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第37話 邪神ちゃんともこもこ
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商人たちとの交渉を無事に終えて、フェリスたちは今日ものんびり過ごしている。
売り渡そうとしたレシピだが、村との材料の品質差というのもあるので、今のところは保留している。まあ、材料を持ってきて作った上での引き換えという事にしてあるので問題はないだろう。そういうわけで、材料を持って商人が来るまでは実にのんびり過ごせるのである。
「フェリス様、今日はどうなさいますか?」
メルがベッドで惰眠をむさぼるフェリスに声を掛けてくる。
「そうねえ、たまに何もしない日があってもいいとは思うんだけどね」
フェリスはベッドで寝ているつもりのようである。人間と魔族の戦いが終わってからはそういう日も多かったので、この寝ている状態の方がどちらかといえばデフォルトである。ここ最近の働き様の方が異常なのだ。
「これだけ動くっていうのは、本当にあの戦いのあった頃依頼なのよね。不思議と疲れてないんだけど、ごめんだけど今日はこのまま寝かせて」
メルが困ったような顔をするが、今日のフェリスはまったく動く気が無いようである。とはいえ、ここで無理強いをして不興を買うのも良くないと判断したメルは、
「分かりました。今日はゆっくりお休み下さいませ、フェリス様」
と、フェリスの意思を尊重したのだった。一応契約をしてないとはいえ眷属、主を立てるのは当然なのである。
ところが、そういったやり取りが終わったところに、やかましいのが入って来た。
「がーっはっはっはっはっ! おい、フェリス、お前に客人だぞ。懐かしいのが来てるから会ってやれ」
ルディが今日のフェリスの決意をぶち壊してきた。ルディが懐かしいという客人。それは言わずと知れた邪神仲間の誰かという事だ。
「うええ……。今日は寝てるつもりだったのに、まったく誰よぉ……」
フェリスは寝る気だった体を無理やり起こして、ルディに引っ張られていった。その後ろからメルもとててとついて行ったのだった。
建物の外まで来ると、そこにはもこもこな髪型が特徴的なフェリスよりちょっと背の高い女性が立っていた。両腰に拳を当ててドヤ顔で立つ女性、一体何者なのであろうか。
「うへぇ、ペコラ、あんたがなんでここに……」
姿を見るなりげんなりとするフェリス。言葉の端々から嫌がっているのが分かる。
「久しぶりなのだ、フェリス。噂を聞いてあーしも会いに来たのだ」
一人称が「あーし」で語尾には「のだ」。服装も袖なしのシャツに短パンで、手首と足首、そして首にはもこもこの飾りがついている。よく見ればお尻にももこもこがある。ルディに負けず劣らず活発そうな感じだ。
「あのー、フェリス様。この方はどなたなのでしょうか」
メルがおそるおそる尋ねてくる。まあ無理もないだろう。やって来るなり馴れ馴れしい口を利いていれば、眷属なら気になってしまうものなのだ。フェリスはその気持ちを察して、メルに説明する。
「こいつはペコラ。あたしと同じように元々が羊だった魔族よ。所構わず人を眠らせて回っていたせいで邪神扱いにされたアホよ」
「アホとは何なのだ。あーしは気持ちよく眠ってもらいたいだけなのだ」
「相手の事情も知らずに寝かせるからでしょうが! 自分の能力優先でやりたい放題だったんだから、あたしよりも邪神してたんじゃないの?」
フェリスとペコラが口げんかを始めた。見ている限り、この二人の仲はよろしくないようである。ルディと比べても相性は良くなさそうだ。
「あのールディ様、いかがしましょうか」
慌てふためくメルがルディにすがる。しかし、
「気の済むまでやらせてけばいいさ。この二人ってさ、昔もこうだったんだよ」
と放ったらかしにするつもり満々だった。
「ふええ、ここは村の中なんですから、止めて下さいよ。ああ、もうなんか険悪すぎますぅぅぅっ!」
メルが混乱している。そこでルディは、
「仕方ねえなぁ。メルに免じて、ここはいっちょ一肌脱ぐか」
と言って、肩をぐるぐる回しながら二人に近付いた。そして、それぞれの尻尾を掴むと、
「ぬん!」
と気合いを入れる。すると、フェリスとペコラの尻尾に火が付いた。
「うわっちゃっ!!」
その熱さに二人揃って飛び上がる。そして、二人揃って魔法で火を消すと、
「何すんのよ、この犬ころっ!」
「何をするのです。ルディ!」
同じような事を言ってルディに食って掛かった。違いは言葉遣いだけである。
「フェリス、とりあえずお前はメルを泣かせるな。ペコラもそうやってフェリスに突っ掛かるのはやめろ。こいつの口の悪さは知ってるだろうが。聞き流せ」
ルディがなんかお姉さんっぽい事をしている。その姿がカッコよかったのか、ルディの事をじっとメルが見ている。
「うん? あまりじろじろ見ないでくれ、照れる。言っとくけど、こんなの日常茶飯事だったんだぞ。あの頃は俺以外にも仲裁役が居たんだが、あいつら今頃何やってんだかなぁ」
ルディは昔の事を思い出して、他に居た邪神仲間の事を思い出していた。
「フェリス様ってどれくらいの方と親交があったのですか?」
「ん~、10人ちょっとかな。俺とマイムとペコラ……、やっぱそれくらいだな」
ルディは思い出しながら数えていたが、すぐに面倒になったらしく、最初の曖昧な数値をそのまま押し通した。
「それはそれとして……。ペコラ、本当に何をしに来たんだ?」
ルディは改めてペコラを見る。
「さっきも言った通り、あーしはフェリスに会いに来たのだ!」
「……まあいい、詳しい話は中で聞こう。メル、悪いがお菓子を用意してくれ」
「分かりました」
ルディが頼めば、メルはチャチャっとお菓子の準備のために家の中へ入っていった。
「ほらフェリス、お前も中に入るぞ」
「うう、分かったわよ。って、ここあたしの家!」
不満たっぷりのフェリスだったが、とりあえずここはおとなしく、ルディの言う通りに家の中へと入っていった。
フェリスたちの古き友人ペコラ。彼女は一体本当に何をしにここへ来たのだろうか。
売り渡そうとしたレシピだが、村との材料の品質差というのもあるので、今のところは保留している。まあ、材料を持ってきて作った上での引き換えという事にしてあるので問題はないだろう。そういうわけで、材料を持って商人が来るまでは実にのんびり過ごせるのである。
「フェリス様、今日はどうなさいますか?」
メルがベッドで惰眠をむさぼるフェリスに声を掛けてくる。
「そうねえ、たまに何もしない日があってもいいとは思うんだけどね」
フェリスはベッドで寝ているつもりのようである。人間と魔族の戦いが終わってからはそういう日も多かったので、この寝ている状態の方がどちらかといえばデフォルトである。ここ最近の働き様の方が異常なのだ。
「これだけ動くっていうのは、本当にあの戦いのあった頃依頼なのよね。不思議と疲れてないんだけど、ごめんだけど今日はこのまま寝かせて」
メルが困ったような顔をするが、今日のフェリスはまったく動く気が無いようである。とはいえ、ここで無理強いをして不興を買うのも良くないと判断したメルは、
「分かりました。今日はゆっくりお休み下さいませ、フェリス様」
と、フェリスの意思を尊重したのだった。一応契約をしてないとはいえ眷属、主を立てるのは当然なのである。
ところが、そういったやり取りが終わったところに、やかましいのが入って来た。
「がーっはっはっはっはっ! おい、フェリス、お前に客人だぞ。懐かしいのが来てるから会ってやれ」
ルディが今日のフェリスの決意をぶち壊してきた。ルディが懐かしいという客人。それは言わずと知れた邪神仲間の誰かという事だ。
「うええ……。今日は寝てるつもりだったのに、まったく誰よぉ……」
フェリスは寝る気だった体を無理やり起こして、ルディに引っ張られていった。その後ろからメルもとててとついて行ったのだった。
建物の外まで来ると、そこにはもこもこな髪型が特徴的なフェリスよりちょっと背の高い女性が立っていた。両腰に拳を当ててドヤ顔で立つ女性、一体何者なのであろうか。
「うへぇ、ペコラ、あんたがなんでここに……」
姿を見るなりげんなりとするフェリス。言葉の端々から嫌がっているのが分かる。
「久しぶりなのだ、フェリス。噂を聞いてあーしも会いに来たのだ」
一人称が「あーし」で語尾には「のだ」。服装も袖なしのシャツに短パンで、手首と足首、そして首にはもこもこの飾りがついている。よく見ればお尻にももこもこがある。ルディに負けず劣らず活発そうな感じだ。
「あのー、フェリス様。この方はどなたなのでしょうか」
メルがおそるおそる尋ねてくる。まあ無理もないだろう。やって来るなり馴れ馴れしい口を利いていれば、眷属なら気になってしまうものなのだ。フェリスはその気持ちを察して、メルに説明する。
「こいつはペコラ。あたしと同じように元々が羊だった魔族よ。所構わず人を眠らせて回っていたせいで邪神扱いにされたアホよ」
「アホとは何なのだ。あーしは気持ちよく眠ってもらいたいだけなのだ」
「相手の事情も知らずに寝かせるからでしょうが! 自分の能力優先でやりたい放題だったんだから、あたしよりも邪神してたんじゃないの?」
フェリスとペコラが口げんかを始めた。見ている限り、この二人の仲はよろしくないようである。ルディと比べても相性は良くなさそうだ。
「あのールディ様、いかがしましょうか」
慌てふためくメルがルディにすがる。しかし、
「気の済むまでやらせてけばいいさ。この二人ってさ、昔もこうだったんだよ」
と放ったらかしにするつもり満々だった。
「ふええ、ここは村の中なんですから、止めて下さいよ。ああ、もうなんか険悪すぎますぅぅぅっ!」
メルが混乱している。そこでルディは、
「仕方ねえなぁ。メルに免じて、ここはいっちょ一肌脱ぐか」
と言って、肩をぐるぐる回しながら二人に近付いた。そして、それぞれの尻尾を掴むと、
「ぬん!」
と気合いを入れる。すると、フェリスとペコラの尻尾に火が付いた。
「うわっちゃっ!!」
その熱さに二人揃って飛び上がる。そして、二人揃って魔法で火を消すと、
「何すんのよ、この犬ころっ!」
「何をするのです。ルディ!」
同じような事を言ってルディに食って掛かった。違いは言葉遣いだけである。
「フェリス、とりあえずお前はメルを泣かせるな。ペコラもそうやってフェリスに突っ掛かるのはやめろ。こいつの口の悪さは知ってるだろうが。聞き流せ」
ルディがなんかお姉さんっぽい事をしている。その姿がカッコよかったのか、ルディの事をじっとメルが見ている。
「うん? あまりじろじろ見ないでくれ、照れる。言っとくけど、こんなの日常茶飯事だったんだぞ。あの頃は俺以外にも仲裁役が居たんだが、あいつら今頃何やってんだかなぁ」
ルディは昔の事を思い出して、他に居た邪神仲間の事を思い出していた。
「フェリス様ってどれくらいの方と親交があったのですか?」
「ん~、10人ちょっとかな。俺とマイムとペコラ……、やっぱそれくらいだな」
ルディは思い出しながら数えていたが、すぐに面倒になったらしく、最初の曖昧な数値をそのまま押し通した。
「それはそれとして……。ペコラ、本当に何をしに来たんだ?」
ルディは改めてペコラを見る。
「さっきも言った通り、あーしはフェリスに会いに来たのだ!」
「……まあいい、詳しい話は中で聞こう。メル、悪いがお菓子を用意してくれ」
「分かりました」
ルディが頼めば、メルはチャチャっとお菓子の準備のために家の中へ入っていった。
「ほらフェリス、お前も中に入るぞ」
「うう、分かったわよ。って、ここあたしの家!」
不満たっぷりのフェリスだったが、とりあえずここはおとなしく、ルディの言う通りに家の中へと入っていった。
フェリスたちの古き友人ペコラ。彼女は一体本当に何をしにここへ来たのだろうか。
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