邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
77 / 290

第77話 邪神ちゃんと喧騒の村

しおりを挟む
 さてさて、金属工房が順調な滑り出しを決めた事で、職人街は更なる拡張の機運が高まっていた。その理由はハバリーが作り出す純度の高いインゴットのせいである。様々な種類の金属の純度の高いインゴットは、職人街の商品の目玉となっているのだ。
「私、役に立っているんですかね」
 ハバリーはどうにも自信がなさげである。ボアといえば猪なので、猪突猛進というように勢いが強そうなイメージなのに、ハバリーは前髪で目を隠していて、実に自信なさげである。
「あの金属を生み出す魔法はハバリーの専売特許と言っていいものよ。もっと自信を持ちなさい」
 職人街にやって来ていたフェリスは、ハバリーにそう言って聞かせていた。その後ろではメルが頷いている。本当に、どうしてここまでハバリーは自信がないのだろうか。キャラが安定しないくらいにはほぼおどおどとしている。
「いやはや、鉱石から金属を取り出す作業って、結構難しいんですよ。普通の人は魔法なんてほぼ使えませんし、これだけの純度を出そうと思ったら熟練の職人でも結構難しいですよ」
 そう話すのは、村にやって来た職人の一人、皮革職人のピールだった。
「そうそう。ハバリーさんに任せっきりでは私たちの腕は上がりませんが、金属を用意してい頂けるのは実に助かりますね。装備や道具の製作に集中できますから」
 同じようにティアラも嬉しそうにハバリーに話し掛けている。あまりに明るく話し掛けてくるので、ハバリーはついフェリスの後ろに隠れてしまった。人見知りが過ぎる。
「ははっ、邪神って聞いていたけれど、こういうところを見せられちゃうと、私たち人間とそんなに変わりませんね」
 くすくすとティアラは笑っていた。その姿を見て、ハバリーは更にフェリスの後ろに隠れてしまった。まったくどれだけ怖がっているのやら。
「とにかく、ハバリーさんの能力のおかげで私たちは大いに助かっています。本当にありがとうございます」
 ウッディたちからお礼を言われると、ハバリーはフェリスの背中に顔を押し付けてしまった。照れているらしい。本当にこれで邪神と呼ばれているのだから、言葉がいかに当てにならないのかがよく分かるのだった。
 というわけで、フェリスたちはウッディたちと別れて、隣の装備品を扱う商店へとやって来た。ここには三人が作った様々な材料の製品が売られている。1階は武具、2階は装飾品だ。既に中には多くの人が入ってきて品定めを行っていた。ハバリーはやっぱりフェリスの後ろに隠れてしまった。
 そういう事もあって、フェリスは大盛況ぶりを確認しただけで、店から出てきてしまった。
「本当にハバリー様って、人見知りが激しいんですね」
「まったくなのよね。それでも能力は光るものがあるから、裏方で頑張ってもらってたのよね。私の恩恵の一つである植物の育成促進も、そもそもはハバリーの土魔法を特化させたものだからね。ボアだからアタッカーと思われがちだけど、実は防御特化なのよ、この子は」
 フェリスとメルが話していると、ペコラが出てきた。
「あー、フェリス様、ちょうどよかったのだ。ちょっと店を手伝って欲しいのだ」
 ペコラが出てきた食堂を見てみると、昼時ともあってか人が溢れかえっている。なるほど、人を捌けないで困っているようだ。
「まあ仕方ないか。ハバリーも手伝うわよ」
「えっ、ええ?!」
 ハバリーは踏ん張ってはいるが、さすがは邪神グループのリーダーであるフェリス。踏ん張るハバリーをずるずると引きずってしまっていた。ちなみにハバリーの脚力はボアの突進を止められるくらい強力である。それを引きずるフェリスとは一体どんな怪力なのだろうか。
「ハバリーの脚力は確かにすごいんだけど、コツがあるのよ、コツが」
 驚くメルに、フェリスはそうとだけ言っていた。
 食堂に入った三人は、それぞれに手伝いをする。ハバリーは裏方として下ごしらえを手伝う。メルは料理ができるので調理補助、フェリスは表に出て接客である。
 白い毛並みに黒い翼と赤い髪のフェリスはそれはとても目立っていた。やって来る客の目を十分に引き付けていた。その上、店内を見回すと、何やらひそひそ話すらされている。耳を傾けてみれば、どうやらゼニスと親交のある商人のようで、フェリスの事はだいぶ噂として広まっているようだった。好意的に広まっているようなので、フェリスは複雑に思いつつもそれはそれとして満足していた。
 ようやく食堂の混雑が収まると、厨房ではメルとハバリーが目を回しそうになっていた。
「お疲れだったのだ。これはあーしからのお礼なのだ」
 ことりとフェリスを含めた三人の前に出されたのは、白くて冷たいものだった。
「これは?」
「アイスクリームなのだ。これも失われた過去の料理を、あーしが再現してみたものなのだ。疲れた時にはこういうのが一番なのだ」
 メルの質問に、ペコラは明るく笑いながら答えていた。
 とりあえず未知の物を見ながら、恐る恐るスプーンですくって食べるメル。口に入れた瞬間、ぱあっと表情が明るくなった。
「冷たくて甘くておいしいです!」
「はっはっはっ、喜んでくれて何よりなのだ。材料が手に入りにくいから、食堂で出すメニューにはまだ向かないのがつらいのだ」
 ペコラは明るく言いながらも、問題点を挙げていた。
「砂糖と卵かしらね。ミルクはこの村で採れるからいいとしてもそこが問題ね」
 ぶつぶつというフェリスは、この点をどうにかしようと本気で考え始めたようだった。まったく、なかなかに貪欲なあたりは邪神なのかも知れないフェリスだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...