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第59話 邪神ちゃんと荒療治
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盗賊たちを更生のために押し付けられたハバリーは、仕方なく村の外にやって来た。そこへやって来た盗賊どもは目の前の光景にぎょっと驚いていた。
「な、なんでこんなにボアが居るんだよ!」
何10頭という数のボアが群れていたのである。人の背丈の数倍はあるボアの巨体が並ぶと、さすがに圧迫感が凄かった。圧倒的な光景である。
「私が……呼んだの。私はボアの邪神ハバリー。同族だからある程度使役……できるの」
ぼそぼそと喋るハバリー。邪神パワーでどうにかしようとするが、やはり人見知りが勝ってしまうようである。声がしどろもどろで聞き取りづらい。
「つまり、そのボアどもは、お前が呼んだって事か?!」
盗賊の一人が叫ぶ。
「……その、通りです」
ハバリーはビクッとびびりながらも肯定する。
「あなたたちには……、このボアと戦ってもらいます。倒せなければご飯抜き……です。頑張って下さい」
「ブモォォォォッ!」
ハバリーがそう言い終わったところで、ボアが雄たけびを上げる。ビリビリと走るその衝撃は、まるで盗賊どもを牽制しているようである。
「んなっ、この数なんて相手できるわけないんだろ?!」
盗賊どもは相当数のボアを前にたじろいでいる。
「フェリスやメルに聞いた。このくらいの数なら、そこそここの村には来てたらしい」
ハバリーがぼそりと言うと、その声が聞こえた盗賊たちはごくりと息を飲んだ。
「おい、こいつ今何て言ったんだ?!」
「これくらいの数なら、この村にゃあ時々来てたんだってよ。信じられるかってんだ!」
「はあっ?!」
盗賊たちは混乱している。だが、そんな様子にお構いなしに、ハバリーはボアたちに命令を下した。
「さあ、軽く遊んであげて」
「ブモオオオォッ!!」
ボアたちはハバリーの命令に、任せろと言わんばかりに雄たけびを上げて答える。そして、盗賊どもを目がけて突進を始めた。
「うげぇ、こっちに来たぞ!」
「くそっ、こうなったらやるしかねえ。野郎ども構えろ!」
盗賊どもは支給品の剣や短剣を持って、応戦すべく構える。だが、このボアたちはその程度では怯まない。勢いよく盗賊どもへと突っ込んでいく。臨戦態勢を取るのが遅れた盗賊どもは、初手はやむなく回避する。ボアの習性を知っている盗賊どもは、通り過ぎた後に態勢を整えられると思ったのだろうが、このボアたちがハバリーの支配下にある事を失念していた。
普通ならそのままなかなか止まらないボアだが、ハバリーの支配下にあるボアたちは挙動が違った。すぐさまぴたりと止まると、踵を返して再び盗賊どもに襲い掛かる。予想外に早い二撃目に盗賊どもは慌てふためいている。
「さぁ、村を狙った事、フェリスや私たちを馬鹿にした事、まとめて罰を受けてもらう……」
さすがにこの早い二撃目には、対処しきれなかった盗賊が二人ほど鼻で掬い上げられて投げられていた。だが、安心してほしい。落下点にはちゃんと別のボアが居て、飛ばされた盗賊どもを受け止めていた。そして、にこりと笑ったような表情を見せて、
「ブモォッ!」
と鳴いて、受け止めた盗賊どもを追い払った。もはや遊んでいるような状態である。当然ながら盗賊どもは、もう混乱の極みである。また一人、また一人と宙を舞ってはボアに受け止められる始末だった。これでも生きているあたりしぶとい。
「はあ、この程度でこの体たらく。全部鍛えてあげるしか、ないわね」
ハバリーは正直情けなさすぎてうんざり気味である。
盗賊どもは目を回していて、もう完全に動けなくなっていた。なので、ハバリーはボアの行動を止めさせる。村特産の芋を与えてあげると、嬉しそうに食べていた。
「うん、いい子ね。また、お願い」
「ブモッ」
ボアは嬉しそうに鳴くと、おとなしく森へと帰っていった。村を荒らす害獣も、ハバリーにかかればただのペット同然だった。
ボアを見送ったハバリーは、盗賊どもの方へと向き直る。そして、近付いてこう告げた。
「今夜は、食事抜き。でも、朝ご飯はある。……明日もボアと訓練。倒せるようになるまで……、繰り返す」
ぜーはーぜーはーと息の乱れ切った盗賊どもに、口答えする余裕など残っていなかった。こんなぼそぼそと言葉を話すような奴にいいようにされてたまるかと、反発心からくる睨みをハバリーに浴びせる者は居た。
「そう、私に逆らう……。私の恐ろしさ、その身で知る?」
ハバリーの前髪に隠れた目が光った気がした。それに気が付いた盗賊の一部は、ひっと震えて睨むのをやめた。
やれやれ、まだまだ更生への道は遠いようである。
「そうそう、逃げようとしても無駄。フェリスの能力の影響もあるけれど、私の能力の影響もあるから、あなたたちはもう逃げられない。……諦める事ね」
ハバリーは盗賊どもを捨て置いて、村へと戻っていった。
その後、逃げ出そうとした盗賊どもは、意思に反してどういうわけか村へと駆け込んでいた。そして、寄り道する事なくそのまま自警団の詰所まで戻り、風呂に入って眠ってしまったのである。まったく何が起こっているのか分からない盗賊どもだったが、疲れは相当なものですぐ眠れたようである。
「フェリス~~、怖かったよぉ~!」
「おー、よしよし。よく頑張ったわね、ハバリー」
家に戻ったハバリーは、フェリスに泣きついて頭を撫でられていたのだった。こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか。
「な、なんでこんなにボアが居るんだよ!」
何10頭という数のボアが群れていたのである。人の背丈の数倍はあるボアの巨体が並ぶと、さすがに圧迫感が凄かった。圧倒的な光景である。
「私が……呼んだの。私はボアの邪神ハバリー。同族だからある程度使役……できるの」
ぼそぼそと喋るハバリー。邪神パワーでどうにかしようとするが、やはり人見知りが勝ってしまうようである。声がしどろもどろで聞き取りづらい。
「つまり、そのボアどもは、お前が呼んだって事か?!」
盗賊の一人が叫ぶ。
「……その、通りです」
ハバリーはビクッとびびりながらも肯定する。
「あなたたちには……、このボアと戦ってもらいます。倒せなければご飯抜き……です。頑張って下さい」
「ブモォォォォッ!」
ハバリーがそう言い終わったところで、ボアが雄たけびを上げる。ビリビリと走るその衝撃は、まるで盗賊どもを牽制しているようである。
「んなっ、この数なんて相手できるわけないんだろ?!」
盗賊どもは相当数のボアを前にたじろいでいる。
「フェリスやメルに聞いた。このくらいの数なら、そこそここの村には来てたらしい」
ハバリーがぼそりと言うと、その声が聞こえた盗賊たちはごくりと息を飲んだ。
「おい、こいつ今何て言ったんだ?!」
「これくらいの数なら、この村にゃあ時々来てたんだってよ。信じられるかってんだ!」
「はあっ?!」
盗賊たちは混乱している。だが、そんな様子にお構いなしに、ハバリーはボアたちに命令を下した。
「さあ、軽く遊んであげて」
「ブモオオオォッ!!」
ボアたちはハバリーの命令に、任せろと言わんばかりに雄たけびを上げて答える。そして、盗賊どもを目がけて突進を始めた。
「うげぇ、こっちに来たぞ!」
「くそっ、こうなったらやるしかねえ。野郎ども構えろ!」
盗賊どもは支給品の剣や短剣を持って、応戦すべく構える。だが、このボアたちはその程度では怯まない。勢いよく盗賊どもへと突っ込んでいく。臨戦態勢を取るのが遅れた盗賊どもは、初手はやむなく回避する。ボアの習性を知っている盗賊どもは、通り過ぎた後に態勢を整えられると思ったのだろうが、このボアたちがハバリーの支配下にある事を失念していた。
普通ならそのままなかなか止まらないボアだが、ハバリーの支配下にあるボアたちは挙動が違った。すぐさまぴたりと止まると、踵を返して再び盗賊どもに襲い掛かる。予想外に早い二撃目に盗賊どもは慌てふためいている。
「さぁ、村を狙った事、フェリスや私たちを馬鹿にした事、まとめて罰を受けてもらう……」
さすがにこの早い二撃目には、対処しきれなかった盗賊が二人ほど鼻で掬い上げられて投げられていた。だが、安心してほしい。落下点にはちゃんと別のボアが居て、飛ばされた盗賊どもを受け止めていた。そして、にこりと笑ったような表情を見せて、
「ブモォッ!」
と鳴いて、受け止めた盗賊どもを追い払った。もはや遊んでいるような状態である。当然ながら盗賊どもは、もう混乱の極みである。また一人、また一人と宙を舞ってはボアに受け止められる始末だった。これでも生きているあたりしぶとい。
「はあ、この程度でこの体たらく。全部鍛えてあげるしか、ないわね」
ハバリーは正直情けなさすぎてうんざり気味である。
盗賊どもは目を回していて、もう完全に動けなくなっていた。なので、ハバリーはボアの行動を止めさせる。村特産の芋を与えてあげると、嬉しそうに食べていた。
「うん、いい子ね。また、お願い」
「ブモッ」
ボアは嬉しそうに鳴くと、おとなしく森へと帰っていった。村を荒らす害獣も、ハバリーにかかればただのペット同然だった。
ボアを見送ったハバリーは、盗賊どもの方へと向き直る。そして、近付いてこう告げた。
「今夜は、食事抜き。でも、朝ご飯はある。……明日もボアと訓練。倒せるようになるまで……、繰り返す」
ぜーはーぜーはーと息の乱れ切った盗賊どもに、口答えする余裕など残っていなかった。こんなぼそぼそと言葉を話すような奴にいいようにされてたまるかと、反発心からくる睨みをハバリーに浴びせる者は居た。
「そう、私に逆らう……。私の恐ろしさ、その身で知る?」
ハバリーの前髪に隠れた目が光った気がした。それに気が付いた盗賊の一部は、ひっと震えて睨むのをやめた。
やれやれ、まだまだ更生への道は遠いようである。
「そうそう、逃げようとしても無駄。フェリスの能力の影響もあるけれど、私の能力の影響もあるから、あなたたちはもう逃げられない。……諦める事ね」
ハバリーは盗賊どもを捨て置いて、村へと戻っていった。
その後、逃げ出そうとした盗賊どもは、意思に反してどういうわけか村へと駆け込んでいた。そして、寄り道する事なくそのまま自警団の詰所まで戻り、風呂に入って眠ってしまったのである。まったく何が起こっているのか分からない盗賊どもだったが、疲れは相当なものですぐ眠れたようである。
「フェリス~~、怖かったよぉ~!」
「おー、よしよし。よく頑張ったわね、ハバリー」
家に戻ったハバリーは、フェリスに泣きついて頭を撫でられていたのだった。こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか。
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