邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
74 / 290

第74話 邪神ちゃんと開業準備

しおりを挟む
「うわあ、すごい設備ですね」
 中に入った職人たちが驚きの声を上げている。
 ハバリーの魔法で作った工房は、天井は高く、工房の面積も広い。構造自体はアファカが示した標準的な鍛冶工房を参考にしているので、窯の位置、水場の位置、作業台の位置もおそらくやって来た職人たちの使い慣れた環境になっているはずである。
 今回やって来た職人たちは全部で三人。男性二人の女性一人という構成である。女性で職人を目指す人は少ないが、その中でも抜擢されるとはなかなかに期待ができる。ちなみに三人とも鍛冶以外の腕前も備えていて、木工や皮革に装飾品の加工もできるらしい。これでいてまだ若手なのだから、期待は持てそうだった。
「中の設備は自分のところのだと思って自由に使ってもらって結構よ。足りないと思うものがあったら言ってちょうだい。あたしたちは最高の環境を整える事には妥協しないわよ。その代わり、いいものを作る努力はちゃんとしてもらうけれどね」
 感動で口が開いたままの職人たちに、フェリスはそう告げておく。
「はい、これだけあれば当面は大丈夫だと思います。川も近いですから水も問題ないですし、頑張らせて頂きます」
 三人の職人の内の一人がそう意気込みを語っていた。
 木工を得意とする鍛冶職人ウッディ、皮革細工を得意とする鍛冶職人ピール、そして、唯一の女性で飾り細工を得意とする鍛冶職人ティアラという三人が、フェリスメルの職人街の金属工房の職人として滞在する事になった。
 やって来てから数日は、環境と窯の状態を確認する事に専念して、三人ともが納得したところで営業を開始する事となった。最初は見本品としてハバリーが用意してくれたインゴットを使って、武具をいくつか作っておくそうだ。
 次にゼニスが連れてくる鉱石商人が来るまでの間、フェリスが隠れ家に使っていた近辺から鉱石を仕入れる事にした。それを担当したのはヒッポスとハバリーだ。ヒッポスの足とハバリーの土魔法を使えば、1日もあればかなり金属を集めてこれるはずである。それに、二人ともフェリスが使っていた祠の位置はよく覚えていたので、集めるにはこの上ない適切な場所なのである。
「あらあ、それじゃヒッポスはしばらく留守って事ね。分かったわ。移住者たちの事は私に任せてちょうだい」
 フェリスとメルは移住者の居住区に行って、クーにそう伝えておいた。相変わらず色つやのいい褐色の肉体である。今は新たな移住者の家を建てている真っ最中であり、クーはその建設を手伝っていたのだ。
「ええ、頼むわよ。一応あたしの住んでた祠の近くだから、2~3日もあれば戻って来るから、安心してよ」
「了解。正直手を借りたいところだったけど、やっと職人街に鍛冶工房が開くんですものね。そっちが優先になっちゃうわよね」
 フェリスの言葉に、クーも納得していた。元々温厚なタイプな邪神なので、怒る事はほとんどないのだ。
 フェリスたちの邪神軍団は、ほとんどが人間とも仲のいい動物だったせいで、魔族化されても人間を敵視するような者がほぼ皆無だった。フェリスが邪神認定されたせいで、巻き添えで邪神認定された無害な魔族たちばかりなのである。その事は、今居るメンバーの言動を見ていれば一目瞭然なのであった。その事は、全員が村に受け入れられている事からもよく分かる。
 それに、全員が何かしらの役に立つ技能を持ち合わせている事も大きかっただろう。いろいろとかみ合ったおかげか、フェリスメルは村としてはとんでもない規模へと成長していったのである。
 職人たちがやって来から3日後、鉱石を採りに行っていたヒッポスとハバリーが戻ってきた。
「ただいま、です」
 工房に姿を現したハバリーの手には、亜鉛、銅、鉄、銀、金、白金、それと魔法銀のインゴットが握られていた。
「おかえり。って、それ魔法銀よね? あたしの住んでた周りにあったの?」
「うん、あったよ。少量だったから、集めるのにとても苦労した」
 フェリスが驚いて尋ねると、ハバリーはぼそぼそとそのように答えていた。ハバリーの土魔法による抽出は、金属ごとに分けて自動的に収集してくれる便利な魔法だ。手のひらサイズのインゴットができるまで頑張ってくれるわけだが、正直魔法銀まで眠っているとは意外過ぎた。
「多分、フェリスへの貢物が原因だと思う。数100年もあれば、地中に還っちゃうものもあるから」
「ああ、なるほど。それなら納得がいくわね。管理が面倒でほったらかしにしてたものね」
 なんともまあ、今のフェリスからは考えられないくらい、引きこもり中はずぼら生活をしていたようである。
「ともあれ、これだけの量があれば、当面は鍛冶工房の材料は安心かしらね。魔法銀や白金、それと金は価値が高いから、盗難防止の魔法を掛けとかないとね」
 というわけで、フェリスは戻ってきたハバリーたちを連れて、金属工房へと向かった。そして、ハバリーの持って帰ってきた金属のインゴットを三人に見せると、ものの見事に腰を抜かしていたのは言うまでもない事だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...