邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
80 / 290

第80話 邪神ちゃんと商売の可能性

しおりを挟む
 さて、職人街では新しい商売が発生していた。それはハバリーの能力を最大限に活かしたものである。ただ、ハバリーの人見知りは相変わらずのようで、表には出たくなかったらしいけれど、能力を直に見てもらう必要があるので、そこはなんとか我慢してもらった。
 そう、鉱石を持ち込めばインゴットにするというサービスだ。普通に工房に依頼を出すと製錬精度は安定しないが、ハバリーに任せると金属の種類ごとにほぼ100%の純度を保ったインゴットになるのだ。そりゃ人気になるというものである。
「私、目立ちたくないのに……」
 ハバリーはそう言ってはいるが、ほぼハバリーしか持っていない能力なので仕方がない事だろう。口コミもあってか、この事はあっという間に広まっていった。ハバリーは泣きそうになっていた。
 というわけで、あまりに泣きじゃくるので、仕方なく数日間我慢してもらった後に、裏へと引っ込んでもらった。これ以上表に出していては、本当に精神的に不安定になって何をするか分からないからだ。こういうところがさすが邪神といったところだろう。金属工房へやって来るお客たちにも、ハバリーの事は十分理解してもらう事にした。するといい人ばかりなのか、それじゃ仕方ないなとすんなり理解してくれた。これは単純に、変にへそを曲げられてインゴットを作ってくれなくなる方が損害が大きいと考える商人が多かった事によるもののようだ。さすがは商人、そういう損得勘定はすぐに弾き出せてしまう。
 それにしても、このハバリーの抽出魔法は、何も鉱石に限ったものではなかったようで、他には宝石だったり、食べ物とかの成分だったりと、かなり有能。ただ、現状一番求められるのはやっぱり鉱石のようである。
 ただこのサービスはたまにお休みしており、その際になるとやって来た商人たちがしょんぼりした顔で帰っていく姿が見られた。そこでフェリスは何を考えたのか、必要な金属のインゴットと差額を引き替えれば、持ち込んだ鉱石を引き取るという商売を思いついた。そしたらば、それもそれで商人にとっては嬉しい事のようで、これも瞬く間に商人たちの間で口コミで広がっていった。
 こうして、金属工房の開業から3か月ほどが経っていったのである。
 金属工房の隣の商店には、ハバリーが作っておいたインゴットが今日も並んでいる。やはり一番人気は魔法銀で白金貨数枚の値段なので、余裕のある商人はそれを購入していく。ちなみに白金のインゴットは白金貨1枚で買えて、白金のインゴットからは白金貨が20枚程度作れる。なんという錬金術。
 だが、この辺りはゼニスからもツッコミはされていない。白金は装飾品に使われる事もあるし、商人全部がそういう事をする連中ではないので、たまに居るそういうのは無視しても問題がないのだろう。
「いやまぁ、このインゴットの純度の高さは何度見ても驚かされますね。さすがは邪神とまで呼ばれた魔族なだけはありますね」
「あ、あの……、ありがとう、ございます……」
 アファカに褒められたハバリーは、恥ずかしそうにもじもじしながらお礼を言っていた。
「本当にハバリーの子の性格だけは直らないわね。直接的な攻撃手段が多いけれど、この性格のせいで後方支援の方が得意まであるものね」
 フェリスはハバリーを見ながらお小言を言っている。
「でもまぁ、あたしの仲間はアタッカーが多いから、ハバリーのような後方支援は助かると言ったら助かるのよね」
 こう言ってフェリスはハバリーに抱きついてアファカを見る。
「それに、ハバリーも大事な仲間だから、どんな風に言われようとも、あたしは手放す気はないからね」
「あわ、あわわわわ……」
 急にフェリスに抱きつかれて頬をくっつけられてしまったので、ハバリーがもの凄く慌てふためいている。その光景を見たメルが頬を膨らませるかなと思ったら、今回は微笑ましく眺めていた。メルも成長したものである。
「食事中くらいおとなしく食べるといいのだ」
 そう言ってきたのはペコラである。そう、今居るのは職人街にある食堂の中だ。真昼間のピークが過ぎてちょうどくつろいでいるところである。なので、こうやってゆっくり食べていても怒られないというわけだ。ピークの真っ最中だと待っている客から怒号が飛んでくる事もしばしばあるそうだ。
「ペコラ、そういううるさい客が居たらぶっ飛ばせばいいからね。対応できないのなら呼んでちょうだい。騒がしくして周りに迷惑を掛けるような客は要らないから」
「分かったのだ」
 フェリスの言い分に、ペコラはピシッと敬礼のようなポーズを取る。
「とはいえ、そういう待てない人のための販売方法も考えた方がいいですね。屋台が出せないのなら、食堂でそういう形式の窓口を作ってもいいかと思います」
「んー、それもいいわね。食堂のメニューの一部を持ち帰り形式にするって事よね。でかしたわ、メル」
「それはいいですね。増設の手配なども、すぐにでも致しましょう」
 アファカはどこからともなく紙とペンとインクを取り出した。どこに持ち歩いているのだろうか。
「増設もそうですけれど、持ち帰りに対応できるメニューも絞らないといけませんよ。店内提供と同じように出せるとは限りませんしね」
 息巻くアファカをフェリスが牽制する。
「話すのはいいけれど、客席でするのは勘弁してほしいのだ。事務室があるから、そっちに回ってくれなのだ」
 ペコラに怒られたフェリスたちは、まずは食事を済ませる事にする。そして、会計の後はペコラに言われた通りに事務室へと移動するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...