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第18話 邪神ちゃんと魔力と魔物
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最近、村にはちょっとした異変が起きていた。
「天使様、ちょっとよろしいでしょうか」
村人の一人がフェリスに声を掛けてきた。
「うん? 何かしら」
フェリスがそれに反応する。ちょうどメルと散歩していた時なので、特に問題はないようである。
「最近、魔物を見る事がないのですが、どういう事なのでしょうか」
「あら、この村って魔物に襲われるのはそこそこある事なの?」
村人の声に、フェリスはちょっと意外だという反応を見せる。
「はい、フェリス様。ひと月に一度くらいは襲撃されるんです。フェリス様が倒されたボア以外にも、魔物って現れるんですよ」
「ふ~ん。でも、魔物に襲われないのは平和でいい事なんじゃないの?」
メルの説明を聞いたフェリスは、どうでもいい事のように反応する。
ところが、この魔物の襲撃は、実は村にとっては大事な事のようである。肉の貴重な入手減なのだ。牛は居るものの、牛はあくまでミルク用であり、死ねば焼かれて土に還るそうだ。つまり、魔物が来ないと肉にはありつけないらしい。
「なるほど、魔物って被害をもたらすだけじゃないのね」
フェリスは話に納得したようである。
「フェリス様は、魔物が現れない理由について、何か思い当たる事はございませんか?」
メルから尋ねられたフェリス。
……実は思い当たる節がある。見当もつかないといった素振りを見せてはいるが、実は心の中で「まさかね……」とか思っていたりするのだ。
隠し通そうとするフェリスだったが、
「フェリス様、心当たりがあるんですね?」
メルから思いっきり強い視線を向けられてしまった。フェリスはごまかそうとするものの、メルからジト目を浴びせ続けられてしまっては、さすがに良心が痛んだようである。
「ごめん、多分ルディのせいよ、魔物が来ないのって……」
フェリスは白状した。
「ルディ様が原因なんですか?」
メルも村人も驚いている。
「そうよ。ルディがまったく魔力潜めないものだから、その魔力を怖がって魔物が近付いて来れないの。あたしはのんびり過ごしたいけど、有能だからいろいろ考えているわ。強い魔力の垂れ流しって、実はいろいろ弊害が発生するからね」
フェリスの説明に、メルたちはなるほどと頷いている。
「人間だとそこまで魔力の強い人なんて、それこそ魔王を討ち取った勇者くらいだから、そんなに気にしなくてもいいわよ。むしろ、それに匹敵する魔力を有するあたしたち邪神クラスこそ、気を付けなきゃいけない問題だわ」
「なるほどです。では、早速ルディ様を捕まえに行きませんと」
ここまでのフェリスの話を理解したメルは、早速行動に移そうとしている。本当にこの子は判断が早い。これでまだ10代の前半って言うんだから、大人になった時はどれくらいの切れ者になるのだろうか。楽しみなようで怖い気もする。
「まぁ、ルディを捕まえるだけなら、あたしが居れば大丈夫でしょ。少なくとも夕方になればうちに戻って来るんだし、明日の夜明け頃にでも魔力を弱めさせれば、早ければその日の昼には魔物が来る可能性はあるわ」
「でも、ルディ様ってそういう事苦手そうですよね」
「まぁ、うん、それは……。メル、ルディの事を理解するの早すぎない?」
フェリスがルディの事でいろいろごちゃごちゃ言っているが、メルはそれらをまとめてバッサリ斬って捨てた。この眷属、本当に切れ者過ぎる。
「はぁ……。ルディはあたしから離れようとしないだろうし、最終手段としてはルディに魔物を狩って来させる事くらいね。全部炭にしそうだから、あたしがついて行かなきゃいけないとは思うけど」
あまりの無理難題に、フェリスは面倒くさくて肩から力が抜けるくらいの盛大なため息を吐く。ルディはフェリスに一番懐いていた邪神だが、あの気分屋で自由な性格のせいで一番の問題児でもあったのだ。さすがにメルもそれは察したようで、フェリスに対して同情していた。
「どうするにしても、ルディをとっ捕まえなきゃ話にならないわ。メル、行きましょうか」
「はい、フェリス様。ルディ様なら、多分村の子どもたちと一緒に居ると思います」
フェリスは驚きながらも、メル情報を頼りに村の中を移動していく。すると、メルの言った通り、村の子どもたちと広場で戯れているルディの姿が発見されたのだ。いや、いくら何でもメルは把握し過ぎではないのだろうか。自分の眷属ながらにある種の恐怖を感じるフェリスである。
「おー、フェリスじゃねえか。どうした、俺と遊びたくなったか?」
「残念、それどころじゃないの。あんたさ、魔力抑えられる?」
ルディの気さくな声を、さらっと受け流して用件を伝えるフェリス。
「は? 魔力を抑える? どういう事だ?」
頭の周りに疑問符が浮かんでいるのが見える見える。さすがは単純脳筋狼だ。魔力を抑えるような細やかな技術を持ち合わせていないと。さすがにフェリスも顔を押さえて首を横に振った。
「よーし、その空っぽの頭でも理解できるように、魔力のコントロールの仕方を教えてあげようじゃないの」
フェリスが肉球もふもふな両手を組んで、ボキボキと言わせている。そのただならぬ雰囲気に、ルディは恐れおののいている。
「それじゃまあ、子どもたちはメルと遊んでてね。あたしがそこの犬ころを今から調教するからさ……」
「わー待て。フェリス、やめろ、やめてくれっ!」
「問答無用っ!!」
「ぎゃーーっ!!」
フェリスのスパルタに、この日は村にはずっとルディの悲鳴が響き渡っていた。
「天使様、ちょっとよろしいでしょうか」
村人の一人がフェリスに声を掛けてきた。
「うん? 何かしら」
フェリスがそれに反応する。ちょうどメルと散歩していた時なので、特に問題はないようである。
「最近、魔物を見る事がないのですが、どういう事なのでしょうか」
「あら、この村って魔物に襲われるのはそこそこある事なの?」
村人の声に、フェリスはちょっと意外だという反応を見せる。
「はい、フェリス様。ひと月に一度くらいは襲撃されるんです。フェリス様が倒されたボア以外にも、魔物って現れるんですよ」
「ふ~ん。でも、魔物に襲われないのは平和でいい事なんじゃないの?」
メルの説明を聞いたフェリスは、どうでもいい事のように反応する。
ところが、この魔物の襲撃は、実は村にとっては大事な事のようである。肉の貴重な入手減なのだ。牛は居るものの、牛はあくまでミルク用であり、死ねば焼かれて土に還るそうだ。つまり、魔物が来ないと肉にはありつけないらしい。
「なるほど、魔物って被害をもたらすだけじゃないのね」
フェリスは話に納得したようである。
「フェリス様は、魔物が現れない理由について、何か思い当たる事はございませんか?」
メルから尋ねられたフェリス。
……実は思い当たる節がある。見当もつかないといった素振りを見せてはいるが、実は心の中で「まさかね……」とか思っていたりするのだ。
隠し通そうとするフェリスだったが、
「フェリス様、心当たりがあるんですね?」
メルから思いっきり強い視線を向けられてしまった。フェリスはごまかそうとするものの、メルからジト目を浴びせ続けられてしまっては、さすがに良心が痛んだようである。
「ごめん、多分ルディのせいよ、魔物が来ないのって……」
フェリスは白状した。
「ルディ様が原因なんですか?」
メルも村人も驚いている。
「そうよ。ルディがまったく魔力潜めないものだから、その魔力を怖がって魔物が近付いて来れないの。あたしはのんびり過ごしたいけど、有能だからいろいろ考えているわ。強い魔力の垂れ流しって、実はいろいろ弊害が発生するからね」
フェリスの説明に、メルたちはなるほどと頷いている。
「人間だとそこまで魔力の強い人なんて、それこそ魔王を討ち取った勇者くらいだから、そんなに気にしなくてもいいわよ。むしろ、それに匹敵する魔力を有するあたしたち邪神クラスこそ、気を付けなきゃいけない問題だわ」
「なるほどです。では、早速ルディ様を捕まえに行きませんと」
ここまでのフェリスの話を理解したメルは、早速行動に移そうとしている。本当にこの子は判断が早い。これでまだ10代の前半って言うんだから、大人になった時はどれくらいの切れ者になるのだろうか。楽しみなようで怖い気もする。
「まぁ、ルディを捕まえるだけなら、あたしが居れば大丈夫でしょ。少なくとも夕方になればうちに戻って来るんだし、明日の夜明け頃にでも魔力を弱めさせれば、早ければその日の昼には魔物が来る可能性はあるわ」
「でも、ルディ様ってそういう事苦手そうですよね」
「まぁ、うん、それは……。メル、ルディの事を理解するの早すぎない?」
フェリスがルディの事でいろいろごちゃごちゃ言っているが、メルはそれらをまとめてバッサリ斬って捨てた。この眷属、本当に切れ者過ぎる。
「はぁ……。ルディはあたしから離れようとしないだろうし、最終手段としてはルディに魔物を狩って来させる事くらいね。全部炭にしそうだから、あたしがついて行かなきゃいけないとは思うけど」
あまりの無理難題に、フェリスは面倒くさくて肩から力が抜けるくらいの盛大なため息を吐く。ルディはフェリスに一番懐いていた邪神だが、あの気分屋で自由な性格のせいで一番の問題児でもあったのだ。さすがにメルもそれは察したようで、フェリスに対して同情していた。
「どうするにしても、ルディをとっ捕まえなきゃ話にならないわ。メル、行きましょうか」
「はい、フェリス様。ルディ様なら、多分村の子どもたちと一緒に居ると思います」
フェリスは驚きながらも、メル情報を頼りに村の中を移動していく。すると、メルの言った通り、村の子どもたちと広場で戯れているルディの姿が発見されたのだ。いや、いくら何でもメルは把握し過ぎではないのだろうか。自分の眷属ながらにある種の恐怖を感じるフェリスである。
「おー、フェリスじゃねえか。どうした、俺と遊びたくなったか?」
「残念、それどころじゃないの。あんたさ、魔力抑えられる?」
ルディの気さくな声を、さらっと受け流して用件を伝えるフェリス。
「は? 魔力を抑える? どういう事だ?」
頭の周りに疑問符が浮かんでいるのが見える見える。さすがは単純脳筋狼だ。魔力を抑えるような細やかな技術を持ち合わせていないと。さすがにフェリスも顔を押さえて首を横に振った。
「よーし、その空っぽの頭でも理解できるように、魔力のコントロールの仕方を教えてあげようじゃないの」
フェリスが肉球もふもふな両手を組んで、ボキボキと言わせている。そのただならぬ雰囲気に、ルディは恐れおののいている。
「それじゃまあ、子どもたちはメルと遊んでてね。あたしがそこの犬ころを今から調教するからさ……」
「わー待て。フェリス、やめろ、やめてくれっ!」
「問答無用っ!!」
「ぎゃーーっ!!」
フェリスのスパルタに、この日は村にはずっとルディの悲鳴が響き渡っていた。
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