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第125話 邪神ちゃんと静かな夜
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部屋に戻ったマイオリーは、ゴロン……とではなくベッドに腰掛けていた。目の前に侍女であるメイベルが居るので、そんなだらしない事をするわけがないのである。
「ラータ」
「はっ、ここに」
マイオリーが名前を呼べば、メイベルの影からラータが出てきた。相変わらずの忍び装束のような服装のラータである。
「怪しい動きはありましたか?」
「そうですね……」
マイオリーの問い掛けに少し渋るラータ。
「聖女様に不満を抱えている者が多いのは事実ですが、ドラコ様の登場で一気に思いとどまったようなのですよ。私はかなり気ままな方だと思っていたのですが、古龍の存在というのは影響の大きいものだと、改めて認識させられました」
「そうなのですね。やはり、龍という存在は大きのですね……」
ラータから話を聞かされて、マイオリーは改めてドラコという存在の力を認識する。
しかし、ドラコを見る限りは気ままで無邪気な娘という風にしか感じられないのだが、一瞬放っていた殺気のようなものは確かな鋭さを持っていた。
「……ドラコ様を味方に付けられた事を、本当に感謝せねばなりません。……偉大なる先代の聖女マリア様に、感謝を……」
マイオリーはベッドで座った状態で祈りを捧げる。ふわっと光ったかと思えば、その光は一瞬で消え去ってしまった。
「ラータ、明日はドラコ様たちとお話ししましょう。あなたも同席願います」
「承知致しました」
「メイベルも、私の侍女としてその席に立ち会って下さいね」
「畏まりました」
という事で、フェリスやドラコたちを招いて翌朝の食事を取る事に決めたマイオリーである。
「ふふっ、なかなかに面白い事を考えておる奴が居ったのう……」
ドラコは寝付いていなかった。というか、ドラゴンは起きている状態と寝ている状態がかなり曖昧で、下手をすると寝ずに活動し続ける事も可能なのだ。逆に、寝ると何があっても起きずに眠り続ける事だってある。さすがは全種族の中でも最古参と言われるような種族だ。スケールが違い過ぎる。
「己が信念に真っすぐなのはよいが、自分の身の丈と相手を見ねばただの無鉄砲じゃからなぁ。くくくっ、動かんで正解じゃったぞ」
ドラコは独り言を言いながら、夜空を見上げていた。
この時のドラコは寝間着姿なのだが、普段のドレス姿同様になんともフリフリの装飾の多い、いわゆるネグリジェのようなものを着ている。ドラコの人間形態にはお尻に尻尾があるのだが、どういうわけか寝間着を貫通している。本当にどうなっているのだろうか。
実はこの服装、ドラコの鱗を変化させてできあがった服なのだ。そのために、ドラコの姿に合わせて服がしっかり変化しているので、ワンピース型の服装であってもちゃんと尻尾対応のための大穴がお尻の部分に開いているのである。実に便利である。
ついでに言うなれば、ドラコの鱗なのだから、ドラゴンの鱗なのである。柔らかそうに見える服だが、そこいらの防具よりも堅く丈夫で、しかも熱などにも強く魔法すら弾く。実に地上最強の防具と言っても過言ではなかった。
「ふむ、思い切って人間たちの前に姿を見せてみたかいがあったというものじゃな。まあ、しばらくはフェリスと一緒にあの辺りで過ごすつもりじゃがな」
ドラコは肘をついて窓の外を見ている。くるりと振り返った先では、フェリスとメル、それとペコラが眠っている。いびきをかくような事はなく、静かな寝息を立てている三人を見て、ドラコは優しく微笑んでいる。
「そういえば、あの森からちょっと離れた所にはマイムとかいう精霊が居ったな。せっかくじゃし、帰ったら挨拶くらいはしておくか」
しばらく窓の外を眺めていたドラコだったが、とある気配に気が付いて扉の方を見る。
「その気配はラータか。寝こみでも襲うつもりだったか?」
ドラコがこう言うと、扉の辺りで影が怪しく揺れる。そこからネズミの邪神であるラータがゆっくりと姿を現した。
「さすがはドラコ様。私程度では気配を消しても気付かれてしまいますか」
「ふっ、仲間の気配くらい分からんでどうする。それよりも何の用じゃ」
ラータの言葉を軽く鼻で笑うドラコ。そして、夜中に来た理由を尋ねた。
「ドラコ様なら起きられておると思いましたので、こんな時間ながら聖女様の伝言を伝えに参りました」
「今頃来たという事は、侍女もさっきまで起きておったという事か。やれやれ、使用人の仕事は朝も早いが夜も遅いのじゃな」
「まったくですな」
ドラコのため息につられるように、ラータもため息を吐いた。
「それはそうと伝言でございます。聖女様が朝食の席にご同席頂くよう申されております。フェリス様たちにもお伝えできればと思います」
「あい分かった。お前さんも早く寝るとよいぞ。わしが居る間くらい休め」
「はっ、お気遣いありがたく思います」
ラータはそう言って、部屋から出ていった。
「そうか。朝食に同席か。ふっ、マリアと食事をした時の事を思い出すな」
ドラコは再び窓の外へと視線を移す。そして、懐かしい昔の記憶に思いを馳せるのだった。
「ラータ」
「はっ、ここに」
マイオリーが名前を呼べば、メイベルの影からラータが出てきた。相変わらずの忍び装束のような服装のラータである。
「怪しい動きはありましたか?」
「そうですね……」
マイオリーの問い掛けに少し渋るラータ。
「聖女様に不満を抱えている者が多いのは事実ですが、ドラコ様の登場で一気に思いとどまったようなのですよ。私はかなり気ままな方だと思っていたのですが、古龍の存在というのは影響の大きいものだと、改めて認識させられました」
「そうなのですね。やはり、龍という存在は大きのですね……」
ラータから話を聞かされて、マイオリーは改めてドラコという存在の力を認識する。
しかし、ドラコを見る限りは気ままで無邪気な娘という風にしか感じられないのだが、一瞬放っていた殺気のようなものは確かな鋭さを持っていた。
「……ドラコ様を味方に付けられた事を、本当に感謝せねばなりません。……偉大なる先代の聖女マリア様に、感謝を……」
マイオリーはベッドで座った状態で祈りを捧げる。ふわっと光ったかと思えば、その光は一瞬で消え去ってしまった。
「ラータ、明日はドラコ様たちとお話ししましょう。あなたも同席願います」
「承知致しました」
「メイベルも、私の侍女としてその席に立ち会って下さいね」
「畏まりました」
という事で、フェリスやドラコたちを招いて翌朝の食事を取る事に決めたマイオリーである。
「ふふっ、なかなかに面白い事を考えておる奴が居ったのう……」
ドラコは寝付いていなかった。というか、ドラゴンは起きている状態と寝ている状態がかなり曖昧で、下手をすると寝ずに活動し続ける事も可能なのだ。逆に、寝ると何があっても起きずに眠り続ける事だってある。さすがは全種族の中でも最古参と言われるような種族だ。スケールが違い過ぎる。
「己が信念に真っすぐなのはよいが、自分の身の丈と相手を見ねばただの無鉄砲じゃからなぁ。くくくっ、動かんで正解じゃったぞ」
ドラコは独り言を言いながら、夜空を見上げていた。
この時のドラコは寝間着姿なのだが、普段のドレス姿同様になんともフリフリの装飾の多い、いわゆるネグリジェのようなものを着ている。ドラコの人間形態にはお尻に尻尾があるのだが、どういうわけか寝間着を貫通している。本当にどうなっているのだろうか。
実はこの服装、ドラコの鱗を変化させてできあがった服なのだ。そのために、ドラコの姿に合わせて服がしっかり変化しているので、ワンピース型の服装であってもちゃんと尻尾対応のための大穴がお尻の部分に開いているのである。実に便利である。
ついでに言うなれば、ドラコの鱗なのだから、ドラゴンの鱗なのである。柔らかそうに見える服だが、そこいらの防具よりも堅く丈夫で、しかも熱などにも強く魔法すら弾く。実に地上最強の防具と言っても過言ではなかった。
「ふむ、思い切って人間たちの前に姿を見せてみたかいがあったというものじゃな。まあ、しばらくはフェリスと一緒にあの辺りで過ごすつもりじゃがな」
ドラコは肘をついて窓の外を見ている。くるりと振り返った先では、フェリスとメル、それとペコラが眠っている。いびきをかくような事はなく、静かな寝息を立てている三人を見て、ドラコは優しく微笑んでいる。
「そういえば、あの森からちょっと離れた所にはマイムとかいう精霊が居ったな。せっかくじゃし、帰ったら挨拶くらいはしておくか」
しばらく窓の外を眺めていたドラコだったが、とある気配に気が付いて扉の方を見る。
「その気配はラータか。寝こみでも襲うつもりだったか?」
ドラコがこう言うと、扉の辺りで影が怪しく揺れる。そこからネズミの邪神であるラータがゆっくりと姿を現した。
「さすがはドラコ様。私程度では気配を消しても気付かれてしまいますか」
「ふっ、仲間の気配くらい分からんでどうする。それよりも何の用じゃ」
ラータの言葉を軽く鼻で笑うドラコ。そして、夜中に来た理由を尋ねた。
「ドラコ様なら起きられておると思いましたので、こんな時間ながら聖女様の伝言を伝えに参りました」
「今頃来たという事は、侍女もさっきまで起きておったという事か。やれやれ、使用人の仕事は朝も早いが夜も遅いのじゃな」
「まったくですな」
ドラコのため息につられるように、ラータもため息を吐いた。
「それはそうと伝言でございます。聖女様が朝食の席にご同席頂くよう申されております。フェリス様たちにもお伝えできればと思います」
「あい分かった。お前さんも早く寝るとよいぞ。わしが居る間くらい休め」
「はっ、お気遣いありがたく思います」
ラータはそう言って、部屋から出ていった。
「そうか。朝食に同席か。ふっ、マリアと食事をした時の事を思い出すな」
ドラコは再び窓の外へと視線を移す。そして、懐かしい昔の記憶に思いを馳せるのだった。
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