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第99話 邪神ちゃんと移住者居住区
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移住者居住区で今日も精を出すヒッポスとクー。この二人だけはフェリスの家には住んでいない。
それというのも、二人が完全に移住者居住区の開拓の手伝いで顔なじみになってしまった事が大きい。
二人は顔が馬と牛という半獣人型の邪神だ。そのせいで最初の頃は怖がられたものの、二人の性格の良さと頼りがいが功を奏してあっという間に移住者たちと仲良くなってしまっていたのだ。
ヒッポスは足の速さに加えて、意外と力持ちである事から農地の整備に駆り出されていたし、クーは足の速さはそれほどではないけれどやはり怪力だったので、同じように開拓やら家の建設やらで活躍していた。それに付け加えるなら、生活で欠かせない馬と牛という家畜の邪神であったのも大きいだろう。それらと意思疎通ができる事から、環境が変わって不安になっている家畜を落ち着かせる事に時間がかからなくなったのだ。
「いやまぁ、二人のおかげで家畜の管理が楽になって助かっているよ。病気や具合が悪いといった事もすぐに分かるからね」
「ははは。ボクの眷属みたいなものだからね。少しでも長く元気でいてもらいたいのさ」
村人の声に、ヒッポスは得意げに語っている。
「本当にねぇ。見た目や種族では分からないものだねぇ」
「ふふっ、いがみ合うのは数100年前に終わりましたからね。そもそも私たちは共存の考えを持っていますから、特に人間を敵視した事はありませんよ」
クーはほんわかと移住者たちと話をしている。
「本当に悪いわねぇ。荷物運びなんてさせちまってね」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。頼り過ぎはよくないですけれど、たまに頼るくらいなら問題ないですからね」
「本当に、素晴らしい方だねぇ。ありがたや、ありがたや……」
クーが荷物運びを手伝っていた移住者のおばさんに拝まれてしまっていた。唐突なおばさんの行動に、クーはちょっと戸惑っていた。
「おい、母さん。いきなりそういう事はやめてくれ。クー様も困ってられるだろう」
出迎えに出てきた男性に咎められるおばさん。
「あはは、邪神としてもあまり崇められる事もなかったので、つい驚いてしまいましたね」
「本当にすみません。あと、母さんに付き合て頂いてありがとうございました。本当なら俺がやるべきだったんでしょうけれど」
「いえいえ、気にしないで下さい。こちらは基本的に暇にしていますからね。二号店が落ち着いたので、やる事がないんですもの」
職人街にある食堂は、一号店も二号店も従業員が増えた。その事もあって、ペコラ以外の邪神たちはようやく食堂の仕事から解放されたのである。
この食堂も、最初のうちは見た事のない食事に連日のように人が押し寄せていたのだが、ある程度経つと飽きてきてしまうのだ。そういう事もあって、自宅で食事をする者も増えて客数が落ち着いたのである。とはいえ、相変わらず村の外からやってくる行商人や冒険者たちには人気のようであり、宿にわざわざ届けてもらう者まで居るとか。
その一方で、村や移住者たちから募った従業員たちもすっかり料理の腕を上げたし、給仕の仕事も板についてきたので、村の関係者だけで十分店は回せるようになっていたのだ。フェリスたちが食堂から退いたのもそういう事情からである。
「それにしても、この辺りもすっかり様変わりしたな」
「ええ、そうですね。果樹園に畑、それに牧場と、すっかり一つの村らしくなりましたね」
ヒッポスとクーが眺める移住者居住区は、フェリスメルの一部でありながらももはや独立した村……というか街の様相を呈してきていた。村というには設備が整い過ぎているのだ。
最初こそルディが掘った川とその土でできた小高い丘があっただけの場所も、今では職人街に通じる石橋が架けられ、木の建物と石の建物が混在する住宅街と、それを取り囲むように整備された畑や果樹園、牧場が連なる立派な場所へと変わっていたのである。本当に邪神にかかればこの有り様なのだ。人間の魔法使いではこうもいかない。
またこの移住者の居住地は、川によって隔たれてしまった街道の通り道にある。そのせいもあって、職人街ほどではないものの、人の往来が活発なのだった。そこで、村で育てている馬の販売や村の中だけを行き来する専用の馬車乗り場を設けたりと、こちらもこちらで商魂たくましかった。また、フェリスメル自体に広さがあるので、商業組合と冒険者組合の簡易出張所も設けられているので、その気になればここだけでも用事を済ませられるという。
ただ、食堂や宿泊施設は存在しないので、そういった用件に関しては素直に本体や職人街を案内するようになっていた。あくまでここはフェリスメルに移り住んだ人たちの自給自足のための場所なのだ。
だからといっても、移住者たちが疎外感を持つ事はない。ヒッポスとクーという二人の邪神が居る事で、フェリスメルの一員だと感じているのである。なにせ、中心となる邪神フェリスの友人なのだから。それに、フェリス自体もたまに訪れて気に掛けてくれている。
村の本体からは遠い場所ではあるのだが、移住者たちは本当に満足して暮らしている。そして、こうも思っているのだ。本当にここに来てよかったと。
それというのも、二人が完全に移住者居住区の開拓の手伝いで顔なじみになってしまった事が大きい。
二人は顔が馬と牛という半獣人型の邪神だ。そのせいで最初の頃は怖がられたものの、二人の性格の良さと頼りがいが功を奏してあっという間に移住者たちと仲良くなってしまっていたのだ。
ヒッポスは足の速さに加えて、意外と力持ちである事から農地の整備に駆り出されていたし、クーは足の速さはそれほどではないけれどやはり怪力だったので、同じように開拓やら家の建設やらで活躍していた。それに付け加えるなら、生活で欠かせない馬と牛という家畜の邪神であったのも大きいだろう。それらと意思疎通ができる事から、環境が変わって不安になっている家畜を落ち着かせる事に時間がかからなくなったのだ。
「いやまぁ、二人のおかげで家畜の管理が楽になって助かっているよ。病気や具合が悪いといった事もすぐに分かるからね」
「ははは。ボクの眷属みたいなものだからね。少しでも長く元気でいてもらいたいのさ」
村人の声に、ヒッポスは得意げに語っている。
「本当にねぇ。見た目や種族では分からないものだねぇ」
「ふふっ、いがみ合うのは数100年前に終わりましたからね。そもそも私たちは共存の考えを持っていますから、特に人間を敵視した事はありませんよ」
クーはほんわかと移住者たちと話をしている。
「本当に悪いわねぇ。荷物運びなんてさせちまってね」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。頼り過ぎはよくないですけれど、たまに頼るくらいなら問題ないですからね」
「本当に、素晴らしい方だねぇ。ありがたや、ありがたや……」
クーが荷物運びを手伝っていた移住者のおばさんに拝まれてしまっていた。唐突なおばさんの行動に、クーはちょっと戸惑っていた。
「おい、母さん。いきなりそういう事はやめてくれ。クー様も困ってられるだろう」
出迎えに出てきた男性に咎められるおばさん。
「あはは、邪神としてもあまり崇められる事もなかったので、つい驚いてしまいましたね」
「本当にすみません。あと、母さんに付き合て頂いてありがとうございました。本当なら俺がやるべきだったんでしょうけれど」
「いえいえ、気にしないで下さい。こちらは基本的に暇にしていますからね。二号店が落ち着いたので、やる事がないんですもの」
職人街にある食堂は、一号店も二号店も従業員が増えた。その事もあって、ペコラ以外の邪神たちはようやく食堂の仕事から解放されたのである。
この食堂も、最初のうちは見た事のない食事に連日のように人が押し寄せていたのだが、ある程度経つと飽きてきてしまうのだ。そういう事もあって、自宅で食事をする者も増えて客数が落ち着いたのである。とはいえ、相変わらず村の外からやってくる行商人や冒険者たちには人気のようであり、宿にわざわざ届けてもらう者まで居るとか。
その一方で、村や移住者たちから募った従業員たちもすっかり料理の腕を上げたし、給仕の仕事も板についてきたので、村の関係者だけで十分店は回せるようになっていたのだ。フェリスたちが食堂から退いたのもそういう事情からである。
「それにしても、この辺りもすっかり様変わりしたな」
「ええ、そうですね。果樹園に畑、それに牧場と、すっかり一つの村らしくなりましたね」
ヒッポスとクーが眺める移住者居住区は、フェリスメルの一部でありながらももはや独立した村……というか街の様相を呈してきていた。村というには設備が整い過ぎているのだ。
最初こそルディが掘った川とその土でできた小高い丘があっただけの場所も、今では職人街に通じる石橋が架けられ、木の建物と石の建物が混在する住宅街と、それを取り囲むように整備された畑や果樹園、牧場が連なる立派な場所へと変わっていたのである。本当に邪神にかかればこの有り様なのだ。人間の魔法使いではこうもいかない。
またこの移住者の居住地は、川によって隔たれてしまった街道の通り道にある。そのせいもあって、職人街ほどではないものの、人の往来が活発なのだった。そこで、村で育てている馬の販売や村の中だけを行き来する専用の馬車乗り場を設けたりと、こちらもこちらで商魂たくましかった。また、フェリスメル自体に広さがあるので、商業組合と冒険者組合の簡易出張所も設けられているので、その気になればここだけでも用事を済ませられるという。
ただ、食堂や宿泊施設は存在しないので、そういった用件に関しては素直に本体や職人街を案内するようになっていた。あくまでここはフェリスメルに移り住んだ人たちの自給自足のための場所なのだ。
だからといっても、移住者たちが疎外感を持つ事はない。ヒッポスとクーという二人の邪神が居る事で、フェリスメルの一員だと感じているのである。なにせ、中心となる邪神フェリスの友人なのだから。それに、フェリス自体もたまに訪れて気に掛けてくれている。
村の本体からは遠い場所ではあるのだが、移住者たちは本当に満足して暮らしている。そして、こうも思っているのだ。本当にここに来てよかったと。
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