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第61話 邪神ちゃんと変わった人たち
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「というわけで、あの盗賊たちはすっかりフェリスの信者になってしまったみたいです」
自警団の元に戻ってきたフェリスたち。すっかり様子が変わってしまった盗賊たちの様子に呆気に取られる自警団たちに、そうなった経緯をメルが説明をしていた。にわかどころかまったく信じられない自警団たちだが、フェリスの後ろできりっと表情の盗賊、いや元盗賊たちの姿をもう一度確認すると、
「うん、いや、まぁ、そうなんだろうが、ちょっと変わり過ぎやしてませんかね……」
という感じに頭を抱えながら呟いていた。
「とはいえ、手を焼かなくなるというのなら、我々は歓迎なんですけれど、何なんですかね、あれは……」
呆れる自警団の団員たちの視線の先には、フェリスに付きまとう元盗賊たちの姿があった。
「姐さん、ご命令を!」
「一生ついていきやす、姐さん!」
「だあーっ、鬱陶しい! あんたたちは自警団としてとっとと村の安全を守りなさい。それが嫌なら、農場にしても牧場にしても人手を欲しがってるから手伝いに行きなさいよ!」
「畏まりやした、姐さん!」
フェリスが頭にきて怒鳴りつけると、元盗賊の連中はそれぞれ話し合いをして数人ずつの塊に分かれていった。八人くらいだったのが三人、三人、二人と分かれて走っていく。どこへ向かうというのだろうか。
「俺らは商業組合に寄った後、牧場へ行きやす」
「あっしたちは農場だ」
八人のうち五人は、商業組合へと向かうそうだ。残った三人はフェリスから離れて自警団の団員の前で正座をしていた。
「押忍、どうか俺たちを鍛えて下せえ」
そして、見事なまでの土下座を決めていた。これが堕ちるところまで堕ちて改心した連中の姿というやつなのだろうか。自警団の面々もすごく困惑している。
「ああ、分かった分かった。明日からみっちり鍛えてやるから、覚悟しておけよ」
「おうともっ!」
人ってこうも変わるものだろうか。フェリスは顔を引きつらせ、メルとハバリーは苦笑い。自警団も反応に困りつつも、とりあえず対応していた。
とりあえず、これでこの盗賊連中の対応も終わるはずである。フェリスは疲れたような顔をして、メルとハバリーを連れて家へと戻っていった。
数日後、村にゼニスがやって来た。それというのも、先日頼んでいた鎧下などの服を引き取りに来たのだ。
「やあ、フェリスさん。お久しぶりですね」
「お久しぶりです、ゼニスさん」
商業組合で顔を合わせる二人は、気さくに挨拶を交わす。
「見た事のない人たちが居たけれど、何なのですかな、あの人たちは」
「ああ、この村に盗みを働こうと来た愚か者たちですよ。分からせてあげたので、危険はもうありませんからご心配なく」
不思議そうに尋ねるゼニスに、しれっとした表情で答えるフェリス。さすがにゼニスは盗賊の話について驚いていた。
「一体何をしたというのですか、あなたは……」
「ちょっと分かりやすく身の程を思い知らせてあげただけですよ。そんな事よりも、こちらを見て下さいな」
フェリスはそう言って、頼まれていた鎧下などの服をテーブルの上に広げる。その数は全部で250着ほどだった。胴回りや腰回り、胸周りと種類があるので、実質的な組み合わせとしては110セットくらいである。
「今の生産能力ではこんなものでしょうか。スパイダーヤーンと羊毛と種類はありますけれど、20日間ではこれが限界といったところですよ」
積み上げられた服の山を見て、ゼニスの方は満足そうである。
「魔法縫製で着用者によって大きさが変わるのですよね。それならこれだけあれば当面は大丈夫かと思います」
「そうですか。とりあえず今もジャイアントスパイダーたちには頑張ってもらっていますので、追加の注文があればまたよろしくお願いします」
フェリスの方は実に淡々とした受け答えだった。
「やれやれ、私の方がいいように扱われてしまってますな。さすがは長きを生きる邪神殿。落ち着き具合がまるで違いますな」
「いえいえ、あたしなんてまだまだ未熟な邪神ですよ」
こういった二人はお互いを見てニヤリと笑みを浮かべて笑い合った。フェリスのセリフ回しに、ルディ、ペコラ、ハバリーの三人は「みじゅ……く?」と揃って言葉を失っていた。なにせ三人とも、フェリスより優れた点はあるかも知れないが、戦闘で一度も勝てた事がないのだ。それはいくら言葉のあやとはいえ、三人には反応に困るものだった。
「しかし、こちらで購入してばかりというのも、いささか不公平感は否めませんな。何かご入用なものとかありますかな?」
ゼニスが取引を持ち掛けてきた。フェリスは少し考えていたのだが、
「そうですね、やっぱり金属製のものでしょうか。村の近くには鉱山とかないですから、あたしの魔法とかで修理しながら騙し騙し使ってるようなものです。なので、鍋とか包丁とか頼めますか?」
「ふむふむ調理器具や武具といったところでしょうかね」
フェリスと交渉をしながら、ゼニスはメモを取っていく。それらをまとめ終わると、
「では、今回の代金はひとまず保留と致しましょう。金属製品をお持ちした時に、改めて生産するという事でよろしいでしょうか」
「ええ、それでいいですよ。必要でしたら鎧下とか下着の類を増産しておきますので」
といった感じで、フェリスとゼニスとの間で交渉がまとまったようだった。とりあえずフェリスは、今回の鎧下の代金を記した紙を受け取っておく。次回の交渉時に金額をごまかされないようにするための証拠である。ゼニスは変な事はしないだろうが、こういった事の積み重ねが信用となっていくのだ。フェリスもゼニスも、そこを疎かにするつもりはないのである。
こうして、鎧下を受け取ったゼニスは、村から出発していった。
自警団の元に戻ってきたフェリスたち。すっかり様子が変わってしまった盗賊たちの様子に呆気に取られる自警団たちに、そうなった経緯をメルが説明をしていた。にわかどころかまったく信じられない自警団たちだが、フェリスの後ろできりっと表情の盗賊、いや元盗賊たちの姿をもう一度確認すると、
「うん、いや、まぁ、そうなんだろうが、ちょっと変わり過ぎやしてませんかね……」
という感じに頭を抱えながら呟いていた。
「とはいえ、手を焼かなくなるというのなら、我々は歓迎なんですけれど、何なんですかね、あれは……」
呆れる自警団の団員たちの視線の先には、フェリスに付きまとう元盗賊たちの姿があった。
「姐さん、ご命令を!」
「一生ついていきやす、姐さん!」
「だあーっ、鬱陶しい! あんたたちは自警団としてとっとと村の安全を守りなさい。それが嫌なら、農場にしても牧場にしても人手を欲しがってるから手伝いに行きなさいよ!」
「畏まりやした、姐さん!」
フェリスが頭にきて怒鳴りつけると、元盗賊の連中はそれぞれ話し合いをして数人ずつの塊に分かれていった。八人くらいだったのが三人、三人、二人と分かれて走っていく。どこへ向かうというのだろうか。
「俺らは商業組合に寄った後、牧場へ行きやす」
「あっしたちは農場だ」
八人のうち五人は、商業組合へと向かうそうだ。残った三人はフェリスから離れて自警団の団員の前で正座をしていた。
「押忍、どうか俺たちを鍛えて下せえ」
そして、見事なまでの土下座を決めていた。これが堕ちるところまで堕ちて改心した連中の姿というやつなのだろうか。自警団の面々もすごく困惑している。
「ああ、分かった分かった。明日からみっちり鍛えてやるから、覚悟しておけよ」
「おうともっ!」
人ってこうも変わるものだろうか。フェリスは顔を引きつらせ、メルとハバリーは苦笑い。自警団も反応に困りつつも、とりあえず対応していた。
とりあえず、これでこの盗賊連中の対応も終わるはずである。フェリスは疲れたような顔をして、メルとハバリーを連れて家へと戻っていった。
数日後、村にゼニスがやって来た。それというのも、先日頼んでいた鎧下などの服を引き取りに来たのだ。
「やあ、フェリスさん。お久しぶりですね」
「お久しぶりです、ゼニスさん」
商業組合で顔を合わせる二人は、気さくに挨拶を交わす。
「見た事のない人たちが居たけれど、何なのですかな、あの人たちは」
「ああ、この村に盗みを働こうと来た愚か者たちですよ。分からせてあげたので、危険はもうありませんからご心配なく」
不思議そうに尋ねるゼニスに、しれっとした表情で答えるフェリス。さすがにゼニスは盗賊の話について驚いていた。
「一体何をしたというのですか、あなたは……」
「ちょっと分かりやすく身の程を思い知らせてあげただけですよ。そんな事よりも、こちらを見て下さいな」
フェリスはそう言って、頼まれていた鎧下などの服をテーブルの上に広げる。その数は全部で250着ほどだった。胴回りや腰回り、胸周りと種類があるので、実質的な組み合わせとしては110セットくらいである。
「今の生産能力ではこんなものでしょうか。スパイダーヤーンと羊毛と種類はありますけれど、20日間ではこれが限界といったところですよ」
積み上げられた服の山を見て、ゼニスの方は満足そうである。
「魔法縫製で着用者によって大きさが変わるのですよね。それならこれだけあれば当面は大丈夫かと思います」
「そうですか。とりあえず今もジャイアントスパイダーたちには頑張ってもらっていますので、追加の注文があればまたよろしくお願いします」
フェリスの方は実に淡々とした受け答えだった。
「やれやれ、私の方がいいように扱われてしまってますな。さすがは長きを生きる邪神殿。落ち着き具合がまるで違いますな」
「いえいえ、あたしなんてまだまだ未熟な邪神ですよ」
こういった二人はお互いを見てニヤリと笑みを浮かべて笑い合った。フェリスのセリフ回しに、ルディ、ペコラ、ハバリーの三人は「みじゅ……く?」と揃って言葉を失っていた。なにせ三人とも、フェリスより優れた点はあるかも知れないが、戦闘で一度も勝てた事がないのだ。それはいくら言葉のあやとはいえ、三人には反応に困るものだった。
「しかし、こちらで購入してばかりというのも、いささか不公平感は否めませんな。何かご入用なものとかありますかな?」
ゼニスが取引を持ち掛けてきた。フェリスは少し考えていたのだが、
「そうですね、やっぱり金属製のものでしょうか。村の近くには鉱山とかないですから、あたしの魔法とかで修理しながら騙し騙し使ってるようなものです。なので、鍋とか包丁とか頼めますか?」
「ふむふむ調理器具や武具といったところでしょうかね」
フェリスと交渉をしながら、ゼニスはメモを取っていく。それらをまとめ終わると、
「では、今回の代金はひとまず保留と致しましょう。金属製品をお持ちした時に、改めて生産するという事でよろしいでしょうか」
「ええ、それでいいですよ。必要でしたら鎧下とか下着の類を増産しておきますので」
といった感じで、フェリスとゼニスとの間で交渉がまとまったようだった。とりあえずフェリスは、今回の鎧下の代金を記した紙を受け取っておく。次回の交渉時に金額をごまかされないようにするための証拠である。ゼニスは変な事はしないだろうが、こういった事の積み重ねが信用となっていくのだ。フェリスもゼニスも、そこを疎かにするつもりはないのである。
こうして、鎧下を受け取ったゼニスは、村から出発していった。
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