邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第88話 邪神ちゃんと鳥

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 ペコラが食堂で新しいメニューを作っている間、メルはヘンネを連れてフェリスメルの商業組合本部を訪れていた。
「ヘンネ様、こちらが商業組合の本部です。アファカさんがいらっしゃるか確認してきますので、しばらくお待ち下さい」
「分かりました」
 ヘンネを表に待たせて、メルは商業組合の中へと入る。そして、しばらくすると戻ってきた。
「お待たせしました。すぐにお話を伺いたいそうなので、中へと入りましょう」
 メルの言葉にヘンネはおとなしく従った。フェリスが大事にしているようなので、ヘンネはそれに従っているのだ。
 自由気ままなフェリスと堅物ヘンネは、本当に相性が良くないし反りが合わない。だからといっても、ヘンネがフェリスを立てないという事はなく、個性的な集まりである邪神集団をまとめ上げていた手腕と魅力には敬意を払っている。つまりは指導者としては尊敬できるものとして、ヘンネはフェリスと付き合っているのである。そもそもの反りが合わないので気苦労はするらしいが、決して悪くは思っていないらしい。
 まあ、それはともかくとして、商談室に入って、アファカとヘンネが向かい合った。ヘンネの隣にはメルが座る。
「はじめまして、フェリスの友人で鳥の邪神であるヘンネと申します。アファカ殿と申されましたか、以後お見知りおきを」
 ヘンネの礼儀正しさに驚くアファカ。ここまでの邪神たちはそれなりに個性的だったので、ちょっと意外だったようだ。
「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。私はこのフェリスメルの商業組合の組合長を務めるアファカと申します。基本的にこの村での商業展開については、私を通して頂けるとありがたいと思います」
「それはもちろんですとも。筋は通しておかなければ、後々のトラブルで困るのは自分ですからね」
 アファカの挨拶の後に注意点に同意するヘンネ。さすがは生真面目邪神である。
「先程、職人街の食堂で、鳥の卵が欲しいような話がありましたので、そこは私の方でお任せ願えるとよろしいかと存じます」
「そうですね。ハバリーさんの能力の事を聞きましたが、同種の動物や魔物を呼び寄せる事ができるそうですね」
「ええ、私の場合は、ハバリーとは違って種類ごとに呼び寄せる事ができます。そこで、食用の卵として適した種類の鳥を私が呼び寄せ、村で飼育しようかという提案をさせて頂こうと思います」
「まあ、そのような事が?!」
 ヘンネの能力と提案に、もの凄く驚くアファカ。
「これは実績のある事であります。ただ、人間と魔族との戦いで一時的に失われてしまいました。ノウハウ自体は私が保有しておりますので、いくらでも復活させる事はできます」
 ヘンネが言葉を続ければ、さらに驚かされる。そんな知識が今まで放置されていたのかと思うと、ショックを隠し切れなかった。
「求める存在が皆無でしたからね。私たちもあの戦い以降は散り散りとなっておりましたし、邪神という事で半ば身を隠すような感じで過ごしておりましたのでね」
「な、なるほど……」
 ヘンネの話した事情に納得のいくアファカだった。
 あの戦いの後というのは、人間から魔族への偏見は酷いものだったのだ。フェリスが言うにはフェリスたちは争いを好まなかったがために、魔族と分かる姿の者はしばらく姿を隠していたらしい。それが最後まで続いたのがフェリスだったのだが。人に近い姿の者ほど早くから表に出て活動していたそうで、ペコラとかはまさにそんな感じだった。ルディのように仲間のもとに帰った者も居るが少数だ。目の前のヘンネは分かりやすいくらいに魔族の姿なので、長く隠れていたタイプなのだろう。
「それで、いかが致しましょうか。必要ならばすぐにでも招集を掛けますが」
「できるのですか? それでしたら一番食用に向いた種類をお願いします」
「そうなると、クルークですかね。跳躍力がありますが、空は飛べません。食用の鳥の卵の中では栄養や味は他の追随を許さない種類ですから、食堂で出すというのなら一番向いた種類になりますね」
 そういうわけでヘンネが推してくるクルークという鳥を、早速お試しで番で呼び出してもらう。
 しばらくすると、どこからともなく数羽の鳥が駆け寄ってきた。
「クルクーッ!」
 鳴き声で分かりやすい。これがクルークである。見た目で言えば、ほぼ鶏である。
 集まってきたクルークは、ヘンネにものすごく懐いている。頭をこすりつけているくらいには気に入っているようだ。
「クルークは雑食性ですが、基本的な食べ物はもみ殻や虫です。この村では農産物が盛んなようですし、このクルークは果物も食べますから、餌には困らないでしょう」
 ヘンネはクルークと戯れながら説明をしている。
「クルークの育て方を説明しますので、村人を数名お借りする事はできますかね」
「え、ええ。それくらいでしたら」
 そういうわけで、アファカは組合を通じて数人の手の空いている者を集める。そして、空いている土地を示して、ヘンネやメルと一緒にその土地へと移動していった。
 ヘンネは一体何をするつもりなのだろうか。
「ちょっと危ないですので、その木の陰あたりに隠れていて下さい」
 ヘンネがこういうので、メルやアファカたちは言われた通りに下がる。そして、ヘンネが地面に手をつき魔力を流すと、次の瞬間、ヘンネを取り囲むように巨大な土壁が出現したのだった。
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