邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
12 / 290

第12話 邪神ちゃんともふもふタイム

しおりを挟む
 全身が赤い毛並みのルディはとにかく目立った。狼の状態だとかなり大きいので、獣人の状態で村の中を歩く。ルディは褐色の肌に赤い髪であり、白い毛並みに赤い髪のフェリスとは少々対照的である。また同じ髪色であってもフェリスが明るめなのに対してルディは少々黒ずんだというか暗めの色である。まあ、どっちももふもふ成分を持っているので、村の子どもたちが興味津々にフェリスたちを見ている。
「私も子どもなので分かりますが、やっぱりみんな触りたくてうずうずしてますね」
「あー、やっぱりあの目はそうなのね。うーん、仕方ないなぁ」
 メルの言葉に、フェリスがちょっと悩んだようだが、
「おーい、子どもたち。少しもふるかい?」
 建物の陰から覗き込む子どもたちを呼び寄せた。すると、子どもたちは目を輝かせて、建物の陰から出てきてフェリスたちに駆け寄った。よっぽど触りたかったようだ。
「わーい!」
「うわあー、ふかふかだーっ!」
「やわらかーい」
 フェリスに触れる子どもたちが笑顔で満足している。それを見ているメルがドヤ顔を決めている。
「フェリス様は天使様ですからね。それはもう極上の肌触りなんですよ」
「いや、あたしは邪神だからね? 毎日の手入れを怠ってないから、肌触りがいいのは当たり前なんだから」
 メルの言葉にフェリスはとりあえずツッコミを入れておく。
 それにしても、フェリスは子どもに大人気である。
「それにしても植物や牛の事を考えると、こんなにもフェリス様にべたべた触っていて大丈夫なんでしょうか」
「それは多分大丈夫よ。メルが平気でしょ?」
「あっ、そうでしたね。これは失礼しました」
 メルが懸念を話すと、フェリスはすぐさま否定した。思い当たる節があるメルはすぐさま謝った。
「なんだ、あの果物はお前の恩恵なのか、フェリス」
 やけに静かだったルディがようやく喋った。初めての村で警戒していたらしい。
「そうみたいよ。ちょっと撫でたくらいなのにあんなになっちゃってね。おかげで人間以外は触るのを躊躇しちゃうわ」
 フェリスは苦笑いしながらそう答えた。
「いやぁ、お前が用意した飯がうまいとは思ってたが、そういう能力があったんだな。さすがは俺のフェリス!」
「誰があんたのよ!」
 ルディが調子に乗って言うものだから、もふっていた子どもたちを離れさせてから、フェリスの右ストレートがルディの顔面に炸裂する。
「いってぇなぁ!」
「いい加減に自分の所有物みたいにあたしの事を言うのをやめなさい!」
「なんでだよ!」
「当たり前でしょ!」
 ぎゃんぎゃんきゃんきゃんと睨み合う二人。それを見ていたメルたちが呆然としている。
 しかし、長くなる睨み合いに、メルがついおかしくなって笑い始めた。
「ちょっとメル、なんで笑ってるのよ」
 フェリスの機嫌が、ルディとのけんかを引きずっていてか結構悪い。
「いや、お二方はとても仲がいいなと思いまして、羨ましくなっちゃいました」
「はあ? なんでこいつと仲がいいって言うのよ」
 メルの言い分に文句を言うフェリス。しかし、その後ろではルディが満足げにうんうんと頷いていた。
「いえ、そんな攻撃一発で済ませている辺りでフェリス様はお優しいですし、尻尾に感情が出てしまってますから……」
「……!」
 メルに指摘されて、フェリスは尻尾をふいっと抱え込む。どうやら尻尾に感情が出てしまっていたようである。
「まったく、この眷属はそういうのには詳しいんだから……」
 そういうフェリスの顔は照れたように赤かった。
「はっはっはっ、いい眷属を持ったじゃねえか、フェリス。羨ましいなぁっ!」
 その様子を見ていたルディが大口を開けて笑っている。それに対してフェリスが反応に困っていると、さっき離した子どもたちがまだこっちをじっと見ている事に気が付いた。
「あら、みんなどうしたのかしら?」
 フェリスは近付いて話し掛ける。すると、
「もっともふもふしたい」
「あっちのおねーちゃんももふもふしたい」
 と言っている。どうやら、ルディのふさふさの尻尾にも興味を示しているようなのだ。
「おっ、俺の毛並みを堪能したいのか? ちょっと待ってろ」
 子どもたちがぞろぞろと近寄って来るので、ルディは機嫌がよさそうに狼の姿に戻ろうとしている。
「ルディ、ちょっと待ちなさい。ここは狭いからやめなさい! あんたの図体のでかさを考えてるの?」
 慌てて止めようとするフェリスだったが、残念ながら時すでに遅しだった。家の密集する狭い場所でルディはあっという間に狼の姿になってしまった。しかも、すぐさま座り込もうとしている。周りの家が何軒か潰されそうである。
「やーめーろー、馬鹿犬ころ!」
 フェリスは必死にルディを止める。この犬ころ発言が功を奏したのか、ルディが座り込むのをやめた。
「誰が犬ころだ! 俺は誇り高き狼、インフェルノウルフだぞ!」
「だったらもう少し頭を使いなさい! こんな狭い所ででかい図体になったら、周りがどうなるかくらい分かるでしょ!」
 フェリスに怒られて、ルディは周りを見る。確かに動くには狭い。それが分かったルディは仕方なく獣人スタイルに戻った。
「あたしの家の前に行くわよ。あそこなら十分な広さがあるわ」
 フェリスがそう言うと、村の子どもたちも引き連れてフェリスの家の前までやって来る。そこで改めてルディが狼形態になると、子どもたちが一斉に駆け寄ろうとする。
「ちょっと待った」
 それをフェリスが制止すると、子どもたちはぴたりと走るのをやめた。
「ルディ」
「なんだ?」
「触っても燃えないわよね?」
「ああ、大丈夫だ。触らせようとするのにそんなバカはしないぞ」
「分かったわ。まっ、万一があってもあたしが消火できるし回復もできるから、そこまで大ごとにはならないかしらね」
 ルディに確認を取ったところで、フェリスは子どもたちの方を向く。
「さあ、思いっきり堪能して大丈夫よ」
 フェリスがこう言うと、子どもたちは一斉にルディに飛び掛かった。そして、心ゆくまで大きな狼の毛並みを堪能するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

追放された【助言士】のギルド経営 不遇素質持ちに助言したら、化物だらけの最強ギルドになってました

柊彼方
ファンタジー
*『第14回ファンタジー小説大賞【大賞】受賞作』 1.2巻発売中! コミカライズ好評連載中! 「お前はもう用済みだ。ギルドから去れ」 不遇スキルである『鑑定』を持つ【助言士】ロイドは優秀な人材を見つけるために、最強ギルドと呼ばれる『太陽の化身』でボロ雑巾のように扱われていた。 そして、一通り勧誘を終えるとギルドマスターであるカイロスから用済みだと、追放されてしまう。 唐突な追放に打ちひしがれてしまうロイドだったが、エリスと名乗る女性に自分たちでギルドを作らないかと提案された。 エリスはなんと昔、ロイドが一言だけ助言をした底辺鍛冶師だったのだ。 彼女はロイドのアドバイスを三年間ひたすら守り続け、初級魔法を上級魔法並みに鍛え上げていた。 更にはあり得るはずもない無詠唱、魔法改変等を身につけていたのだ。 そんな事実に驚愕したロイドは、エリスとギルドを作ることを決意する。 そして、それなら不遇な素質持ちを集めよう。自分たちと同じ環境である人を誘おうというルールを設けた。 ロイドは不遇な素質を持つ人たちをギルドに加入させ、ただ一つのことを極めさせ始めた。一般レベルで戦えるようにするために。 だが、これが逆に最強への近道になってしまう。 そして、ロイドが抜けた太陽の化身では徐々に腐敗が始まり、衰退し始めていた。 新たな人材、策略。どんな手を使ってでもロイドたちを蹴落とそうとするが、すべて空回り。 これは、ロイドによって不遇な素質を極めた仲間たちが、ロイドとともに最強のギルドを作っていくような、そんな物語。

処理中です...