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第43話 邪神ちゃんと聖女様
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なんと、聖女とペコラは会うなりいきなり抱擁し合った。これには場に居た全員が驚き固まっている。
「あ、あの、聖女様? 邪神というのは?」
護衛の騎士の一人が尋ねると、聖女は笑ってこう言った。
「何を言っているのですか、このペコラも邪神ですよ?」
「えええっ?!」
騎士たちから驚きの声が上がっている。それもそうだろう。数年前まで料理番をしていた人物が邪神だなんて思ってもみなかったのだから。ペコラは眠りの能力さえ発動させなければ、十分人間として通用する容姿だから、一般人が気付かないのも無理はない。そこそこ聖職者として経験を積まなければ分からないほどなのだ。
「やれやれ、本当にペコラと聖女っていうのは知り合いだったのね」
その様子を見ていたフェリスが、ようやく正気に戻って喋り出す。
「だから、あーしは言ったのだ。嘘じゃないのだ」
ペコラはフェリスを見ながら膨れている。自分の言う事を信じてもらえなかった事が悔しかったようである。
「あら、白い毛並みに赤い髪と黒い羽。伝承にある邪神フェリスですか」
ペコラが話す相手を見て、すぐに誰かを特定する聖女。やはりただ者ではなかった。
「目立つ容姿とはいえ、一発で特定できるとは、さすが聖女と呼ばれる事はありますね。そちらの騎士たちは分からない様子で見ていますから」
フェリスはそう言いながら、少しずつ聖女へと近付いていく。そして、少し離れた位置で立ち止まると、すっと右手を胸の前に出して軽く頭を下げる。
「ようこそ、フェリスメルへ、今代の聖女様。あたしたちは聖女様を歓迎致します」
敬意を示した挨拶をするフェリス。これには騎士たちが再び戸惑っている。邪神が聖女に頭を下げるなど、考えられないと思っているからだ。イメージばかりの頭でっかち共である。
(まぁ、騎士なんてそんなものよね。格式ばかりで急な対応には不向き。それで聖女の護衛が務まるのかしらね)
聖女に敬意を払いつつも、フェリスは頭の中ではそんな事を思っていた。
実際、フェリスが過去に対峙した事のある騎士たちも、強がっているものの強襲やら急襲やらにはとにかく弱かった。それをこっそり助けたりしていたのは、ここでは内緒である。
「聖女様のご指摘の通り、あたしは確かに邪神でございます。ですが、急な訪問とはいえど、お客人に対して無礼を行うような真似は致しませんので、そこはご安心を」
フェリスは喋り終えると、再び頭を下げた。
「ふふっ、伝承通りの礼儀正しい方ですのね」
「あー、やっぱりそういう風に伝わってるのね……」
聖女が笑えば、フェリスは顔を上げながらすごく嫌そうな顔をしていた。実際に自分がやらかした事とはいえ、それが伝わっているとなるとどうしても恥ずかしくなってしまうのだ。正直穴があったら入りたい気分である。
しかし、そんな顔をいつまでも続けられるわけがなかった。フェリスは咳払いひとつで表情を引き締める。
「本日は聖女様が赴かれると事前に知る事ができましたので、あたしの方から歓迎の食事を用意させて頂いております。ただ、あまり広くはありませんので、護衛の方は数名のみしかご案内できません事をご容赦願います」
フェリスがこのように話すと、騎士たちの間でまたざわめきが起こる。いやいや、聖女付きの騎士の方がいらっしゃるでしょうがと、フェリスは内心ツッコミを入れていた。
フェリスが眺めていると、騎士が二人聖女の後ろに付いた。どうやら同行する騎士が決まったようである。本当に専属の護衛騎士が居ないのか……。今は平和だからいいが、正直頭が痛くなるフェリスである。
とりあえず、残りの騎士たちの対応を村長やアファカたちに任せて、フェリスは聖女やペコラたちを連れて家へと移動する。その途中で料理について説明していた。
「歓迎のための食事は、この村の食材を使ってあたしの眷属と友人が今まさに作っております。着く頃には完成していると思いますので、楽しみにしていて下さい」
「ええ、そうですね。楽しみにしていますよ」
フェリスの言葉に、聖女は微笑みながら返事をしていた。聖女と邪神という敵対的な存在でありながら、これだけほのぼのとした雰囲気で話をしている。実にこの状況こそが、今が平和な世の中だという証拠だろう。
「そういえば、聖女様はペコラが邪神の一人だと見抜いてましたが、本人の口から聞いたのですか?」
「いえ、ひと目見て分かりました。ですが、見た目の可愛さについ採用してしまいまして……」
フェリスの質問に答えながら、聖女は頬を押さえて恥ずかしがっていた。聖女もやっぱり人間なのである。
「いえいえ、見た目だけではもちろんありません。ちゃんと料理の腕前もしっかり判定した上ですから、何も問題ありません」
周りの視線に気が付いた聖女は、慌てて取り繕っていた。なんとも神聖な存在というよりは年相応の少女といった印象を受ける。
村の入口からここまでで受ける聖女の印象は意外だったし、思った以上に話も合うようで、フェリスはなんだかとても安心したようである。
そうやっているうちに、フェリスたちはメルたちの待つ家に到着したのだった。
「こちらが会食の場となるあたしの家です。眷属を呼びますので、少々お待ち下さい」
フェリスがこう言うと、聖女は黙って頷いて待つ事にした。今回の食事を作った人物とはどんな人物なのか、聖女はわくわくしながら待っていた。
「あ、あの、聖女様? 邪神というのは?」
護衛の騎士の一人が尋ねると、聖女は笑ってこう言った。
「何を言っているのですか、このペコラも邪神ですよ?」
「えええっ?!」
騎士たちから驚きの声が上がっている。それもそうだろう。数年前まで料理番をしていた人物が邪神だなんて思ってもみなかったのだから。ペコラは眠りの能力さえ発動させなければ、十分人間として通用する容姿だから、一般人が気付かないのも無理はない。そこそこ聖職者として経験を積まなければ分からないほどなのだ。
「やれやれ、本当にペコラと聖女っていうのは知り合いだったのね」
その様子を見ていたフェリスが、ようやく正気に戻って喋り出す。
「だから、あーしは言ったのだ。嘘じゃないのだ」
ペコラはフェリスを見ながら膨れている。自分の言う事を信じてもらえなかった事が悔しかったようである。
「あら、白い毛並みに赤い髪と黒い羽。伝承にある邪神フェリスですか」
ペコラが話す相手を見て、すぐに誰かを特定する聖女。やはりただ者ではなかった。
「目立つ容姿とはいえ、一発で特定できるとは、さすが聖女と呼ばれる事はありますね。そちらの騎士たちは分からない様子で見ていますから」
フェリスはそう言いながら、少しずつ聖女へと近付いていく。そして、少し離れた位置で立ち止まると、すっと右手を胸の前に出して軽く頭を下げる。
「ようこそ、フェリスメルへ、今代の聖女様。あたしたちは聖女様を歓迎致します」
敬意を示した挨拶をするフェリス。これには騎士たちが再び戸惑っている。邪神が聖女に頭を下げるなど、考えられないと思っているからだ。イメージばかりの頭でっかち共である。
(まぁ、騎士なんてそんなものよね。格式ばかりで急な対応には不向き。それで聖女の護衛が務まるのかしらね)
聖女に敬意を払いつつも、フェリスは頭の中ではそんな事を思っていた。
実際、フェリスが過去に対峙した事のある騎士たちも、強がっているものの強襲やら急襲やらにはとにかく弱かった。それをこっそり助けたりしていたのは、ここでは内緒である。
「聖女様のご指摘の通り、あたしは確かに邪神でございます。ですが、急な訪問とはいえど、お客人に対して無礼を行うような真似は致しませんので、そこはご安心を」
フェリスは喋り終えると、再び頭を下げた。
「ふふっ、伝承通りの礼儀正しい方ですのね」
「あー、やっぱりそういう風に伝わってるのね……」
聖女が笑えば、フェリスは顔を上げながらすごく嫌そうな顔をしていた。実際に自分がやらかした事とはいえ、それが伝わっているとなるとどうしても恥ずかしくなってしまうのだ。正直穴があったら入りたい気分である。
しかし、そんな顔をいつまでも続けられるわけがなかった。フェリスは咳払いひとつで表情を引き締める。
「本日は聖女様が赴かれると事前に知る事ができましたので、あたしの方から歓迎の食事を用意させて頂いております。ただ、あまり広くはありませんので、護衛の方は数名のみしかご案内できません事をご容赦願います」
フェリスがこのように話すと、騎士たちの間でまたざわめきが起こる。いやいや、聖女付きの騎士の方がいらっしゃるでしょうがと、フェリスは内心ツッコミを入れていた。
フェリスが眺めていると、騎士が二人聖女の後ろに付いた。どうやら同行する騎士が決まったようである。本当に専属の護衛騎士が居ないのか……。今は平和だからいいが、正直頭が痛くなるフェリスである。
とりあえず、残りの騎士たちの対応を村長やアファカたちに任せて、フェリスは聖女やペコラたちを連れて家へと移動する。その途中で料理について説明していた。
「歓迎のための食事は、この村の食材を使ってあたしの眷属と友人が今まさに作っております。着く頃には完成していると思いますので、楽しみにしていて下さい」
「ええ、そうですね。楽しみにしていますよ」
フェリスの言葉に、聖女は微笑みながら返事をしていた。聖女と邪神という敵対的な存在でありながら、これだけほのぼのとした雰囲気で話をしている。実にこの状況こそが、今が平和な世の中だという証拠だろう。
「そういえば、聖女様はペコラが邪神の一人だと見抜いてましたが、本人の口から聞いたのですか?」
「いえ、ひと目見て分かりました。ですが、見た目の可愛さについ採用してしまいまして……」
フェリスの質問に答えながら、聖女は頬を押さえて恥ずかしがっていた。聖女もやっぱり人間なのである。
「いえいえ、見た目だけではもちろんありません。ちゃんと料理の腕前もしっかり判定した上ですから、何も問題ありません」
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村の入口からここまでで受ける聖女の印象は意外だったし、思った以上に話も合うようで、フェリスはなんだかとても安心したようである。
そうやっているうちに、フェリスたちはメルたちの待つ家に到着したのだった。
「こちらが会食の場となるあたしの家です。眷属を呼びますので、少々お待ち下さい」
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