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第123話 邪神ちゃんとちょっとした騒ぎ
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黙々と食事を続けるフェリスたち。さすがにペコラが関わったとあると、料理はとてもおいしいものとなっていた。
フェリスたちはマイオリーたちと近い位置で食事をしているのだが、まあ魔族とあってちらちらと視線が飛んでくる。視線を向けられるのは分かっているので、フェリスはまったく気にしていない。同様の理由で、ドラコも視線をまったく気にせず黙々と食べていた。まあ、その視線を気にしているのは二人に挟まれて座るメルくらいなものである。田舎出身の牧場の娘なので、こういった場や視線に慣れていないだ。
「メル、あんなの気にしなくていいから味わって食べなさい。メル自身は人間なんだし、ちょっかい掛けてこようものならあたしたちが追い払うから」
「うむ、人間は異質な存在を受け入れにくいところがあるからのう。あの村はのんびりしているからあまり気にしないようだが、こういうところの連中は体裁とか面子とか余計なものを抱えておるからな」
フェリスの言葉に、ドラコが付け加える。まあ、気にするだけ無駄だと言いたいらしいのだが、もう少しストレートに言ってもいいと思う。
食事がひと通り終わると、それぞれが思い思いに歓談に興じる。
その合間合間を縫って、マイオリーに生誕のお祝いを贈るために人が次々とやって来る。その多くはドラコと並んでフェリスにも視線を送ってくるものの、ちらっと見てはすぐに視線を戻すといった感じだった。魔族だから気になるものの、すぐ近くにドラコが座っているし、マイオリーも居る手前、あまり問題にはできなかったのだろう。
だが、中にはやっぱり魔族が居る事を問題にする人間は居た。
「なぜ、この神聖な場に魔族など呼んだのだ!」
声を荒げる太い男。
「聖女様の生誕のお祝いに魔族が居るなど、あってなるものか!」
まったく、今まで黙っていたくせに、何をいまさらという感じである。他の参列者からも、ものの見事に冷めた視線を送られていた。
「まったく、これだから何も知らないお偉さんというのは困りますね」
「だ、誰だっ!」
騒ぎたてる男の背後から、よく知っている声が聞こえてきた。どことなく油断できない相手ではあるものの、こういう時は本当に頼りになるものだ。
「商人のゼニスと申します。あなたは魔族はお嫌いのようですが、よく相手を見て騒ぐ事をお勧めしますよ」
ゼニスが怪しい笑顔を浮かべながら男に説教がましい事を言っている。その様子を見ながら、フェリスは眉間にしわを寄せていた。
「はっ、商人風情がこのわしに説教するというのか。まったく、最近は商人もなっとらんなぁっ!」
どうやらこのおっさんはゼニスすら知らないようである。なっていないのはどっちなのだろうかは、周りの反応を見れば一目瞭然だった。
「商人のゼニスを知らないとは、あの男大丈夫なんですか?」
「もぐりだ。もぐりが居るぞ……」
周りからざわざわと騒ぎ立てる声が聞こえてくる。
実はゼニスはかなり界隈では有名なのだ。何と言ってもあのスパイダーヤーンの売り込みをした人物なのだから、貴族の面々からしたら知らない方がおかしいというわけである。
何という事だろうか。ゼニスをバカにしただけでおっさんはあっという間に窮地に追いやられてしまった。だが、おっさんも神経が図太いのか、この程度で退こうとはしなかった。もう見ていて痛々しいレベルである。
「なんだなんだ。このわしを誰だと心得ておるのだ!」
「もういいです。さすがに引きこもり過ぎて外部の情報に疎かったようですね。引きこもってばかりだから太ってしまわれるのです」
騒ぐおっさんを、マイオリーが止める。
「まったくじゃのう。わし自身も疎いとは思っておるが、それよりも疎いのが居るとはなぁ」
ドラコも呆れている。
「そうでございますね。ゼニス殿を知らないとは、一度外の世界を回らせた方がよろしいと思います」
マイオリーの侍女であるメイベル他、聖教会の司祭たちからも口々に責め立てられるおっさん。孤立無援、さすがにおっさんは初めて自分の置かれている状況を把握した。
「この街でも流行っていますからね。ゼニスさんの持ち込まれたスパイダーヤーンによる衣服は。そして、そのスパイダーヤーンの提供元こそ、このフェリス様なのです」
「な、なんだと?!」
マイオリーからこう言われて、おっさんは大声を上げた。マイオリーから『様』付けで呼ばれる魔族に、おっさんは更に顔を真っ赤にしていた。
「まったく、魔族だからと毛嫌いするのはどうかと思うぞ。魔族も人間と同じようにいろんな者が居る。わしなんぞ、最初は人間も魔族も関心を持たん相手じゃったからなぁ。マリアとフェリスとの事があって、今ではこうやって積極的に絡むようにはなったがな」
ドラコはおっさんを睨んでいる。
「認識を変えるのが難しいのも分かるが、ちょいとお前さんは世界を知らな過ぎたな」
古龍であるドラコがそう言って更に視線を強めると、おっさんは足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。そして、両脇を抱えられて晩餐会場から退場させられてしまった。だが、その最中にも騒ぎまくっていたので、本当に往生際が悪いといった感じだった。まあ、しばらくは独房に放り込まれて頭を冷やしたのちに、何かしらの左遷をされる事だろう。自業自得なので何とも言えない。
ともかく、よく分からないおっさんが退場させられた事で、晩餐会場は再び落ち着きを取り戻していた。
フェリスたちはマイオリーたちと近い位置で食事をしているのだが、まあ魔族とあってちらちらと視線が飛んでくる。視線を向けられるのは分かっているので、フェリスはまったく気にしていない。同様の理由で、ドラコも視線をまったく気にせず黙々と食べていた。まあ、その視線を気にしているのは二人に挟まれて座るメルくらいなものである。田舎出身の牧場の娘なので、こういった場や視線に慣れていないだ。
「メル、あんなの気にしなくていいから味わって食べなさい。メル自身は人間なんだし、ちょっかい掛けてこようものならあたしたちが追い払うから」
「うむ、人間は異質な存在を受け入れにくいところがあるからのう。あの村はのんびりしているからあまり気にしないようだが、こういうところの連中は体裁とか面子とか余計なものを抱えておるからな」
フェリスの言葉に、ドラコが付け加える。まあ、気にするだけ無駄だと言いたいらしいのだが、もう少しストレートに言ってもいいと思う。
食事がひと通り終わると、それぞれが思い思いに歓談に興じる。
その合間合間を縫って、マイオリーに生誕のお祝いを贈るために人が次々とやって来る。その多くはドラコと並んでフェリスにも視線を送ってくるものの、ちらっと見てはすぐに視線を戻すといった感じだった。魔族だから気になるものの、すぐ近くにドラコが座っているし、マイオリーも居る手前、あまり問題にはできなかったのだろう。
だが、中にはやっぱり魔族が居る事を問題にする人間は居た。
「なぜ、この神聖な場に魔族など呼んだのだ!」
声を荒げる太い男。
「聖女様の生誕のお祝いに魔族が居るなど、あってなるものか!」
まったく、今まで黙っていたくせに、何をいまさらという感じである。他の参列者からも、ものの見事に冷めた視線を送られていた。
「まったく、これだから何も知らないお偉さんというのは困りますね」
「だ、誰だっ!」
騒ぎたてる男の背後から、よく知っている声が聞こえてきた。どことなく油断できない相手ではあるものの、こういう時は本当に頼りになるものだ。
「商人のゼニスと申します。あなたは魔族はお嫌いのようですが、よく相手を見て騒ぐ事をお勧めしますよ」
ゼニスが怪しい笑顔を浮かべながら男に説教がましい事を言っている。その様子を見ながら、フェリスは眉間にしわを寄せていた。
「はっ、商人風情がこのわしに説教するというのか。まったく、最近は商人もなっとらんなぁっ!」
どうやらこのおっさんはゼニスすら知らないようである。なっていないのはどっちなのだろうかは、周りの反応を見れば一目瞭然だった。
「商人のゼニスを知らないとは、あの男大丈夫なんですか?」
「もぐりだ。もぐりが居るぞ……」
周りからざわざわと騒ぎ立てる声が聞こえてくる。
実はゼニスはかなり界隈では有名なのだ。何と言ってもあのスパイダーヤーンの売り込みをした人物なのだから、貴族の面々からしたら知らない方がおかしいというわけである。
何という事だろうか。ゼニスをバカにしただけでおっさんはあっという間に窮地に追いやられてしまった。だが、おっさんも神経が図太いのか、この程度で退こうとはしなかった。もう見ていて痛々しいレベルである。
「なんだなんだ。このわしを誰だと心得ておるのだ!」
「もういいです。さすがに引きこもり過ぎて外部の情報に疎かったようですね。引きこもってばかりだから太ってしまわれるのです」
騒ぐおっさんを、マイオリーが止める。
「まったくじゃのう。わし自身も疎いとは思っておるが、それよりも疎いのが居るとはなぁ」
ドラコも呆れている。
「そうでございますね。ゼニス殿を知らないとは、一度外の世界を回らせた方がよろしいと思います」
マイオリーの侍女であるメイベル他、聖教会の司祭たちからも口々に責め立てられるおっさん。孤立無援、さすがにおっさんは初めて自分の置かれている状況を把握した。
「この街でも流行っていますからね。ゼニスさんの持ち込まれたスパイダーヤーンによる衣服は。そして、そのスパイダーヤーンの提供元こそ、このフェリス様なのです」
「な、なんだと?!」
マイオリーからこう言われて、おっさんは大声を上げた。マイオリーから『様』付けで呼ばれる魔族に、おっさんは更に顔を真っ赤にしていた。
「まったく、魔族だからと毛嫌いするのはどうかと思うぞ。魔族も人間と同じようにいろんな者が居る。わしなんぞ、最初は人間も魔族も関心を持たん相手じゃったからなぁ。マリアとフェリスとの事があって、今ではこうやって積極的に絡むようにはなったがな」
ドラコはおっさんを睨んでいる。
「認識を変えるのが難しいのも分かるが、ちょいとお前さんは世界を知らな過ぎたな」
古龍であるドラコがそう言って更に視線を強めると、おっさんは足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。そして、両脇を抱えられて晩餐会場から退場させられてしまった。だが、その最中にも騒ぎまくっていたので、本当に往生際が悪いといった感じだった。まあ、しばらくは独房に放り込まれて頭を冷やしたのちに、何かしらの左遷をされる事だろう。自業自得なので何とも言えない。
ともかく、よく分からないおっさんが退場させられた事で、晩餐会場は再び落ち着きを取り戻していた。
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