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第122話 邪神ちゃんと生誕日の晩餐会
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その夜、マイオリーの生誕の日を祝う晩餐会が行われた。一般人へのお披露目とは違い、その会場にはそれなりに重要な人物が揃っていた。遠くからやって来た国の王族や重鎮たちも顔を揃えている。
その中で、フェリスやペコラ、それとメルとドラコは何とも浮いた感じがしていた。メルは平民中の平民だし、それ以外は魔族だ。浮いていても仕方ないのである。
参列者たちの中にも、フェリスたちを見て驚いている人たちが居る。まあ魔族だから警戒して当然と言えるだろう。とはいえ、魔族との間で和解が進んでいる中なので、驚きをもって眺める人物が減っているのも事実であった。
参列者が揃い、料理も揃った。そこで、マイオリー自身が立ち上がり、杯を手に持って挨拶を始める。
「皆様、わざわざお忙しい中、遠くから私の生誕の日をお祝いに集まって下さった事を感謝致します」
実に普通の挨拶である。とはいえ、こういう時の挨拶は変に弄るべきではないだろう。
「今回の晩餐の支度をして下さった方を代表して、ペコラ様にご挨拶を頂きたく思います」
と、ここで予想外な事に、マイオリーはペコラに話を振ってきた。ところが、ペコラはこういう席に慣れているのか、すっと立ち上がって会場を見据えていた。
「ただいま、聖女様から紹介に預かったペコラなのだ。本日の料理のメニューを担当したのだ」
語尾はいつものままのペコラである。だが、自分が作った料理に関して、実に滞りなくすらすらと説明していくペコラ。さすがは商人としても活躍しているだけの事はある。
「最後に、聖女様のために再び料理ができた事を嬉しく思うのだ。神殿の料理人たちもあーしの指導を受けてきた人員たちなのだ。思う存分堪能して欲しいのだ」
ペコラは実に饒舌に語り切った。
「最後に、聖女様。生誕日、誠におめでとうございますなのだ」
そう締めくくって、ペコラの挨拶が終わった。
挨拶が終わると、会場からは拍手が起こる。ペコラが魔族、羊の邪神である事を知らない者が多いからである。多分知っていたら、こうも拍手は起きなかっただろう。見た目が人間に近いペコラだからこその現象だと思われる。ちなみに、ペコラの隣ではフェリスたちも拍手をしていた。
「ドラコ様もご挨拶を頂けますでしょうか」
「なに、わしもか?」
マイオリーがさらにドラコにも話を振ってきた。ドラコは少し考えたが、一応関係者でもあるので、挨拶を引き受ける事にした。
「あー、わしはドラコと申す。始祖龍にこそ劣るが、古龍の一体である」
ドラコが自己紹介をすると、ざわざわと会場が騒めき始めた。まあ、人間たちからしたら古龍なんて幻に等しい存在だから仕方がない。
「わしも過去関わりを持ったマリアの後継が、こうして無事に育っている事を実に喜ばしく思うぞ」
ドラコがマリアの名前を出すと、さらにどよめきが大きくなる。
「一応、わしは世間的には邪神、邪竜で通っておるからな。おぬしらが驚くのも無理はないじゃろう。じゃが、安心するといい。わしは敵意を持たねば襲いもせぬ温厚なドラゴンじゃからな」
自分で温厚とかいうドラコ。まあ、どこかボケたところはあるが、襲う事がないのは事実である。ドラコに挑んで帰ってきた者が居ないから、邪竜扱いされていたという節があるのだ。
「神より祝福された神聖の力を持ち、古龍の一体であるわしからも祝福された聖女というものを大事にするとよいぞ。わしや友を害さぬ限り、わしがおぬしたちの敵にはなる事はないのからな」
ドラコがこう話すと、会場の中が一気に静まり返った。最後に放ったドラコの覇気に気圧されたからである。
「最後になるが、聖女の生誕の日を無事に迎えられた事を、実に喜ばしく思う」
こう締めくくってドラコは椅子に座ったのだった。
会場は静まり返る。古龍などという大物が出てきたせいだった。
その静まり返る中、聖女の咳払いが響き渡る。
「それでは、皆様。本日は私のためにお集まり頂き、本当にありがとうございます。神の恵みに感謝を、世界に神の祝福があらん事を」
マイオリーはジュースの入った杯を掲げる。
「乾杯!」
「乾杯っ!!」
こうして、晩餐の宴が始まった。
ペコラの作った料理は本当にうまい。まあ、大半はペコラの指導を受けた料理人たちの手によるものだが、さすがにペコラが絡むと味が全然違うのだ。去年とかペコラの居なかった時の料理を知る者たちからは、今年の桁違いの味の料理に涙を流す者まで居た。
「以前の反省から、レシピは料理長に教えておいたのだ。だから、来年からは多分大丈夫だと思うのだ」
ペコラはマイオリーを見ながら笑ってそう話していた。
「まったく、どうして教えておかなかったのですか。ペコラが居なかった間、料理長はお叱りの言葉を受けて、相当に凹んでおりましたよ」
「いや、本当に悪いと思うのだ」
マイオリーが責めると、ペコラは両手を合わせて拝み倒すように釈明をしていた。
たった三人とはいえ、魔族が参加した今回の生誕祭の晩餐会。ドラコが牽制したせいか、フェリスにはこれといって誰も触れずに食事が進んでいく。
正直、このまま何もなく終わって欲しいものなのだが、さすがにこんな席でこのまま終わるなんていう事はなかったようであった。
その中で、フェリスやペコラ、それとメルとドラコは何とも浮いた感じがしていた。メルは平民中の平民だし、それ以外は魔族だ。浮いていても仕方ないのである。
参列者たちの中にも、フェリスたちを見て驚いている人たちが居る。まあ魔族だから警戒して当然と言えるだろう。とはいえ、魔族との間で和解が進んでいる中なので、驚きをもって眺める人物が減っているのも事実であった。
参列者が揃い、料理も揃った。そこで、マイオリー自身が立ち上がり、杯を手に持って挨拶を始める。
「皆様、わざわざお忙しい中、遠くから私の生誕の日をお祝いに集まって下さった事を感謝致します」
実に普通の挨拶である。とはいえ、こういう時の挨拶は変に弄るべきではないだろう。
「今回の晩餐の支度をして下さった方を代表して、ペコラ様にご挨拶を頂きたく思います」
と、ここで予想外な事に、マイオリーはペコラに話を振ってきた。ところが、ペコラはこういう席に慣れているのか、すっと立ち上がって会場を見据えていた。
「ただいま、聖女様から紹介に預かったペコラなのだ。本日の料理のメニューを担当したのだ」
語尾はいつものままのペコラである。だが、自分が作った料理に関して、実に滞りなくすらすらと説明していくペコラ。さすがは商人としても活躍しているだけの事はある。
「最後に、聖女様のために再び料理ができた事を嬉しく思うのだ。神殿の料理人たちもあーしの指導を受けてきた人員たちなのだ。思う存分堪能して欲しいのだ」
ペコラは実に饒舌に語り切った。
「最後に、聖女様。生誕日、誠におめでとうございますなのだ」
そう締めくくって、ペコラの挨拶が終わった。
挨拶が終わると、会場からは拍手が起こる。ペコラが魔族、羊の邪神である事を知らない者が多いからである。多分知っていたら、こうも拍手は起きなかっただろう。見た目が人間に近いペコラだからこその現象だと思われる。ちなみに、ペコラの隣ではフェリスたちも拍手をしていた。
「ドラコ様もご挨拶を頂けますでしょうか」
「なに、わしもか?」
マイオリーがさらにドラコにも話を振ってきた。ドラコは少し考えたが、一応関係者でもあるので、挨拶を引き受ける事にした。
「あー、わしはドラコと申す。始祖龍にこそ劣るが、古龍の一体である」
ドラコが自己紹介をすると、ざわざわと会場が騒めき始めた。まあ、人間たちからしたら古龍なんて幻に等しい存在だから仕方がない。
「わしも過去関わりを持ったマリアの後継が、こうして無事に育っている事を実に喜ばしく思うぞ」
ドラコがマリアの名前を出すと、さらにどよめきが大きくなる。
「一応、わしは世間的には邪神、邪竜で通っておるからな。おぬしらが驚くのも無理はないじゃろう。じゃが、安心するといい。わしは敵意を持たねば襲いもせぬ温厚なドラゴンじゃからな」
自分で温厚とかいうドラコ。まあ、どこかボケたところはあるが、襲う事がないのは事実である。ドラコに挑んで帰ってきた者が居ないから、邪竜扱いされていたという節があるのだ。
「神より祝福された神聖の力を持ち、古龍の一体であるわしからも祝福された聖女というものを大事にするとよいぞ。わしや友を害さぬ限り、わしがおぬしたちの敵にはなる事はないのからな」
ドラコがこう話すと、会場の中が一気に静まり返った。最後に放ったドラコの覇気に気圧されたからである。
「最後になるが、聖女の生誕の日を無事に迎えられた事を、実に喜ばしく思う」
こう締めくくってドラコは椅子に座ったのだった。
会場は静まり返る。古龍などという大物が出てきたせいだった。
その静まり返る中、聖女の咳払いが響き渡る。
「それでは、皆様。本日は私のためにお集まり頂き、本当にありがとうございます。神の恵みに感謝を、世界に神の祝福があらん事を」
マイオリーはジュースの入った杯を掲げる。
「乾杯!」
「乾杯っ!!」
こうして、晩餐の宴が始まった。
ペコラの作った料理は本当にうまい。まあ、大半はペコラの指導を受けた料理人たちの手によるものだが、さすがにペコラが絡むと味が全然違うのだ。去年とかペコラの居なかった時の料理を知る者たちからは、今年の桁違いの味の料理に涙を流す者まで居た。
「以前の反省から、レシピは料理長に教えておいたのだ。だから、来年からは多分大丈夫だと思うのだ」
ペコラはマイオリーを見ながら笑ってそう話していた。
「まったく、どうして教えておかなかったのですか。ペコラが居なかった間、料理長はお叱りの言葉を受けて、相当に凹んでおりましたよ」
「いや、本当に悪いと思うのだ」
マイオリーが責めると、ペコラは両手を合わせて拝み倒すように釈明をしていた。
たった三人とはいえ、魔族が参加した今回の生誕祭の晩餐会。ドラコが牽制したせいか、フェリスにはこれといって誰も触れずに食事が進んでいく。
正直、このまま何もなく終わって欲しいものなのだが、さすがにこんな席でこのまま終わるなんていう事はなかったようであった。
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