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第52話 邪神ちゃんとある日の商人
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ハバリーもあっという間に村に馴染んでしまったある日、村に再びゼニスがやって来た。
「これはフェリスさん、お久しぶりですな」
村の商業組合に顔を出したゼニスは、この上なく機嫌がよいようである。それというのもスパイダーヤーンの売り上げが好調だからだ。子ども並みに大きなクモであるジャイアントスパイダーを手懐けようと考える者が出てこないので、実質ゼニスによる独占販売状態なのである。しかも手触り、肌触りはこの上なく、しかも丈夫。こと貴族からの注文が多くて、ウハウハなのである。
「おやおや、ゼニスさん。やけに上機嫌ですね」
「そりゃもう、こちらの村で仕入れているスパイダーヤーンと小麦とチーズがいい売れ行きですからね。これが笑わずにいられるというのでしょうか」
二人を対応しているアファカは、実に無表情で淡々とお茶やら書類やらの対応をしている。
「それでなんですが、そちらフェリスメルへの取り分としてはこのくらいをと思っております。いかがでしょうか」
ゼニスが提示してくる金額を見るが、フェリスにはいまいち理解ができない。そこで、
「ペコラ、ちょっとお願い」
「分かりましたのだ」
ペコラを呼んで見てもらった。ちなみにメルもついて来ているが、ルディとハバリーはクモたちの様子を見に行っている。ここに居るのはフェリス、メル、ペコラの三人である。
書類を見ているペコラは、早速計算をして始めている。その様子は、商人もしていたというペコラの先日の言葉を裏付けていた。
「単価は相場より高め、数を考えるとかなり見てくれているのだ。フェリス、この書類に問題はないのだ」
ペコラは計算結果を伝えてくる。フェリスは純粋に感心しているし、ゼニスは安心しているようだった。
「これでも人間社会で揉まれてきた実績があるのだ。舐めてもらっては困るのだ」
ペコラは胸を張ってドヤ顔を決めている。ちなみにフェリスたちの面々で張るだけの胸があるのはルディだけだった。くっ。
「そういえば、フェリスさん」
「何でしょうか」
お金の話が終わったところで、フェリスに話し掛けるゼニス。当然ながらフェリスは反応する。
「フェリスさんの新しいお仲間が村にいらしたそうですが、どちらにいらっしゃいますかね」
アファカと売り上げの納金の話をしながら、ゼニスはフェリスに新しく来た仲間のハバリーの事を尋ねてきた。
「さすが情報を仕入れるのが早いですね。今はルディと一緒にジャイアントスパイダーの様子を見ていると思いますよ」
こう話すと、お金の処理をアファカに任せて、フェリスたちはゼニスを連れてジャイアントスパイダーの飼育場へと移動していった。とんでもない金額の処理にアファカは嘆いていたが、その一方でこのフェリスメルにこれだけの魅力がある事を誇りに思ったのだった。
さて、ジャイアントスパイダーの飼育場にやって来たフェリス一行。中では子どもたちがクモたちと戯れていた。あれだけの大きさのクモにも今ではすっかり慣れてしまっており、餌をあげたり、体を磨いてあげたりとすっかりクモの方も懐いてしまっているようである。そのクモたちからは、今日も大量の糸が採れていた。
「相変らずすごい光景ですな」
最初の頃はジャイアントスパイダーに襲われる懸念があったのだが、今では実に安心して見ていられるようになっている。またクモたちは糸を巻き付ける場所もちゃんと理解してくれているようで、そこへ向かって移動しては糸を巻き付けて回収しやすくしてくれていた。
「くそぅ、やっぱり俺にだけ懐かねぇっ!」
そう騒ぐのはルディである。
ジャイアントスパイダーは火が弱点だ。それゆえに炎を操るルディは天敵なのだ。いくらルディが優しく接しようとしても、文字通りクモの子を散らしたかのように逃げられてしまうのである。
「本能的に嫌われるから仕方ないね」
横目にぽつりと呟くハバリー。そのハバリーを見たフェリスはある事を思いついた。
「そういえば、ペコラもハバリーもここに来た時の服のままよね?」
「確かにそうね」
フェリスはメルを見る。するとメルは用件を察したようでにこりと微笑んだ。
「二人にもせっかくだから服を作りましょう。あたしたちの魔法でね」
と言うと、フェリスは大量に集められたスパイダーヤーンを持ってくると、魔法を使う。同様にメルも魔法を使う。すると、スパイダーヤーンは見る見るうちに形を変えていく。ただの糸から撚糸へ、撚糸から布地へ、そして、最終的には服へと変わっていった。ついでに靴も作ってある。魔法による縫製なので、着るに人によって大きさに変化が出るようになっている。魔法は万能なのだ。
ペコラの方はシャツにジャケット、そしてショートパンツにブーツという組み合わせ。ハバリーの方は腰で絞るタイプのノースリーブワンピースに指ぬきの手袋とショートブーツだ。前の服よりはだいぶきれいな服装へと変わった。
「おお、さすがはフェリスなのだ。ありがとうなのだ」
「むむぅ、この眷属、このセンスは侮れない……」
新しい服に身を包んだ二人は、それぞれに反応していた。
「いやぁ、これが縫製魔法ですか。いやはや、この精度とセンスはなかなか目を見張るものがありますな」
「人力での縫製というのも味があっていいと思いますよ。まぁ、魔法による縫製は同時にいろんな付与ができるという利点がありますけれどね。着る人によって大きさが変わるとか」
「それができるだけでおそろしいものですよ。それなりに経験を積めば使えますかね?」
「どうでしょうね。メルはあたしの影響で魔法が使えるようになってるだけですし、ここまでとなると相当に鍛錬が必要だと思いますよ」
フェリスからの情報で、一喜一憂するゼニス。楽というのはそう簡単にできるものではなかったのだった。
そんなこんなで、ジャイアントスパイダーの飼育場で話を終えた一行は、再び商業組合へと戻っていった。
「これはフェリスさん、お久しぶりですな」
村の商業組合に顔を出したゼニスは、この上なく機嫌がよいようである。それというのもスパイダーヤーンの売り上げが好調だからだ。子ども並みに大きなクモであるジャイアントスパイダーを手懐けようと考える者が出てこないので、実質ゼニスによる独占販売状態なのである。しかも手触り、肌触りはこの上なく、しかも丈夫。こと貴族からの注文が多くて、ウハウハなのである。
「おやおや、ゼニスさん。やけに上機嫌ですね」
「そりゃもう、こちらの村で仕入れているスパイダーヤーンと小麦とチーズがいい売れ行きですからね。これが笑わずにいられるというのでしょうか」
二人を対応しているアファカは、実に無表情で淡々とお茶やら書類やらの対応をしている。
「それでなんですが、そちらフェリスメルへの取り分としてはこのくらいをと思っております。いかがでしょうか」
ゼニスが提示してくる金額を見るが、フェリスにはいまいち理解ができない。そこで、
「ペコラ、ちょっとお願い」
「分かりましたのだ」
ペコラを呼んで見てもらった。ちなみにメルもついて来ているが、ルディとハバリーはクモたちの様子を見に行っている。ここに居るのはフェリス、メル、ペコラの三人である。
書類を見ているペコラは、早速計算をして始めている。その様子は、商人もしていたというペコラの先日の言葉を裏付けていた。
「単価は相場より高め、数を考えるとかなり見てくれているのだ。フェリス、この書類に問題はないのだ」
ペコラは計算結果を伝えてくる。フェリスは純粋に感心しているし、ゼニスは安心しているようだった。
「これでも人間社会で揉まれてきた実績があるのだ。舐めてもらっては困るのだ」
ペコラは胸を張ってドヤ顔を決めている。ちなみにフェリスたちの面々で張るだけの胸があるのはルディだけだった。くっ。
「そういえば、フェリスさん」
「何でしょうか」
お金の話が終わったところで、フェリスに話し掛けるゼニス。当然ながらフェリスは反応する。
「フェリスさんの新しいお仲間が村にいらしたそうですが、どちらにいらっしゃいますかね」
アファカと売り上げの納金の話をしながら、ゼニスはフェリスに新しく来た仲間のハバリーの事を尋ねてきた。
「さすが情報を仕入れるのが早いですね。今はルディと一緒にジャイアントスパイダーの様子を見ていると思いますよ」
こう話すと、お金の処理をアファカに任せて、フェリスたちはゼニスを連れてジャイアントスパイダーの飼育場へと移動していった。とんでもない金額の処理にアファカは嘆いていたが、その一方でこのフェリスメルにこれだけの魅力がある事を誇りに思ったのだった。
さて、ジャイアントスパイダーの飼育場にやって来たフェリス一行。中では子どもたちがクモたちと戯れていた。あれだけの大きさのクモにも今ではすっかり慣れてしまっており、餌をあげたり、体を磨いてあげたりとすっかりクモの方も懐いてしまっているようである。そのクモたちからは、今日も大量の糸が採れていた。
「相変らずすごい光景ですな」
最初の頃はジャイアントスパイダーに襲われる懸念があったのだが、今では実に安心して見ていられるようになっている。またクモたちは糸を巻き付ける場所もちゃんと理解してくれているようで、そこへ向かって移動しては糸を巻き付けて回収しやすくしてくれていた。
「くそぅ、やっぱり俺にだけ懐かねぇっ!」
そう騒ぐのはルディである。
ジャイアントスパイダーは火が弱点だ。それゆえに炎を操るルディは天敵なのだ。いくらルディが優しく接しようとしても、文字通りクモの子を散らしたかのように逃げられてしまうのである。
「本能的に嫌われるから仕方ないね」
横目にぽつりと呟くハバリー。そのハバリーを見たフェリスはある事を思いついた。
「そういえば、ペコラもハバリーもここに来た時の服のままよね?」
「確かにそうね」
フェリスはメルを見る。するとメルは用件を察したようでにこりと微笑んだ。
「二人にもせっかくだから服を作りましょう。あたしたちの魔法でね」
と言うと、フェリスは大量に集められたスパイダーヤーンを持ってくると、魔法を使う。同様にメルも魔法を使う。すると、スパイダーヤーンは見る見るうちに形を変えていく。ただの糸から撚糸へ、撚糸から布地へ、そして、最終的には服へと変わっていった。ついでに靴も作ってある。魔法による縫製なので、着るに人によって大きさに変化が出るようになっている。魔法は万能なのだ。
ペコラの方はシャツにジャケット、そしてショートパンツにブーツという組み合わせ。ハバリーの方は腰で絞るタイプのノースリーブワンピースに指ぬきの手袋とショートブーツだ。前の服よりはだいぶきれいな服装へと変わった。
「おお、さすがはフェリスなのだ。ありがとうなのだ」
「むむぅ、この眷属、このセンスは侮れない……」
新しい服に身を包んだ二人は、それぞれに反応していた。
「いやぁ、これが縫製魔法ですか。いやはや、この精度とセンスはなかなか目を見張るものがありますな」
「人力での縫製というのも味があっていいと思いますよ。まぁ、魔法による縫製は同時にいろんな付与ができるという利点がありますけれどね。着る人によって大きさが変わるとか」
「それができるだけでおそろしいものですよ。それなりに経験を積めば使えますかね?」
「どうでしょうね。メルはあたしの影響で魔法が使えるようになってるだけですし、ここまでとなると相当に鍛錬が必要だと思いますよ」
フェリスからの情報で、一喜一憂するゼニス。楽というのはそう簡単にできるものではなかったのだった。
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