邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
15 / 290

第15話 邪神ちゃんと嫉妬心

しおりを挟む
 フェリスを追っかけてやって来たルディは、しばらく居ついている間にすっかり村の人気者となっていた。魔法の才能なんて物を燃やす程度しかないが、フェリスと同じ女性型の邪神とはいえ力は強く鼻も利く。そして、狼形態になれば大きくて全身もふもふなのだ。覚える事が苦手でがさつな事以外は、結構人気になりやすい要素が多かった。これにはフェリスも太刀打ちできなかった。
 ルディは今ではフェリスと同じ家に住んでいる。元々はフェリスの御殿として建てられた家だが、メルに加えてルディが入ってきても部屋には余裕があった。三人で一部屋ずつ使ってもまだ部屋が余っている。半日もかからずに建てられた平屋のどこにそんな余裕があるというのだろうか。
「ルディがおとなしくしてくれるのなら、あたしは別にこの状況でもいいんだけど……」
 フェリスは家でふて腐れ気味にしていた。
「どうされたんですか、フェリス様?」
 当然ながらフェリスの巫女であるメルは、その様子が気になって仕方がなかった。フェリスの役に立つのが自分の役目だと思っているからである。
「いや、最近やたらとルディが人気なものだからね。気にしたくはないけどちょっと嫉妬というか何と言うか……」
 メルに聞かれたフェリスは、ちょっともごもごとしながらも不機嫌な理由を語っていた。
「なるほど。確かにルディ様は明るくて、とても単じゅ……分かりやすい性格をされてますものね。基本的に皆さん、あまり複雑に考える事が苦手ですから、ルディ様が似たような方ですので歓迎しているだけだと思いますよ」
 メルは「単純」と言いかけて言い直していた。この辺りはフェリスの影響だろうか、それなりに毒舌が混ざるようになっているメルである。
 メルからの評価はそう高くはないものの、単純な戦闘力で圧倒的なルディは、村人たちからかなり頼りにされているようである。ただ、弱点はそのおつむの弱さだ。なにせ複雑に考えるのが苦手な上に、結構騙されやすい傾向にある。そういったところを補っていたのが、フェリスたち、ルディと親交のあった邪神たちである。単純な攻撃力の高さはフェリスたちも認めているのである。
「ルディは本当に頭だけは悪いからね。この村の中だけならそんなに心配はないでしょうけど、外部と関わるようになる時には気を付けた方がいいわよ」
「そのようですね。その点は気を付けるように村長様たちにも話しておきます」
 フェリスとメルは、ルディの取り扱いについて確認をし合ったのだった。
「おー、ただいまだぞっ!」
 村を適当に回っていたルディが、フェリスの家に戻ってきた。
「ルディ様、お帰りなさいませ」
 メルが出迎える。
「おー、メル。相変わらず可愛いな。どうだ、俺の眷属ならないか?」
「お断り致します。私はすでにフェリス様の巫女ですので、他の方に仕える気はございません」
 ルディの軽口を、笑顔で軽くいなすメル。まだ子どものように見えて、意外と強かに育っている。
「そうよ、ルディ。メルはあたしの眷属なんだから、あんたになんかあげないんだからねっ!」
「フェリス様……」
 フェリスはメルを抱き寄せてルディに言い放つ。抱き寄せられたメルは嬉しそうに顔を赤くしている。
「おーおー、こんな幼子を言いくるめるなんて、相変わらずフェリスは手籠めにするのがうまいな」
「そういう言い方するんじゃないわよ! それだけあたしが魅力的って事よ、文句あるの?」
「はっ、文句はないさ。俺が惚れ込んだ女だからな、お前は。魅力無いという奴が居たらぶん殴ってやる!」
 睨むようにしてフェリスが文句を言うと、ルディは笑顔のままでイケメン染みた事を喋っている。言っておくが、ルディも女だ。
「はあ、こういう調子のいいところが安心できる点であり、不安な点でもあるのよね……」
「心中お察し致します、フェリス様」
 特大ため息のフェリスとそれを慰めるメル。二人の態度にルディは訳が分からないといった感じで戸惑っている。
「お、おい。何なんだよ、その態度は?!」
 ルディが、フェリスとメルを交互に見るが、二人はそんな事は意に介さなかった。
「ルディ様がお戻りになられましたので、私は夕食の準備を始めますね」
「ええ、頼むわね、メル。あっ、そうだ。あたしはオニオン抜きでよろしくね」
「畏まりました、フェリス様」
 ルディが慌てふためく様子にお構いなしに、メルは食事を作るために台所へと移動していく。フェリスもフェリスで、明日は村の農場やらを見て回る予定なので一度自室に引き上げていく。
「お、おい。俺は何をしたらいいんだ?」
「外を走り回ったんだから、水浴びでもしてらっしゃいよ。水を溜めるくらいならあたしがやってあげるから」
「おっ、それは悪いな」
 そんなわけで、フェリスは得意の魔法でお風呂の大きな水桶にたくさんの水を張っておいた。ルディの人気に嫉妬しながらも、こういうところは世話焼きの癖がつい出てしまうフェリスなのである。
 ちなみに夕食の席ではルディが自慢げに何かを語っていたようだが、やっぱり記憶力がさっぱりだし語彙力もないので、何を言っているのかまったく理解できないフェリスとメルなのであった。
 ルディがやって来てすっかりにぎやかになった日常なのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...