邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
121 / 290

第121話 邪神ちゃんと名前

しおりを挟む
 人間にも食べやすいように調理した肉(ただブレスで適度に焼いただけ)を聖女に提供するドラコ。最初こそじっくりとその肉を確認していた聖女だったが、さすがに空腹には勝てなかったのか、その肉にかぶりついていた。
「あっ、おいしい……」
「かっかっかっ、そうじゃろうて。わしがよく食べておる肉じゃぞ。そこらのゲテモノ食いの魔物と一緒にしてくれるな」
 聖女の反応にドラコは大きな声で笑っている。
「しかし、おぬしが初めてじゃぞ。このわしと対等に渡り合ったものなど、今まで誰も居らんかったからな。ほとんどが一瞬で消し炭じゃよ」
 自分と同じような姿の角と尻尾と翼を持つ人物が、けらっけらと笑いながらおっかない事を言っている。
「時におぬし、名を聞いてよいかのう。まあ、わしにも名ぞないがな」
 ドラコが急に真剣な目をして聖女に名前を聞いている。予想外な事ばかりで、聖女はきょとんとした目をしている。
「そうですね。裏は何もなさそうですし、名前くらいはよろしいですかね」
 聖女の方も何か納得したような表情をしている。純粋に力で相手を叩き潰してきたドラコが、姑息な真似をするわけがないと判断したのだ。
「私は聖女をしています、マリアと申す者です。こうして魔物や魔族が闊歩する世の中ですので、己が拳ですべてを退けて参りました」
「聖女という割には僧兵モンクといった感じじゃのう。聖女がそんなのでいいのかね」
「いいんですよ。みんな口だけなんですから。だからこそ、私がこうやって前線に出ていくわけなんです」
 マリアはかなり文句を言っていた。聖女として崇められてはいるものの、その聖教会の人間たちが腑抜けばかりで結局自分が動かなければならないというらしい。その不平不満を、ドラコは全部黙って聞いていた。
 しばらく続いたマリアの愚痴だったが、すべてを言い切ったのかその顔は晴れやかだった。よく見ると夜が白んできているわけなんだが、どうやら一晩中愚痴を言っていたようだった。
「いや、古龍様。私の愚痴を聞いて下さってありがとうございます」
 にっこにこと満面の笑みのマリアに、ドラコがちょっと引いていた。普段からどんだけストレスを溜めていたのだろうか。
「まあ構わんよ。わしの方もいい退屈しのぎになったからな。こうやって他人と話をしたのは、本当に久しぶりぞ」
 対するドラコの方も、実に迷惑そうではなかった。
「そういえば、古龍様は名がないと仰られてましたね。よろしければ、私が名付けをしてよろしいのですか?」
「うむ? まあちょっと待て」
 少し渋るドラコである。人間にとって名付けは通過儀礼のようなものだろうが、魔族や魔物にとっては重要な意味を持つ。大体の場合は種族名で呼んだりするものだからだ。だからこそ、ドラコは渋ったのである。
 名を与えらえるという事は、その者の配下に下る事を意味するからだ。
 しばらく不思議そうに見ていたマリアだったが、
「あっ、そうでしたね。魔族や魔物にとって名付けは支配を意味するんでしたね。これはうっかりしていました」
 どうやら思い出したようである。
「いやまぁ、構わんよ。おぬしと友諠を結ぶのであるならば、その程度甘んじて受けよう。その代わり……」
「その代わり?」
「これをおぬしに渡しておこう。わしの鱗を使った腕輪じゃ。そんな肉体言語でやっておるわけじゃしな。その腕輪がきっとおぬしを守ってくれるぞ」
 ドラコはマリアに鱗で作った腕輪を渡す。それを早速着けて、マリアはドラコに見せびらかしていた。
「うふふ、嬉しい限りですね。それでは、あなた様に名を贈らせて頂きます。私たちの言葉で始祖龍を意味する言葉、『ドラコ』というのはいかがでしょうか」
「ふっ、ドラコか。気に入ったぞ。わしは今日からドラコじゃ」
 ドラコは思いっきり大声で笑っていた。
「気に入って頂けて何よりです」
 マリアも嬉しそうに微笑んでいる。
「うみゅ……、さすがに眠くなってきましたね。それでは、少し、眠らせて……頂き、ま、す……。すやぁ……」
「おお、安心して眠るとよいぞ。わしの初めての友人じゃからな。起きたら無事に送り届けてやろうぞ」
 ドラコが座り込む隣で、マリアは実に幸せそうな顔をして眠っていたのだった。

「とまぁ、それがわしと聖教会との関係の最初だったのう。マリアは本当に神経が図太かった。あれからもちょくちょくわしのところに遊びに来ては、愚痴を吐いては戻っていったからな」
 長い長いドラコによる語りがようやく終わった。
「まあ、そんな事がありましたのね」
 マイオリー他、メイベルやフェリスたちも驚いていた。ドラコの身の上話なんて、あまり聞いた事がなかったからだ。
 初耳な上に、まさかの聖教会とのつながりもあったとは、寝耳に水といったところだろう。
「今代の聖女が着けているそれは、その時、わしがマリアに贈った腕輪じゃ。わしの事は伏せさせておいたから、伝わってなかったんじゃろうな」
「まあ、それがちゃんと伝わってれば、ドラコは邪神なんて言われてなかったでしょうに」
「崇められても逆に面倒ぞ? おぬしならよく分かるじゃろうて、フェリス」
「あ、まあ、うん、そうね……」
 ドラコに指摘されて、フェリスはメルを見ている。メルは敬虔なフェリス信者だから仕方がない。それに対して、メルは不思議そうな感じでフェリスを見ていた。
「まあそれはそうとして、今代の聖女の生誕日を祝おうではないか」
「そ、そうね」
 というわけで、この後の招待者だけで行う晩餐の支度を始めるフェリスたちだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...