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第42話 邪神ちゃん、出会ってしまう
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さてさて、フェリスメルは今日も今日とて平和だった。
「うん、今日の農作物の状態もいい感じね」
フェリスは農場を回っていた。隣には当然のようにメルが付き添っている。
「はい、フェリス様が見られるようになってからというもの、病気の類も食い荒らす虫も見なくなりました。それに加えてよく育ってくれていますし、農家の方はとても喜んでらっしゃいましたよ」
メルが目をキラッキラさせながらフェリスに報告している。それにしても、フェリスは自分が邪神だと主張している割には、村にもたらされるのは実に恩恵ばかりである。害なんていうのはこれっぽっち……、いや昔の邪神仲間が押し掛けてくるのは一応害だろうかというくらいに微々たるものだった。
その邪神仲間であるインフェルノウルフのルディや眠り羊のペコラも、村人からの印象はとても良い。ルディは狩りではとても心強いし、狼モードになれば全身もふもふで子どもにも大人気だ。ペコラも家畜たちがとても懐いているし、眠りの力も使いどころを間違えなければなかなかに有用である。三人揃って邪神を自称するものの、その性格や親しみやすさから誰にも邪神と思われていないのである。フェリスはもう諦めたし、ルディとペコラはそもそも気にしていなかった。
ゼニスを中心とした行商たちとの取引も順調である。
先日は約束した材料を持ってきた行商たちに、フェリスが覚えているレシピでもって料理を再現してあげた。そしたらば、泣くほどに感動していたようである。ちなみにこのレシピの内容はメルも知っている。なにせ眷属化で知識を共有しているからだ。というわけで、レシピを書き記した羊皮紙は、持ってきた材料と引き換えに行商へと物々交換となった。それでも三品目だが、料理のレシピは物によっては白金貨級の取引になるので、そう悪くない取引だろう。行商たちはとても満足して帰っていった。
「まぁ、こうやって昔の味が蘇っていけばいいわよね。工夫するから手間はかかるけど、それだけ味もおいしくなって食べやすくなるからね」
フェリスは満足そうに行商たちを見送ったのだった。
そんなある日の事、フェリスの家に村人が血相を変えて飛び込んできた。
「た、た、た、大変ですっ!!!」
絵で表現すれば髪の毛が乱れてそうな勢いで叫ぶ村人。
「まったく、一体どうしたのよ」
フェリスが耳を押さえながら、飛び込んできた村人に事情を聞く。
「せ、聖女様がこの村にいらっしゃいます」
「聖女? ああ、魔王を討った勇者の仲間の回復役の少女の事ね」
村人の言葉に、フェリスは昔の事を思い出していた。
「おー、あのちんちくりんの事か」
「あーしも知ってるのだ。なんせ、あーしは会って直に話した事もあるのだ。もちろん今代のともあるのだ」
ルディが言っているのはフェリスの記憶と一致するので、おそらく数100年前の聖女の事だろうが、ペコラは今代の聖女の事も知っているようだ。
「今代の聖女ってどんな感じなの?」
知ってるというのだから、フェリスはペコラに聞いてみる。
「んー、正直言って責任感が強すぎるのだ。魔族はおろか、邪神は滅ぼさなければならないと考えているのだ」
「それでも、ペコラは無事だったのよね?」
「そうなのだ。フェリスと同じように昔の料理を再現して食べさせたのだ。あーしは一時期料理人として通っていたのだ」
なんとまぁ、ペコラは聖女に料理を作った事があるというのだ。なるほど胃袋を掴んで納得させたのか。フェリスたち魔族となれば、食事はさほど重要な項目ではなくなるが、人間は食事をしないと死んでしまう。胃袋を掴むというの実に重要な懐柔案件なのである。
「まぁどういう意図があるにせよ、あたしたちがちゃんとおもてなししてあげなきゃね。いきなり攻撃を仕掛けてくるような脳筋さんじゃなきゃいいんだけど」
「そこは多分大丈夫なはずなのだ。あーしが居れば分かってくれると思うのだ」
「というか、ペコラが居たのは何年前の話よ」
「5年くらい前の話なのだ。今は16歳のはずだから、きっと美人になっているのだ」
ペコラは自信満々だが、フェリスはどうにもその自信満々の態度に逆に不安を覚えてしまった。こういう時のペコラは大体失敗をするのだ。
(はぁ、何かと不安はあるけど、あたしがフォローすれば大丈夫でしょうね)
フェリスは少し頭痛がした。
というわけで、フェリスたちは準備万端にして聖女を出迎える事にした。メルに手伝ってもらって食材を揃えておく。料理に関してはフェリス、メル、ペコラと三人ものプロが居るのだ、ミスるわけが無かろう。特にメルは一番経験がない割にはフォローに長けている。そう考えれば最強の布陣と言えよう。ちなみにルディは火力調整役だ。これでも火の扱いに関しては一流のインフェルノウルフなのだ。
「聖女様が見えられました」
村人がフェリスの家に駆け込んできた。これを受けて、
「それじゃ、メル、ルディ、料理の事はお願いね。あたしとペコラで出迎えに行ってくるから」
「承知致しました、フェリス様」
「おう、任せろ」
フェリスが声を掛ければ、二人は頼もしく返事をした。それを聞いて、フェリスはペコラと一緒に、村人について入口まで移動していく。
入口に立てば、村長他多くの村人が集結していた。聖女ともなればさすがに商人と同じような対応はできない。総出とまではいかなくても、歓迎している雰囲気が大事なのである。
やがて、向こうから大勢の騎士と兵士に囲まれた馬車が見えてきた。あれが聖女が乗っている馬車である。白を基調としており、金などの装飾が施されている。実に王族並みの高貴な雰囲気を醸し出している。
やがて、村の入口に到着した一団は、その場で静止する。すると、先導する騎士が話そうとした時に、馬車の扉が開いて中から女性が出てきた。
「せ、聖女様?!」
騎士が慌てている。だが、聖女と呼ばれた女性はとててと走ってくるではないか。
「久しぶりですね、ペコラ」
「聖女様、お久しぶりなのだ」
お互いに声を掛け合うと、ひしっと抱き合っていた。突然の出来事に、その場は驚きによって一斉に沈黙に包まれてしまった。
「うん、今日の農作物の状態もいい感じね」
フェリスは農場を回っていた。隣には当然のようにメルが付き添っている。
「はい、フェリス様が見られるようになってからというもの、病気の類も食い荒らす虫も見なくなりました。それに加えてよく育ってくれていますし、農家の方はとても喜んでらっしゃいましたよ」
メルが目をキラッキラさせながらフェリスに報告している。それにしても、フェリスは自分が邪神だと主張している割には、村にもたらされるのは実に恩恵ばかりである。害なんていうのはこれっぽっち……、いや昔の邪神仲間が押し掛けてくるのは一応害だろうかというくらいに微々たるものだった。
その邪神仲間であるインフェルノウルフのルディや眠り羊のペコラも、村人からの印象はとても良い。ルディは狩りではとても心強いし、狼モードになれば全身もふもふで子どもにも大人気だ。ペコラも家畜たちがとても懐いているし、眠りの力も使いどころを間違えなければなかなかに有用である。三人揃って邪神を自称するものの、その性格や親しみやすさから誰にも邪神と思われていないのである。フェリスはもう諦めたし、ルディとペコラはそもそも気にしていなかった。
ゼニスを中心とした行商たちとの取引も順調である。
先日は約束した材料を持ってきた行商たちに、フェリスが覚えているレシピでもって料理を再現してあげた。そしたらば、泣くほどに感動していたようである。ちなみにこのレシピの内容はメルも知っている。なにせ眷属化で知識を共有しているからだ。というわけで、レシピを書き記した羊皮紙は、持ってきた材料と引き換えに行商へと物々交換となった。それでも三品目だが、料理のレシピは物によっては白金貨級の取引になるので、そう悪くない取引だろう。行商たちはとても満足して帰っていった。
「まぁ、こうやって昔の味が蘇っていけばいいわよね。工夫するから手間はかかるけど、それだけ味もおいしくなって食べやすくなるからね」
フェリスは満足そうに行商たちを見送ったのだった。
そんなある日の事、フェリスの家に村人が血相を変えて飛び込んできた。
「た、た、た、大変ですっ!!!」
絵で表現すれば髪の毛が乱れてそうな勢いで叫ぶ村人。
「まったく、一体どうしたのよ」
フェリスが耳を押さえながら、飛び込んできた村人に事情を聞く。
「せ、聖女様がこの村にいらっしゃいます」
「聖女? ああ、魔王を討った勇者の仲間の回復役の少女の事ね」
村人の言葉に、フェリスは昔の事を思い出していた。
「おー、あのちんちくりんの事か」
「あーしも知ってるのだ。なんせ、あーしは会って直に話した事もあるのだ。もちろん今代のともあるのだ」
ルディが言っているのはフェリスの記憶と一致するので、おそらく数100年前の聖女の事だろうが、ペコラは今代の聖女の事も知っているようだ。
「今代の聖女ってどんな感じなの?」
知ってるというのだから、フェリスはペコラに聞いてみる。
「んー、正直言って責任感が強すぎるのだ。魔族はおろか、邪神は滅ぼさなければならないと考えているのだ」
「それでも、ペコラは無事だったのよね?」
「そうなのだ。フェリスと同じように昔の料理を再現して食べさせたのだ。あーしは一時期料理人として通っていたのだ」
なんとまぁ、ペコラは聖女に料理を作った事があるというのだ。なるほど胃袋を掴んで納得させたのか。フェリスたち魔族となれば、食事はさほど重要な項目ではなくなるが、人間は食事をしないと死んでしまう。胃袋を掴むというの実に重要な懐柔案件なのである。
「まぁどういう意図があるにせよ、あたしたちがちゃんとおもてなししてあげなきゃね。いきなり攻撃を仕掛けてくるような脳筋さんじゃなきゃいいんだけど」
「そこは多分大丈夫なはずなのだ。あーしが居れば分かってくれると思うのだ」
「というか、ペコラが居たのは何年前の話よ」
「5年くらい前の話なのだ。今は16歳のはずだから、きっと美人になっているのだ」
ペコラは自信満々だが、フェリスはどうにもその自信満々の態度に逆に不安を覚えてしまった。こういう時のペコラは大体失敗をするのだ。
(はぁ、何かと不安はあるけど、あたしがフォローすれば大丈夫でしょうね)
フェリスは少し頭痛がした。
というわけで、フェリスたちは準備万端にして聖女を出迎える事にした。メルに手伝ってもらって食材を揃えておく。料理に関してはフェリス、メル、ペコラと三人ものプロが居るのだ、ミスるわけが無かろう。特にメルは一番経験がない割にはフォローに長けている。そう考えれば最強の布陣と言えよう。ちなみにルディは火力調整役だ。これでも火の扱いに関しては一流のインフェルノウルフなのだ。
「聖女様が見えられました」
村人がフェリスの家に駆け込んできた。これを受けて、
「それじゃ、メル、ルディ、料理の事はお願いね。あたしとペコラで出迎えに行ってくるから」
「承知致しました、フェリス様」
「おう、任せろ」
フェリスが声を掛ければ、二人は頼もしく返事をした。それを聞いて、フェリスはペコラと一緒に、村人について入口まで移動していく。
入口に立てば、村長他多くの村人が集結していた。聖女ともなればさすがに商人と同じような対応はできない。総出とまではいかなくても、歓迎している雰囲気が大事なのである。
やがて、向こうから大勢の騎士と兵士に囲まれた馬車が見えてきた。あれが聖女が乗っている馬車である。白を基調としており、金などの装飾が施されている。実に王族並みの高貴な雰囲気を醸し出している。
やがて、村の入口に到着した一団は、その場で静止する。すると、先導する騎士が話そうとした時に、馬車の扉が開いて中から女性が出てきた。
「せ、聖女様?!」
騎士が慌てている。だが、聖女と呼ばれた女性はとててと走ってくるではないか。
「久しぶりですね、ペコラ」
「聖女様、お久しぶりなのだ」
お互いに声を掛け合うと、ひしっと抱き合っていた。突然の出来事に、その場は驚きによって一斉に沈黙に包まれてしまった。
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