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第101話 邪神ちゃんと聖女の影
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所変わって聖教会。
この日もマイオリーは熱心に祈りを捧げている。
人間と魔族の間の戦いが終結してから数100年経ってはいるものの、まだ小さな諍いは後を絶たないのである。世界の平和のために祈りを捧げるのが、聖女の役割なのである。
(ふむ、これが聖女の祈りというものなのですな。なんとも神々しいものですね)
影の中で息を潜めるラータは、マイオリーの祈りを間近に見ながらそう感じていた。元々はただのネズミであり、フェリスと同様に魔族の眷属を経て邪神となったラータだが、聖女の祈りを受けても何ともない。そもそも聖女の陰に潜んでいる時点で、魔族にとっては自殺行為である。それでも何ともないあたりがフェリスたち邪神なのである。
(聖教会の中を探ってはいるものの、どうにも一部の司祭の間では聖女様に対する不信感を募らせておるようですな。邪神に対するイメージが先行しているせいか、その邪神を受け入れている聖女様をまがい物として判断しているという事でしょうか)
ラータは影の中でいろいろと思案を巡らせている。
(戦いが終結した以上は、個というものへ視線を向けてもらいたいものですが、こういう場ではどうしてもイメージが先行してしまうなのでしょうね。ペコラ殿が一時的に身を置いていたにもかかわらず、ものの本質を見る目をまるで育っておりませんね)
聖教会における現実を目の当たりにしてるラータ。その現状にはどうにもため息が出てしまうほどだった。
祈りを終えて、マイオリーが自室に戻る。そこでラータはマイオリーの前に姿を現した。
「ラータ、どうなさったのですか?」
突如として姿を見せたラータに首を傾げるマイオリー。
「聖女様にご報告と、許可の申請でございます」
ラータは質問にそう答えた。ちょっと意味が分からなさそうなマイオリーは、ゆっくりと首を傾げていた。
「聖女様に反旗を翻そうとする連中を特定するために、教会内を自由に動く許可を頂きたいのです。聖女様の行動範囲では、どうにも情報収集には足りないのです」
「それでしたら構いませんよ。私の専属侍女の影をお貸し致しましょう」
情報収集の件はすぐさま了承するマイオリー。聖女専属の侍女は聖女の行動を管理する人物など、多くの教会関係者と接触をする。なので、情報収集のために潜伏する先としては適切だと提案したのである。
「それで、報告というのは何でしょうか」
「はい、やはりこの聖教会の中からは不穏な空気が感じられます。私ほどのものではありませんが、穢れた気配を感じますゆえ、邪まな魔族が入り込み始めているやも知れません」
ラータは聖教会内にちょっとした悪い方の変化が見られるという事を伝えておいた。穢れた気配の比較として自分を出すくらいには邪神としての無意識の認識があるようだ。さすがは闇属性。
しかし、かなり強力な闇属性を持っているにもかかわらず、ラータはここまでの間、教会の人間には察知されずに済んでいる。隠密という行動に長けているラータは、自分の魔力を外に察知されないような術を身に付けているのだ。
さて、そういった説明はさておき、マイオリーは自分の侍女である女性を呼び寄せる。
「お呼びになりましたでしょうか、聖女様」
しばらくすると、メイドの衣装に身を包んだ女性がやって来た。髪をシニヨンにしてキャップで覆い、聖女の色である白のリボンで結んだマイオリーとほぼ同じような年齢の女性である。部屋の中にはラータが立っていたのだが、ちらちらと視線を寄こすだけで言及する事はなかった。さすがは聖女の専属侍女である。
「あなたにお願いがあるのです。どうやら、私の事を疑う者が居るらしく、実情を調べるために、このラータをあなたの影に忍ばせて欲しいのです」
「そこの魔族を……ですか」
侍女もラータをすぐに魔族と見抜いていた。そこそこの魔力感知の技術を持ち合わせてはいるようだ。
「無理にとは言いませぬ。フェリス様のご友人であられる聖女様に危害が及ぶなど、人間たちにとっては損失以外の何ものでもございません。無理にとは言いませぬ、聖女様の身を守り、世界の平和を守るためでもあります」
ラータの言葉に、侍女は少し驚きを持って黙り込んでしまった。魔族から平和などという言葉を聞くとは思ってもみなかったからだ。しかし、侍女はすぐさまに気を取り直していた。
「承知致しました。聖女様のため、ひいては平和のためとなるならば、その者を受け入れましょう」
「かたじけない」
聖女であるマイオリーの頼みなら聞かないわけにはいかないと、侍女はその提案を受け入れた。
こうして、聖女よりは行動が自由な侍女の影に潜んで、ラータは内情を探る事になった。ラータの影潜りは、どこかの誰かみたいに影同士での移動ができないので、こうやって潜る影をいちいち変えなければならず、その際には一度姿を見せなければならないので何かと面倒なのだ。だからこそ、聖女の信頼を得ている侍女の影を借りる事になった。
さて、ラータは聖教会内に蔓延る不穏分子を排除する事はできるのだろうか。
この日もマイオリーは熱心に祈りを捧げている。
人間と魔族の間の戦いが終結してから数100年経ってはいるものの、まだ小さな諍いは後を絶たないのである。世界の平和のために祈りを捧げるのが、聖女の役割なのである。
(ふむ、これが聖女の祈りというものなのですな。なんとも神々しいものですね)
影の中で息を潜めるラータは、マイオリーの祈りを間近に見ながらそう感じていた。元々はただのネズミであり、フェリスと同様に魔族の眷属を経て邪神となったラータだが、聖女の祈りを受けても何ともない。そもそも聖女の陰に潜んでいる時点で、魔族にとっては自殺行為である。それでも何ともないあたりがフェリスたち邪神なのである。
(聖教会の中を探ってはいるものの、どうにも一部の司祭の間では聖女様に対する不信感を募らせておるようですな。邪神に対するイメージが先行しているせいか、その邪神を受け入れている聖女様をまがい物として判断しているという事でしょうか)
ラータは影の中でいろいろと思案を巡らせている。
(戦いが終結した以上は、個というものへ視線を向けてもらいたいものですが、こういう場ではどうしてもイメージが先行してしまうなのでしょうね。ペコラ殿が一時的に身を置いていたにもかかわらず、ものの本質を見る目をまるで育っておりませんね)
聖教会における現実を目の当たりにしてるラータ。その現状にはどうにもため息が出てしまうほどだった。
祈りを終えて、マイオリーが自室に戻る。そこでラータはマイオリーの前に姿を現した。
「ラータ、どうなさったのですか?」
突如として姿を見せたラータに首を傾げるマイオリー。
「聖女様にご報告と、許可の申請でございます」
ラータは質問にそう答えた。ちょっと意味が分からなさそうなマイオリーは、ゆっくりと首を傾げていた。
「聖女様に反旗を翻そうとする連中を特定するために、教会内を自由に動く許可を頂きたいのです。聖女様の行動範囲では、どうにも情報収集には足りないのです」
「それでしたら構いませんよ。私の専属侍女の影をお貸し致しましょう」
情報収集の件はすぐさま了承するマイオリー。聖女専属の侍女は聖女の行動を管理する人物など、多くの教会関係者と接触をする。なので、情報収集のために潜伏する先としては適切だと提案したのである。
「それで、報告というのは何でしょうか」
「はい、やはりこの聖教会の中からは不穏な空気が感じられます。私ほどのものではありませんが、穢れた気配を感じますゆえ、邪まな魔族が入り込み始めているやも知れません」
ラータは聖教会内にちょっとした悪い方の変化が見られるという事を伝えておいた。穢れた気配の比較として自分を出すくらいには邪神としての無意識の認識があるようだ。さすがは闇属性。
しかし、かなり強力な闇属性を持っているにもかかわらず、ラータはここまでの間、教会の人間には察知されずに済んでいる。隠密という行動に長けているラータは、自分の魔力を外に察知されないような術を身に付けているのだ。
さて、そういった説明はさておき、マイオリーは自分の侍女である女性を呼び寄せる。
「お呼びになりましたでしょうか、聖女様」
しばらくすると、メイドの衣装に身を包んだ女性がやって来た。髪をシニヨンにしてキャップで覆い、聖女の色である白のリボンで結んだマイオリーとほぼ同じような年齢の女性である。部屋の中にはラータが立っていたのだが、ちらちらと視線を寄こすだけで言及する事はなかった。さすがは聖女の専属侍女である。
「あなたにお願いがあるのです。どうやら、私の事を疑う者が居るらしく、実情を調べるために、このラータをあなたの影に忍ばせて欲しいのです」
「そこの魔族を……ですか」
侍女もラータをすぐに魔族と見抜いていた。そこそこの魔力感知の技術を持ち合わせてはいるようだ。
「無理にとは言いませぬ。フェリス様のご友人であられる聖女様に危害が及ぶなど、人間たちにとっては損失以外の何ものでもございません。無理にとは言いませぬ、聖女様の身を守り、世界の平和を守るためでもあります」
ラータの言葉に、侍女は少し驚きを持って黙り込んでしまった。魔族から平和などという言葉を聞くとは思ってもみなかったからだ。しかし、侍女はすぐさまに気を取り直していた。
「承知致しました。聖女様のため、ひいては平和のためとなるならば、その者を受け入れましょう」
「かたじけない」
聖女であるマイオリーの頼みなら聞かないわけにはいかないと、侍女はその提案を受け入れた。
こうして、聖女よりは行動が自由な侍女の影に潜んで、ラータは内情を探る事になった。ラータの影潜りは、どこかの誰かみたいに影同士での移動ができないので、こうやって潜る影をいちいち変えなければならず、その際には一度姿を見せなければならないので何かと面倒なのだ。だからこそ、聖女の信頼を得ている侍女の影を借りる事になった。
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