25 / 290
第25話 邪神ちゃんはけた違い
しおりを挟む
フェリスはただただ驚いていた。メルの魔法の習得速度についてだ。
「本当に魔法って便利ですね」
きゃっきゃと騒ぐメル。フェリスが使える魔法は、メルも使う事ができたのだ。仕える主と同じ魔法が使えたとなると、それはとても嬉しいものだろう。
ただ、フェリスよりは当然威力は劣る。人間と魔族という違いがあるので、そもそもの魔力の絶対量が違うのだ。メルはフェリスの影響で潜在能力が引き出されたようなものだし、人間の魔力なんて勇者とか聖女とかそういった類でなければ魔族とはリンゴと小麦粒ほどの差があるのだ。
「うわ~、ふらふらする~……」
メルが目を回し始めた。魔力切れの初期症状である。最悪死ぬ事すらある症状なので、存外ばかにできない状態なのだ。
「もう、調子に乗って魔法の使い過ぎ。いくらあたしの影響で強くなってるからといっても、死ぬ可能性もあるんだからね。とりあえず、今日使った以上に魔法を使うのは禁止ね」
フェリスはメルを叱る。死ぬとか聞かされたメルは素直に謝って反省していた。だが、魔力切れをわざと起こさせるのは、当人の限界を知る上では重要な事である。フェリスもわざとこの状態になるまで魔法を使わせたのである。さすが邪神。
「初めて魔法が使えるようになると、どうしても調子に乗る人が居るからね、メルみたいに。自分の限界を知らずにどんどん使って人知れず死ぬのよ。本当に気を付けなさいね」
「わ、分かりました、フェリス様」
フェリスにきつく言われて、メルは大きく肩で息をしながら返事をした。フェリスがホイホイと魔法を使っているのを見て調子に乗った自分に反省している。その姿を見て、メルはいずれ大きく伸びるのを確信するフェリスだった。
とりあえず、メルを抱えてジャイアントスパイダーの飼育場の様子を見に戻ってきたフェリス。その空間となる四隅には杭が打たれており、その中には適度に木が生えている。ただ、その数は少々心もとないくらいに少なかった。
「うーんもう少し多い方がいいわね」
そう思ったフェリスはルディにメルの事を任せると、その飼育場の空間に向けて魔法を放つ。
すると何という事でしょう。あっという間に木が数倍くらいに増えてしまったではありませんか。あれだけ殺風景だった飼育場が、木々の生い茂る空間へと変貌してしまったのです。
「相変らずとんでもない魔力量だな。一瞬でこれだけ木を生やすなんて、並大抵の魔族でもできないぞ」
ルディはメルを背負いながら、感心しているのか呆れているのか、なんとも言い難い反応を示していた。
「だてに邪神は名乗ってないわよ。まっ、さすがにこの規模ともなると少々魔力持ってかれちゃうけどね」
フェリスが言うように、多少呼吸が乱れているようにも思える。
「魔族とはいっても、元々はただの白猫だから、魔力使い切っても瀕死になってすぐ死ぬわけじゃないけどね。それでも気を付けなきゃ、あたしでも危ないわね」
さすがに今回は以前とは違い、何も無い状態から木を何本も生やしたので、相当に魔力を消費したようである。それくらいには規模の大きな魔法だった。
「はははっ、これじゃメルをこれ以上叱れないわね」
「まったくだぞ。それでもやっちまうフェリスはさすがだと思うがな」
フェリスとルディが言葉を交わしている。その横ではあまりの奇跡的な出来事に村人は騒ぎ出し、ジャイアントスパイダーたちは糸を使って木々の間を飛び移って歓喜を表していた。
「おお、まごう事なき天使様の御業じゃあ……」
村長も居たらしくて、背負われるメルとともにルディに寄り掛かっていたフェリスを崇めていた。だが、今のフェリスにはそれを嫌がる余裕は無いらしい。
「じゃ、最後の仕上げをやりますかっと。実のところを言うと、フェリスたちが戻って来るのを待ってたんだからな」
ルディが視線をやると、村人たちがどこからともなく椅子を持ってきて、フェリスとメルを座らせる。身軽になったルディは、片手を拳にして両手を打ち合わせて気合いを一発入れる。
「下手に展開すると中は高熱になっちまうからな。繊細な作業だから話し掛けんじゃねーぞ。俺は細かいのは苦手なんだ」
大きな声で言い放ったルディは魔力を解き放つ。すると、杭に刻まれたルディの魔法陣が反応を起こして赤く光る。すると、4つの杭をつなぐように赤い魔力の筋が走り、それを少しずつ空へと上昇させていく。
「フェリス、どのくらいまで上げればいい?」
「一番高い木の人ひとり分くらい上までかしらね」
「よく分からんが、とにかく生えてる気を全部覆えばいいんだな」
ルディはそう理解して結界を張り終える。脳筋のルディにしては、まともな結界が成功したようである。
「はあ、もう二度とやんねえぞっ!」
繊細な作業なので、それほどの魔力量を消耗していないのに、ルディの息は荒くなっていた。
「とりあえず、これで結界にクモどもが近付けば、焼けるように熱く感じるようにしたからな。逃げ出す事はないだろうな」
「でも、ルディの結界だから穴は多そうだけどね」
ルディが汗を拭いながら話していると、フェリスが無粋にツッコミを入れた。
「そりゃあるだろうよ。とりあえず、中に出入りする人間には反応しないようにはしておいたからな」
ルディがそう言うので、何人か試してみる事になった。メルや村長はもちろんだが、そのほかにも数人出入りしてもらったが、言う通りに人間は普通に出入りができた。
「おお、実にありがたい。問題はこの糸をどうするかですな」
「行商が来るんでしょ? その人たちに見せればいいわ。糸に関する知識はそういった人の方が持ってるからね」
「なるほど。では、そうさせて頂きます」
糸の取り扱いについても方針が決まった事で、ようやくジャイアントスパイダーの一件は片が付いたようであった。
「本当に魔法って便利ですね」
きゃっきゃと騒ぐメル。フェリスが使える魔法は、メルも使う事ができたのだ。仕える主と同じ魔法が使えたとなると、それはとても嬉しいものだろう。
ただ、フェリスよりは当然威力は劣る。人間と魔族という違いがあるので、そもそもの魔力の絶対量が違うのだ。メルはフェリスの影響で潜在能力が引き出されたようなものだし、人間の魔力なんて勇者とか聖女とかそういった類でなければ魔族とはリンゴと小麦粒ほどの差があるのだ。
「うわ~、ふらふらする~……」
メルが目を回し始めた。魔力切れの初期症状である。最悪死ぬ事すらある症状なので、存外ばかにできない状態なのだ。
「もう、調子に乗って魔法の使い過ぎ。いくらあたしの影響で強くなってるからといっても、死ぬ可能性もあるんだからね。とりあえず、今日使った以上に魔法を使うのは禁止ね」
フェリスはメルを叱る。死ぬとか聞かされたメルは素直に謝って反省していた。だが、魔力切れをわざと起こさせるのは、当人の限界を知る上では重要な事である。フェリスもわざとこの状態になるまで魔法を使わせたのである。さすが邪神。
「初めて魔法が使えるようになると、どうしても調子に乗る人が居るからね、メルみたいに。自分の限界を知らずにどんどん使って人知れず死ぬのよ。本当に気を付けなさいね」
「わ、分かりました、フェリス様」
フェリスにきつく言われて、メルは大きく肩で息をしながら返事をした。フェリスがホイホイと魔法を使っているのを見て調子に乗った自分に反省している。その姿を見て、メルはいずれ大きく伸びるのを確信するフェリスだった。
とりあえず、メルを抱えてジャイアントスパイダーの飼育場の様子を見に戻ってきたフェリス。その空間となる四隅には杭が打たれており、その中には適度に木が生えている。ただ、その数は少々心もとないくらいに少なかった。
「うーんもう少し多い方がいいわね」
そう思ったフェリスはルディにメルの事を任せると、その飼育場の空間に向けて魔法を放つ。
すると何という事でしょう。あっという間に木が数倍くらいに増えてしまったではありませんか。あれだけ殺風景だった飼育場が、木々の生い茂る空間へと変貌してしまったのです。
「相変らずとんでもない魔力量だな。一瞬でこれだけ木を生やすなんて、並大抵の魔族でもできないぞ」
ルディはメルを背負いながら、感心しているのか呆れているのか、なんとも言い難い反応を示していた。
「だてに邪神は名乗ってないわよ。まっ、さすがにこの規模ともなると少々魔力持ってかれちゃうけどね」
フェリスが言うように、多少呼吸が乱れているようにも思える。
「魔族とはいっても、元々はただの白猫だから、魔力使い切っても瀕死になってすぐ死ぬわけじゃないけどね。それでも気を付けなきゃ、あたしでも危ないわね」
さすがに今回は以前とは違い、何も無い状態から木を何本も生やしたので、相当に魔力を消費したようである。それくらいには規模の大きな魔法だった。
「はははっ、これじゃメルをこれ以上叱れないわね」
「まったくだぞ。それでもやっちまうフェリスはさすがだと思うがな」
フェリスとルディが言葉を交わしている。その横ではあまりの奇跡的な出来事に村人は騒ぎ出し、ジャイアントスパイダーたちは糸を使って木々の間を飛び移って歓喜を表していた。
「おお、まごう事なき天使様の御業じゃあ……」
村長も居たらしくて、背負われるメルとともにルディに寄り掛かっていたフェリスを崇めていた。だが、今のフェリスにはそれを嫌がる余裕は無いらしい。
「じゃ、最後の仕上げをやりますかっと。実のところを言うと、フェリスたちが戻って来るのを待ってたんだからな」
ルディが視線をやると、村人たちがどこからともなく椅子を持ってきて、フェリスとメルを座らせる。身軽になったルディは、片手を拳にして両手を打ち合わせて気合いを一発入れる。
「下手に展開すると中は高熱になっちまうからな。繊細な作業だから話し掛けんじゃねーぞ。俺は細かいのは苦手なんだ」
大きな声で言い放ったルディは魔力を解き放つ。すると、杭に刻まれたルディの魔法陣が反応を起こして赤く光る。すると、4つの杭をつなぐように赤い魔力の筋が走り、それを少しずつ空へと上昇させていく。
「フェリス、どのくらいまで上げればいい?」
「一番高い木の人ひとり分くらい上までかしらね」
「よく分からんが、とにかく生えてる気を全部覆えばいいんだな」
ルディはそう理解して結界を張り終える。脳筋のルディにしては、まともな結界が成功したようである。
「はあ、もう二度とやんねえぞっ!」
繊細な作業なので、それほどの魔力量を消耗していないのに、ルディの息は荒くなっていた。
「とりあえず、これで結界にクモどもが近付けば、焼けるように熱く感じるようにしたからな。逃げ出す事はないだろうな」
「でも、ルディの結界だから穴は多そうだけどね」
ルディが汗を拭いながら話していると、フェリスが無粋にツッコミを入れた。
「そりゃあるだろうよ。とりあえず、中に出入りする人間には反応しないようにはしておいたからな」
ルディがそう言うので、何人か試してみる事になった。メルや村長はもちろんだが、そのほかにも数人出入りしてもらったが、言う通りに人間は普通に出入りができた。
「おお、実にありがたい。問題はこの糸をどうするかですな」
「行商が来るんでしょ? その人たちに見せればいいわ。糸に関する知識はそういった人の方が持ってるからね」
「なるほど。では、そうさせて頂きます」
糸の取り扱いについても方針が決まった事で、ようやくジャイアントスパイダーの一件は片が付いたようであった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる