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第113話 邪神ちゃんと聖女の再会
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フェリスたちが通されたのは、マイオリーの私室だった。質素できちんと片付けられた部屋は、とても清潔感が漂っており、真面目なマイオリーらしい飾り気のない部屋だった。
「遠いところ、わざわざお越し頂きありがとうございます。お久しぶりですね、フェリス様、メル、それとペコラも」
マイオリーが笑顔で挨拶をしてくる。それに対して、フェリスたちも笑顔で頭を下げていた。フェリスとペコラは軽く会釈程度だが、メルはそれは深々と頭を下げていた。そもそもただの村人だったメルにとって、聖女なんていうのは雲の上の存在なのだから、ここまで大げさになるのは仕方がなかった。
「まだ早いけれど、お誕生日おめでとうございます、聖女様」
「ありがとうございます、フェリス様。生誕祭はまだ数日先ですけれど、お祝いの言葉、確かに受け取りました」
フェリスの祝福の言葉に、マイオリーはにこやかに話している。
「お祝いはするとして、マイオリー、大丈夫なのか?」
ペコラが心配そうに声を掛けている。それというのも、招待状に隠れ送られてきたラータの手紙の事があるからだ。聖女を巡って、何かと怪しい動きがあるとしたラータの手紙に、ペコラは本気で心配しているのである。
「ラータから手紙で事情は聞いているのだ。あーしたちの事が原因として絡んでいるとあっては、さすがに心配になってくるのだ」
5年間という期間、聖女たち聖教会のために食事を作っていたペコラだけに、その気持ちは本物なのである。それでもマイオリーは、聖女として気丈に笑顔を作る事しかできなかった。そのマイオリーの笑顔を見て、フェリスはなんとなくながらも聖女としての歪な立場を察してしまった。
聖女とはいわゆる平和と安定の象徴。それに選ばれた者にはそれらしい振る舞いを求められてしまう。一種の呪いのようなものだった。しかし、そうと感じたとしてもマイオリーがそれを全うするというのなら、フェリスにはどうこうできるものではなかった。ならば、せめて友人として安心して聖女を全うできるように環境を整えてあげたいものである。
「現状は、ラータが私付きの侍女であるメイベルの影に潜って聖教会内の調査をしている段階ですね。私に対しての直接的な被害もありませんし、反発する方がいらっしゃるという程度の状態です」
「ふーん、そういう状況なのか。だとしたら、生誕祭は確実に何かしらアクションを起こしそうね。大勢に印象付けるにはちょうどいい舞台ですもの」
マイオリーが説明すると、フェリスはすぐに直感を働かせていた。引きこもっていたとはいえ、長きを生きる邪神なのだ。そういう頭の回転の良さだけなら、そこらの人間ごときに負けるつもりはないのである。
「村の方は、アファカさんやヘンネ、それに村長さんが居るからどうにかなるだろうし、他のあたしの仲間だって居るから、しばらくはこっちに滞在させてもらうわ。さすがに友人の危機を黙って見過ごせるほど、あたしは薄情じゃないからね」
「さすが、フェリス様です」
フェリスの言葉に、メルは称賛し、マイオリーは驚いて言葉に詰まっていた。
「よーし、こうなったら料理はあーしに任せるのだ。運んでいる間に何かやらかすかも知れないかもだけど、あーしの能力を甘く見るななのだ」
「そうね、ペコラは眠りの能力以外にも防御系を得意としてるものね。あたしが使っている保存魔法は、元はペコラの能力だもの。ペコラが作った料理に保護を掛ければ、その後はいかなるものの混入を防ぐ事ができるのよ」
「そういう事なのだ」
なんとまぁ、フェリスが村に来たばかりの頃に使っていた食事の劣化を防ぐ魔法は、元々はペコラの持つ能力だったのだ。何とも意外な事実だった。だがしかし、ペコラが料理番をしていた頃は、確かにこれといった料理関連のトラブルはなかった。それを思えば、ペコラが何らかの処置をしていたとしても不思議ではなかったのだった。
「そうと決まれば、あーしは早速厨房に顔を出すのだ。行ってくるのだ」
むんと気合いを入れたペコラは、さっさと部屋を出ていこうとする。
「ちょっと待ちなさい、ペコラ」
しかし、フェリスがそれを制止する。
「どうしたのだ、フェリス。なぜ止めるのだ」
呼び止められて首を傾げるペコラだったが、
「あたしたちは外から来たばかりよ。せめてお風呂に行って汚れを落としてからにしなさい」
「あー、確かにそうなのだ。分かったのだ」
フェリスに言われて確かにそうだなと納得したのだった。そして、とててと走って部屋を後にしていた。
「まあ、これで食事は大丈夫でしょうね。料理関係で警戒するのはペコラが関与できない飲料とか食器くらいなものよ」
「うふふ、本当に素晴らしいですね、フェリス様たちの能力って」
「そうなのです。フェリス様たちは本当にすごいんです」
マイオリーが微笑んでいると、メルは大げさにフェリスを称賛していた。
「そろそろメイベルが戻ってくると思いますので、そうしたらフェリス様たちをお部屋に案内させますね」
こんな感じで、フェリスとマイオリーの再会は賑やかなものとなったのだった。
「遠いところ、わざわざお越し頂きありがとうございます。お久しぶりですね、フェリス様、メル、それとペコラも」
マイオリーが笑顔で挨拶をしてくる。それに対して、フェリスたちも笑顔で頭を下げていた。フェリスとペコラは軽く会釈程度だが、メルはそれは深々と頭を下げていた。そもそもただの村人だったメルにとって、聖女なんていうのは雲の上の存在なのだから、ここまで大げさになるのは仕方がなかった。
「まだ早いけれど、お誕生日おめでとうございます、聖女様」
「ありがとうございます、フェリス様。生誕祭はまだ数日先ですけれど、お祝いの言葉、確かに受け取りました」
フェリスの祝福の言葉に、マイオリーはにこやかに話している。
「お祝いはするとして、マイオリー、大丈夫なのか?」
ペコラが心配そうに声を掛けている。それというのも、招待状に隠れ送られてきたラータの手紙の事があるからだ。聖女を巡って、何かと怪しい動きがあるとしたラータの手紙に、ペコラは本気で心配しているのである。
「ラータから手紙で事情は聞いているのだ。あーしたちの事が原因として絡んでいるとあっては、さすがに心配になってくるのだ」
5年間という期間、聖女たち聖教会のために食事を作っていたペコラだけに、その気持ちは本物なのである。それでもマイオリーは、聖女として気丈に笑顔を作る事しかできなかった。そのマイオリーの笑顔を見て、フェリスはなんとなくながらも聖女としての歪な立場を察してしまった。
聖女とはいわゆる平和と安定の象徴。それに選ばれた者にはそれらしい振る舞いを求められてしまう。一種の呪いのようなものだった。しかし、そうと感じたとしてもマイオリーがそれを全うするというのなら、フェリスにはどうこうできるものではなかった。ならば、せめて友人として安心して聖女を全うできるように環境を整えてあげたいものである。
「現状は、ラータが私付きの侍女であるメイベルの影に潜って聖教会内の調査をしている段階ですね。私に対しての直接的な被害もありませんし、反発する方がいらっしゃるという程度の状態です」
「ふーん、そういう状況なのか。だとしたら、生誕祭は確実に何かしらアクションを起こしそうね。大勢に印象付けるにはちょうどいい舞台ですもの」
マイオリーが説明すると、フェリスはすぐに直感を働かせていた。引きこもっていたとはいえ、長きを生きる邪神なのだ。そういう頭の回転の良さだけなら、そこらの人間ごときに負けるつもりはないのである。
「村の方は、アファカさんやヘンネ、それに村長さんが居るからどうにかなるだろうし、他のあたしの仲間だって居るから、しばらくはこっちに滞在させてもらうわ。さすがに友人の危機を黙って見過ごせるほど、あたしは薄情じゃないからね」
「さすが、フェリス様です」
フェリスの言葉に、メルは称賛し、マイオリーは驚いて言葉に詰まっていた。
「よーし、こうなったら料理はあーしに任せるのだ。運んでいる間に何かやらかすかも知れないかもだけど、あーしの能力を甘く見るななのだ」
「そうね、ペコラは眠りの能力以外にも防御系を得意としてるものね。あたしが使っている保存魔法は、元はペコラの能力だもの。ペコラが作った料理に保護を掛ければ、その後はいかなるものの混入を防ぐ事ができるのよ」
「そういう事なのだ」
なんとまぁ、フェリスが村に来たばかりの頃に使っていた食事の劣化を防ぐ魔法は、元々はペコラの持つ能力だったのだ。何とも意外な事実だった。だがしかし、ペコラが料理番をしていた頃は、確かにこれといった料理関連のトラブルはなかった。それを思えば、ペコラが何らかの処置をしていたとしても不思議ではなかったのだった。
「そうと決まれば、あーしは早速厨房に顔を出すのだ。行ってくるのだ」
むんと気合いを入れたペコラは、さっさと部屋を出ていこうとする。
「ちょっと待ちなさい、ペコラ」
しかし、フェリスがそれを制止する。
「どうしたのだ、フェリス。なぜ止めるのだ」
呼び止められて首を傾げるペコラだったが、
「あたしたちは外から来たばかりよ。せめてお風呂に行って汚れを落としてからにしなさい」
「あー、確かにそうなのだ。分かったのだ」
フェリスに言われて確かにそうだなと納得したのだった。そして、とててと走って部屋を後にしていた。
「まあ、これで食事は大丈夫でしょうね。料理関係で警戒するのはペコラが関与できない飲料とか食器くらいなものよ」
「うふふ、本当に素晴らしいですね、フェリス様たちの能力って」
「そうなのです。フェリス様たちは本当にすごいんです」
マイオリーが微笑んでいると、メルは大げさにフェリスを称賛していた。
「そろそろメイベルが戻ってくると思いますので、そうしたらフェリス様たちをお部屋に案内させますね」
こんな感じで、フェリスとマイオリーの再会は賑やかなものとなったのだった。
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