邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第110話 邪神ちゃんへの招待状

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「天使様、天使様っ!」
 フェリスの家に村長が血相を変えて飛び込んできた。年寄りのはずなのにとても元気である。
「一体どうしたというのですか、村長さん」
 フェリスは驚いて村長を見ている。
「まったく、なんて足の速さなんですか……」
 すると、後から歩いてアファカがやって来た。慌てる村長を無理に追いかけなかったらしく、呼吸が驚くほど乱れていなかった。
 声に驚いて、メルやルディも顔を出す。村長が息を切らせて顔を青くしていたものだから、メルは慌ててコップに水を注いで村長に飲ませていた。
 村長が落ち着いたところで、改めて話を聞く事になった。
「いやはや、面目ないですな。年甲斐にもなく慌ててしもうたようです」
 その話は、村長の謝罪から始まった。
 詳しく聞けば、聖教会からフェリス宛に生誕祭の招待状が届いたらしい。名指しで招待されたのは、フェリス、メル、ペコラの三人である。まぁ、聖女が村に来た時、他に居たのはルディくらいなのでしょうがない話である。
 それにしても、急な話である。
「この手紙、よく見るともう一枚あるわね」
 フェリスは村長が持つ手紙が二重になっている事に気が付いた。そして、その重なっているもう一枚を剥がし取ると、その紙にじっくりと目を通す。
「こ、これは……っ!」
 その内容にフェリスは驚いていた。
「何て書いてあるのですか、フェリス様?」
 元々は文字の読めなかったメルだが、フェリスの影響でしっかりと字が読めるようになっていた。フェリスからその紙を渡されたメルも、やっぱりその内容にものすごく驚いて慌て始めた。
 それもそうだろう。その手紙にはこう書いてあった。
『聖教会内に不穏な動き有り。フェリス様の助力を求める』
 要約するとこんな感じである。これを見たフェリスは、これを書いたのがラータである事を直感した。本来は普通に招待状だけを村に送る予定だったのだが、聖教会に留まるラータが不穏を感じて忍ばせたのだろう。隠密の術を持つラータだけに、誰にも気付かれずにこうやって忍ばせる事ができたのだろう。
「聖教会……。邪神を擁護しただけで嫌われるのかぁ……。ご立派な信心の持ち主なんでしょうけれど、戦いの終結した今じゃ、時代遅れなのよねぇ」
 フェリスは手紙の内容を見て、なんとも呆れているようだった。昔っからお堅いイメージある聖教会だが、どうやらそれは今も変わらない勢力が居るようなのだ。
「一介の司教がそう思って派閥争いが起こるならまだ理解できるのですが、聖女様のお考えに対してのこれは、理解しがたいですね」
 アファカはそのように話している。やはり、聖女という存在は聖教会にとって象徴であり重要な存在なのだ。それだというのにそれに対しての反旗というものは、邪教と扱いされてもおかしくない話なのだ。邪神であるフェリスではあるが、そういう信仰心についての理解はあるので、本当にラータの手紙の内容に首を捻っているのである。
「フェリス様が邪神であるという事が関係しているのでしょうか」
「分かりませんね。ですが、これに問題があるというのなら、聖女の持つ力に対して何らかの影響が出るはずですから、聖教会の信仰する神にとって、フェリスさんたち邪神たちは取るに足らないか、仲良くしても問題のない存在という事なのでしょう」
 メルが不安そうに尋ねると、アファカはそんな風に推測を述べていた。いろいろと思うところはあるが、聖教会の信仰において、フェリスたちの存在は影響を成さないという事なのだろう。やはり、反乱を起こそうとしている反聖女派の存在が大問題という見解で間違いないだろう。フェリスたちの間では、そのような結論に達するのだった。
「まあそういう事なら、この誘いは受けましょうか。せっかく友人となったのですから、その危機となれば手を貸すのが普通でしょうからね」
 いろいろと考えを巡らせた結果、フェリスたちは生誕祭へと参加する事を決めた。
 日付を確認してみれば、どうやら日数的に参加をもって返事とした方がいいようだ。聖教会の場所を知っているペコラに確認してみた結果、得られた結論である。というわけで、即刻フェリスたちは聖教会に赴くための準備を始める。村の事はアファカとヘンネに任せておけば、とりあえずは問題がない。問題というのは、聖教会に出向いてからの話ばかりだった。心配する意味すらないように思えるくらいに、村の事についても道中についても、まったく問題としなかったのである。さすがフェリスたちである。
 それにしても、村に居ついてからというもの、ここまで長距離の旅というのは初めてである。そんな旅も、友のためを思えば全く苦にならない。この程度の旅ではけろっとしているフェリスとペコラであり、心配だったメルも平気そうであった。
「見えてきたのだ。あれが聖教会の本拠地なのだ」
 ペコラが指差す先に見えた街。それこそが今回の目的である聖教会なのである。その地を目の前に、フェリスたちはごくりと息を飲むのだった。
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