邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
49 / 290

第49話 邪神ちゃんと羊の群れ

しおりを挟む
 ペコラは右手を高く掲げる。
「さあみんな、あーしの元に集まるのだっ!」
 ペコラがこう叫ぶと、しばらくしてからどこからともなく地鳴りのような足音が聞こえてくる。そしてやって来たのは、なんと羊の群れだった。
「この子たちに乗せて村まで帰るのだ」
 なんともにこにことした顔でペコラは話している。
 これが同族に好かれるという邪神たちの力だろうか。フェリスには無い能力だけに、ペコラの呼び掛けに集まった羊たちの数には驚きを隠せなかった。
「うう、あたしなんて猫に好かれないのに、何なのよぉっ!!」
 フェリスの絶叫が響き渡るが、羊の鳴き声に結構かき消されてしまっていた。

 こうして、羊の背中に眠りこけたルディとハバリーを乗せて、フェリスたちはフェリスメルへと戻ってきた。ボアたちの群れが消えた事もあってか、気になっていた村人たちに迎えられた。
「いやー、ボアの事なら解決したのだ。もう心配要らないのだ」
 どういうわけか、ペコラが笑顔で答えている。こういう時はリーダーたるフェリスが言うものではないのだろうか。と思ったら、フェリスは頬を膨らませていじけていた。自分は同族である猫に群がられる事なんてないし、呼んでもなぜかそっぽを向かれるのである。そりゃあいじけても仕方がないというものだった。
「あのー、天使様はなぜ不機嫌なのでしょうか……」
 村人がおそるおそる尋ねてくるが、
「気にしなくていいのだ。とにかく心配しなくていいのだ。それよりも羊たちを牧場に返すのだ」
 ペコラが笑顔で村人たちに圧を掛けていく。その圧にさすがに耐え切れなかった村人たちは、ささっとフェリスたちに道を開けたのだった。
「さぁ、目指すは羊の牧場なのだ!」
 メェメェと羊が鳴きながら、フェリスたちは羊を飼っている牧場へと向かっていった。
 その羊の牧場では、飼い主である牧場主が呆然と立ち尽くしていた。なにせ突然羊が柵を壊して脱走したのだから、当然そうなるに決まっているのである。ちなみに牧場主の家族が一生懸命に柵を直していた。
「主人、羊たちを借りて悪かったのだ」
 ペコラが声を掛けると、羊の牧場主がくるっと振り向いた。
「あーしの呼び掛けに応えてくれたのだ。この子たちは悪くないのだ」
「そうね、悪いのはそこで寝てる二人だわね」
 ペコラが説明する横で、フェリスとメルが羊の上で眠りこけるルディとハバリーをじっと見ている。あれから結構時間が経つというのに、まだ眠っているのだ。どれだけ強力な魔法を掛けたのやら。とりあえず、ペコラを怒らせると怖い事がよく分かったのでよしとしよう。
 それにしても、ルディは単純で直情的なせいか、不要な騒動をたまに起こしてくれる。もうちょっときついお仕置きでもしなければいけないかも、フェリスは地味に考えた。
「ルディ様ってば、基本的に自由ですからね……」
 メルも呆れるくらいだ。
 ただ、このルディは今までも何回もお仕置きを食らってきている。それでもまったく改善しないのだから、本当に頭の痛い話だ。
「とりあえず牧場主さん、今回この二人が迷惑を掛けたみたいですし、しばらくこの二人をお貸ししますよ。牧場でも手伝わせてやって下さい」
「いやいやいや、さすがに天使様のご友人方の力をお借りするには……」
 フェリスがこう言えば、牧場主は驚いて、手だけを左右に振りながら少し後退った。それは恐れ多いという意思表示だろう。
「うーん、そこまで遠慮されると凹むけど、要求を押し付けるのもよくないわね。分かりました、今回はやめておきますけれど、必要であるならいつでも言って下さいね。喜んでお貸ししますので」
 フェリスはにっこりと笑っていた。その笑顔に、ルディとハバリーの体がびくっと反応したような気がした。
「とりあえず、羊の面倒は見ますので、柵を直しちゃいましょうか。メル、ペコラ、羊をお願いできる?」
「はい、もちろんです、フェリス様」
「任せるのだ、あーしの得意分野なのだ」
 というわけで、フェリスは牧場主に連れられて、壊された柵を見に行った。
「これはまた、派手にぶっ壊してくれたわね……」
 フェリスが驚いているのも無理はない。柱に渡してある横板が破られているのなら普通なのだが、柱も何本か派手に折れていた。ペコラの同族寄せにここまでの威力があるのかと思うと、思わず身を震わせてしまう。
「あっちゃー、これはまた派手にやってしまったのだ。すまないのだ、主人」
「ペコラ、こっちに来ちゃったの?」
 謝るペコラを見て、フェリスは驚いていた。
「当然なのだ。それに、あーしが居れば羊たちはとてもおとなしいのだ。何も問題ないのだ」
「あーまー、確かにそうね」
 後ろにはメルを乗せた羊も居るが、実におとなしい。ちなみに羊の牧場の家族に確認してもらったところ、羊は一匹の欠けもなかったそうだ。さすが羊の邪神ペコラ。
「羊って思ったよりすごいんですね。ルディ様を乗せても平気に走ってましたし」
「あーしが呼んだからなのだ。あーしの呼び掛けに反応すれば、一時的ではあるけれど眷属化するのだ」
 なるほどと合点のいく話だった。メルが眷属化したのも、実は同じような理屈なのである。
「さて、迷惑を掛けたんだから、あたしがちゃちゃっと直しちゃいましょうかね」
 フェリスはそう言うと、両手を上げて魔法を使う。すると、次々と壊れた柵の破片が持ち上がり、そのすべてがくっ付いていく。強度を上げるために、牧場主の家族が打ち付け直していた板や杭も使う。そして、あっという間に壊れた柵は元通りになったのだった。
「いやー、本当にあたしの友人がご迷惑を掛けてしまってすみません」
「いえいえ、天使様。本当にありがとうございました」
 その後は、なぜかお互いに頭の下げ合いとなってしまったのだった。
 ちなみにこの間、ルディとハバリーはその辺の地面に寝転がされていたのだった。仕方ないね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...