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第44話 邪神ちゃんの家にて
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「聖女様。ようこそ、フェリス様の館へおいで下さいました」
中から出てきたのは、聖女よりも年下の少女だった。
「この子があたしの眷属で、この村の牧場の家の子のメルと言います。眷属化した事であたしの持つ知識を共有してまして、それを使って今日の料理も作ってくれたんですよ」
フェリスがメルを紹介すると、恥ずかしがりながら頭を深く下げていた。
「まぁそうなんですね。ふふっ、楽しみにしていますよ」
聖女はずっと笑顔を絶やさなかった。立場的な事もあるのだろうが、ここまで笑顔が崩れないというのもすごい精神力である。生半可な人物では、聖女は務まらないのである。
「おー、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
「ルディ、準備は終わったの?」
「ああ、万端だぜ。後は主役が来たら完成だよ」
ルディの言葉に、フェリスはちょっと顔を歪ませていた。さすがは元魔物のインフェルノウルフだっただけはある。あまり群れないし服従する事もない魔物なのだ。それは今もあまり変わっていないが、ご飯を与えておけばとりあえずは懐くし、今もフェリスがお仕置きをする原因でもある。まぁ、自分を偽らない飾らないといった点では羨ましい限りだ。
それはさておき、フェリスは聖女と護衛の騎士を家に招き入れる。その途中、聖女が何かを感じて足を止める。
「あら、あちらから何かを感じますね」
聖女が見ているのはスパイダーヤーンの保管庫と化している部屋の方だった。そういえば糸撚りの際にフェリスの魔法を使っている。それを感じ取ったのだろうか。
「あちらの部屋にはこの村の特産であるスパイダーヤーンが保管してあります。商業組合の保管庫に収まりきらないので、こちらにも置いているという状態なんですよ」
「まあそうなんですね。肌触りがとても良いといいう風に伺っております」
聖女の反応を見て、フェリスは疑問に思った。
「あれ? こういうものって国王とか聖女とかのお偉さんにはすぐに献上されると思ったんですが、違ったんですか?」
「それには私から答えよう。聖女様のいらっしゃる地域には、まだスパイダーヤーンなるものが出回っておらんのです。そのために聖女様の手元にはまだ届いてないというわけなのです」
フェリスの疑問に答えたのは、護衛騎士の男性だった。女性騎士がほぼ見当たらなかったので、こればかりは仕方なかった。そもそも女性はあまり騎士にはなれないし、なろうともしないのがこの世の中なのだ。
「なるほどね、事情は分かりました。では、後で部屋に案内致しますので、お好みの量だけお持ち帰り下さい。あたしからじゃなくて村からの寄進として頂ければ問題はないでしょうから」
「そうですね。邪神から施しを受けたとなると、反聖教会に勢いを与えかねません。心遣い感謝致します」
フェリスの提案に聖女は感謝を述べていた。だが、同時に不穏な単語も聞こえた。
「反聖教会……、この時代もあるんですか。数100年前の魔族と人間の戦いの中でも、あたしたち邪神と一緒に暗躍していたっていう第三の勢力ですよ」
「はい……。やはりその存在をご存じでしたか」
フェリスの反応に、聖女は口を重くした。
「まぁ、あたしのとこにもそういうのが居ましたからね。鬱陶しいから適当にあしらってましたけれど」
「ああ、居たなぁ。胡散臭い人間どもが」
どうやらその反聖教会という連中は、フェリスたちにとっては迷惑だったようだ。さすがほのぼの系邪神である。
「でもまぁ、そういった話は後にしましょう。せっかく作ったのに冷めちゃいますから」
「はっ、申し訳ありません。それではお言葉に甘えさせてもらいますね」
話を一旦打ち切り、フェリスたちは食卓を囲んだ。テーブルの上には、メルがルディと協力して作った料理が所狭しと並べられている。その並んだ料理を見て、聖女はどういうわけか感動していた。
「ああ、これはあーしが作ってた料理の中にあるのだ。だから聖女は感動しているのだ」
その様子に嬉しそうに騒いでいるペコラ。気持ちは分かるのだが、ちょっと静かにした方がいい。
いろいろとあったものだが、どうにか会食が始まった。聖女と護衛騎士とメルは、ちゃんと食事前に祈りを捧げていて、フェリスたち邪神組と見事に行動が異なっていた。
「とてもおいしいですね」
「ええ、そうでしょう。全部この村で採れたものですからね。ただ、あたしが撫でたりするだけで急成長したりおいしくなったりっていうのが納得できない気がするんですけれどね。そんな能力持っているつもりないんですけれど」
説明しながら、どんどんとフェリスの視線が聖女から外れていく。邪神としての矜持が失われていくみたいで、泣きたくなったのだ。
「そういえば、私はまだ名乗っておりませんでしたね」
「あっ、そういえば」
食事の最中に、聖女は思い出したかのように話を始める。確かに、ここまでずっと聖女で通していた。聖女はそう人数の居る肩書きではないので、それで通しても不便はなかったからだ。
「非常に申し遅れましたが、私、今代の聖女を務めておりますマイオリーと申します。以後、お見知りおき下さいませ」
マイオリーはそう言って、にっこりと微笑んだ。
中から出てきたのは、聖女よりも年下の少女だった。
「この子があたしの眷属で、この村の牧場の家の子のメルと言います。眷属化した事であたしの持つ知識を共有してまして、それを使って今日の料理も作ってくれたんですよ」
フェリスがメルを紹介すると、恥ずかしがりながら頭を深く下げていた。
「まぁそうなんですね。ふふっ、楽しみにしていますよ」
聖女はずっと笑顔を絶やさなかった。立場的な事もあるのだろうが、ここまで笑顔が崩れないというのもすごい精神力である。生半可な人物では、聖女は務まらないのである。
「おー、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
「ルディ、準備は終わったの?」
「ああ、万端だぜ。後は主役が来たら完成だよ」
ルディの言葉に、フェリスはちょっと顔を歪ませていた。さすがは元魔物のインフェルノウルフだっただけはある。あまり群れないし服従する事もない魔物なのだ。それは今もあまり変わっていないが、ご飯を与えておけばとりあえずは懐くし、今もフェリスがお仕置きをする原因でもある。まぁ、自分を偽らない飾らないといった点では羨ましい限りだ。
それはさておき、フェリスは聖女と護衛の騎士を家に招き入れる。その途中、聖女が何かを感じて足を止める。
「あら、あちらから何かを感じますね」
聖女が見ているのはスパイダーヤーンの保管庫と化している部屋の方だった。そういえば糸撚りの際にフェリスの魔法を使っている。それを感じ取ったのだろうか。
「あちらの部屋にはこの村の特産であるスパイダーヤーンが保管してあります。商業組合の保管庫に収まりきらないので、こちらにも置いているという状態なんですよ」
「まあそうなんですね。肌触りがとても良いといいう風に伺っております」
聖女の反応を見て、フェリスは疑問に思った。
「あれ? こういうものって国王とか聖女とかのお偉さんにはすぐに献上されると思ったんですが、違ったんですか?」
「それには私から答えよう。聖女様のいらっしゃる地域には、まだスパイダーヤーンなるものが出回っておらんのです。そのために聖女様の手元にはまだ届いてないというわけなのです」
フェリスの疑問に答えたのは、護衛騎士の男性だった。女性騎士がほぼ見当たらなかったので、こればかりは仕方なかった。そもそも女性はあまり騎士にはなれないし、なろうともしないのがこの世の中なのだ。
「なるほどね、事情は分かりました。では、後で部屋に案内致しますので、お好みの量だけお持ち帰り下さい。あたしからじゃなくて村からの寄進として頂ければ問題はないでしょうから」
「そうですね。邪神から施しを受けたとなると、反聖教会に勢いを与えかねません。心遣い感謝致します」
フェリスの提案に聖女は感謝を述べていた。だが、同時に不穏な単語も聞こえた。
「反聖教会……、この時代もあるんですか。数100年前の魔族と人間の戦いの中でも、あたしたち邪神と一緒に暗躍していたっていう第三の勢力ですよ」
「はい……。やはりその存在をご存じでしたか」
フェリスの反応に、聖女は口を重くした。
「まぁ、あたしのとこにもそういうのが居ましたからね。鬱陶しいから適当にあしらってましたけれど」
「ああ、居たなぁ。胡散臭い人間どもが」
どうやらその反聖教会という連中は、フェリスたちにとっては迷惑だったようだ。さすがほのぼの系邪神である。
「でもまぁ、そういった話は後にしましょう。せっかく作ったのに冷めちゃいますから」
「はっ、申し訳ありません。それではお言葉に甘えさせてもらいますね」
話を一旦打ち切り、フェリスたちは食卓を囲んだ。テーブルの上には、メルがルディと協力して作った料理が所狭しと並べられている。その並んだ料理を見て、聖女はどういうわけか感動していた。
「ああ、これはあーしが作ってた料理の中にあるのだ。だから聖女は感動しているのだ」
その様子に嬉しそうに騒いでいるペコラ。気持ちは分かるのだが、ちょっと静かにした方がいい。
いろいろとあったものだが、どうにか会食が始まった。聖女と護衛騎士とメルは、ちゃんと食事前に祈りを捧げていて、フェリスたち邪神組と見事に行動が異なっていた。
「とてもおいしいですね」
「ええ、そうでしょう。全部この村で採れたものですからね。ただ、あたしが撫でたりするだけで急成長したりおいしくなったりっていうのが納得できない気がするんですけれどね。そんな能力持っているつもりないんですけれど」
説明しながら、どんどんとフェリスの視線が聖女から外れていく。邪神としての矜持が失われていくみたいで、泣きたくなったのだ。
「そういえば、私はまだ名乗っておりませんでしたね」
「あっ、そういえば」
食事の最中に、聖女は思い出したかのように話を始める。確かに、ここまでずっと聖女で通していた。聖女はそう人数の居る肩書きではないので、それで通しても不便はなかったからだ。
「非常に申し遅れましたが、私、今代の聖女を務めておりますマイオリーと申します。以後、お見知りおき下さいませ」
マイオリーはそう言って、にっこりと微笑んだ。
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