95 / 290
第95話 邪神ちゃんと無計画のツケ
しおりを挟む
土魔法で作った食品サンプルを目の前にご満悦のフェリス。品数が少ないせいか、2日目の開店までにひと通りを作ってしまっていた。本当に調子に乗った時の仕事は早いものである。
「うわぁ、これなら説明しなくても雰囲気は分かりますね」
「でしょう。それでも説明しなきゃいけない部分もあるだろうけど、食べ物の雰囲気は伝わるでしょうね」
着色した上に、中身も分かりやすくしたので、味以外に関しては大体伝わるはずである。店に入る前に分かりやすくした方がいいだろうと、店外の壁際に土魔法で棚を作って並べておいた。ついでに取れないように土魔法で接着である。そこにはこうとも書いておく。
『メニューの見本(食べられません)』
早速、その並べられた見本を見つけて、客が集まってくる。
「何なんだ、これ」
飾りつけを終えたフェリスに時間待ちの客が尋ねてくる。
「この二号店で扱っている食事を、土魔法で再現してみたんですよ。これなら扱っている物がよく分かるかなと思いましてね」
「ほぉ、これらが土魔法で……。昨日ここのメニューを食べてみたのだが、すごい再現度だな」
男性とフェリスのやり取りに、なんだなんだと通行人が集まってくる。その群衆に向けて、フェリスはその飾りを再度説明する。値段も書いてあるので、店に入る前に予算の組み立てもできるのは大きいものである。
そうしているうちに二号店2日目の営業が始まる。パン売り場だけは夕方まで営業する旨を伝えると、客の一部からは喜びの声が上がった。とにかく2日目も出だしから好調である。
外に置いたサンプルの効果は抜群だ。この料理はどういうものだという質問がめっきり減ったのである。おかげで客の回転率が上がる。袋やお皿とかは前日の貯金がまだ残っているので問題なさそうだった。
試食と初日の評判のおかげか、2日目もそれは大盛況である。一号店の時といい、この辺鄙な村にどうしてこんなに人が来ているのかまったく理解に苦しむ。しかし、このまま評判が広まれば、もっといろんな人がやって来そうではある。そうなる前に対策は立てておくべきだろう。
というわけで、昼ピークを捌き切った後は、ヒッポスとクー、それにメルに店を任せて、フェリスはアファカとヘンネに相談しに行く事にした。辺鄙な村だから、本格的に客足が増える前に準備しておきたいのだ。ちなみにこの二人に相談するのは、前日の反省からである。商売絡みの話なので、こと冷静な二人に相談するのだ。
「なるほど、料理のサンプルですか。これはなかなかな再現度ですね」
アファカがフェリスの作ったサンプルを触りながらぶつぶつと言っている。
「こういった再現度の高さは、さすがフェリスといったところですね。細かい所まで作られていますので、確かに見本品としては素晴らしい出来ですよ」
ヘンネからも絶賛である。
それにしても、この二人は正確も口調もよく似ている。一方は人間、一方は鳥の特徴の出ている魔族だが、生真面目さは本当に恐ろしいまでに共通しているのだ。
「この村への新たな客の到着は5日間ほど後になりますかね。最寄りの街までは2~3日間ですから、話題になればより多くの人が詰めかけるのは考えられる事ですね。拡張工事は急いでいますが、多分間に合わないでしょう」
どうやら二号店の拡張は間に合わないらしい。大規模な改装もあるので、作業がいろいろと面倒なせいである。後先をろくに考えないフェリスの暴走の結果である。フェリスは反省しろ。
「パンとジャムの取り扱いをこっちでも行えば、多少なりと分散は見込めるでしょう。同じ村なのですから、そういった助け合いはあってもいいかと思います」
「な、なるほど、確かにそうね」
アファカの提案にフェリスは乗っかってみる事にする。
そもそもフェリスメルの村の本体にも食堂や居酒屋はあるのだ。それに加えて宿屋も今では数件建てられている。職人街は簡易の宿泊所しかないし、食堂も居酒屋を兼ねた一軒のみなので、宿泊には向かない造りになっている。そういう事も考えれば村本体で扱う事は外部の人間にとっても都合がいいのである。その状況をベースに、フェリスはアファカとヘンネと共に今後の対策を話し合ったのだった。
「そういえば、ヘンネ。卵はどれくらい増やせそう?」
ひと通りの話も終わってアファカがまとめている最中、フェリスはヘンネにクルークの現状を訊いてみる。
「そうですね、近いうちには今の倍にはできるでしょう。倍にしたからといっても、今のプリンの限定数は倍にはできませんよ。他にも卵を使った料理を作るのですからね」
「あー、カスタードクリームとかオムレツとかかな。あれはおいしかったわね」
「小麦と卵と砂糖とミルクがあるなら、ケーキも作れますよ。その辺のレシピはまだペコラが覚えているでしょうから、卵の増産を頑張って作ってもらいましょう」
「それは楽しみね」
フェリスとヘンネは、人間と魔族の戦いの終結までに存在していた料理に思いを馳せているようである。
「とはいえ、誰かさんのように無計画に突っ走るわけにはいきません。今後の計画は必ず私たちに相談して下さいね、フェリス」
「……はーい」
しかし、ヘンネはまじめで手厳しかった。
昔の料理の再現までの道のりは、まだまだ遠いようである。
「うわぁ、これなら説明しなくても雰囲気は分かりますね」
「でしょう。それでも説明しなきゃいけない部分もあるだろうけど、食べ物の雰囲気は伝わるでしょうね」
着色した上に、中身も分かりやすくしたので、味以外に関しては大体伝わるはずである。店に入る前に分かりやすくした方がいいだろうと、店外の壁際に土魔法で棚を作って並べておいた。ついでに取れないように土魔法で接着である。そこにはこうとも書いておく。
『メニューの見本(食べられません)』
早速、その並べられた見本を見つけて、客が集まってくる。
「何なんだ、これ」
飾りつけを終えたフェリスに時間待ちの客が尋ねてくる。
「この二号店で扱っている食事を、土魔法で再現してみたんですよ。これなら扱っている物がよく分かるかなと思いましてね」
「ほぉ、これらが土魔法で……。昨日ここのメニューを食べてみたのだが、すごい再現度だな」
男性とフェリスのやり取りに、なんだなんだと通行人が集まってくる。その群衆に向けて、フェリスはその飾りを再度説明する。値段も書いてあるので、店に入る前に予算の組み立てもできるのは大きいものである。
そうしているうちに二号店2日目の営業が始まる。パン売り場だけは夕方まで営業する旨を伝えると、客の一部からは喜びの声が上がった。とにかく2日目も出だしから好調である。
外に置いたサンプルの効果は抜群だ。この料理はどういうものだという質問がめっきり減ったのである。おかげで客の回転率が上がる。袋やお皿とかは前日の貯金がまだ残っているので問題なさそうだった。
試食と初日の評判のおかげか、2日目もそれは大盛況である。一号店の時といい、この辺鄙な村にどうしてこんなに人が来ているのかまったく理解に苦しむ。しかし、このまま評判が広まれば、もっといろんな人がやって来そうではある。そうなる前に対策は立てておくべきだろう。
というわけで、昼ピークを捌き切った後は、ヒッポスとクー、それにメルに店を任せて、フェリスはアファカとヘンネに相談しに行く事にした。辺鄙な村だから、本格的に客足が増える前に準備しておきたいのだ。ちなみにこの二人に相談するのは、前日の反省からである。商売絡みの話なので、こと冷静な二人に相談するのだ。
「なるほど、料理のサンプルですか。これはなかなかな再現度ですね」
アファカがフェリスの作ったサンプルを触りながらぶつぶつと言っている。
「こういった再現度の高さは、さすがフェリスといったところですね。細かい所まで作られていますので、確かに見本品としては素晴らしい出来ですよ」
ヘンネからも絶賛である。
それにしても、この二人は正確も口調もよく似ている。一方は人間、一方は鳥の特徴の出ている魔族だが、生真面目さは本当に恐ろしいまでに共通しているのだ。
「この村への新たな客の到着は5日間ほど後になりますかね。最寄りの街までは2~3日間ですから、話題になればより多くの人が詰めかけるのは考えられる事ですね。拡張工事は急いでいますが、多分間に合わないでしょう」
どうやら二号店の拡張は間に合わないらしい。大規模な改装もあるので、作業がいろいろと面倒なせいである。後先をろくに考えないフェリスの暴走の結果である。フェリスは反省しろ。
「パンとジャムの取り扱いをこっちでも行えば、多少なりと分散は見込めるでしょう。同じ村なのですから、そういった助け合いはあってもいいかと思います」
「な、なるほど、確かにそうね」
アファカの提案にフェリスは乗っかってみる事にする。
そもそもフェリスメルの村の本体にも食堂や居酒屋はあるのだ。それに加えて宿屋も今では数件建てられている。職人街は簡易の宿泊所しかないし、食堂も居酒屋を兼ねた一軒のみなので、宿泊には向かない造りになっている。そういう事も考えれば村本体で扱う事は外部の人間にとっても都合がいいのである。その状況をベースに、フェリスはアファカとヘンネと共に今後の対策を話し合ったのだった。
「そういえば、ヘンネ。卵はどれくらい増やせそう?」
ひと通りの話も終わってアファカがまとめている最中、フェリスはヘンネにクルークの現状を訊いてみる。
「そうですね、近いうちには今の倍にはできるでしょう。倍にしたからといっても、今のプリンの限定数は倍にはできませんよ。他にも卵を使った料理を作るのですからね」
「あー、カスタードクリームとかオムレツとかかな。あれはおいしかったわね」
「小麦と卵と砂糖とミルクがあるなら、ケーキも作れますよ。その辺のレシピはまだペコラが覚えているでしょうから、卵の増産を頑張って作ってもらいましょう」
「それは楽しみね」
フェリスとヘンネは、人間と魔族の戦いの終結までに存在していた料理に思いを馳せているようである。
「とはいえ、誰かさんのように無計画に突っ走るわけにはいきません。今後の計画は必ず私たちに相談して下さいね、フェリス」
「……はーい」
しかし、ヘンネはまじめで手厳しかった。
昔の料理の再現までの道のりは、まだまだ遠いようである。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる