邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
73 / 290

第73話 邪神ちゃんと工房の稼働

しおりを挟む
 フェリスたち邪神軍団も、クー、ヒッポス、ペコラ、ルディ、ハバリーとすでに半数近くがフェリスメルに集っていた。さすがに人間と魔族が争っていた頃のような殺伐な雰囲気はなく、フェリスたちと村の人間たちはとても仲良く今日も過ごしている。
 それ以外の人間たちも、ゼニスたちの商会がひいきにしている事、聖女マイオリーから無害と宣言された事から、腰を引きながらもなんとかうまく付き合おうと試行錯誤している様子である。こういう対応になってしまうのは、邪神という肩書きのせいだろう。魔族との戦いの間では多くの邪神が暗躍していたという話があるので、致し方のない反応なのである。
 誤解というよりも実際なので、フェリスたちも最初こそ外部の人間にはそう見られていた。しかし、フェリスメルの村人の反応やフェリスたちと実際に話した感じで、帰る頃には考えを改めていた。この村に居る邪神たちは違うと。そんなわけで、今日も変わった邪神たちを見に、フェリスメルにはちょくちょくと人が押し掛けていた。
 さて、いよいよ職人街で工房を開く職人たちがやってくる事になった。それと同時に、鉱石を取り扱う商人もやってくる。さて、一体どんな人が来て、どんな品質の鉱石が持ち込まれるのだろうか。フェリスはちょっとわくわくしていた。
 フェリスとメル、それとハバリーの三人が商業組合で待機する。なぜハバリーかというと、土魔法が得意だからだ。基本的に土魔法が得意だと、鉱石や植物に詳しくなる傾向があるらしい。そのために連れてきたというわけだ。
「おや、フェリスさんたち、お久しぶりですね」
「ゼニスさん、もしかして引率ですか?」
「ええ、そういう事です。ここに来るのは初めてな人たちばかりですから、誰かが案内しなければなりませんからね」
 ものすごく納得のいく理由だった。確かにそれなら、一番慣れているゼニスは適任という事になる。あと、ゼニスが来たという事は、鉱石の商人は嘘を吐けなくなる。それでなくてもアファカも居るわけだし、下手な事をしようものなら、商業の世界から永久に追放という事もありえる。これはいい牽制だった。
(露骨なまでに嫌な顔してるわね、鉱石商人さん。アファカさんだけなら押し通すつもりでいたのかしらね)
 これにはフェリスもにっこりだった。
 とはいっても、フェリスだけでも通用しないのだが、この鉱石商人は田舎だと思って完全に侮っていたようだ。
「とりあえず、鉄と銅とあればいいのですが、それ以外にはどんな鉱石を用意しているのでしょうか」
 フェリスがさくっと切り出すと、鉱石商人は周りを見ながら様子を窺っている。
「私はちゃんと種類を持ってくるように伝えたはずですが、それを怠っているというのですかな?」
 ゼニスも遠慮なく初手から追い詰める。様子を見ていておかしかったのは、道中でも気が付いていたので遠慮はない。
 というわけで、ゼニスは遠慮なく持ってきた鉱石を全部出させる。ものの見事にくず鉱石ばかりだった。さすがにこれには呆れ返る。途中で合流したので見抜けなかった事にはゼニスも悔しい限りだった。
「本当に申し訳ない。せっかくの立ち上げだというのに、こちらの不手際でこのような事になってしまって」
「だ、大丈夫。いくらくずだからといっても、これだけ量が、あれば……」
 頭を下げるゼニスに、ハバリーが頑張って声を掛けると、くず鉱石にハバリーが魔法を使った。すると、くず鉱石から金属が吸い出されて塊となっていく。出来上がったのは金属のインゴット。亜鉛、銅、鉄、それと銀まであった。数としては多くはないものの、初期稼働としては十分な量である。
「私の、土魔法を、もってすれば、こんなもの」
「やるじゃないの、ハバリー」
 ふうっと疲れたようにしゃがみ込むハバリーをフェリスが勢いよく抱き締める。するとハバリーは照れたように笑い、メルがちょっと膨れた。
「ふむ、どれどれ?」
 出来上がったインゴットを、ゼニスが手に取ってじっくり見ている。すると、ゼニスはそのインゴットの純度にとても驚いていた。これでも金属の目利きにもある程度の自信があるゼニスなのだ。そのゼニスが驚くのだから、このインゴットがどれだけのものか想像がつくというものである。
「今回はハバリー殿のおかげで助かりましたな。……次はないと思っておいて下さいよ?」
「は、はい。肝に銘じておきます」
 ゼニスに睨まれた鉱石商人は、ただひたすらに項垂れていた。しかし、この商人、感謝するどころか睨み付けていた。そのせいでフェリスからはしっかり不興を買っていたのだが、この商人はそれに気が付いていないようである。まあ、この商人がフェリスメルに来る事は二度とないだろうし、そもそも商人を続けられるかどうかも怪しい。まあ、それはゼニスの裁量という事で、フェリスはゼニスに目で合図を送っておいた。
 さてさて、そうやって若い金属職人たちを連れてやって来たのは、フェリスメルの金属工房。ここがこの職人たちの新しい職場となるのだ。
「とりあえず、中を見て設備を確認してみて下さいな。一応アファカさんの指導の下に、最低限の設備を整えてありますので、注文があればすぐにでも追加しますよ」
 そう言ってフェリスは、職人たちを工房の中へと迎え入れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...