邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第118話 邪神ちゃんと聖教会の昔

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 会場の人たちが驚く中、ズズーンとマイオリーの隣に着地するドラコ。まったく、相変わらず自由気ままな古龍である。それにしても、幼女の体躯とは思えない着地音だ。
「ふむ、おぬしが今代の聖女か。過去の聖女とも劣らぬ、いい神聖な魔力を持っておるな」
 舐め回すようにマイオリーを眺めるドラコ。さすがのマイオリーもびびっている。
「え……っと、あなたはどちら様でしょうか」
 驚きながらも、なんとか尋ねる事ができたマイオリー。よく見ると表情が驚きで引きつっている。
「うむ、わしの名か? 聞いて驚け、わしの名はドラコ。古の邪神ドラコ様じゃ。人によっては邪神龍と呼んだり、古龍と呼んだりするが、この世界で古より生きる太古の竜だという事じゃな」
 会場にどよどよと衝撃が走る。いきなり現れた大物に、人々は驚き戸惑っている。
「聖女様、お下がり下さい」
 ようやく我に返った護衛が、マイオリーとドラコとの間に挟まり込んで武器を構える。よく見れば脚が震えている。怖いのである。見た目は本当に幼女なのだが、その漏れ出るオーラを護衛たちはひしひしと感じていたのだ。
「おうおう、これはご苦労な事じゃな。安心せい、聖女には手出しはせぬ。それよりも生誕の日だと聞いたのでな、祝いに来たのじゃ。邪神とは名乗ってはおるが、わしに危害を加えぬ限りはその身に災厄は降り掛からんぞ」
 にかっとドラコが笑う。その姿が幼女なだけに、可愛いものだから困る。本当に可愛い。
「そう言えば、フェリスも知らん事じゃろうが、わしは何代も昔の聖女と親交を持った事があるぞ。今代の聖女、名をなんと申す?」
「ま、マイオリーと申します」
「ふむ、マイオリーか、いい名じゃな」
 マイオリーの名前を聞いたドラコは、じろじろとマイオリーを見ている。その視線にマイオリーは強張ってはいるものの、そこまでの威圧感はなかった。
「時に、聖教会にこういうものはないかの?」
「?」
 ドラコの突然の言葉に、マイオリーは首を傾げる。そりゃ突然言葉だけで尋ねられても分からないものだ。
 だが、次の瞬間、マイオリーや聖女の近辺で仕える者たちの間に、驚愕の表情が広がった。なにせドラコが取り出した物に見覚えがあったのだから。
「どのくらい前かのう……。フェリスと知り合うはるか昔の事じゃ。わしと単独討伐に来たとかいう聖女との戦いの末に、互いの友諠という事でわしの鱗を使った装飾品を贈ったのじゃ」
 生誕祭の真っただ中だというのに、ドラコが語り出す。だが、目の前の幼女が話の通りだというのなら、誰も迂闊に手を出せない。実際、聖女を引きずりおろしを画策していた司祭派すら、まったく動けないでいるのだから。
 実際問題として、ドラコが語り出した事はとんでもない話なので、聖教会としても遮れずにいる。なにせ、ドラコが取り出した装飾品、それは見づらいものの、マイオリーが左腕に着けている腕輪そのものなのだから。
「おおっ! そこにあったか。これは懐かしいのう……」
 ドラコがマイオリーの左腕に気が付いて、その手を掴んでまじまじと見つめている。
「これをわしの持つ腕輪とこうやって合わせるとじゃな……」
 そして、おもむろに手に持っている腕輪とマイオリーの腕輪をくっつける。もう好き放題にしているドラコだが、これを邪魔できるものなど、この場にはフェリスを含めて居なかった。
 だが、二つの腕輪が合わさった瞬間、ぱあっと不思議な光が飛び散った。
「やはりな、あの時の腕輪じゃな。大事にしてもらえて嬉しい限りじゃぞ」
「あの……、この光は一体?」
「わしと当時の聖女との誓いの光じゃ。これがあるからこそ、わしは魔族どもとは一線を引いておったのじゃ。ちなみにじゃが、わしの元に来た人物で生き残ったのは過去二人しか居らぬ」
「二人?」
 ドラコの言い放った言葉に、マイオリーは首を傾げた。
「そうじゃ、一人は先ほども言った古の聖女。もう一人はそこに居るフェリスじゃよ」
 ドラコがこう言うと、一斉に周りの視線がフェリスに集まる。さすがにこの注目に、フェリスはとても困惑していた。
「じゃからこそ、わしはフェリスの元に下ったし、こうやってより自由に動いておるというわけじゃ。あやつの下なら退屈せんしのう。かっかっかっ」
 ドラコの高笑いが響く中、会場の中はしんと静まり返っている。この状況で騒げる愚か者はさすがに居ないというわけだ。
 それにしても、予想外なドラコの出現だったが、かえってマイオリーには有利に働いている。なにせ、邪神と名乗るフェリスと友諠を結んだという事で断罪しようとしたのに、そこにドラコが加わった事で断罪する材料が消滅してしまったのだ。過去の聖女→ドラコ→フェリス→マイオリーという完璧な流れである。
「そういうわけじゃ、過去の聖女との盟約の下、わしも聖女側じゃからな。聖女に対して悪意を働くのであれば、全力で排除するぞ?」
 ドラコが睨めば、会場の誰もがその場で腰を抜かしてへたり込むのだった。まったくもってやりすぎなドラコなのである。
 だがしかし、これで生誕祭は平穏無事に終われそうなので、結果オーライというところかも知れないのであった。
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