
どうやらペコラは、ドラコと一緒にフェリスたちを起こす前に厨房にも突撃していたらしい。前回の反省から、徹底的に料理を教え込むつもりでいるそうだ。聖教会の厨房の人たちも、ペコラが邪神と分かったからといっても毛嫌いするような事はなく、むしろ謙虚に料理を学ぼうとしていた。さすが料理人、食の道を究めようと必死である。
「ふふっ、フェリスメルの人たちは羨ましい限りですね。ペコラの料理を毎日のように味わえるだなんて」
マイオリーが口に手を当てて笑っている。それはまるで少女のように無邪気な笑いだった。まあ、まだ16歳なので少女といえば少女である。
「本当に、聖女としての務めがあるから、あまり聖教会から出歩けないのです。外に出るとしても、何か緊急があって呼び出される時くらいで、あの時のように自ら出る時なんて滅多にないのですよ」
マイオリーはどこか寂しそうに呟いていた。
しかし、これが聖女として選ばれた者の生き様なのである。ほとんど聖教会に飼い殺しのような状態になってしまうのだ。それでも、自分が役に立てるのならと境遇に目をつむり、自分を酷使してしまう。それが今までの聖女なのである。
「ふーむ、そういうものなのか。となれば、マリアの奴はかなり特殊であったと言えるのかねぇ。わしに単身で挑んできおったからな。護衛も同行者も居らんかったからな」
ドラコから衝撃的な事実が告げられる。過去の聖女は単身で勝手に出回っていたらしい。これにはマイオリーも固まっていた。
「ストーップなのだ。これ以上は食事が冷めてしまうのだ。食べ終えてからでも遅くないと思うのだ。料理人たるあーしからのアドバイスなのだ」
ドラコがまだ何か喋りたそうにしていたが、ペコラが必死に止めていた。早起きしてせっかく作った料理なのだから、しっかり味わってもらいたいのである。料理人なら当然の感情である。というわけで、ペコラに促されるような形で、私たちは朝食を平らげたのだった。さすがペコラ監修の朝食は味わいが違っていた。
「そうです。本日は私と一緒に、聖教会の街を見て回りませんか?」
「あたしたちみたいな邪神たちが、街の中を出歩いて大丈夫かしらね」
マイオリーの提案に驚くフェリス。当然ながら、自分たちが邪神である事を気にしていた。聖教会からしたら、恨みはないが憎むべき相手だからだ。
「大丈夫だと思いますよ。ドラコ様の言葉で街の人たちには新たな認識が広まっていると思いますし。魔族や邪神をそこまで毛嫌いするのは、敬虔かつ頭の固い人たちくらいですから」
マイオリーは思いの外楽観的だった。まあ、マイオリーがそこまで言うのならと、フェリスたちも気にするのはやめた。
「それでは、私はまたメイベル殿の影に潜ませて頂きます」
さっさと一人食事を先に終わらせていたラータは、淡々としていた。マイオリーがパンパンと手を叩けば、部屋の前で控えていたメイベルが部屋の中に入ってきた。そして、すぐにラータはその影に潜ってしまった。
そして、食事の片付けが終わると、マイオリーたちは街へ繰り出すための支度を始めたのだった。
フェリスたちの登場に、街の人たちは一体どんな反応を示すのだろうか。ドキドキの瞬間を迎える事となるのだった。
対して目の前に居るのはマイオリーただ一人と、聖女の側は何とも寂しい状態だった。
だけれども、これはマイオリーが望んだ事。あえて一人で邪神たちを朝食の席に招いたのである。それだけフェリスたちへの信頼は厚いのだった。
祈りを捧げて食事を始めると、しばらくしてからフェリスが口を開いた。
「正直聞きたいところだけど、あたしたちと食事して何か言われないの?」
「ドラコ様がいらっしゃるのです。それだけで黙らせるには十分だと思いますよ。マリア様の事は、聖教会には伝説として語り継がれていますからね」
フェリスが疑問をぶつければ、マイオリーは笑顔でさらっと答えていた。聖女はこのくらい図太くないとやってられないようである。
それにしても、フェリスとメルはよく朝早くから起きられたものである。フェリスは時々朝が遅いし、メルは慣れない環境で疲れている可能性があったのだが、普通に起きてきているのである。
これが達成できたのは、ドラコとペコラの二人が居たからだ。ドラコはそもそも寝ていなくても平気だし、ペコラは料理人だったり商人だったり、遅寝早起きには慣れたものだったのだ。それに加えてラータまで現れたので、問答無用で二人はたたき起こされたのだった。それでも、意識ははっきりしているようで、あくびをするような事はなかった。フェリスメルに来てからは、結構規則正しい生活をしているのも大きかったものと思われる。
「まあ、ドラコと聖教会の関係は、あたしも驚いたわね」
「かっかっかっ、言っておらんかったからのう。あえて語る必要もあるまいて。聞かれてたら話しておっただろうがな」
フェリスがドラコを見ると、ドヤ顔をしながら笑っていた。ちょっとむかついたものの、フェリスはあえてスルーをした。
「それよりも現在進行形で聖教会に潜り込んでいるラータよね。当面の問題は」
「そうじゃのう。影に潜るラータの能力は、まさに闇魔法の中でも特異な魔法じゃからのう。聖教会からしたら一番受け入れたくはなかろうて」
フェリスとドラコが揃ってラータを見る。だが、これで驚いて取り乱すラータではなかった。落ち着いて黙々と食事をしている。
「うむ、やはりペコラ殿の料理はおいしい」
「そう言ってもらえるのは嬉しいのだ。厨房に突撃したかいがあるというのだ」
どうやらペコラは、ドラコと一緒にフェリスたちを起こす前に厨房にも突撃していたらしい。前回の反省から、徹底的に料理を教え込むつもりでいるそうだ。聖教会の厨房の人たちも、ペコラが邪神と分かったからといっても毛嫌いするような事はなく、むしろ謙虚に料理を学ぼうとしていた。さすが料理人、食の道を究めようと必死である。
「ふふっ、フェリスメルの人たちは羨ましい限りですね。ペコラの料理を毎日のように味わえるだなんて」
マイオリーが口に手を当てて笑っている。それはまるで少女のように無邪気な笑いだった。まあ、まだ16歳なので少女といえば少女である。
「本当に、聖女としての務めがあるから、あまり聖教会から出歩けないのです。外に出るとしても、何か緊急があって呼び出される時くらいで、あの時のように自ら出る時なんて滅多にないのですよ」
マイオリーはどこか寂しそうに呟いていた。
しかし、これが聖女として選ばれた者の生き様なのである。ほとんど聖教会に飼い殺しのような状態になってしまうのだ。それでも、自分が役に立てるのならと境遇に目をつむり、自分を酷使してしまう。それが今までの聖女なのである。
「ふーむ、そういうものなのか。となれば、マリアの奴はかなり特殊であったと言えるのかねぇ。わしに単身で挑んできおったからな。護衛も同行者も居らんかったからな」
ドラコから衝撃的な事実が告げられる。過去の聖女は単身で勝手に出回っていたらしい。これにはマイオリーも固まっていた。
「ストーップなのだ。これ以上は食事が冷めてしまうのだ。食べ終えてからでも遅くないと思うのだ。料理人たるあーしからのアドバイスなのだ」
ドラコがまだ何か喋りたそうにしていたが、ペコラが必死に止めていた。早起きしてせっかく作った料理なのだから、しっかり味わってもらいたいのである。料理人なら当然の感情である。というわけで、ペコラに促されるような形で、私たちは朝食を平らげたのだった。さすがペコラ監修の朝食は味わいが違っていた。
「そうです。本日は私と一緒に、聖教会の街を見て回りませんか?」
「あたしたちみたいな邪神たちが、街の中を出歩いて大丈夫かしらね」
マイオリーの提案に驚くフェリス。当然ながら、自分たちが邪神である事を気にしていた。聖教会からしたら、恨みはないが憎むべき相手だからだ。
「大丈夫だと思いますよ。ドラコ様の言葉で街の人たちには新たな認識が広まっていると思いますし。魔族や邪神をそこまで毛嫌いするのは、敬虔かつ頭の固い人たちくらいですから」
マイオリーは思いの外楽観的だった。まあ、マイオリーがそこまで言うのならと、フェリスたちも気にするのはやめた。
「それでは、私はまたメイベル殿の影に潜ませて頂きます」
さっさと一人食事を先に終わらせていたラータは、淡々としていた。マイオリーがパンパンと手を叩けば、部屋の前で控えていたメイベルが部屋の中に入ってきた。そして、すぐにラータはその影に潜ってしまった。
そして、食事の片付けが終わると、マイオリーたちは街へ繰り出すための支度を始めたのだった。
フェリスたちの登場に、街の人たちは一体どんな反応を示すのだろうか。ドキドキの瞬間を迎える事となるのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる