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第103話 邪神ちゃんと気になる動向
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聖教会本部がそんな事になっている事を知らないフェリスたちは、今日も村を適当に巡回していた。
職人街の建設から続いていたごたごたもひと通りの落ち着きを見せていて、ようやく以前の日常が戻ってきたというところだ。
適材適所で各運営も順調である。
ジャイアントスパイダーはルディ、クルークはヘンネ、食堂はペコラ、金属工房はハバリー、移住者居住区はクーとヒッポスと、フェリス以外の邪神たちは忙しく動いていた。フェリスはそれらの補助をしながら、村をトータルに見て回っているのである。
この日は久しぶりにメルの実家にお邪魔していた。
「おお、天使様。お久しぶりでございます。うちのメルは役に立っていますか?」
メルの実家にお邪魔するなりこれである。最初から村に居た人たちからは、『天使』と呼ばれているフェリス。見た目こそ魔族とはいえ、性格を考えると本当に天使というにふさわしい存在なのである。
まあ、それはさておき、フェリスはメルの実家の牧場へと進んでいく。そこには相変わらずたくさんの牛が放し飼いにされており、草を食べたり、ぼーっとしていたり、自由気ままな状態だった。
「どうですか、うちの牛たちは」
「ええ、問題はなさそうですね。いいミルクを提供してもらえて助かりますよ」
「いやはや、うちの牛が食堂で重宝されるなど、考えてもみませんでしたよ」
そういう会話をしながら、フェリス、メル、メルの父親の三人は大笑いをしていた。
「ミルクそのものもですけれど、発酵させたチーズも人気ですからね。特にピザでは必須の材料ですし」
「そうなんですね。それはもっと頑張りませんとな。はっはっはっ」
「お父さん、調子には乗らないでよ」
フェリスがチーズの事に言及すると、メルの父親は嬉しそうにしていた。あまりに高らかに笑うものだから、メルが窘めていた。
今後のミルクやチーズの取り扱い量に関しては、アファカやペコラたちが詰めに来るだろうとだけ伝えて、フェリスたちは牧場を後にしたのだった。
村を歩くフェリスに、メルが質問してくる。
「フェリス様、他の邪神の方々ってどうされているのでしょうね」
村に居る六人と聖女にまとわりついているラータを除くと、フェリスの元に居た邪神は残り五人である。確かに、フェリスとしてもその動向は気になるものがあった。
「さあ、どうなんだろうね。知りたいとはいっても今は連絡手段がないし、あたしと関係なく気ままに暮らしてもらってもまったく問題はないのよね」
まぁやっぱり、当然というべきかフェリスもその行方とか知らないようである。特に蛇の邪神についてはまったく分からないようだった。フェリスや他の邪神たちにも作用して、自分の記憶を曖昧にすような奴なので、こればかりは当然だろう。
しかし、フェリスの方にもよく分からない事ばかりである。
あれだけ昔は頻繁に集まっていたのに、人間と魔族の間の戦いが終結した以降は一斉に疎遠になったのである。あれ以降も頻繁に顔を出してきたのはルディくらいなものだ。蛇の邪神は当然ながら、それ以外にもあれ以降フェリスとまったく顔を合わせていない邪神は存在している。
フェリスが考えながら歩いていると、突然空が暗くなった。
上空を見上げると、巨大な何かが空に居たのである。
「あれは……」
フェリスには何か思い当たるものがあるらしく、村中が騒めく中、村で一番高い場所へと向かった。
「ふぇ、フェリス様。置いていかないで下さい」
メルも必死にその後を追いかけた。
やって来たのは二号店の屋上に備え付けられた見張り台である。そこへ登ったフェリスは、空に向かって手を振りながら呼び掛けたのである。
「おーい、久しぶりねぇ。あんたもあたしの噂を聞きつけたのかしら」
「フェリス、そこか」
空に浮かぶ巨体がカッと光ったかと思うと、その巨体が消えてしまった。村には動揺が走っている。
その次の瞬間、空から何やら降ってきた。その物体は何度か回転すると、見事に地面に着地を決めたのであった。
「むむ、うまく地点を見定めたというのに、ずれてしまったか」
地面に降り立ったのは、どう見ても少女である。
「ドラコ、久しぶりね」
そこへ、同じようにくるくると回転しながらフェリスが飛び降りてきた。
「久しいな、フェリス。相変わらずのちびっこいな」
「ドラコも十分小さいじゃないの。どうしてドラゴンだとあんなに大きいのに、人間形態だとそんなにおチビちゃんになるのかしら」
目の前のドラコの姿を見ながら、フェリスは首を傾げていた。
「まあそんな事などどうでもよい。フェリス、久しぶりに祠に出向いたらもぬけの殻で驚いたぞ」
「あら、そうだったのね、ごめん」
「はあはあ、ふぇ、フェリス様。その方は一体……」
ようやくメルが追い付いた。
「ふむ、聞いて驚くなかれ。我こそは邪神ドラコである。人間どもよ、ひれ伏すがよいぞ」
偉そうな態度で名乗った邪神ドラコだが、どこからどう見ても少女である。一体彼女は何をしにフェリスメルへとやって来たのだろうか……。
職人街の建設から続いていたごたごたもひと通りの落ち着きを見せていて、ようやく以前の日常が戻ってきたというところだ。
適材適所で各運営も順調である。
ジャイアントスパイダーはルディ、クルークはヘンネ、食堂はペコラ、金属工房はハバリー、移住者居住区はクーとヒッポスと、フェリス以外の邪神たちは忙しく動いていた。フェリスはそれらの補助をしながら、村をトータルに見て回っているのである。
この日は久しぶりにメルの実家にお邪魔していた。
「おお、天使様。お久しぶりでございます。うちのメルは役に立っていますか?」
メルの実家にお邪魔するなりこれである。最初から村に居た人たちからは、『天使』と呼ばれているフェリス。見た目こそ魔族とはいえ、性格を考えると本当に天使というにふさわしい存在なのである。
まあ、それはさておき、フェリスはメルの実家の牧場へと進んでいく。そこには相変わらずたくさんの牛が放し飼いにされており、草を食べたり、ぼーっとしていたり、自由気ままな状態だった。
「どうですか、うちの牛たちは」
「ええ、問題はなさそうですね。いいミルクを提供してもらえて助かりますよ」
「いやはや、うちの牛が食堂で重宝されるなど、考えてもみませんでしたよ」
そういう会話をしながら、フェリス、メル、メルの父親の三人は大笑いをしていた。
「ミルクそのものもですけれど、発酵させたチーズも人気ですからね。特にピザでは必須の材料ですし」
「そうなんですね。それはもっと頑張りませんとな。はっはっはっ」
「お父さん、調子には乗らないでよ」
フェリスがチーズの事に言及すると、メルの父親は嬉しそうにしていた。あまりに高らかに笑うものだから、メルが窘めていた。
今後のミルクやチーズの取り扱い量に関しては、アファカやペコラたちが詰めに来るだろうとだけ伝えて、フェリスたちは牧場を後にしたのだった。
村を歩くフェリスに、メルが質問してくる。
「フェリス様、他の邪神の方々ってどうされているのでしょうね」
村に居る六人と聖女にまとわりついているラータを除くと、フェリスの元に居た邪神は残り五人である。確かに、フェリスとしてもその動向は気になるものがあった。
「さあ、どうなんだろうね。知りたいとはいっても今は連絡手段がないし、あたしと関係なく気ままに暮らしてもらってもまったく問題はないのよね」
まぁやっぱり、当然というべきかフェリスもその行方とか知らないようである。特に蛇の邪神についてはまったく分からないようだった。フェリスや他の邪神たちにも作用して、自分の記憶を曖昧にすような奴なので、こればかりは当然だろう。
しかし、フェリスの方にもよく分からない事ばかりである。
あれだけ昔は頻繁に集まっていたのに、人間と魔族の間の戦いが終結した以降は一斉に疎遠になったのである。あれ以降も頻繁に顔を出してきたのはルディくらいなものだ。蛇の邪神は当然ながら、それ以外にもあれ以降フェリスとまったく顔を合わせていない邪神は存在している。
フェリスが考えながら歩いていると、突然空が暗くなった。
上空を見上げると、巨大な何かが空に居たのである。
「あれは……」
フェリスには何か思い当たるものがあるらしく、村中が騒めく中、村で一番高い場所へと向かった。
「ふぇ、フェリス様。置いていかないで下さい」
メルも必死にその後を追いかけた。
やって来たのは二号店の屋上に備え付けられた見張り台である。そこへ登ったフェリスは、空に向かって手を振りながら呼び掛けたのである。
「おーい、久しぶりねぇ。あんたもあたしの噂を聞きつけたのかしら」
「フェリス、そこか」
空に浮かぶ巨体がカッと光ったかと思うと、その巨体が消えてしまった。村には動揺が走っている。
その次の瞬間、空から何やら降ってきた。その物体は何度か回転すると、見事に地面に着地を決めたのであった。
「むむ、うまく地点を見定めたというのに、ずれてしまったか」
地面に降り立ったのは、どう見ても少女である。
「ドラコ、久しぶりね」
そこへ、同じようにくるくると回転しながらフェリスが飛び降りてきた。
「久しいな、フェリス。相変わらずのちびっこいな」
「ドラコも十分小さいじゃないの。どうしてドラゴンだとあんなに大きいのに、人間形態だとそんなにおチビちゃんになるのかしら」
目の前のドラコの姿を見ながら、フェリスは首を傾げていた。
「まあそんな事などどうでもよい。フェリス、久しぶりに祠に出向いたらもぬけの殻で驚いたぞ」
「あら、そうだったのね、ごめん」
「はあはあ、ふぇ、フェリス様。その方は一体……」
ようやくメルが追い付いた。
「ふむ、聞いて驚くなかれ。我こそは邪神ドラコである。人間どもよ、ひれ伏すがよいぞ」
偉そうな態度で名乗った邪神ドラコだが、どこからどう見ても少女である。一体彼女は何をしにフェリスメルへとやって来たのだろうか……。
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