63 / 290
第63話 邪神ちゃんの振興政策
しおりを挟む
実にフェリスの議長としての能力は高かった。フェリスが取り仕切っただけで、あれこれといろんな事が決定していったのである。
川を掘って出てきた土を盛ってできた小高い丘の近くは、主に移住者向けの居住区とする事が決まった。川を掘った最初期の頃からその箇所には小さな橋が架けられていたのだが、今回の決定でより大きな橋へと架け替えられる事が決まった。人の往来が増えるので、既存の橋では対応しきれなくなると考えたからだ。というわけで、既存の小さな橋は、残念ながら取り壊される事になった。ただ、木材自体は何かしら再利用がされるようである。これに伴い、フェリスメルはその新しい居住区まで含めた範囲となり、村というよりは完全に町へとランクアップしてしまった。その面積は既存の数倍に及んだ。
実に細かい事なのだが、こういう川を掘った後の土でできた小高い丘は、フェリスメルからほど近いこの場所も含めて他にも数か所ある。なにせ、ルディがインフェルノウルフの巨体の状態で掘ったのだから、川底までは3mくらいはゆうにある。その上で川幅の事も考えれば当然の結果なのである。さすが邪神、規模が違う。
村として収入はスパイダーヤーン、羊毛、小麦、チーズと揃っているので、後は金属を仕入れて加工する場を設けるくらいである。村にある金属製品は、本当に騙し騙し使っている状況なのだ。修理もたまに来る隊商に任せっきり。だが、今の規模となってくると自分の所でどうにかしないと修理が確実に追いつかなくなるのだ。
「というわけで、既存の村部分と新しい居住区を結ぶ間の部分にそういった職人街を設置しようと思うのよ。そうすればどっちからでも出向く事ができるし、双方の情報交換の場にもできるわ」
「おお、さすがは天使様ですじゃ」
というわけで、フェリスの一声で次々と村の整備計画も決定していく。
職人街には酒場も設ける事にするが、移住者向けの居住区へ向かう途中には川がある。落ちては大変という事で仮眠施設や馬車による送迎といったサービス業も設置する事にした。もちろん、橋の出入口にも兵士を配置する。引きこもっていてあまり外には出向かなかった割には、そういった事はよく思いつくものである。これもペコラや蛇の邪神からの受け売りなのである。
それと意外とフェリスはやる時は徹底的にやるのである。気ままなのは確かなのだが、だからといって中途半端にはしない。それは眷属化したメルの面倒を見続けている事からも分かる。あと、元盗賊連中の様子だって見ているくらいだ。本当にフェリスの性格は邪神という観点からすると、ほぼ対極的な位置にあるのである。なのに本人の主張は邪神のまま。これには周りも微笑ましく見守っているのだった。
それにしても、やる事が決まると行動が早い。
翌日には先日村に迎えられた盗賊連中も加わって、フェリスメルの本体と移住者居住区とを結ぶ道の川の近くに新たな施設の建設が始まった。基本的には木造家屋ばかりなのだが、アファカの指導で鍛冶屋などの製造施設は石造りの建物にする事になった。高温の火を扱うので、燃えにくい建造物である必要があるからだ。この石造りの建物はハバリーが担当する事になった。その理由としては、必要とされる土魔法はハバリーが得意としているからだ。
「では、ハバリーさん。この辺りにこのくらいの大きさの天井の高い石造りの平屋をお願いします」
「わ、分かりました」
指定された広さは、食堂のロビーほどの広さで、二階建てほどの高さを誇る建物だった。
「それくらいなら……、すぐにでも、できると思います」
ハバリーはそう言って、地面に手をかざした。すっとひとつ深呼吸をしたハバリーが、その手から一気に魔力を地面へと流すと、ボゴォッという大きな音とともに、なんとても大きな石の塊が現れた。
「これは、家の原型?」
「はい、まずは家の形の石を、作りました。内装の方の、指定を、お願いします」
「あ、ああ、分かったわ」
そう言って、アファカはハバリーにいろいろと注文を付けていく。するとハバリーはその注文に沿うように、石の内部を加工していく。ボアの邪神だからとは思ったものの、ハバリーは思いの外繊細な加工も得意としていた。しかし、相変わらずの人見知りのせいで、アファカとの会話はまだたどたどしいようである。
だが、そんな心配もなんのその、ハバリーはアファカの指示でどんどんと鍛冶工房の形を作り上げていく。金属を溶かす炉、その排煙のための煙突、金属を叩く作業台、水を溜めておく備え付けの水がめなどなど、ハバリーの魔法によって次々と生成されていったのだった。その速さと正確さに、アファカは正直驚かされていた。さすがはフェリスの仲間だと、ハバリーの評価をかなり見直していたようである。
こうして、大掛かりな建物も含めて職人街はあっという間に完成してしまった。たったの3日間で仕上げてしまうとか、本当に村の人たちが一致団結した時というのは恐ろしい限りである。
「では、最後に橋を架けて終わりですね。ハバリーさん、お願いします」
「……はい」
こうして、最後にハバリーは魔力を込めて石造りの橋を架ける。もちろん、簡単に流されないように、しっかりと処置もしておく。幅は馬車二台が余裕で通れる広さで、ちゃんと欄干もついていて、簡単には橋から落ちないようになっていた。
実に早くあっさりと、村の改造工事は終わってしまうのだった。これには指導していたアファカはもちろん、発案者であるフェリスも呆然と立ち尽くすばかりだった。
川を掘って出てきた土を盛ってできた小高い丘の近くは、主に移住者向けの居住区とする事が決まった。川を掘った最初期の頃からその箇所には小さな橋が架けられていたのだが、今回の決定でより大きな橋へと架け替えられる事が決まった。人の往来が増えるので、既存の橋では対応しきれなくなると考えたからだ。というわけで、既存の小さな橋は、残念ながら取り壊される事になった。ただ、木材自体は何かしら再利用がされるようである。これに伴い、フェリスメルはその新しい居住区まで含めた範囲となり、村というよりは完全に町へとランクアップしてしまった。その面積は既存の数倍に及んだ。
実に細かい事なのだが、こういう川を掘った後の土でできた小高い丘は、フェリスメルからほど近いこの場所も含めて他にも数か所ある。なにせ、ルディがインフェルノウルフの巨体の状態で掘ったのだから、川底までは3mくらいはゆうにある。その上で川幅の事も考えれば当然の結果なのである。さすが邪神、規模が違う。
村として収入はスパイダーヤーン、羊毛、小麦、チーズと揃っているので、後は金属を仕入れて加工する場を設けるくらいである。村にある金属製品は、本当に騙し騙し使っている状況なのだ。修理もたまに来る隊商に任せっきり。だが、今の規模となってくると自分の所でどうにかしないと修理が確実に追いつかなくなるのだ。
「というわけで、既存の村部分と新しい居住区を結ぶ間の部分にそういった職人街を設置しようと思うのよ。そうすればどっちからでも出向く事ができるし、双方の情報交換の場にもできるわ」
「おお、さすがは天使様ですじゃ」
というわけで、フェリスの一声で次々と村の整備計画も決定していく。
職人街には酒場も設ける事にするが、移住者向けの居住区へ向かう途中には川がある。落ちては大変という事で仮眠施設や馬車による送迎といったサービス業も設置する事にした。もちろん、橋の出入口にも兵士を配置する。引きこもっていてあまり外には出向かなかった割には、そういった事はよく思いつくものである。これもペコラや蛇の邪神からの受け売りなのである。
それと意外とフェリスはやる時は徹底的にやるのである。気ままなのは確かなのだが、だからといって中途半端にはしない。それは眷属化したメルの面倒を見続けている事からも分かる。あと、元盗賊連中の様子だって見ているくらいだ。本当にフェリスの性格は邪神という観点からすると、ほぼ対極的な位置にあるのである。なのに本人の主張は邪神のまま。これには周りも微笑ましく見守っているのだった。
それにしても、やる事が決まると行動が早い。
翌日には先日村に迎えられた盗賊連中も加わって、フェリスメルの本体と移住者居住区とを結ぶ道の川の近くに新たな施設の建設が始まった。基本的には木造家屋ばかりなのだが、アファカの指導で鍛冶屋などの製造施設は石造りの建物にする事になった。高温の火を扱うので、燃えにくい建造物である必要があるからだ。この石造りの建物はハバリーが担当する事になった。その理由としては、必要とされる土魔法はハバリーが得意としているからだ。
「では、ハバリーさん。この辺りにこのくらいの大きさの天井の高い石造りの平屋をお願いします」
「わ、分かりました」
指定された広さは、食堂のロビーほどの広さで、二階建てほどの高さを誇る建物だった。
「それくらいなら……、すぐにでも、できると思います」
ハバリーはそう言って、地面に手をかざした。すっとひとつ深呼吸をしたハバリーが、その手から一気に魔力を地面へと流すと、ボゴォッという大きな音とともに、なんとても大きな石の塊が現れた。
「これは、家の原型?」
「はい、まずは家の形の石を、作りました。内装の方の、指定を、お願いします」
「あ、ああ、分かったわ」
そう言って、アファカはハバリーにいろいろと注文を付けていく。するとハバリーはその注文に沿うように、石の内部を加工していく。ボアの邪神だからとは思ったものの、ハバリーは思いの外繊細な加工も得意としていた。しかし、相変わらずの人見知りのせいで、アファカとの会話はまだたどたどしいようである。
だが、そんな心配もなんのその、ハバリーはアファカの指示でどんどんと鍛冶工房の形を作り上げていく。金属を溶かす炉、その排煙のための煙突、金属を叩く作業台、水を溜めておく備え付けの水がめなどなど、ハバリーの魔法によって次々と生成されていったのだった。その速さと正確さに、アファカは正直驚かされていた。さすがはフェリスの仲間だと、ハバリーの評価をかなり見直していたようである。
こうして、大掛かりな建物も含めて職人街はあっという間に完成してしまった。たったの3日間で仕上げてしまうとか、本当に村の人たちが一致団結した時というのは恐ろしい限りである。
「では、最後に橋を架けて終わりですね。ハバリーさん、お願いします」
「……はい」
こうして、最後にハバリーは魔力を込めて石造りの橋を架ける。もちろん、簡単に流されないように、しっかりと処置もしておく。幅は馬車二台が余裕で通れる広さで、ちゃんと欄干もついていて、簡単には橋から落ちないようになっていた。
実に早くあっさりと、村の改造工事は終わってしまうのだった。これには指導していたアファカはもちろん、発案者であるフェリスも呆然と立ち尽くすばかりだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる