邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
21 / 290

第21話 邪神ちゃんの気になる服装

しおりを挟む
「ふと思ったんです、フェリス様」
 水を引いてきた翌日の事、起きたところをいきなりメルに話し掛けられるフェリス。一体何がどうしたのか、フェリスの寝起きの頭は混乱している。
「フェリス様って、それ以外に服は持たれていないのですか?」
 メルからの質問は、服装についてだった。そういえば確かに、フェリスの服装は首で紐留めした袖なしのワンピースに編み上げのサンダルである。一応ドロワーズを穿いてるとはいえ、ずいぶんと野性的な格好であった。猫の獣人型の邪神ならばこれでもいいのだろうが、ここから先が重要である。
「私はフェリス様の巫女です。なんで巫女の方が使える主よりも立派な服を着ているのかが分からないんです。そりゃ、最初は立派な服を貰えて浮かれまくってましたけれど、段々と慣れて冷静になってきたら、なんだかおかしくないかと思うようになってきたんです」
 メルが少し大きな声で早口にまくし立ててくる。一介の村の娘だったメルなのに、どうしてここまでの思考を持つようになったのだろうか。
(あっ、これも眷属化の影響だわ……)
 メルのお小言を聞きながら、フェリスはそれに気付いたのである。どうやら知らず知らずのうちに、メルにフェリスの持つ一部の知識が共有されてしまったようである。これは予想外だった。なにせ、メルが知らないうちに知識汚染が起きていたようなので、正直フェリスも訳が分からなかったのだ。
(うーん、正直にぶにぶほわほわな少女だと思ってたんだけどなー。あたしの知識が流れ込んで、聡い子になっちゃったなぁ……)
「どうされたんですか、フェリス様」
「いや、別に。ずいぶんと賢くなっちゃったなって思っただけよ」
 不思議そうな顔をしているメルに、フェリスは正直に言い放つ。すると、メルは褒められて嬉しいらしく、頬を染めてしまった。しかも、それが分からないように両手で押さえながら視線を斜め下に落として体をくねらせている。まったくもって可愛い子である。
(あー、今日もメルが可愛いわぁ)
 フェリスはその姿にご満悦であった。
 しかし、あまりににやけるフェリスに気が付いたメルは、ぷくーっと頬を膨らませてしまう。うん、逆効果です。
「もうフェリス様ったらっ! とにかく、フェリス様には天使としてふさわしい服装を着て頂きたいのです。この村の人たちなら遠慮しますけれど、よそから来た人だとどうなるか分かりません。すぐに新しい服を作りましょう!」
 怒ったメルが強引に話を進めてしまう。そこへ、大あくびをしながらルディが起きてきた。
「ふわぁ~、フェリスの新しい服か。俺も興味あるな。よかったら手伝うぞ、メル」
「本当ですか、ルディ様。でしたら、まずは服に使う生地からですね。あと靴も編み上げはおしゃれですが、サンダルなので村に来る行商人と顔を合わせた時にどう思われるか気になります。やっぱりブーツくらいにしないといけないと思います」
 メルがやる気になっていて、すごく早口で何かを言っている。フェリスは興味ない感じなので聞き流しているが、ルディの方もやる気になってしまっていて、すごく聞き入っていた。あのスピードの話を聞き取れるのだからルディは有能だとは思うが、理解しているかどうかは別の話である。
「服を作るって言うんなら獣の皮もいいけど、俺はクモ型の魔物の糸がいいと思うぞ。あれって思ったより手触りがいいしな。ただ、下処理がちょっと面倒だったと思うぞ」
「ふむふむ、クモの出す糸を撚って作った生地ですか。それは面白そうですね」
 メルとルディの話が盛り上がっている。フェリスはもう勝手にさせておけばいいやと、諦めてミルクを飲んでいる。目覚めの一杯を飲んだフェリスは、服の話で盛り上がる二人を尻目に朝食の準備を始めたのだった。
「ここらで手ごろなクモは、やっぱりあの湖の近くの森に住むジャイアントスパイダーだろうな。メルくらいの大きさがあるが、気性はおとなしいし、餌は適当な肉を与えておけば人を襲う事はないぞ」
「うええ、私くらいの大きさですか……。なんだか気持ち悪そう」
 メルが嫌そうな顔をすると、ルディは大笑いをする。どうやら、メルはもっと小さなものを想像していたのだろう。
「はっはっはっはっ、そういうところは相応に見えるぞ、メル」
「笑うなんてひどいです、ルディ様」
「いやいや、悪かった。あいつらは見てくれこそ気持ち悪いからな。虫が苦手なら完全にダメだろうし」
 ルディはメルの頭を撫でて慰める。そこへ、フェリスが朝食を作って戻ってきた。
「まぁ、あのジャイアントスパイダーなら本当におとなしいわよ。あたしとルディが居れば、歯向かう事なんてまずないだろうしね。飼育場所をルディの能力で覆ってやれば、周りが寒くなったとしても死ぬ事はないわよ」
「そうなんですね。って、フェリス様。申し訳ございません、私ったら食事の準備を忘れてしまうなんて、巫女として失格です!」
 くるりと振り返ったメルは、フェリスが食事を作ってきた事に気が付いてまさかの土下座による謝罪である。どこで覚えたのだろうか。
「まぁまぁ、メルは巫女だと思ってるだろうけど、あたしからしたら眷属なんだからね。眷属をきちんと養うのも、主たる者の務めよ」
 フェリスはウィンクをしながら、左手人差し指を左右に振る。気にするなという事らしい。
「よし、そうと決まれば、俺がスパイダーどもを連れてくる。マイムに話し通せば大丈夫か?」
「多分大丈夫よ。マイムはあくまでも水を操る精霊みたいなものだけど、あの辺り一帯を支配下に置いてるからね」
「よし分かったぞ。食べたらさっさと行ってくる」
 ルディが珍しく、気合いを入れて自主的に目的を持って動こうとしている。これは嵐でも来る前触れだろうか。複雑な気持ちになりながらも、フェリスは放っておく事にしておいた。ルディを止めてもメルがまだ居るのだ。メルは聡いだけに下手な説得は通じない。だからこそ好きにやらせるのである。
 こうして、フェリスに新しい服を着せよう大作戦は決行に移されたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...