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第121話 邪神ちゃんと名前
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人間にも食べやすいように調理した肉(ただブレスで適度に焼いただけ)を聖女に提供するドラコ。最初こそじっくりとその肉を確認していた聖女だったが、さすがに空腹には勝てなかったのか、その肉にかぶりついていた。
「あっ、おいしい……」
「かっかっかっ、そうじゃろうて。わしがよく食べておる肉じゃぞ。そこらのゲテモノ食いの魔物と一緒にしてくれるな」
聖女の反応にドラコは大きな声で笑っている。
「しかし、おぬしが初めてじゃぞ。このわしと対等に渡り合ったものなど、今まで誰も居らんかったからな。ほとんどが一瞬で消し炭じゃよ」
自分と同じような姿の角と尻尾と翼を持つ人物が、けらっけらと笑いながらおっかない事を言っている。
「時におぬし、名を聞いてよいかのう。まあ、わしにも名ぞないがな」
ドラコが急に真剣な目をして聖女に名前を聞いている。予想外な事ばかりで、聖女はきょとんとした目をしている。
「そうですね。裏は何もなさそうですし、名前くらいはよろしいですかね」
聖女の方も何か納得したような表情をしている。純粋に力で相手を叩き潰してきたドラコが、姑息な真似をするわけがないと判断したのだ。
「私は聖女をしています、マリアと申す者です。こうして魔物や魔族が闊歩する世の中ですので、己が拳ですべてを退けて参りました」
「聖女という割には僧兵といった感じじゃのう。聖女がそんなのでいいのかね」
「いいんですよ。みんな口だけなんですから。だからこそ、私がこうやって前線に出ていくわけなんです」
マリアはかなり文句を言っていた。聖女として崇められてはいるものの、その聖教会の人間たちが腑抜けばかりで結局自分が動かなければならないというらしい。その不平不満を、ドラコは全部黙って聞いていた。
しばらく続いたマリアの愚痴だったが、すべてを言い切ったのかその顔は晴れやかだった。よく見ると夜が白んできているわけなんだが、どうやら一晩中愚痴を言っていたようだった。
「いや、古龍様。私の愚痴を聞いて下さってありがとうございます」
にっこにこと満面の笑みのマリアに、ドラコがちょっと引いていた。普段からどんだけストレスを溜めていたのだろうか。
「まあ構わんよ。わしの方もいい退屈しのぎになったからな。こうやって他人と話をしたのは、本当に久しぶりぞ」
対するドラコの方も、実に迷惑そうではなかった。
「そういえば、古龍様は名がないと仰られてましたね。よろしければ、私が名付けをしてよろしいのですか?」
「うむ? まあちょっと待て」
少し渋るドラコである。人間にとって名付けは通過儀礼のようなものだろうが、魔族や魔物にとっては重要な意味を持つ。大体の場合は種族名で呼んだりするものだからだ。だからこそ、ドラコは渋ったのである。
名を与えらえるという事は、その者の配下に下る事を意味するからだ。
しばらく不思議そうに見ていたマリアだったが、
「あっ、そうでしたね。魔族や魔物にとって名付けは支配を意味するんでしたね。これはうっかりしていました」
どうやら思い出したようである。
「いやまぁ、構わんよ。おぬしと友諠を結ぶのであるならば、その程度甘んじて受けよう。その代わり……」
「その代わり?」
「これをおぬしに渡しておこう。わしの鱗を使った腕輪じゃ。そんな肉体言語でやっておるわけじゃしな。その腕輪がきっとおぬしを守ってくれるぞ」
ドラコはマリアに鱗で作った腕輪を渡す。それを早速着けて、マリアはドラコに見せびらかしていた。
「うふふ、嬉しい限りですね。それでは、あなた様に名を贈らせて頂きます。私たちの言葉で始祖龍を意味する言葉、『ドラコ』というのはいかがでしょうか」
「ふっ、ドラコか。気に入ったぞ。わしは今日からドラコじゃ」
ドラコは思いっきり大声で笑っていた。
「気に入って頂けて何よりです」
マリアも嬉しそうに微笑んでいる。
「うみゅ……、さすがに眠くなってきましたね。それでは、少し、眠らせて……頂き、ま、す……。すやぁ……」
「おお、安心して眠るとよいぞ。わしの初めての友人じゃからな。起きたら無事に送り届けてやろうぞ」
ドラコが座り込む隣で、マリアは実に幸せそうな顔をして眠っていたのだった。
「とまぁ、それがわしと聖教会との関係の最初だったのう。マリアは本当に神経が図太かった。あれからもちょくちょくわしのところに遊びに来ては、愚痴を吐いては戻っていったからな」
長い長いドラコによる語りがようやく終わった。
「まあ、そんな事がありましたのね」
マイオリー他、メイベルやフェリスたちも驚いていた。ドラコの身の上話なんて、あまり聞いた事がなかったからだ。
初耳な上に、まさかの聖教会とのつながりもあったとは、寝耳に水といったところだろう。
「今代の聖女が着けているそれは、その時、わしがマリアに贈った腕輪じゃ。わしの事は伏せさせておいたから、伝わってなかったんじゃろうな」
「まあ、それがちゃんと伝わってれば、ドラコは邪神なんて言われてなかったでしょうに」
「崇められても逆に面倒ぞ? おぬしならよく分かるじゃろうて、フェリス」
「あ、まあ、うん、そうね……」
ドラコに指摘されて、フェリスはメルを見ている。メルは敬虔なフェリス信者だから仕方がない。それに対して、メルは不思議そうな感じでフェリスを見ていた。
「まあそれはそうとして、今代の聖女の生誕日を祝おうではないか」
「そ、そうね」
というわけで、この後の招待者だけで行う晩餐の支度を始めるフェリスたちだった。
「あっ、おいしい……」
「かっかっかっ、そうじゃろうて。わしがよく食べておる肉じゃぞ。そこらのゲテモノ食いの魔物と一緒にしてくれるな」
聖女の反応にドラコは大きな声で笑っている。
「しかし、おぬしが初めてじゃぞ。このわしと対等に渡り合ったものなど、今まで誰も居らんかったからな。ほとんどが一瞬で消し炭じゃよ」
自分と同じような姿の角と尻尾と翼を持つ人物が、けらっけらと笑いながらおっかない事を言っている。
「時におぬし、名を聞いてよいかのう。まあ、わしにも名ぞないがな」
ドラコが急に真剣な目をして聖女に名前を聞いている。予想外な事ばかりで、聖女はきょとんとした目をしている。
「そうですね。裏は何もなさそうですし、名前くらいはよろしいですかね」
聖女の方も何か納得したような表情をしている。純粋に力で相手を叩き潰してきたドラコが、姑息な真似をするわけがないと判断したのだ。
「私は聖女をしています、マリアと申す者です。こうして魔物や魔族が闊歩する世の中ですので、己が拳ですべてを退けて参りました」
「聖女という割には僧兵といった感じじゃのう。聖女がそんなのでいいのかね」
「いいんですよ。みんな口だけなんですから。だからこそ、私がこうやって前線に出ていくわけなんです」
マリアはかなり文句を言っていた。聖女として崇められてはいるものの、その聖教会の人間たちが腑抜けばかりで結局自分が動かなければならないというらしい。その不平不満を、ドラコは全部黙って聞いていた。
しばらく続いたマリアの愚痴だったが、すべてを言い切ったのかその顔は晴れやかだった。よく見ると夜が白んできているわけなんだが、どうやら一晩中愚痴を言っていたようだった。
「いや、古龍様。私の愚痴を聞いて下さってありがとうございます」
にっこにこと満面の笑みのマリアに、ドラコがちょっと引いていた。普段からどんだけストレスを溜めていたのだろうか。
「まあ構わんよ。わしの方もいい退屈しのぎになったからな。こうやって他人と話をしたのは、本当に久しぶりぞ」
対するドラコの方も、実に迷惑そうではなかった。
「そういえば、古龍様は名がないと仰られてましたね。よろしければ、私が名付けをしてよろしいのですか?」
「うむ? まあちょっと待て」
少し渋るドラコである。人間にとって名付けは通過儀礼のようなものだろうが、魔族や魔物にとっては重要な意味を持つ。大体の場合は種族名で呼んだりするものだからだ。だからこそ、ドラコは渋ったのである。
名を与えらえるという事は、その者の配下に下る事を意味するからだ。
しばらく不思議そうに見ていたマリアだったが、
「あっ、そうでしたね。魔族や魔物にとって名付けは支配を意味するんでしたね。これはうっかりしていました」
どうやら思い出したようである。
「いやまぁ、構わんよ。おぬしと友諠を結ぶのであるならば、その程度甘んじて受けよう。その代わり……」
「その代わり?」
「これをおぬしに渡しておこう。わしの鱗を使った腕輪じゃ。そんな肉体言語でやっておるわけじゃしな。その腕輪がきっとおぬしを守ってくれるぞ」
ドラコはマリアに鱗で作った腕輪を渡す。それを早速着けて、マリアはドラコに見せびらかしていた。
「うふふ、嬉しい限りですね。それでは、あなた様に名を贈らせて頂きます。私たちの言葉で始祖龍を意味する言葉、『ドラコ』というのはいかがでしょうか」
「ふっ、ドラコか。気に入ったぞ。わしは今日からドラコじゃ」
ドラコは思いっきり大声で笑っていた。
「気に入って頂けて何よりです」
マリアも嬉しそうに微笑んでいる。
「うみゅ……、さすがに眠くなってきましたね。それでは、少し、眠らせて……頂き、ま、す……。すやぁ……」
「おお、安心して眠るとよいぞ。わしの初めての友人じゃからな。起きたら無事に送り届けてやろうぞ」
ドラコが座り込む隣で、マリアは実に幸せそうな顔をして眠っていたのだった。
「とまぁ、それがわしと聖教会との関係の最初だったのう。マリアは本当に神経が図太かった。あれからもちょくちょくわしのところに遊びに来ては、愚痴を吐いては戻っていったからな」
長い長いドラコによる語りがようやく終わった。
「まあ、そんな事がありましたのね」
マイオリー他、メイベルやフェリスたちも驚いていた。ドラコの身の上話なんて、あまり聞いた事がなかったからだ。
初耳な上に、まさかの聖教会とのつながりもあったとは、寝耳に水といったところだろう。
「今代の聖女が着けているそれは、その時、わしがマリアに贈った腕輪じゃ。わしの事は伏せさせておいたから、伝わってなかったんじゃろうな」
「まあ、それがちゃんと伝わってれば、ドラコは邪神なんて言われてなかったでしょうに」
「崇められても逆に面倒ぞ? おぬしならよく分かるじゃろうて、フェリス」
「あ、まあ、うん、そうね……」
ドラコに指摘されて、フェリスはメルを見ている。メルは敬虔なフェリス信者だから仕方がない。それに対して、メルは不思議そうな感じでフェリスを見ていた。
「まあそれはそうとして、今代の聖女の生誕日を祝おうではないか」
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