邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
70 / 290

第70話 邪神ちゃんと大きな邪神

しおりを挟む
 フェリスメルからほど近い、ルディが作った小高い丘の一つに、2つの人影が見える。
「あそこがフェリスの居る村か」
「ええ、そうよ」
「だけど、本当にその情報はあってるのか?」
「私の情報網を舐めてるのかしら」
「いや、単純にお前がのんびり過ぎて信用できないだけなんだけど」
「なによ、もう!」
 その人影は、片や馬の頭を持ち、もう片方は牛の頭を持っていた。ペコラやハバリーとは違ったタイプでフェリスに近い感じの獣人である。
「クー、お前は本当にのんびり過ぎるし、勘違いもよくする。だから信用ができないんだ」
「ヒッポス? そう言うあなたの方はせっかちすぎるのよ。もう少し落ち着いたらどうなの?」
 牛の方がクー、馬の方がヒッポスという名前らしい。ちなみに両方とも女性である。それにしても仲が悪いのだろうか、ずっと口喧嘩をしている。
「情報網とか言ってるが、お前のどこにそんな情報網があるんだ。言ってみろよ」
「ふふん、私はこれでも時々人間の土木作業を手伝った事があるのよ。その伝手で今回、フェリスの情報を手に入れられたのよ。感謝しなさいよね」
 怒鳴るような形で詰め寄るヒッポスだが、クーはまったく動じていない。さすが牛は簡単に動かない。
「くっそう、埒が明かないな。こうなったら実際に村に突撃するしかないな」
「そうね、聞くより見た方が早いものね」
 結局二人はそういう結論になって、丘を下ってフェリスメルへと駆け出したのだった。

 そのフェリスメルは、ようやく商人たちの団体が帰って落ち着きを取り戻し始めていた。そのために、フェリスは無茶をさせた農地へ労いを行っていた。メルはいつものようにフェリスの後ろについてその様子を見ていた。
「これで地面にはマナが満ちたはずだから、これからも収穫には影響はありませんよ。本当に、見通しの甘さで迷惑をお掛けしました」
「いやいや、天使様に言われては私どもも応じずにはいられませんよ。終わった後にこうして手を掛けて頂いて、本当にありがたい限りです」
 フェリスが謝罪しているが、どこの農家もむしろ感謝してくる状態である。フェリスはそれほどまでに村では崇められているのだ。
「でも、これ以上村の農地に負担を掛けさせるわけにはいかないわね。移住者の地域にも新しく農地を作った方がいいかしらね」
「そうですね。毎回これでは、村の人たちはもちろんですけれど、フェリス様の負担も大きすぎます」
 フェリスが考え込んでいると、メルからもそんな声を掛けられる。確かに邪神とはいっても、どちらかといえば高位の魔族といった方が正解に近い。なので、魔法を使い過ぎれば疲弊してしまうのだ。適度な休みは必要なのである。
 とはいえ、動くのは早い方がいい。フェリスは土魔法が得意なハバリーを迎えにジャイアントスパイダーの飼育場に向かう。そして、ハバリーを連れて移住者居住区に着いたその時だった。
「フェーリースー! 見つけたわ!」
 ものすごい勢いで走ってくる2つの影が見えた。しかし、声に聞き覚えのあるフェリスは、その2つの影が誰なのかが瞬時に分かったようである。
「クーとヒッポスじゃないの。久しぶりね」
 目の前にズドンという重苦しい音共に現れたのは、牛の邪神クーと馬の邪神ヒッポスだった。両者とも、元の動物がそのまま人間の形を取ったような獣人の姿である。
「ああ、やっぱりフェリスだったわ。猫型の魔族が人里に現れたって聞いて、真っ先に思い浮かんだわよ。いやまぁ、本当に久しぶりよねぇ」
「本当にフェリスじゃないか。相変わらずの艶のいい白い毛並みと燃えるような真っ赤な髪。惚れ惚れするものだ」
 二人ともに大人の背丈の1.5倍くらいあるので、近くに立つともの凄い威圧感である。フェリス、メル、ハバリーともに背丈は小さいので、この三人と比べたら倍くらいだ。メルとハバリーがフェリスの後ろに隠れてしまうわけである。
「ちょっとハバリー? なんであんたまで隠れてるのよ」
「こ、怖いものは怖いもん……」
 なんとも予想外な反応である。だが、ハバリーはフェリスたち邪神の中では背の小さい方に入る。自分より低いのがフェリスとネズミの邪神だけという状態だった。クーとヒッポスはその図体の大きさもあるのだが、目が三白眼なので、普通にしているだけで睨みつけているように勘違いされるのだ。接してみたらクーはとにかく優しくて頼りがいがあるし、ヒッポスもルディほどではないもののいざ戦闘になるとものすごく強い。つまり、クーは見た目とは真逆、ヒッポスは見た目通りというわけだ。
 とりあえず外に出ていると目立つので、フェリスはみんなを連れて、居住区の商業組合出張所に入っていった。
「いやー、本当に久しぶりなんだけど、ちょうどよかったわ、クー、ヒッポス」
「フェリス、一体どういう事だ?」
 ヒッポスが事情を聞いてくるので、フェリスは村の現状を二人に話した。クーとヒッポスの二人は、フェリスには忠実だったからだ。だからこそ、ここは二人とおとなしく村に引き込んでしまおうと考えたわけである。
「ふむ、フェリスが困っているというのなら、ボクが助けない理由はないな」
「そうね。目の前にはハバリーも居るし、これは退屈しないで済みそうね」
 事情を聞いた二人は、手伝う気満々である。こうして無事に、フェリスは新たな労働力を手に入れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

楽園の天使

飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。 転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。 何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。 やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。 全14話完結。 よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

処理中です...