邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第68話 邪神ちゃんとまるで戦場のような村

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 翌朝、フェリスは昨日巡った農場を順番に確認していく。するとどうだろうか、やっぱり作物がこれでもかと見事に実っていたのである。フェリスの恩恵は健在だった。
「おおお、これで今日もご飯にありつけるぞ。ありがたやありがたや……」
 感動した農場の人がフェリスに跪いて、感謝を込めて崇めてくる。フェリスはどこまでいっても邪神だというのに、相変わらず村での扱いは天使であった。
 だが、この日ばかりはフェリスはそれに構っている暇はない。早速収穫をして、半分くらいを備蓄や村の食事に回し、残りは村の市場に持っていく。とにかく今は村の食事を切らせるわけにはいかない。せっかく村にたくさんの人が来ているというのに、失望させるわけにはいかなかったのだ。フェリスはメルと一緒に忙しく駆けずり回った。
「ペコラ、食材足りてる?」
 フェリスは職人街で腕を振るうペコラの元にもやって来た。
「フェリスなのか? 食材はまだ足りているのだ。ただ、このままじゃ数日のうちに尽きるのだ」
「ああ、やっぱり。とりあえず数日分を用意できたから持ってきたわよ」
 ペコラに確認したフェリスは、額に手を当てて愕然としていた。村にやって来ている人の数が、予想よりはるかに多かったのだ。ゼニスの宣伝で周知させていたとはいえ、普段はのどかな村に溢れんばかりの人が集まってくるとは思わなかったのだ。小麦や果物は恩恵でどうにかできるとしても、確実に肉は足りなくなる。フェリスは対応に追われる事になってしまった。
「フェリス、どうした」
「ルディ、ボアを少し狩ってきて」
「ああ、クモの餌もあるから行ってはくるが、その顔じゃよっぽど緊急っぽいな」
 ハバリーと一緒にジャイアントスパイダーの世話をしていたルディが、慌ててやって来たフェリスを見てある程度悟ったようだ。
「ええ、村に人が来すぎて、食材が不足し始めてるのよ。このままじゃ村の食材は完全に尽きちゃうわ。これが落ち着くまでどのくらいかかるか分からないけど、せめてその間だけでも持たせないと」
「分かった。確かにこれはさすがに多すぎるよなぁ。早速集めに行ってくるぜ」
 ルディは事情を察して、すぐさま村の外へと出ていった。いくら足が速いルディとはいっても、魔物を狩って戻って来るまでは一日ほどは掛かるはずである。
 まったく、一気に人が来すぎたせいで問題がいろいろ浮上していた。宿泊施設に食事の問題、あとはトイレとお風呂などなど、正直村の処理能力の限界を完全に超えてしまっていた。どうしてここまで人が来たのかまったく分からない。これだけ人が入り乱れる様子は、さながら数百年前の戦いを彷彿とさせるものだった。
「フェリス様?」
 メルが心配そうにフェリスを見てくる。
「だ、大丈夫よ。人が多くてちょっと焦っちゃっただけだから。どうにかして、この人たちを早く満足させてお帰り願わなくっちゃね。さすがにこれでは村人たちにも危険が及んじゃうわ」
 フェリスは顔を引き締めていた。なにせたった一日しか経っていないのに、村人の顔にすでに疲労の顔が浮かんでいたのだから、村人の事を思うと早めにどうにかしたいと考えてしまう。
 これ以外にも厄介なのは、ジャイアントスパイダーの飼育場に侵入を試みる連中が居た事である。ルディの結界があるから簡単に近付く事はできないし、生半可な魔法だって通じない。でも、さすがにスパイダーヤーンの品質に影響が出てしまうので、飼育場に近付いた連中は問答無用で追い出す事に決めた。フェリスは村長とアファカにそれを伝達すると、早速対応に当たる事にした。
「うわっ!」
 フェリスの手によって村の外につまみ出される商人と護衛。
「何をするんだ。せっかくこの村に来てやったのに、この扱いはなんだ!」
「来てやったってどこから目線なのかしら。ジャイアントスパイダーは臆病なのよ。だから近付けないように結界張ってるのに、まったくしつこいったらありゃしない。さすがに堪忍袋の緒が切れたわ、さっさとお帰り願える?」
 怒鳴りつけて来る商人に対して、フェリスは笑いながら怒りを湛えている。
「この村には、聖女にも認められた邪神の加護があるの。その村にけんかを売るっていうのは、聖女にも逆らう気があるって事でいいのかしらね?」
 聖女という単語を出すと、商人たちからはさっきまでの勢いが失せていった。さすが聖女様である。その横ではメルがうんうんと強く頷いている。
(ごめん、マイオリー。今だけは利用させてもらうわ)
 フェリスは怒りマークを浮かべながら、その一方で心の中ではちゃんと聖女に謝罪を入れていた。
「あのクモたちの出す糸はこの村の主要産業。それに危害を加えようとしたわけですからね、あなたたちには金輪際の出入り禁止を通達させて頂きます!」
 フェリスが指を差してこう宣言すると、商人たちはショックを受けていた。儲け話に近付けないのはショックだろうけど、自業自得だから同情の余地はなかった。
 こうやって、ジャイアントスパイダーの飼育場に近付く不心得者を放り出していると、徐々にだが村の混雑が落ち着き始めた。どれだけクモにご執心だったか分かる結果だった。これで完全に落ち着けばよかったのだが、さすがにそうはいかないようだった。次から次へと起こる事態に、フェリスは忙しく飛び回っているのだった。
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