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第53話 邪神ちゃんと魔法縫製の可能性
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ジャイアントスパイダーの糸を回収して商業組合に戻ったフェリスたちは、再び交渉の席に着く。最初に口を開いたのはゼニスだった。
「フェリスさん、お聞きしてもよろしいかな?」
「何でしょうか」
ゼニスの言葉に反応するフェリス。そこにはただならぬ雰囲気が感じ取れた。
「魔法による縫製で作られた服にはどのようなものが付加できますかな?」
「あーそこなのね、聞いてくるのは。基本的に縫製を行う者が使える付加を掛ける事ができるわ。だから、答えとしては”その人による”ってところですね」
ゼニスの質問に対する答えは、実に曖昧なものだった。だが、それは扱える付加魔法によって変わるだけであるので、付加術師が魔法縫製が行えるようになると、それだけで万能な服を作り出せるという事なのだ。
「ついでに言いますけど、別にそれはスパイダーヤーンだけに限らず、羊毛にしても綿にしても、糸であるなら何でもいいんですよ。最悪植物の蔓でもできるんですからね」
フェリスが言うには、とにかく、糸状の物が作れて布に変えられるなら素材は問わないらしい。
「たとえば、村にある羊牧場の羊の毛を集めたものですけれど、これだって」
フェリスはそう言って魔法縫製を発動する。すると、あっという間に羊の毛はストールへと姿を変えていった。
「こんな風に服に変えられるんです。ちなみにこれ、防寒と破れ防止を付けてます」
「ふむふむ、どれ……」
フェリスからストールを受け取ったゼニスは、持っていたナイフをストールに突き立てた。するとどういう事だろうか、ストールにナイフが刺さらないのである。
「……驚きましたな、これほどとは」
「あたしの魔力を舐めないでもらいたいですね。ただ、これも欠点がありまして、服を作る段階でしか付加できないんですよ。魔法縫製による付加は、完成品に付ける事はできないんです。それが付加魔法とは大きく違うところですね」
フェリスは魔法縫製による付加について詳しく説明すると、ゼニスはなるほどと頷いていた。
「ちなみに、付加は縫製と後付けとで同種の効果は重ねられませんよ。これはすでに検証済みです。あたしだって付加魔法が使えるから、そのくらいの検証はちゃんとしておきますよ」
フェリスがドヤ顔を決めると、横でメルが拍手をしている。さすがは主人を立てる眷属の鑑である。
「いやはや、これはなかなかに有用な技術だと思いますよ。この服を鎧下にしておけば、この服と防具とで二重の効果が得られますからね」
「ああ、そういう発想はなかったですね。あたしたちは基本的に鎧なんて身に着けませんですから。なるほど、貧弱な人間ならではの需要ですか」
ゼニスの発案にフェリスは感心していた。すると、二人は何かを思いついたように同じタイミングでにやりとすると、気味の悪い笑い声を上げ始めた。
「これは悪い事を思いついたみたいなのだ」
「誰が悪い事よ!」
ペコラが呟くと、フェリスは怒鳴る。
「これは面白い発想ですね。鎧下と防具で二重の付加ですか。見た目に弱そうな装備でも、強力な攻撃を防げる可能性が出るというわけですね」
「そういう事ですね。魔物が多い地域では、特に需要が出ると思いますよ。もっと言えば、鎧下、防具、そしてそれを身に着ける本人と三重付加も可能になるわけですからね」
「脆弱な人間がっ! とも言えなくなるわけですね。それは恐ろしいですよ」
フェリスがそう言い切ったところで、またフェリスとゼニスは大笑いをする。
「ただ、こういう事が可能だとすると、付加の種類によっては値段が跳ね上がりそうですね」
「ええ、そうですね。冒険者によっては喉から手が出るほどに欲しがるでしょうけれど」
フェリスとゼニスがこう言い合うと、しばらくの間、沈黙が続いた。
「フェリスさん」
「何でしょうか。教えろと言っても、あたしはこの村から動く気はありませんよ」
「おおっと、先に言われてしまいましたか。ですが、魔法縫製をうちの紹介の者たちに教えて頂く事は可能ですかな?」
ゼニスは額をぺちっと叩くと、改めてフェリスに問い掛けた。フェリスは正直悩んだ。別に自分の専売特許というわけではないが、安易に広めていいものかどうか考えてしまうのだった。
「商人としては教えてもらいたいのだが、魔法使いとするなら躊躇するのは当たり前なのだ。料理人のレシピと一緒で、専売特許は基本的な考え方なのだ」
思い悩むフェリスにペコラが助け舟を出す。そう、安請け合いは基本的にNGなのである。
「分かりました。しばらくは魔法縫製の依頼を出す事にしましょう。そこまで悩むようですので、今後を考えると無理強いをするのはよくありませんからな」
ペコラの言葉とフェリスの態度を見て、ゼニスは要求を取り下げた。その事に、フェリスは少し安心したようである。
「ご自身を邪神と自称される割には、結構感情を素直に出されるのですね」
フェリスの様子を見たゼニスが笑う。すると、それに釣られるようにペコラとメルも笑い始めた。
「なーによーっ! あたしはどうせ分かりやすい邪神ですよーだっ!」
フェリスがふて腐れると、お金の計算を終えたアファカたち組合の職員たちも加わって、その場は笑いに溢れたのだった。そして、フェリスはますますふて腐れたのだった。
今日もフェリスメルは平和なのである。
「フェリスさん、お聞きしてもよろしいかな?」
「何でしょうか」
ゼニスの言葉に反応するフェリス。そこにはただならぬ雰囲気が感じ取れた。
「魔法による縫製で作られた服にはどのようなものが付加できますかな?」
「あーそこなのね、聞いてくるのは。基本的に縫製を行う者が使える付加を掛ける事ができるわ。だから、答えとしては”その人による”ってところですね」
ゼニスの質問に対する答えは、実に曖昧なものだった。だが、それは扱える付加魔法によって変わるだけであるので、付加術師が魔法縫製が行えるようになると、それだけで万能な服を作り出せるという事なのだ。
「ついでに言いますけど、別にそれはスパイダーヤーンだけに限らず、羊毛にしても綿にしても、糸であるなら何でもいいんですよ。最悪植物の蔓でもできるんですからね」
フェリスが言うには、とにかく、糸状の物が作れて布に変えられるなら素材は問わないらしい。
「たとえば、村にある羊牧場の羊の毛を集めたものですけれど、これだって」
フェリスはそう言って魔法縫製を発動する。すると、あっという間に羊の毛はストールへと姿を変えていった。
「こんな風に服に変えられるんです。ちなみにこれ、防寒と破れ防止を付けてます」
「ふむふむ、どれ……」
フェリスからストールを受け取ったゼニスは、持っていたナイフをストールに突き立てた。するとどういう事だろうか、ストールにナイフが刺さらないのである。
「……驚きましたな、これほどとは」
「あたしの魔力を舐めないでもらいたいですね。ただ、これも欠点がありまして、服を作る段階でしか付加できないんですよ。魔法縫製による付加は、完成品に付ける事はできないんです。それが付加魔法とは大きく違うところですね」
フェリスは魔法縫製による付加について詳しく説明すると、ゼニスはなるほどと頷いていた。
「ちなみに、付加は縫製と後付けとで同種の効果は重ねられませんよ。これはすでに検証済みです。あたしだって付加魔法が使えるから、そのくらいの検証はちゃんとしておきますよ」
フェリスがドヤ顔を決めると、横でメルが拍手をしている。さすがは主人を立てる眷属の鑑である。
「いやはや、これはなかなかに有用な技術だと思いますよ。この服を鎧下にしておけば、この服と防具とで二重の効果が得られますからね」
「ああ、そういう発想はなかったですね。あたしたちは基本的に鎧なんて身に着けませんですから。なるほど、貧弱な人間ならではの需要ですか」
ゼニスの発案にフェリスは感心していた。すると、二人は何かを思いついたように同じタイミングでにやりとすると、気味の悪い笑い声を上げ始めた。
「これは悪い事を思いついたみたいなのだ」
「誰が悪い事よ!」
ペコラが呟くと、フェリスは怒鳴る。
「これは面白い発想ですね。鎧下と防具で二重の付加ですか。見た目に弱そうな装備でも、強力な攻撃を防げる可能性が出るというわけですね」
「そういう事ですね。魔物が多い地域では、特に需要が出ると思いますよ。もっと言えば、鎧下、防具、そしてそれを身に着ける本人と三重付加も可能になるわけですからね」
「脆弱な人間がっ! とも言えなくなるわけですね。それは恐ろしいですよ」
フェリスがそう言い切ったところで、またフェリスとゼニスは大笑いをする。
「ただ、こういう事が可能だとすると、付加の種類によっては値段が跳ね上がりそうですね」
「ええ、そうですね。冒険者によっては喉から手が出るほどに欲しがるでしょうけれど」
フェリスとゼニスがこう言い合うと、しばらくの間、沈黙が続いた。
「フェリスさん」
「何でしょうか。教えろと言っても、あたしはこの村から動く気はありませんよ」
「おおっと、先に言われてしまいましたか。ですが、魔法縫製をうちの紹介の者たちに教えて頂く事は可能ですかな?」
ゼニスは額をぺちっと叩くと、改めてフェリスに問い掛けた。フェリスは正直悩んだ。別に自分の専売特許というわけではないが、安易に広めていいものかどうか考えてしまうのだった。
「商人としては教えてもらいたいのだが、魔法使いとするなら躊躇するのは当たり前なのだ。料理人のレシピと一緒で、専売特許は基本的な考え方なのだ」
思い悩むフェリスにペコラが助け舟を出す。そう、安請け合いは基本的にNGなのである。
「分かりました。しばらくは魔法縫製の依頼を出す事にしましょう。そこまで悩むようですので、今後を考えると無理強いをするのはよくありませんからな」
ペコラの言葉とフェリスの態度を見て、ゼニスは要求を取り下げた。その事に、フェリスは少し安心したようである。
「ご自身を邪神と自称される割には、結構感情を素直に出されるのですね」
フェリスの様子を見たゼニスが笑う。すると、それに釣られるようにペコラとメルも笑い始めた。
「なーによーっ! あたしはどうせ分かりやすい邪神ですよーだっ!」
フェリスがふて腐れると、お金の計算を終えたアファカたち組合の職員たちも加わって、その場は笑いに溢れたのだった。そして、フェリスはますますふて腐れたのだった。
今日もフェリスメルは平和なのである。
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