邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第108話 邪神ちゃんと生き字引

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 結論から述べてしまえば、ゼニスからは太鼓判が押された。良質な素材に囲まれていた事は要因としては大きそうだった。純粋な加工だけで済むのだから、それだけ純粋に作品を作る事だけに集中できたのである。
「まあ、ここはハバリーの生み出す純度の高い金属ばかりだものね。粗悪な材料から作る事も覚えないといけないとは思うけれど、ま、そこはハバリーから魔法を覚えちゃえばいいかも知れないわね」
「そうですね。まあ、その金属の純度を高く抽出する魔法っていうのは、かなり要求が高いのですけれどもね。やはり、そういった技術も身に付けてもらいませんとね」
 フェリスがハバリーの魔法を勧めるが、ゼニスからは高難易度だとやんわりと断られた。人間と魔族との間では、技量と許容の差があるのだからまあ仕方のない話である。
「かっかっかっ、やはり人間は脆弱よのう。この程度の魔法が使えぬとはな。何ちょっとしたコツがあるのじゃぞ。そこさえ押さえられれば、そう難しくもあるまいて」
 ゼニスから断られた事で少しいじけていたフェリスが、ドラコの言葉でシャキンとする。
「魔法というのはイメージが重要じゃが、知識や理論もないとうまく発動できん。イメージだけでは、状態が分からないのだから、その状態を知っているという事が必要なのじゃ。金属の見た目、硬さ、手触り、光沢その知識があるならば、金属の抽出というものはそれほどの難易度を持たんぞ」
 ドラコはとことこと歩いていく。
「ハバリーよ、この塊は使ってもよいか?」
「か、構いませんよ、ドラコ様」
 ドラコの眼光が鋭すぎた事で、ハバリーはびびりながら返事をする。ドラコが手に取ったのは、村の近くに引いた水路のせいでできた丘の一つから取った土塊である。その土塊にドラゴは集中して魔法を使う。しばらくすると、その土塊から金属の成分が抽出されたのだった。
「ふむ、取り出したのは金と銀だけじゃな。わしはそれ以外の金属に興味がないからな」
 抽出されたのは人間の歯くらいの大きさの金属の塊だった。二つの塊は、鑑定の結果、確かに金と銀だった。しかも純度が高い。
「わしは火と土以外は大して魔法は扱えぬ。しかもメインの属性は火じゃ。土魔法の技術などたかが知れておる。それに、金属も金と銀以外は興味もなくて知らぬからな、抽出できたのはその二種類のみというわけじゃ」
 ドラコがゼニスが手に持つ金属の塊を指し示しながら、説明を始めていた。
「そんなわしでもその通りに金属を抽出できておる。職人であるなら土魔法への適性はあるはずじゃから、ちょっと練習すればできるようになると思うぞい」
 ドラコは仮説ながらに、自信満々に結論付けていた。だが、多少強引な結論ながらにももの凄い説得力があった。フェリスよりはるかに長生きの古龍だからだろう。生き字引に言われれば、なんとなく納得してしまうものなのだ。これには職人たちはちょっと自信をつけたようである。
「じゃが、一朝一夕にはいかんじゃろう。教えてもらうなら土魔法のエキスパートであるハバリーの方が良いぞ。わしでは曖昧すぎてうまくは教えられぬだろうからの」
 こういって、面倒な事をハバリーに押し付けるドラコである。こういう知恵の回り方ができるあたり、古龍というものなのだろう。そりゃ邪竜だの邪神だの言われるはずである。
 この後すぐさま職人三人がハバリーに頭を下げているあたり、ドラコの狙い通りに事が運んでいる。これにはフェリスとメルだけではなく、ゼニスにアファカとヘンネもジト目を向けていた。
「な、なんじゃ。おぬしたちのその目は!」
 ドラコが騒いでいるが、五人からはもうしばらくこの目を向けられていたのだった。
 騒動が収まって、六人はペコラが料理長を務める食堂へと向かった。金属工房からは目と鼻の先である。
「いやはや、ドラコ様のおかげで、ずいぶんと職人たちもますますやる気を出していましたね」
「人見知りの激しいハバリーにとっては地獄でしょうけどね」
 フェリスとゼニスがドラコを見ながら話をしている。
「な、何じゃ、その目は!?」
 再びジト目を向けられて、ドラコは二人を指差しながら腕をぶんぶんと左右に振っている。散々この目を向けられたので、少々ご立腹のようである。
「別に? ドラコの素晴らしい案に感動しているだけよ」
 頼んだミルクを飲みながら、フェリスはとぼけたように喋っている。
「そうですね。金属抽出の技術は金属職人にとっては必要な技術ですので、本来の製錬とは違いますが、魔法を教えて頂けただけでも十分ですよ」
 こちらもすましたように話すゼニス。目ぼしいものを仕入れられた事で満足しているようである。製錬作業に時間が取られなかった事で、加工技術が格段に育っていた職人たちにゼニスはとても感動しているのだ。
「まあな。わしも昔に比べるとだいぶ丸くなったものよの。こんな面倒な事、あの頃なら全部焼き払ってなかった事にしておったのだがな……」
「それもフェリスさんの魅力の一つなのでしょうね」
「かも知れんな」
 ぽつりと漏らしたドラコの言葉に、ゼニスが反応して言葉を挟むと、ドラコは腕を組んで強く頷いていた。思い当たる節があるのだろう。
「それにしても、古龍まで住み着いたとなると、ますます手の出しにくい村になりましたな。まあ、村がそれだけ安全になるという事なので、取引をする私どもとすれば歓迎すべき事なのですがね」
「ふっ、商人というのは面白い考え方をする人間よのう。ゼニスというたか、ますます気に入ったわい」
「実に光栄でございますね」
 ゼニスとドラコは互いに笑い合っていた。まあ、そう悪い感じの笑いではないので、アファカも安心して見ていられたようである。
 こうして、今回のゼニスとの交渉は無事に終える事ができたのだった。
 そして、フェリスメルはますますの発展の兆しを見せたのである。
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