35 / 290
第35話 邪神ちゃんと見学会
しおりを挟む
フェリスたちに迎えられた商人たちは、フェリスの姿に驚いた。全身が白い毛並みに赤色の髪の毛、それに背中にはこうもりのような羽が付いている。どう見ても人間ではない魔族である。
「ここは魔族の支配する村なのか?!」
商人の一人が叫ぶが、それを制したのはゼニスだった。
「一応フェリスさんの事はお話したと思ったのですが? 聞いておられませんでしたか?」
「ぐっ……」
騒いだ商人が押し黙った。どうやら聞いていたようである。
「じ、実際に見て驚いただけだ」
商人はそうだけ言って顔を背けた。謝る気はないようである。
まぁフェリスにとっては予測の範疇である。自分が不当な扱いが受けようとも怒る気はない。そもそも自分の立場はフェリスが一番理解しているし、それ以上の物で黙らせればいいだけなのだ。横でメルが頬を膨らませて不機嫌になっているが、フェリスが頭を撫でで微笑めば、メルは一気に機嫌を直したのである。
「まぁまぁ、あたしが魔族と関係あったのは事実だしね。とりあえず商業組合に行って、それから宿。荷物を置いたら村の中の見学よ。いいかしら」
明るく振る舞うフェリスに少々疑念を持つ者は居たが、概ねは素直に従ってくれそうである。
というわけで、一行はまず村に新設された商業組合へと顔を出した。
「あら、みなさんお久しぶりですね」
商業組合の机で書類を作っている女性。どうやら商人たちと面識があったようである。
「いやはや、あなたがおいででしたか、アファカさん」
「ええ、彼女は私の紹介でも指折りの有能ですからね。今後の事を考えて、この村に赴任してもらったのですよ」
商人の一人の言葉に反応したのは、ゼニスだった。どうやらアファカと呼ばれた女性は、ゼニスの所属する商会ではトップクラスの人らしい。まぁ確かに容姿はとても整っている。見た感じ20歳の前半といったところだろう。
「はい、私はこの村での商業の扱いを一手に引き受けています。この村で商売をしたければ、私の機嫌は損ねない事をお勧めします」
無表情で淡々と告げるアファカ。きれいだが、どことなく怖い感じである。
「ちなみに、フェリスさんを貶した時点ですでにマイナスです。そこはご了承下さい」
「ひっ!」
にっこりと氷の笑みを浮かべるアファカ。それはやって来た商人たちを凍てつかせるには十分だった。
(こっわ。人間にもたまに居るわよね……)
「フェリスさん、私を怖いだなんて、思ってませんよね?」
フェリスが眺めていると、アファカがフェリスを見て微笑んだ。しっかり心を読まれたようである。
(ちょっと、あたしの心を読むなんて、この人間何者よっ!!)
フェリスは平静を装いながら、心の中で叫んだ。
商業組合を出た一行は、宿に入るとここでも驚いていた。宿はしっかりとした三階建ての建物で、設備もしっかりしている。ベッドのシーツはよく見ればスパイダークロスである。村にやって来た商会の従業員のアドバイスですっかり質が上がっていたのである。
商人の一行は、護衛を数人宿に残して村の見学に出る。牛や馬といった家畜はのんびりと暮らしており、小麦や果物もしっかり実っている。
「って、今ってリンゴとかの旬じゃない時期だろ?」
「これもフェリスさんの恩恵なんですよ」
とかちょっとしたやり取りをしながら巡っていく。大体妙な事があればフェリスのせいで押し通せた。実に便利な『フェリスのせい』という単語だが、フェリスの外見のせいでとても納得がいくのである。フェリスはそのせいで膨れっ面になっていたが、まあ可愛いものである。その姿を見つめるメルが恍惚とした表情を浮かべていたので、なおさら膨れるフェリスである。
で、予想通りジャイアントスパイダーの姿で商人たちは大声を上げた。糸の品質は確かなものだったが、その糸を生み出す魔物が子どもほどの大きさがあるとは思ってもみなかった。そのクモたちをそのほぼ同じ大きさの子どもたちが世話しているのだから、瞬時にして大きさが分かるというものである。
「いやはや、私も叫びましたからな、これを見た時は……」
ゼニスがどこか遠い目をしていた。
「おう、ちょうどここに来てたのか」
そこへルディが魔物の肉を持って現れた。どうやらしばらく狩りに出ていたようだ。あの短い時間で魔物を倒してくるあたり、さすがと言えよう。
「ひっ、魔物!」
「俺は確かに魔物だが、今はれっきとしたこの村の住人だぞ。それとこの肉はそのクモどもの餌だ」
ルディはそう言いながらクモへと近寄っていく。相変わらずルディはクモに逃げられているが、餌だけ置いて戻って来ると、クモたちは嬉しそうにその餌を頬張っていた。
「とまぁ、あいつらはこうやって飯食って、糸を吐いてるんだ。ストレスさえ与えなきゃ、糸は毒性はないしそれはいい品質の糸になるんだぜ」
ルディは得意そうに笑っていた。クモに逃げられていて凹んでいたのが嘘のように今は平然としている。成長したものだ。
「とりあえず、今ある糸だけでも回収して商業組合に戻りましょうか。歩き詰めで疲れたでしょうからね」
「ええ、そうですね」
というわけで、ここからは本格的な商談に入るために、一行は商業組合の建物へと戻る事になった。そこでは、アファカが村の女性陣を連れて待ち構えていた。
「ここは魔族の支配する村なのか?!」
商人の一人が叫ぶが、それを制したのはゼニスだった。
「一応フェリスさんの事はお話したと思ったのですが? 聞いておられませんでしたか?」
「ぐっ……」
騒いだ商人が押し黙った。どうやら聞いていたようである。
「じ、実際に見て驚いただけだ」
商人はそうだけ言って顔を背けた。謝る気はないようである。
まぁフェリスにとっては予測の範疇である。自分が不当な扱いが受けようとも怒る気はない。そもそも自分の立場はフェリスが一番理解しているし、それ以上の物で黙らせればいいだけなのだ。横でメルが頬を膨らませて不機嫌になっているが、フェリスが頭を撫でで微笑めば、メルは一気に機嫌を直したのである。
「まぁまぁ、あたしが魔族と関係あったのは事実だしね。とりあえず商業組合に行って、それから宿。荷物を置いたら村の中の見学よ。いいかしら」
明るく振る舞うフェリスに少々疑念を持つ者は居たが、概ねは素直に従ってくれそうである。
というわけで、一行はまず村に新設された商業組合へと顔を出した。
「あら、みなさんお久しぶりですね」
商業組合の机で書類を作っている女性。どうやら商人たちと面識があったようである。
「いやはや、あなたがおいででしたか、アファカさん」
「ええ、彼女は私の紹介でも指折りの有能ですからね。今後の事を考えて、この村に赴任してもらったのですよ」
商人の一人の言葉に反応したのは、ゼニスだった。どうやらアファカと呼ばれた女性は、ゼニスの所属する商会ではトップクラスの人らしい。まぁ確かに容姿はとても整っている。見た感じ20歳の前半といったところだろう。
「はい、私はこの村での商業の扱いを一手に引き受けています。この村で商売をしたければ、私の機嫌は損ねない事をお勧めします」
無表情で淡々と告げるアファカ。きれいだが、どことなく怖い感じである。
「ちなみに、フェリスさんを貶した時点ですでにマイナスです。そこはご了承下さい」
「ひっ!」
にっこりと氷の笑みを浮かべるアファカ。それはやって来た商人たちを凍てつかせるには十分だった。
(こっわ。人間にもたまに居るわよね……)
「フェリスさん、私を怖いだなんて、思ってませんよね?」
フェリスが眺めていると、アファカがフェリスを見て微笑んだ。しっかり心を読まれたようである。
(ちょっと、あたしの心を読むなんて、この人間何者よっ!!)
フェリスは平静を装いながら、心の中で叫んだ。
商業組合を出た一行は、宿に入るとここでも驚いていた。宿はしっかりとした三階建ての建物で、設備もしっかりしている。ベッドのシーツはよく見ればスパイダークロスである。村にやって来た商会の従業員のアドバイスですっかり質が上がっていたのである。
商人の一行は、護衛を数人宿に残して村の見学に出る。牛や馬といった家畜はのんびりと暮らしており、小麦や果物もしっかり実っている。
「って、今ってリンゴとかの旬じゃない時期だろ?」
「これもフェリスさんの恩恵なんですよ」
とかちょっとしたやり取りをしながら巡っていく。大体妙な事があればフェリスのせいで押し通せた。実に便利な『フェリスのせい』という単語だが、フェリスの外見のせいでとても納得がいくのである。フェリスはそのせいで膨れっ面になっていたが、まあ可愛いものである。その姿を見つめるメルが恍惚とした表情を浮かべていたので、なおさら膨れるフェリスである。
で、予想通りジャイアントスパイダーの姿で商人たちは大声を上げた。糸の品質は確かなものだったが、その糸を生み出す魔物が子どもほどの大きさがあるとは思ってもみなかった。そのクモたちをそのほぼ同じ大きさの子どもたちが世話しているのだから、瞬時にして大きさが分かるというものである。
「いやはや、私も叫びましたからな、これを見た時は……」
ゼニスがどこか遠い目をしていた。
「おう、ちょうどここに来てたのか」
そこへルディが魔物の肉を持って現れた。どうやらしばらく狩りに出ていたようだ。あの短い時間で魔物を倒してくるあたり、さすがと言えよう。
「ひっ、魔物!」
「俺は確かに魔物だが、今はれっきとしたこの村の住人だぞ。それとこの肉はそのクモどもの餌だ」
ルディはそう言いながらクモへと近寄っていく。相変わらずルディはクモに逃げられているが、餌だけ置いて戻って来ると、クモたちは嬉しそうにその餌を頬張っていた。
「とまぁ、あいつらはこうやって飯食って、糸を吐いてるんだ。ストレスさえ与えなきゃ、糸は毒性はないしそれはいい品質の糸になるんだぜ」
ルディは得意そうに笑っていた。クモに逃げられていて凹んでいたのが嘘のように今は平然としている。成長したものだ。
「とりあえず、今ある糸だけでも回収して商業組合に戻りましょうか。歩き詰めで疲れたでしょうからね」
「ええ、そうですね」
というわけで、ここからは本格的な商談に入るために、一行は商業組合の建物へと戻る事になった。そこでは、アファカが村の女性陣を連れて待ち構えていた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる