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第82話 邪神ちゃんとお持ち帰り
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昼のピークが始まり、通常のホール営業はいつものように混み合い始める。時間に縛られないはずの生活なのに、なぜかみんな食事をする時間というのは揃ってしまう不思議である。体内時計の恐ろしさというものだ。
職人街の商人たちや行商人たちがこぞって食堂に集まってくる。なにぶんこの職人街、食事処がここにしかないのである。となれば職人街のほとんどが食堂に集う事になるので混み合ってしまうのだ。自宅で食べるのも居るには居るが少数派だったのである。
食堂のホールでは給仕の村人たちがひっきりなしに動いている。だが、フェリスは持ち帰り用のカウンターで棒立ち状態である。どこか申し訳なくなる。
「フェリス様は会計のためにそこに立ってくれていればいいんです」
「そうですよ。わざわざフェリス様の手を煩わせるわけにはいきません」
給仕をしている村人たちが、フォローのような何かをしてくれている。そこまで言われると、フェリスはそのままお持ち帰り用のカウンターでたははと立ち続けていた。
お昼のピークが強まってくると、ついには食堂に入れない客が出てくる。フェリスはその人たちを見かけると、声を掛ける。
「もし、店内で召し上がらないのでしたら、こちらでお持ち帰りの注文ができますよ」
ちょいちょいと手招きをするフェリス。そのフェリスの姿に気が付いた人たちが、その珍しい姿についつい寄ってきてしまった。
「あの、何なのでしょうか」
「今日からお持ち帰りを始めたのです。店内で食べられる食事からすると種類は少ないですけれど、ここの料理を家などで食べる事ができるんですよ」
フェリスは店員モードで丁寧に説明している。
「へえ、どんなものがあるんですかね」
カウンターまでやって来た人物が内容を詳しく教えて欲しいと言ってきたので、フェリスはその要望に応えて、持ち帰り用のメニューを伝える。
「今日から始めたばかりですので、今のところはこれだけですね。パンと串焼きとピザ、それと飲み物数種類です。器の見本としてはこれをどうぞ」
フェリスが取り出したのは、ハバリーの魔法で作り出した土を固めた皿とコップと串だった。
「材料は土ですけれど、魔法でガッチガチに固めてありますので清潔ですし、簡単には壊れませんよ。それでいて、土に埋めてしばらく置いておくと土に還っちゃう優れものなんですよ。この持ち帰りメニューのためだけに作りました」
まるで商品を売り込むように話すフェリス。そう言いつつ叩く見本の食器だが、コンコンと十分な固さを持っている音を立てていた。だが、客の方からすれば十分に興味を引きつけられたようである。
「へえ、じゃあこのピザってのをよろしく頼む。飲み物はオレンジで」
「はい、畏まりました」
くるりと店内に振り返って注文を通すフェリス。それに対してメルから返事があり、すぐに料理が運ばれてきた。土の皿に乗ったピザ8分の1とオレンジコップ一杯である。
「へえ、店内で待たなくても料理が出てくるんだな、すげえ」
「こちら様の料理はお待たせが基本発生しないように用意させて頂いてます。方法は内緒ですけれど、熱々がしばらく保てるようにしてあるんですよ」
フェリスは唇に人差し指を当てて笑っている。あっ、この表情は邪神っぽい。
「あと、この職人街にはあちこちに椅子とテーブルがありますので、そちらもぜひご利用下さい。ちなみにそちらの代金はあわせて銅貨10枚ですね」
「うへっ、銀貨の10分の1か。だが、むしろ安い部類だな。よし、払おう」
ピザとオレンジを頼んだ男は、カウンターに銅貨を置いていく。
「はい、確かに銅貨10枚ですね。ありがとうございます。本来ならもう少し頂くところですが、今日はサービス開始初日なので、少し安く設定させて頂いております。またのご利用お待ちしてますね」
フェリスがにっこりと微笑むと、男は少し顔を赤くしていた。
(いかん、目の前に居るのは魔族だ。ああ、俺は一体何を考えてるんだあっ!)
男が悩むのも無理はない。フェリスは実に見た目がきれいなのだ。それゆえに全身毛むくじゃらの猫の魔族という事実との間で思い切り悩んでしまうのであった。
男がとぼとぼと歩いていく姿を、フェリスは呆れながら手を振って見送っていた。
とりあえず、第一のお客の対応は無事に終わった。
だが、ここからが本当の戦いの始まりである。
男とフェリスのやり取りを見ていた食堂が空くのを待っていた待ちの客が、フェリスの方に殺到してきたのである。ここでも食事を買えると分かったようなので、それならばと詰め寄ってきたのである。
こうなると、さっきまでとは一変、まったくもって余裕がなくなってしまった。口コミでさらに広がって、店の内外に客が殺到する食堂は、それは阿鼻叫喚の大わらわとなった。
その最大の被害者は厨房である。店内料理と店外料理の両方への対応を迫られてしまい、何度となく料理を取り違えそうになってしまった。それでも、ある程度の店外用料理を作りだめしておいたのは正解だった。特にピザは調理が面倒で時間が掛かるからだ。しかし、昼間の様子を見て店内のピークが過ぎ去ると、お持ち帰り用のカウンターはあえなく終了となったのだった。
「こ、これは明日からはもうちょっと考えなきゃだめね」
フェリスたちは大いに反省会をする事になったのだった。
職人街の商人たちや行商人たちがこぞって食堂に集まってくる。なにぶんこの職人街、食事処がここにしかないのである。となれば職人街のほとんどが食堂に集う事になるので混み合ってしまうのだ。自宅で食べるのも居るには居るが少数派だったのである。
食堂のホールでは給仕の村人たちがひっきりなしに動いている。だが、フェリスは持ち帰り用のカウンターで棒立ち状態である。どこか申し訳なくなる。
「フェリス様は会計のためにそこに立ってくれていればいいんです」
「そうですよ。わざわざフェリス様の手を煩わせるわけにはいきません」
給仕をしている村人たちが、フォローのような何かをしてくれている。そこまで言われると、フェリスはそのままお持ち帰り用のカウンターでたははと立ち続けていた。
お昼のピークが強まってくると、ついには食堂に入れない客が出てくる。フェリスはその人たちを見かけると、声を掛ける。
「もし、店内で召し上がらないのでしたら、こちらでお持ち帰りの注文ができますよ」
ちょいちょいと手招きをするフェリス。そのフェリスの姿に気が付いた人たちが、その珍しい姿についつい寄ってきてしまった。
「あの、何なのでしょうか」
「今日からお持ち帰りを始めたのです。店内で食べられる食事からすると種類は少ないですけれど、ここの料理を家などで食べる事ができるんですよ」
フェリスは店員モードで丁寧に説明している。
「へえ、どんなものがあるんですかね」
カウンターまでやって来た人物が内容を詳しく教えて欲しいと言ってきたので、フェリスはその要望に応えて、持ち帰り用のメニューを伝える。
「今日から始めたばかりですので、今のところはこれだけですね。パンと串焼きとピザ、それと飲み物数種類です。器の見本としてはこれをどうぞ」
フェリスが取り出したのは、ハバリーの魔法で作り出した土を固めた皿とコップと串だった。
「材料は土ですけれど、魔法でガッチガチに固めてありますので清潔ですし、簡単には壊れませんよ。それでいて、土に埋めてしばらく置いておくと土に還っちゃう優れものなんですよ。この持ち帰りメニューのためだけに作りました」
まるで商品を売り込むように話すフェリス。そう言いつつ叩く見本の食器だが、コンコンと十分な固さを持っている音を立てていた。だが、客の方からすれば十分に興味を引きつけられたようである。
「へえ、じゃあこのピザってのをよろしく頼む。飲み物はオレンジで」
「はい、畏まりました」
くるりと店内に振り返って注文を通すフェリス。それに対してメルから返事があり、すぐに料理が運ばれてきた。土の皿に乗ったピザ8分の1とオレンジコップ一杯である。
「へえ、店内で待たなくても料理が出てくるんだな、すげえ」
「こちら様の料理はお待たせが基本発生しないように用意させて頂いてます。方法は内緒ですけれど、熱々がしばらく保てるようにしてあるんですよ」
フェリスは唇に人差し指を当てて笑っている。あっ、この表情は邪神っぽい。
「あと、この職人街にはあちこちに椅子とテーブルがありますので、そちらもぜひご利用下さい。ちなみにそちらの代金はあわせて銅貨10枚ですね」
「うへっ、銀貨の10分の1か。だが、むしろ安い部類だな。よし、払おう」
ピザとオレンジを頼んだ男は、カウンターに銅貨を置いていく。
「はい、確かに銅貨10枚ですね。ありがとうございます。本来ならもう少し頂くところですが、今日はサービス開始初日なので、少し安く設定させて頂いております。またのご利用お待ちしてますね」
フェリスがにっこりと微笑むと、男は少し顔を赤くしていた。
(いかん、目の前に居るのは魔族だ。ああ、俺は一体何を考えてるんだあっ!)
男が悩むのも無理はない。フェリスは実に見た目がきれいなのだ。それゆえに全身毛むくじゃらの猫の魔族という事実との間で思い切り悩んでしまうのであった。
男がとぼとぼと歩いていく姿を、フェリスは呆れながら手を振って見送っていた。
とりあえず、第一のお客の対応は無事に終わった。
だが、ここからが本当の戦いの始まりである。
男とフェリスのやり取りを見ていた食堂が空くのを待っていた待ちの客が、フェリスの方に殺到してきたのである。ここでも食事を買えると分かったようなので、それならばと詰め寄ってきたのである。
こうなると、さっきまでとは一変、まったくもって余裕がなくなってしまった。口コミでさらに広がって、店の内外に客が殺到する食堂は、それは阿鼻叫喚の大わらわとなった。
その最大の被害者は厨房である。店内料理と店外料理の両方への対応を迫られてしまい、何度となく料理を取り違えそうになってしまった。それでも、ある程度の店外用料理を作りだめしておいたのは正解だった。特にピザは調理が面倒で時間が掛かるからだ。しかし、昼間の様子を見て店内のピークが過ぎ去ると、お持ち帰り用のカウンターはあえなく終了となったのだった。
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