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第32話 邪神ちゃんと村の名前
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いろいろあって、フェリスが住むこの名もなき村に、人を呼び込む作戦の展開が始まった。
そうとなると、最初に決めておきたいのは村の名前である。外部の人間の泊まる宿の建設を進めつつ、村長とフェリスにメル、それと村の住民数名で話し合いが持たれた。
しかし、この判断がよろしくなかった。結局賛成多数で『フェリスメル』という、とんでもなく単純で恥ずかしい名前に決まってしまったのだった。あまりの一方的な多数決にフェリスは呆然としたし、メルはとても歓喜していた。当然ながら、反対票はフェリスのみである。
「わーい、まさか私の名前まで組み込まれるとは思ってませんでした!」
「メルは天使様の従者だからね、当然というものじゃよ」
飛び跳ねて全身で喜びを表現するメル。村長もこの名前で当然と言い切っている。周りの村人たちも無言で頷くだけで、誰一人として反対意見を言い出す事はなかった。こうして、あっさりと村の名前が決まってしまったのである。
狩りに出ていたルディがその話を聞くと、大爆笑しながら地面を転げまわっていた。ここまで笑うか、この犬ころよ。フェリスからの無言の圧を掛けられても、ルディはそのまま笑い転げていた。相当にツボに入ったようである。
「まあいいじゃねえか、フェリス。そんだけ村の連中がフェリスに感謝してるって事なんだからよ」
なんとか笑いを堪えながら、珍しく正論を言い放つルディ。その言葉に、フェリスはどうにも納得がいかないような顔をしていた。よっぽど自分の名前を付けられるのが嫌なようである。自分が邪神というのを強く自覚している事が最大の理由であるが、それを気にするような人物はそもそも村には居なかった。それに加えてフェリスのよる様々な恩恵があるので、村人たちは村の名前にフェリスの名前を付けたがったのである。フェリスの完全敗北である。
「まぁ、村のみんながそう言うならもういいわよぉ……」
フェリスが魂が抜けるようなため息を吐いて、盛大に落ち込んでいた。その様子を見たメルが、慌ててフェリスの世話をしたのは言うまでもなかった。
どうにか立ち直ったフェリスは、村と外部との交流を行うにあたって、必要な事をどんどんと進めていく。ただ、実際に行動するのは村人たち。フェリスはあくまでも基礎の提案だけである。フェリスの感覚としては、自分はあくまでも居候である。昔の知り合いのように君臨するような事は絶対しないのである。ただし、意見を求められればそれに答えるくらいはする。そこまで薄情ではないのである。
元々フェリスの事を利用して村を発展させる野望があったので、村長たちの行動はとても早く起こされた。ただ、田舎ゆえに知識が乏しかったので、動くに動けなかったというのが実情である。
それが、本格的にフェリスが手伝ってくれる事になった上に、メルが眷属化特典でたくさんの知識を得た事で、ようやく行動が起こせるようになったのだ。
まずは宿や食堂などを置く商業エリアの設置だ。冒険者や商人たちが集う組合所も作った方がよいというフェリスのアドバイスで、そこから急ピッチで工事が始まった。それに伴って、一部の村人は移住をせねばならなくなったが、無駄に土地の広い村だし、家自体は簡素な造りなので移設がとても楽だった。みるみる家が解体されて新たに建てられる様は、一見の価値があった。
ちなみにだが、外部向けの施設が作られるのは、フェリスの木像の建てられた広場の脇である。そこからルディが掘った溜め池や川とは反対方向に商業エリアが建設されていく。外部から来る人物に対応させるべく、フェリスの家に近い工法で頑丈に建設していく。そして、建物の高さも3階まで造っていく。これはフェリスと村にやって来る行商人ゼニスからのアドバイスである。平屋にするとかなり面積を取ってしまうが、同じ面積でも高さを取ればそれだけで収容人員を増やせるのである。村の敷地は有限なのだ。ならば上の空間を有効活用するのである。
この工事も、村人で働ける人員はほとんど総出である。その間の畑や牧場はフェリスやルディが代わって世話をしていた。天使様を働かせるわけにはと言っていた村人も居たが、そこはフェリスが見事に説き伏せていた。なにせフェリスが世話をすると、その魔力の影響で豊作になるのだ。虫や病気の心配もなくなる。これで説得されない人間はいなかったのだ。
というわけで、この日もフェリスがルディとメルを連れて畑や牧場を見て回っている。畑の方は本来、肥料とか水とか大変な作業なのだが、フェリスはそのすべてを魔法でちゃっちゃと済ませていた。本当に魔法とは便利なものである。牧場の方に顔を出せば、フェリスはあっという間に牛や馬に囲まれる始末である。かと思えば、ルディにはまったく寄り付かない。それをメルに笑われたせいで、ルディは腹いせに小屋の中を焼いていた。もちろん小屋を燃やしたのではなく掃除である。汚物は消毒なのである。
こういった日々が10数日繰り返される。
「ようやくできたわね」
フェリスの木像がある広場に立ったフェリスは、自信満々にその光景を眺めたのであった。
そうとなると、最初に決めておきたいのは村の名前である。外部の人間の泊まる宿の建設を進めつつ、村長とフェリスにメル、それと村の住民数名で話し合いが持たれた。
しかし、この判断がよろしくなかった。結局賛成多数で『フェリスメル』という、とんでもなく単純で恥ずかしい名前に決まってしまったのだった。あまりの一方的な多数決にフェリスは呆然としたし、メルはとても歓喜していた。当然ながら、反対票はフェリスのみである。
「わーい、まさか私の名前まで組み込まれるとは思ってませんでした!」
「メルは天使様の従者だからね、当然というものじゃよ」
飛び跳ねて全身で喜びを表現するメル。村長もこの名前で当然と言い切っている。周りの村人たちも無言で頷くだけで、誰一人として反対意見を言い出す事はなかった。こうして、あっさりと村の名前が決まってしまったのである。
狩りに出ていたルディがその話を聞くと、大爆笑しながら地面を転げまわっていた。ここまで笑うか、この犬ころよ。フェリスからの無言の圧を掛けられても、ルディはそのまま笑い転げていた。相当にツボに入ったようである。
「まあいいじゃねえか、フェリス。そんだけ村の連中がフェリスに感謝してるって事なんだからよ」
なんとか笑いを堪えながら、珍しく正論を言い放つルディ。その言葉に、フェリスはどうにも納得がいかないような顔をしていた。よっぽど自分の名前を付けられるのが嫌なようである。自分が邪神というのを強く自覚している事が最大の理由であるが、それを気にするような人物はそもそも村には居なかった。それに加えてフェリスのよる様々な恩恵があるので、村人たちは村の名前にフェリスの名前を付けたがったのである。フェリスの完全敗北である。
「まぁ、村のみんながそう言うならもういいわよぉ……」
フェリスが魂が抜けるようなため息を吐いて、盛大に落ち込んでいた。その様子を見たメルが、慌ててフェリスの世話をしたのは言うまでもなかった。
どうにか立ち直ったフェリスは、村と外部との交流を行うにあたって、必要な事をどんどんと進めていく。ただ、実際に行動するのは村人たち。フェリスはあくまでも基礎の提案だけである。フェリスの感覚としては、自分はあくまでも居候である。昔の知り合いのように君臨するような事は絶対しないのである。ただし、意見を求められればそれに答えるくらいはする。そこまで薄情ではないのである。
元々フェリスの事を利用して村を発展させる野望があったので、村長たちの行動はとても早く起こされた。ただ、田舎ゆえに知識が乏しかったので、動くに動けなかったというのが実情である。
それが、本格的にフェリスが手伝ってくれる事になった上に、メルが眷属化特典でたくさんの知識を得た事で、ようやく行動が起こせるようになったのだ。
まずは宿や食堂などを置く商業エリアの設置だ。冒険者や商人たちが集う組合所も作った方がよいというフェリスのアドバイスで、そこから急ピッチで工事が始まった。それに伴って、一部の村人は移住をせねばならなくなったが、無駄に土地の広い村だし、家自体は簡素な造りなので移設がとても楽だった。みるみる家が解体されて新たに建てられる様は、一見の価値があった。
ちなみにだが、外部向けの施設が作られるのは、フェリスの木像の建てられた広場の脇である。そこからルディが掘った溜め池や川とは反対方向に商業エリアが建設されていく。外部から来る人物に対応させるべく、フェリスの家に近い工法で頑丈に建設していく。そして、建物の高さも3階まで造っていく。これはフェリスと村にやって来る行商人ゼニスからのアドバイスである。平屋にするとかなり面積を取ってしまうが、同じ面積でも高さを取ればそれだけで収容人員を増やせるのである。村の敷地は有限なのだ。ならば上の空間を有効活用するのである。
この工事も、村人で働ける人員はほとんど総出である。その間の畑や牧場はフェリスやルディが代わって世話をしていた。天使様を働かせるわけにはと言っていた村人も居たが、そこはフェリスが見事に説き伏せていた。なにせフェリスが世話をすると、その魔力の影響で豊作になるのだ。虫や病気の心配もなくなる。これで説得されない人間はいなかったのだ。
というわけで、この日もフェリスがルディとメルを連れて畑や牧場を見て回っている。畑の方は本来、肥料とか水とか大変な作業なのだが、フェリスはそのすべてを魔法でちゃっちゃと済ませていた。本当に魔法とは便利なものである。牧場の方に顔を出せば、フェリスはあっという間に牛や馬に囲まれる始末である。かと思えば、ルディにはまったく寄り付かない。それをメルに笑われたせいで、ルディは腹いせに小屋の中を焼いていた。もちろん小屋を燃やしたのではなく掃除である。汚物は消毒なのである。
こういった日々が10数日繰り返される。
「ようやくできたわね」
フェリスの木像がある広場に立ったフェリスは、自信満々にその光景を眺めたのであった。
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