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第80話 邪神ちゃんと商売の可能性
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さて、職人街では新しい商売が発生していた。それはハバリーの能力を最大限に活かしたものである。ただ、ハバリーの人見知りは相変わらずのようで、表には出たくなかったらしいけれど、能力を直に見てもらう必要があるので、そこはなんとか我慢してもらった。
そう、鉱石を持ち込めばインゴットにするというサービスだ。普通に工房に依頼を出すと製錬精度は安定しないが、ハバリーに任せると金属の種類ごとにほぼ100%の純度を保ったインゴットになるのだ。そりゃ人気になるというものである。
「私、目立ちたくないのに……」
ハバリーはそう言ってはいるが、ほぼハバリーしか持っていない能力なので仕方がない事だろう。口コミもあってか、この事はあっという間に広まっていった。ハバリーは泣きそうになっていた。
というわけで、あまりに泣きじゃくるので、仕方なく数日間我慢してもらった後に、裏へと引っ込んでもらった。これ以上表に出していては、本当に精神的に不安定になって何をするか分からないからだ。こういうところがさすが邪神といったところだろう。金属工房へやって来るお客たちにも、ハバリーの事は十分理解してもらう事にした。するといい人ばかりなのか、それじゃ仕方ないなとすんなり理解してくれた。これは単純に、変にへそを曲げられてインゴットを作ってくれなくなる方が損害が大きいと考える商人が多かった事によるもののようだ。さすがは商人、そういう損得勘定はすぐに弾き出せてしまう。
それにしても、このハバリーの抽出魔法は、何も鉱石に限ったものではなかったようで、他には宝石だったり、食べ物とかの成分だったりと、かなり有能。ただ、現状一番求められるのはやっぱり鉱石のようである。
ただこのサービスはたまにお休みしており、その際になるとやって来た商人たちがしょんぼりした顔で帰っていく姿が見られた。そこでフェリスは何を考えたのか、必要な金属のインゴットと差額を引き替えれば、持ち込んだ鉱石を引き取るという商売を思いついた。そしたらば、それもそれで商人にとっては嬉しい事のようで、これも瞬く間に商人たちの間で口コミで広がっていった。
こうして、金属工房の開業から3か月ほどが経っていったのである。
金属工房の隣の商店には、ハバリーが作っておいたインゴットが今日も並んでいる。やはり一番人気は魔法銀で白金貨数枚の値段なので、余裕のある商人はそれを購入していく。ちなみに白金のインゴットは白金貨1枚で買えて、白金のインゴットからは白金貨が20枚程度作れる。なんという錬金術。
だが、この辺りはゼニスからもツッコミはされていない。白金は装飾品に使われる事もあるし、商人全部がそういう事をする連中ではないので、たまに居るそういうのは無視しても問題がないのだろう。
「いやまぁ、このインゴットの純度の高さは何度見ても驚かされますね。さすがは邪神とまで呼ばれた魔族なだけはありますね」
「あ、あの……、ありがとう、ございます……」
アファカに褒められたハバリーは、恥ずかしそうにもじもじしながらお礼を言っていた。
「本当にハバリーの子の性格だけは直らないわね。直接的な攻撃手段が多いけれど、この性格のせいで後方支援の方が得意まであるものね」
フェリスはハバリーを見ながらお小言を言っている。
「でもまぁ、あたしの仲間はアタッカーが多いから、ハバリーのような後方支援は助かると言ったら助かるのよね」
こう言ってフェリスはハバリーに抱きついてアファカを見る。
「それに、ハバリーも大事な仲間だから、どんな風に言われようとも、あたしは手放す気はないからね」
「あわ、あわわわわ……」
急にフェリスに抱きつかれて頬をくっつけられてしまったので、ハバリーがもの凄く慌てふためいている。その光景を見たメルが頬を膨らませるかなと思ったら、今回は微笑ましく眺めていた。メルも成長したものである。
「食事中くらいおとなしく食べるといいのだ」
そう言ってきたのはペコラである。そう、今居るのは職人街にある食堂の中だ。真昼間のピークが過ぎてちょうどくつろいでいるところである。なので、こうやってゆっくり食べていても怒られないというわけだ。ピークの真っ最中だと待っている客から怒号が飛んでくる事もしばしばあるそうだ。
「ペコラ、そういううるさい客が居たらぶっ飛ばせばいいからね。対応できないのなら呼んでちょうだい。騒がしくして周りに迷惑を掛けるような客は要らないから」
「分かったのだ」
フェリスの言い分に、ペコラはピシッと敬礼のようなポーズを取る。
「とはいえ、そういう待てない人のための販売方法も考えた方がいいですね。屋台が出せないのなら、食堂でそういう形式の窓口を作ってもいいかと思います」
「んー、それもいいわね。食堂のメニューの一部を持ち帰り形式にするって事よね。でかしたわ、メル」
「それはいいですね。増設の手配なども、すぐにでも致しましょう」
アファカはどこからともなく紙とペンとインクを取り出した。どこに持ち歩いているのだろうか。
「増設もそうですけれど、持ち帰りに対応できるメニューも絞らないといけませんよ。店内提供と同じように出せるとは限りませんしね」
息巻くアファカをフェリスが牽制する。
「話すのはいいけれど、客席でするのは勘弁してほしいのだ。事務室があるから、そっちに回ってくれなのだ」
ペコラに怒られたフェリスたちは、まずは食事を済ませる事にする。そして、会計の後はペコラに言われた通りに事務室へと移動するのだった。
そう、鉱石を持ち込めばインゴットにするというサービスだ。普通に工房に依頼を出すと製錬精度は安定しないが、ハバリーに任せると金属の種類ごとにほぼ100%の純度を保ったインゴットになるのだ。そりゃ人気になるというものである。
「私、目立ちたくないのに……」
ハバリーはそう言ってはいるが、ほぼハバリーしか持っていない能力なので仕方がない事だろう。口コミもあってか、この事はあっという間に広まっていった。ハバリーは泣きそうになっていた。
というわけで、あまりに泣きじゃくるので、仕方なく数日間我慢してもらった後に、裏へと引っ込んでもらった。これ以上表に出していては、本当に精神的に不安定になって何をするか分からないからだ。こういうところがさすが邪神といったところだろう。金属工房へやって来るお客たちにも、ハバリーの事は十分理解してもらう事にした。するといい人ばかりなのか、それじゃ仕方ないなとすんなり理解してくれた。これは単純に、変にへそを曲げられてインゴットを作ってくれなくなる方が損害が大きいと考える商人が多かった事によるもののようだ。さすがは商人、そういう損得勘定はすぐに弾き出せてしまう。
それにしても、このハバリーの抽出魔法は、何も鉱石に限ったものではなかったようで、他には宝石だったり、食べ物とかの成分だったりと、かなり有能。ただ、現状一番求められるのはやっぱり鉱石のようである。
ただこのサービスはたまにお休みしており、その際になるとやって来た商人たちがしょんぼりした顔で帰っていく姿が見られた。そこでフェリスは何を考えたのか、必要な金属のインゴットと差額を引き替えれば、持ち込んだ鉱石を引き取るという商売を思いついた。そしたらば、それもそれで商人にとっては嬉しい事のようで、これも瞬く間に商人たちの間で口コミで広がっていった。
こうして、金属工房の開業から3か月ほどが経っていったのである。
金属工房の隣の商店には、ハバリーが作っておいたインゴットが今日も並んでいる。やはり一番人気は魔法銀で白金貨数枚の値段なので、余裕のある商人はそれを購入していく。ちなみに白金のインゴットは白金貨1枚で買えて、白金のインゴットからは白金貨が20枚程度作れる。なんという錬金術。
だが、この辺りはゼニスからもツッコミはされていない。白金は装飾品に使われる事もあるし、商人全部がそういう事をする連中ではないので、たまに居るそういうのは無視しても問題がないのだろう。
「いやまぁ、このインゴットの純度の高さは何度見ても驚かされますね。さすがは邪神とまで呼ばれた魔族なだけはありますね」
「あ、あの……、ありがとう、ございます……」
アファカに褒められたハバリーは、恥ずかしそうにもじもじしながらお礼を言っていた。
「本当にハバリーの子の性格だけは直らないわね。直接的な攻撃手段が多いけれど、この性格のせいで後方支援の方が得意まであるものね」
フェリスはハバリーを見ながらお小言を言っている。
「でもまぁ、あたしの仲間はアタッカーが多いから、ハバリーのような後方支援は助かると言ったら助かるのよね」
こう言ってフェリスはハバリーに抱きついてアファカを見る。
「それに、ハバリーも大事な仲間だから、どんな風に言われようとも、あたしは手放す気はないからね」
「あわ、あわわわわ……」
急にフェリスに抱きつかれて頬をくっつけられてしまったので、ハバリーがもの凄く慌てふためいている。その光景を見たメルが頬を膨らませるかなと思ったら、今回は微笑ましく眺めていた。メルも成長したものである。
「食事中くらいおとなしく食べるといいのだ」
そう言ってきたのはペコラである。そう、今居るのは職人街にある食堂の中だ。真昼間のピークが過ぎてちょうどくつろいでいるところである。なので、こうやってゆっくり食べていても怒られないというわけだ。ピークの真っ最中だと待っている客から怒号が飛んでくる事もしばしばあるそうだ。
「ペコラ、そういううるさい客が居たらぶっ飛ばせばいいからね。対応できないのなら呼んでちょうだい。騒がしくして周りに迷惑を掛けるような客は要らないから」
「分かったのだ」
フェリスの言い分に、ペコラはピシッと敬礼のようなポーズを取る。
「とはいえ、そういう待てない人のための販売方法も考えた方がいいですね。屋台が出せないのなら、食堂でそういう形式の窓口を作ってもいいかと思います」
「んー、それもいいわね。食堂のメニューの一部を持ち帰り形式にするって事よね。でかしたわ、メル」
「それはいいですね。増設の手配なども、すぐにでも致しましょう」
アファカはどこからともなく紙とペンとインクを取り出した。どこに持ち歩いているのだろうか。
「増設もそうですけれど、持ち帰りに対応できるメニューも絞らないといけませんよ。店内提供と同じように出せるとは限りませんしね」
息巻くアファカをフェリスが牽制する。
「話すのはいいけれど、客席でするのは勘弁してほしいのだ。事務室があるから、そっちに回ってくれなのだ」
ペコラに怒られたフェリスたちは、まずは食事を済ませる事にする。そして、会計の後はペコラに言われた通りに事務室へと移動するのだった。
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