邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
33 / 290

第33話 邪神ちゃんと新たな住民

しおりを挟む
 のどかな農業と牧畜の村に似つかわしくない、実に立派な木造建築の群れが出現した。村人総出で建てられたその建物は、フェリスの手によって強度チェックが行われた上で合格を貰い、更には強化魔法までかけてもらった立派な建物たちである。ちなみに木造なのに火をつけても燃えない。その効果はルディの炎ですら防ぐ。
「はぁ? 木なのに燃えねえってどういう事だよ?!」
 フェリスは自分の木像に同じ魔法を掛けてルディに燃やしてもらおうとした。燃えたらラッキー程度だったが、まったく燃える事はなかった。
「さすがフェリス様ですぅ……」
 メルが感動して、恍惚とした表情でフェリスを拝んでいる。さすがにちょっと怖い感じである。
「……まあ、見ての通り、インフェルノウルフであるルディ、しかもあたしと同じように神格に近付いた魔物の攻撃ですらこの通り。これでご安心頂けましたか?」
 にっこりとフェリスが笑うと、立ち会っていた村長たちは無言で激しく頭を前後に振っていた。
(ちっ、この像燃えちゃえばよかったのに……)
 フェリスが内心こんな事を思っていたのだが、それが表情として出たのがただの恐怖として伝わったようであった。
 といった感じで、外部の人間を迎える準備は整いつつあった。とはいっても、まだ建物などの設備だけで、そこで働く従業員たちはこれからである。
 だが、そこはゼニスが力を貸してくれた。この村のこれからに期待をして、わざわざ自分の所属する商会から従業員を寄こしてくれたのだ。名前の無いような村だったので、最初は渋られたらしい。しかし、スパイダーヤーンや食べ物の事を聞くと、段々と行く気になっていったそうな。……決め手がフェリスだと聞いた時は、開いた口が塞がらなかったが。まあ、何にしても、人材にもそれほど不安が無くて済むのはいい事である。
 で、商業エリアが完成した翌日には、早速ゼニスが商談を兼ねて再来した。
 ゼニスが村にやって来る頻度が上がっている。それくらいにはスパイダーヤーンの需要が高いようなのだ。まぁ、最初の売ったものの数倍の量なら常時生産できるようになったのでさして問題はない。
「まあ、この子がフェリスちゃん?」
「すげぇ、全身の毛並みは白いのに、髪だけ真っ赤だぞ」
「くぅぅ、栄転を蹴って来たかいがあるものだ」
「はわわわ……、可愛い……」
 村にやって来た従業員たちは、フェリスを見るなりメロメロ全開だった。その様子に、フェリスがドン引きする。
「ゼニスさん、この人たち大丈夫なんですか?!」
 さすがに気持ち悪すぎて、フェリスはゼニスに怒鳴りつける。
「ええ、大変有能な方々です。ただ、フェリスさんが可愛すぎただけなのです」
「あたしは、邪神よぉっ?! 可愛い言うなーっ!」
「可愛いーっ!」
 ゼニスの言葉に、フェリスは嫌悪の絶叫をするが、その反応は実に逆効果だった。男女問わず従業員たちは、すっかりフェリスの虜だった。
「はぁ、頭が痛いわ……」
 フェリスは両手をだらりと下げてがっくりと項垂れた。もうどうとでもなれ。
「フェリス様は可愛いだけじゃないんです。優しくかっこいいんです」
 落ち込むフェリスの横で、メルが胸を張ってドヤ顔を決めている。
「メ~ル~……」
 メルの言い分に、頭だけ起こして猫背状態のフェリスが、実に怨めしい顔でメルを見ている。だが、今のメルにそんな視線は通じない。フェリスを愛でる同士ができて喜び一杯だからだ。
「はっはっはっはっ! 諦めろフェリス。お前がどんなに言ったところで、こいつらはまともに聞きそうにないぞ!」
 そのやり取りをにやついて見ていたルディが、大口を開けて笑う。ついイラっときたフェリスは、気が付いたらその顔面に右ストレートを打ち込んでいた。
「あっ、ごめん。つい」
「ついで顔面陥没させようとするなっ!」
 ルディが顔をさすって怒っている。それに対してフェリスはルディ相手だと遠慮はまったくなく、もう一撃入れようかと睨みつけていた。
 さすがにこのやり取りは、従業員たちの気を引き締めるには十分だった。怒らせたらどうなるかを、目の前で見せつけられたのだから。軽率な行為は自重しよう、従業員たちは固く誓った。
 ルディが体を張ってくれたおかげで、この後のやり取りは実にスムーズだった。村で働く予定の従業員たちには村の中をとにかく見てもらった。そしたらば、やっぱりジャイアントスパイダーには腰を抜かしたようである。あの大きさのクモはさすがに一度はこうなってしまうものなのだ。
 ただ、村の見学の最後でとんでもない事実が判明した。
「私どもの暮らす家は、どちらになりますか?」
「あっ!」
 そう、従業員たちの家が無かったのである。仕方がないので、営業開始前の宿屋をしばらく仮の住まいとする事にして、急ピッチで従業員たちの家を建てる事になったのであった。
「いやはや、面目ない」
「はははっ、こういう村ですからな、仕方ないとは思いますよ」
 村長は額をさすりながら謝罪し、ゼニスは苦笑いをしながらフォローをしていた。
 しかし、これによって従業員たちから宿の改良点などの指摘が出され、本格的な外部解放に向けての下準備が進められていったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

辺境領の底辺領主は知識チートでのんびり開拓します~前世の【全知データベース】で、あらゆる危機を回避して世界を掌握する~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に転生したリューイは、前世で培った圧倒的な知識を手にしていた。 辺境の小さな領地を相続した彼は、王都の学士たちも驚く画期的な技術を次々と編み出す。 農業を革命し、魔物への対処法を確立し、そして人々の生活を豊かにするため、彼は動く。 だがその一方、強欲な諸侯や闇に潜む魔族が、リューイの繁栄を脅かそうと企む。 彼は仲間たちと協力しながら、領地を守り、さらには国家の危機にも立ち向かうことに。 ところが、次々に襲い来る困難を解決するたびに、リューイはさらに大きな注目を集めてしまう。 望んでいたのは「のんびりしたスローライフ」のはずが、彼の活躍は留まることを知らない。 リューイは果たして、すべての敵意を退けて平穏を手にできるのか。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

捨てられると思ったけど違うみたいで

一色
ファンタジー
騎士の家系で育っているのに持っているのは全く関係のない方向のスキル??廃嫡されてしまうと思いきやなんだか違うようで…

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...