邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第119話 邪神ちゃんの取り越し苦労

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「今日はわしも来ておる。皆のものよ、盛大に聖女の生誕日を祝おうではないか!」
 ドラコがこう言うと、一瞬静まり返ったものの、すぐさま会場には割れんばかりの歓声が響き渡った。さすがは古の時代から生き続けているドラゴンである。邪竜で見た目が幼女とはいってもカリスマ性に満ちあふれていた。
「この場を愚かにも混乱の場にしようものなら、わしが遠慮なく焼き払ってくれようぞ。じゃから、安心して騒ぐがよいぞ、かっかっかっ!」
 いきなり現れたかと思うと、その場を完全に支配してしまうドラコ。これにはマイオリーも笑顔を引きつらせて固まっていた。主役をかっさらわれた気分である。
 だが、同時に頼もしさも覚えた。はるか昔から生きている古龍が相手ともなれば、下手な動きは取れないはずだからだ。姿こそ幼女ではあるものの、漏れ出るオーラは覇者の貫禄すらある。これが感じ取れないようでは、ただの一般人でしかない。反マイオリー派の動きを牽制するには十分だった。
「うむ、フェリスからある程度は聞いておったが、なかなかに聖教会の内部は頭が固そうじゃのう。聖女の間で受け継がれてきた腕輪が、わしから下賜されたものと分かった今、どのような行動を起こすのか楽しみじゃわい」
 会場に集まった民衆たちが騒ぐ中、マイオリーに対してドラコがにやりと笑いかける。その笑顔で、ようやくマイオリーは普段の様子に戻った。古のドラゴンとはいえど、フェリスの仲間なのである。その事を認識できた事で、マイオリーの驚きと緊張がようやく解けたのだった。
「ふむ、やけに悔しそうにしている司祭が居るようじゃな。あれが聖女に反旗を翻そうと考えておる者かな」
 マイオリーの隣に立つドラコは、周りを確認しながらそんな事を呟いていた。とはいえど、このドラゴが滞在する間に事を起こすような愚か者は居ないだろう。下の会場にはフェリスの居るので、しばらくは安心できるというものだ。
 先程のドラコとのやり取りは会場全体に響き渡っていたので、会場の全員が証人である。抜本的な解決とはいかないだろうが、これで反マイオリー派は一気に動きにくくなっただろう。
 そういう事があったマイオリーの生誕祭は大物の登場による大騒ぎはあったものの、概ね大した混乱もなく終える事ができた。会場はまだ大盛り上がりであるものの、マイオリーは役目を終えたとして会場から足早に立ち去ったのだった。

「いやはや驚きました。まさか、聖教会にドラコ様とのつながりがあろうだなんて、思ってもみませんでした」
 自室へ戻るなり、マイオリーは落ち着いてそう発言する。
 確かに、聖教会の人間たちからしたらそうだろう。だが、邪神なんていうものは、予想外なところでそういう縁を作りたがるものなのなのである。まあ、フェリスたちのように見返り無しに作りたがる邪神はそうは居ないのだが。ドラコは長く生きているからこそ、そういう考えに至ったのである。長く生きていると楽しめるか楽しめないかというのが判断基準に陥りがちなのである。
 実際、ドラコが当時の聖女に鱗で腕輪を作ってあげたのは、その時の聖女が規格外で自分を楽しませてもらったという事へのお礼からなのである。
 その聖女というのはドラコを倒しに来たらしいのだが、まあ武器も魔法も使わずに、その肉体だけで勝負を挑んできたのだ。だからこそ、余計にドラコの心を強烈に揺さぶったのだろう。そういった経緯で託された腕輪である。その腕輪には聖女の魔力を取り込んで聖女の肉体を強化するという効果があるらしいのだ。なんと毒すら効かなくなるらしい。それを聞いたフェリスが、
「なによ、そんな効果があるなら、こんなに気を張る必要はなかったじゃないのよ」
 と文句を言っていた。しかし、それは腕輪の効果を知らなかったからこその反応である。聖教会の人間ですら、というか着用している本人ですら知らなかった効果なのだ。外部の存在であるフェリスが知る由もないのだ。
「かっかっかっ。教会に居る連中が知らぬなら、おぬしが知っている方がおかしな話だろう。わしとて忘れかかっておった話じゃからなぁ。何と言っても、フェリスと知り合ってからの倍以上昔の話じゃからな」
 ドラコは両手を腰に当てて、それは上体を反らした状態で大笑いしている。
「何にせよ、その腕輪が大事に受け継がれておって安心したわい。その腕輪がある限り、聖女は生半可な事では死ぬ事はないからな」
 ドラコはマイオリーの着ける腕輪を撫でながら、懐かしさを感じて話をしている。なんかとんでもない事をさらりと言っている。
「ちょうどいい機会じゃ。お前さんたちさえよければ、その時の聖女の話をしてやろう。腕輪を見ておるうちに、当時の事を思い出してきたからな」
 ドラコがそのように言うと、マイオリーたちは示し合わせたかのように、そそくさと椅子を並べて座っているではないか。どうやら話を聞く気満々のようである。
 というわけで、ドラコによる昔語りが始まったのだった。
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