83 / 290
第83話 邪神ちゃんと課題
しおりを挟む
お持ち帰りカウンターの初日の運用はお昼ピークの補助的なものだけだったが、初日からして予想外だった。
なにせ、フェリスメルという今までは名の無き村だった場所に、商人をはじめとした大勢の人が詰めかけるまでになったのだから。持ち帰り用のカウンターひとつでは、とても捌けないという状況になったのだ。
それに、お持ち帰り用の食器の製造も大変だ。ハバリーの魔法で高熱圧縮して作っているのだが、それを作るのも結構時間が掛かる。ただでさえ金属の成分抽出で負担が大きいというのに、これ以上ハバリーに負担を求めていいのかが悩ましかった。邪神は人間よりかなりタフだとはいっても、やっぱり限界というのはある。お持ち帰り用は当分の間、ピーク時間限定で100食分とする事にした。食事の方がはどうにかできるが、食器の方が問題なのだ。
「とまぁ、こんなわけですね。ハバリーはただでさえ気が弱いですし、金属工房での仕事もあります。現状彼女にしかできない事が多いので、負担を考えてこの程度に抑える事にしました」
普段は酒場も兼業している食堂だが、今日は夕方には営業を打ち切った。そして、この会議である。
「それは賛成ですね。商人はそうでもないでしょうけれど、冒険者たちはその辺に投げ捨てる可能性がありますから、最終的に消えてなくなってしまうハバリー様特製の食器が一番ですね」
「私もそう思います。やはり、いろいろ考えるとハバリー様の食器が一番です。思いの外手に馴染むので持ちやすいんですよ」
食堂の従業員からは、ハバリーの食器は好評のようである。これにはフェリスも満足げである。自分の友人がこうやって評価されているのだから、自分の事のように嬉しいのである。
とりあえず当面の経営方針が決まったので、持ち帰り用のカウンターには、店の外に向けて注意書きを出しておく事にした。
『お昼の間だけの営業、限定100食。品切れの場合は店内でお買い求め下さい』
こういう注意書き看板である。カウンターの開閉窓に大きく書いておいた。これで苦情が来るなら文字を見てないか読めない奴という事である。読めないのならまあ仕方ないが、読まない奴はお帰り願おう。
「まっ、当面は私が対応するけれどね。お持ち帰りの営業が終わったら、いつも通り村を巡ってくるから、それでいいかしら」
「フェリス様の御心のままに」
フェリスがみんなに尋ねると、メルは当然ながら、メル以外からもそう返ってきて思わず引いてしまうフェリスである。ここまで信奉者が増えていたのか。フェリスはため息を漏らしながら、食堂の明日の仕込みはみんなに任せてメルと一緒に食堂を後にした。
「結構大変でしたね、フェリス様」
「ええ、こんな片田舎の成り上がりな町によく人が来るものだわ。あたしのイメージ邪魔だ村なんだけど」
村の様子を見回りに歩くフェリスとメルは、会話をしながら順番に村を巡っていく。問題が起きればすぐ対応できるようにと、常日頃から村の様子を把握するためである。
本村、職人街、移住者居住区と合わせると、かなりの大規模になったフェリスメルの村。やってくる人たちのイメージでは、もう町にランクアップしているようではあるが、元から住んでいるメルたちにもそんな意識はなかった。
しかし、村の規模は確実に着実に大きくなってきている。いい加減に村人たちの意識改革も必要かもしれない。だが、フェリスとしては前ののんびりした雰囲気の方がいいので、本村はこれ以上手を入れる気はない。職人街と移住者居住区はそもそも拡大を前提とした場所なので、そちらは対応が必要だろう。
「ああ、そういう事だったらボクたちで引き受けよう」
「フェリスって私よりものんびりしたのが好きだものね。気持ちは分かるわ」
ヒッポスとクーに相談をすれば、この二人はあっさり了承してくれた。
「ボクらはどちらかというと、賑やかなのにも対応は可能だ。引きこもりだったフェリスには荷が重いだろうな」
「ぐっ……、痛いところを突くわね」
ヒッポスの言葉に傷付くフェリス。事実だけに強く言い返せない。
「でも、フェリス様って、村人とは普通に話してましたよね?」
メルが疑問に思ったので突っ込んでくる。
「人が多すぎるのは苦手だけど、フェリスメルの元々の人数くらいなら平気よ。第一、あたしはこいつらのまとめ役をしてたんだからね?」
「まあ、たしかにそうね」
メルに言い返すフェリスだったが、なぜか反応したのクーだった。
「とりあえず、明日も食堂での手伝いだからね。なんであたしが客寄せで立ってなきゃいけないのよ……」
「この村の誰も、フェリス様を働かせようなんて誰も思いませんよ。フェリス様は目立つので、立っておられるだけで十分かと思います」
「いやまぁ、それはありがたいけどね。お店なんだからね? お持ち帰りが開くまで、あたしずっと立ってるって結構苦痛よ?」
フェリスが文句を言う。
「それだったら、立ってる間にお持ち帰り用の食器作ってればいいだろ。ハバリーの使う魔法はフェリスだって使えるんだから」
ヒッポスの冷静なツッコミに、フェリスはぽかんとしていた。
「……忘れてた。あたし、みんなの魔法はひと通り使えるんだった……」
フェリスがショックを受けて、その場にしゃがみ込んだ。しかし、仲間の邪神の魔法を全部扱えるって、それはずいぶんとチートだろう。
「昔、最初のご主人様の見よう見まねでやってた事なんだけど、うんまあ、そういう事なのよ」
フェリスは落ち込んでいるが、これで課題の一つはクリアできそうである。
何にしても、明日に向けてフェリスは気を取り直そうと、家に帰った後はメルにブラッシングをしてもらうのだった。
なにせ、フェリスメルという今までは名の無き村だった場所に、商人をはじめとした大勢の人が詰めかけるまでになったのだから。持ち帰り用のカウンターひとつでは、とても捌けないという状況になったのだ。
それに、お持ち帰り用の食器の製造も大変だ。ハバリーの魔法で高熱圧縮して作っているのだが、それを作るのも結構時間が掛かる。ただでさえ金属の成分抽出で負担が大きいというのに、これ以上ハバリーに負担を求めていいのかが悩ましかった。邪神は人間よりかなりタフだとはいっても、やっぱり限界というのはある。お持ち帰り用は当分の間、ピーク時間限定で100食分とする事にした。食事の方がはどうにかできるが、食器の方が問題なのだ。
「とまぁ、こんなわけですね。ハバリーはただでさえ気が弱いですし、金属工房での仕事もあります。現状彼女にしかできない事が多いので、負担を考えてこの程度に抑える事にしました」
普段は酒場も兼業している食堂だが、今日は夕方には営業を打ち切った。そして、この会議である。
「それは賛成ですね。商人はそうでもないでしょうけれど、冒険者たちはその辺に投げ捨てる可能性がありますから、最終的に消えてなくなってしまうハバリー様特製の食器が一番ですね」
「私もそう思います。やはり、いろいろ考えるとハバリー様の食器が一番です。思いの外手に馴染むので持ちやすいんですよ」
食堂の従業員からは、ハバリーの食器は好評のようである。これにはフェリスも満足げである。自分の友人がこうやって評価されているのだから、自分の事のように嬉しいのである。
とりあえず当面の経営方針が決まったので、持ち帰り用のカウンターには、店の外に向けて注意書きを出しておく事にした。
『お昼の間だけの営業、限定100食。品切れの場合は店内でお買い求め下さい』
こういう注意書き看板である。カウンターの開閉窓に大きく書いておいた。これで苦情が来るなら文字を見てないか読めない奴という事である。読めないのならまあ仕方ないが、読まない奴はお帰り願おう。
「まっ、当面は私が対応するけれどね。お持ち帰りの営業が終わったら、いつも通り村を巡ってくるから、それでいいかしら」
「フェリス様の御心のままに」
フェリスがみんなに尋ねると、メルは当然ながら、メル以外からもそう返ってきて思わず引いてしまうフェリスである。ここまで信奉者が増えていたのか。フェリスはため息を漏らしながら、食堂の明日の仕込みはみんなに任せてメルと一緒に食堂を後にした。
「結構大変でしたね、フェリス様」
「ええ、こんな片田舎の成り上がりな町によく人が来るものだわ。あたしのイメージ邪魔だ村なんだけど」
村の様子を見回りに歩くフェリスとメルは、会話をしながら順番に村を巡っていく。問題が起きればすぐ対応できるようにと、常日頃から村の様子を把握するためである。
本村、職人街、移住者居住区と合わせると、かなりの大規模になったフェリスメルの村。やってくる人たちのイメージでは、もう町にランクアップしているようではあるが、元から住んでいるメルたちにもそんな意識はなかった。
しかし、村の規模は確実に着実に大きくなってきている。いい加減に村人たちの意識改革も必要かもしれない。だが、フェリスとしては前ののんびりした雰囲気の方がいいので、本村はこれ以上手を入れる気はない。職人街と移住者居住区はそもそも拡大を前提とした場所なので、そちらは対応が必要だろう。
「ああ、そういう事だったらボクたちで引き受けよう」
「フェリスって私よりものんびりしたのが好きだものね。気持ちは分かるわ」
ヒッポスとクーに相談をすれば、この二人はあっさり了承してくれた。
「ボクらはどちらかというと、賑やかなのにも対応は可能だ。引きこもりだったフェリスには荷が重いだろうな」
「ぐっ……、痛いところを突くわね」
ヒッポスの言葉に傷付くフェリス。事実だけに強く言い返せない。
「でも、フェリス様って、村人とは普通に話してましたよね?」
メルが疑問に思ったので突っ込んでくる。
「人が多すぎるのは苦手だけど、フェリスメルの元々の人数くらいなら平気よ。第一、あたしはこいつらのまとめ役をしてたんだからね?」
「まあ、たしかにそうね」
メルに言い返すフェリスだったが、なぜか反応したのクーだった。
「とりあえず、明日も食堂での手伝いだからね。なんであたしが客寄せで立ってなきゃいけないのよ……」
「この村の誰も、フェリス様を働かせようなんて誰も思いませんよ。フェリス様は目立つので、立っておられるだけで十分かと思います」
「いやまぁ、それはありがたいけどね。お店なんだからね? お持ち帰りが開くまで、あたしずっと立ってるって結構苦痛よ?」
フェリスが文句を言う。
「それだったら、立ってる間にお持ち帰り用の食器作ってればいいだろ。ハバリーの使う魔法はフェリスだって使えるんだから」
ヒッポスの冷静なツッコミに、フェリスはぽかんとしていた。
「……忘れてた。あたし、みんなの魔法はひと通り使えるんだった……」
フェリスがショックを受けて、その場にしゃがみ込んだ。しかし、仲間の邪神の魔法を全部扱えるって、それはずいぶんとチートだろう。
「昔、最初のご主人様の見よう見まねでやってた事なんだけど、うんまあ、そういう事なのよ」
フェリスは落ち込んでいるが、これで課題の一つはクリアできそうである。
何にしても、明日に向けてフェリスは気を取り直そうと、家に帰った後はメルにブラッシングをしてもらうのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳
キムラましゅろう
恋愛
わたし、ハノン=ルーセル(22)は術式を基に魔法で薬を
精製する魔法薬剤師。
地方都市ハイレンで西方騎士団の専属薬剤師として勤めている。
そんなわたしには命よりも大切な一人息子のルシアン(3)がいた。
そしてわたしはシングルマザーだ。
ルシアンの父親はたった一夜の思い出にと抱かれた相手、
フェリックス=ワイズ(23)。
彼は何を隠そうわたしの命の恩人だった。侯爵家の次男であり、
栄誉ある近衛騎士でもある彼には2人の婚約者候補がいた。
わたし?わたしはもちろん全くの無関係な部外者。
そんなわたしがなぜ彼の子を密かに生んだのか……それは絶対に
知られてはいけないわたしだけの秘密なのだ。
向こうはわたしの事なんて知らないし、あの夜の事だって覚えているのかもわからない。だからこのまま息子と二人、
穏やかに暮らしていけると思ったのに……!?
いつもながらの完全ご都合主義、
完全ノーリアリティーのお話です。
性描写はありませんがそれを匂わすワードは出てきます。
苦手な方はご注意ください。
小説家になろうさんの方でも同時に投稿します。
【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる