119 / 290
第119話 邪神ちゃんの取り越し苦労
しおりを挟む
「今日はわしも来ておる。皆のものよ、盛大に聖女の生誕日を祝おうではないか!」
ドラコがこう言うと、一瞬静まり返ったものの、すぐさま会場には割れんばかりの歓声が響き渡った。さすがは古の時代から生き続けているドラゴンである。邪竜で見た目が幼女とはいってもカリスマ性に満ちあふれていた。
「この場を愚かにも混乱の場にしようものなら、わしが遠慮なく焼き払ってくれようぞ。じゃから、安心して騒ぐがよいぞ、かっかっかっ!」
いきなり現れたかと思うと、その場を完全に支配してしまうドラコ。これにはマイオリーも笑顔を引きつらせて固まっていた。主役をかっさらわれた気分である。
だが、同時に頼もしさも覚えた。はるか昔から生きている古龍が相手ともなれば、下手な動きは取れないはずだからだ。姿こそ幼女ではあるものの、漏れ出るオーラは覇者の貫禄すらある。これが感じ取れないようでは、ただの一般人でしかない。反マイオリー派の動きを牽制するには十分だった。
「うむ、フェリスからある程度は聞いておったが、なかなかに聖教会の内部は頭が固そうじゃのう。聖女の間で受け継がれてきた腕輪が、わしから下賜されたものと分かった今、どのような行動を起こすのか楽しみじゃわい」
会場に集まった民衆たちが騒ぐ中、マイオリーに対してドラコがにやりと笑いかける。その笑顔で、ようやくマイオリーは普段の様子に戻った。古のドラゴンとはいえど、フェリスの仲間なのである。その事を認識できた事で、マイオリーの驚きと緊張がようやく解けたのだった。
「ふむ、やけに悔しそうにしている司祭が居るようじゃな。あれが聖女に反旗を翻そうと考えておる者かな」
マイオリーの隣に立つドラコは、周りを確認しながらそんな事を呟いていた。とはいえど、このドラゴが滞在する間に事を起こすような愚か者は居ないだろう。下の会場にはフェリスの居るので、しばらくは安心できるというものだ。
先程のドラコとのやり取りは会場全体に響き渡っていたので、会場の全員が証人である。抜本的な解決とはいかないだろうが、これで反マイオリー派は一気に動きにくくなっただろう。
そういう事があったマイオリーの生誕祭は大物の登場による大騒ぎはあったものの、概ね大した混乱もなく終える事ができた。会場はまだ大盛り上がりであるものの、マイオリーは役目を終えたとして会場から足早に立ち去ったのだった。
「いやはや驚きました。まさか、聖教会にドラコ様とのつながりがあろうだなんて、思ってもみませんでした」
自室へ戻るなり、マイオリーは落ち着いてそう発言する。
確かに、聖教会の人間たちからしたらそうだろう。だが、邪神なんていうものは、予想外なところでそういう縁を作りたがるものなのなのである。まあ、フェリスたちのように見返り無しに作りたがる邪神はそうは居ないのだが。ドラコは長く生きているからこそ、そういう考えに至ったのである。長く生きていると楽しめるか楽しめないかというのが判断基準に陥りがちなのである。
実際、ドラコが当時の聖女に鱗で腕輪を作ってあげたのは、その時の聖女が規格外で自分を楽しませてもらったという事へのお礼からなのである。
その聖女というのはドラコを倒しに来たらしいのだが、まあ武器も魔法も使わずに、その肉体だけで勝負を挑んできたのだ。だからこそ、余計にドラコの心を強烈に揺さぶったのだろう。そういった経緯で託された腕輪である。その腕輪には聖女の魔力を取り込んで聖女の肉体を強化するという効果があるらしいのだ。なんと毒すら効かなくなるらしい。それを聞いたフェリスが、
「なによ、そんな効果があるなら、こんなに気を張る必要はなかったじゃないのよ」
と文句を言っていた。しかし、それは腕輪の効果を知らなかったからこその反応である。聖教会の人間ですら、というか着用している本人ですら知らなかった効果なのだ。外部の存在であるフェリスが知る由もないのだ。
「かっかっかっ。教会に居る連中が知らぬなら、おぬしが知っている方がおかしな話だろう。わしとて忘れかかっておった話じゃからなぁ。何と言っても、フェリスと知り合ってからの倍以上昔の話じゃからな」
ドラコは両手を腰に当てて、それは上体を反らした状態で大笑いしている。
「何にせよ、その腕輪が大事に受け継がれておって安心したわい。その腕輪がある限り、聖女は生半可な事では死ぬ事はないからな」
ドラコはマイオリーの着ける腕輪を撫でながら、懐かしさを感じて話をしている。なんかとんでもない事をさらりと言っている。
「ちょうどいい機会じゃ。お前さんたちさえよければ、その時の聖女の話をしてやろう。腕輪を見ておるうちに、当時の事を思い出してきたからな」
ドラコがそのように言うと、マイオリーたちは示し合わせたかのように、そそくさと椅子を並べて座っているではないか。どうやら話を聞く気満々のようである。
というわけで、ドラコによる昔語りが始まったのだった。
ドラコがこう言うと、一瞬静まり返ったものの、すぐさま会場には割れんばかりの歓声が響き渡った。さすがは古の時代から生き続けているドラゴンである。邪竜で見た目が幼女とはいってもカリスマ性に満ちあふれていた。
「この場を愚かにも混乱の場にしようものなら、わしが遠慮なく焼き払ってくれようぞ。じゃから、安心して騒ぐがよいぞ、かっかっかっ!」
いきなり現れたかと思うと、その場を完全に支配してしまうドラコ。これにはマイオリーも笑顔を引きつらせて固まっていた。主役をかっさらわれた気分である。
だが、同時に頼もしさも覚えた。はるか昔から生きている古龍が相手ともなれば、下手な動きは取れないはずだからだ。姿こそ幼女ではあるものの、漏れ出るオーラは覇者の貫禄すらある。これが感じ取れないようでは、ただの一般人でしかない。反マイオリー派の動きを牽制するには十分だった。
「うむ、フェリスからある程度は聞いておったが、なかなかに聖教会の内部は頭が固そうじゃのう。聖女の間で受け継がれてきた腕輪が、わしから下賜されたものと分かった今、どのような行動を起こすのか楽しみじゃわい」
会場に集まった民衆たちが騒ぐ中、マイオリーに対してドラコがにやりと笑いかける。その笑顔で、ようやくマイオリーは普段の様子に戻った。古のドラゴンとはいえど、フェリスの仲間なのである。その事を認識できた事で、マイオリーの驚きと緊張がようやく解けたのだった。
「ふむ、やけに悔しそうにしている司祭が居るようじゃな。あれが聖女に反旗を翻そうと考えておる者かな」
マイオリーの隣に立つドラコは、周りを確認しながらそんな事を呟いていた。とはいえど、このドラゴが滞在する間に事を起こすような愚か者は居ないだろう。下の会場にはフェリスの居るので、しばらくは安心できるというものだ。
先程のドラコとのやり取りは会場全体に響き渡っていたので、会場の全員が証人である。抜本的な解決とはいかないだろうが、これで反マイオリー派は一気に動きにくくなっただろう。
そういう事があったマイオリーの生誕祭は大物の登場による大騒ぎはあったものの、概ね大した混乱もなく終える事ができた。会場はまだ大盛り上がりであるものの、マイオリーは役目を終えたとして会場から足早に立ち去ったのだった。
「いやはや驚きました。まさか、聖教会にドラコ様とのつながりがあろうだなんて、思ってもみませんでした」
自室へ戻るなり、マイオリーは落ち着いてそう発言する。
確かに、聖教会の人間たちからしたらそうだろう。だが、邪神なんていうものは、予想外なところでそういう縁を作りたがるものなのなのである。まあ、フェリスたちのように見返り無しに作りたがる邪神はそうは居ないのだが。ドラコは長く生きているからこそ、そういう考えに至ったのである。長く生きていると楽しめるか楽しめないかというのが判断基準に陥りがちなのである。
実際、ドラコが当時の聖女に鱗で腕輪を作ってあげたのは、その時の聖女が規格外で自分を楽しませてもらったという事へのお礼からなのである。
その聖女というのはドラコを倒しに来たらしいのだが、まあ武器も魔法も使わずに、その肉体だけで勝負を挑んできたのだ。だからこそ、余計にドラコの心を強烈に揺さぶったのだろう。そういった経緯で託された腕輪である。その腕輪には聖女の魔力を取り込んで聖女の肉体を強化するという効果があるらしいのだ。なんと毒すら効かなくなるらしい。それを聞いたフェリスが、
「なによ、そんな効果があるなら、こんなに気を張る必要はなかったじゃないのよ」
と文句を言っていた。しかし、それは腕輪の効果を知らなかったからこその反応である。聖教会の人間ですら、というか着用している本人ですら知らなかった効果なのだ。外部の存在であるフェリスが知る由もないのだ。
「かっかっかっ。教会に居る連中が知らぬなら、おぬしが知っている方がおかしな話だろう。わしとて忘れかかっておった話じゃからなぁ。何と言っても、フェリスと知り合ってからの倍以上昔の話じゃからな」
ドラコは両手を腰に当てて、それは上体を反らした状態で大笑いしている。
「何にせよ、その腕輪が大事に受け継がれておって安心したわい。その腕輪がある限り、聖女は生半可な事では死ぬ事はないからな」
ドラコはマイオリーの着ける腕輪を撫でながら、懐かしさを感じて話をしている。なんかとんでもない事をさらりと言っている。
「ちょうどいい機会じゃ。お前さんたちさえよければ、その時の聖女の話をしてやろう。腕輪を見ておるうちに、当時の事を思い出してきたからな」
ドラコがそのように言うと、マイオリーたちは示し合わせたかのように、そそくさと椅子を並べて座っているではないか。どうやら話を聞く気満々のようである。
というわけで、ドラコによる昔語りが始まったのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる